バルクホルンから伝えられた宮藤の謹慎処分は徹底していたとは言い難かった。
一つにウィッチそのものが他の兵科と比べると軍紀が緩いことがあった。軍規に厳しいバルクホルンですら他の兵科からすると甘いと言わざるを得ない。
例えば落ち込んでいるであろう宮藤を励ますためにシャーリー達が計画した一緒にお風呂に入ることなどエイラがいたなら許されなかっただろう。勿論これには他のウィッチが知り得ない情報を持っていることも関係するがそれ抜きにしても自室謹慎を命じられたウィッチを励ますために一緒に入るなど通常ならば許されるはずがなかった。
これはエイラが自室謹慎を徹底するよう厳命すれば防げていたことでもありその点ではウィッチの気質を知っていながらそれをしなかったエイラのミスとも言えた。
同じように宮藤に対する見張りもまた徹底していなかった。見張りはバルクホルン、シャーリーらが定期的に宮藤が部屋にいるかを確認するにとどまり誰かがずっと見ていたわけではなかった。ただこれは所属ウィッチが少ないためずっと誰かが見張り続けるなど困難だという事情も存在していた。
それでもエイラがもう少し強く念を押しておけばあるいは後の事件のうち少なくとも片方は防げたかもしれなかった。
ただこの時のエイラが人型の出現により余裕がなかったこともあってそれらの指示を与えることはなかった。
まず第一の事件が起きたのは宮藤と一緒にお風呂に入ってからのことだった。
エイラ、というよりも501部隊のウィッチならばフランチェスカ・ルッキーニという少女がいかに幼く、そして素直であるかという事をよく知っていた。
「ねぇねぇシャーリーこんなの見つけたんだけど」
ミーティングルームにいたシャーリーにルッキーニが差し出したのは人型ウィッチに関する報告書と書かれたファイルだった。それだけならただタイムリーな話題の書類だなと思うだけだが題名の下に赤字で機密書類と書かれていたせいでシャーリーの顔は青ざめた。
「ル、ルッキーニ、これどこから見つけてきたんだ?」
「んー?エイラの部屋の机に置いてたの」
501部隊では常識だがミーナ中佐の部屋以上に機密書類が多いのがエイラの執務室だ。
ルッキーニはその部屋、というよりもその机を日中の昼寝場所の一つにしていた。何度か注意したが一週間もしないうちにまた寝床になるため結局エイラもそれを黙認し絶対に触ってはいけない棚を教えて日中は機密文書を机に置かないように気をつけていた。
しかし今回急いでいたエイラは機密書類を直すのを忘れてしまっていた。
「今すぐ元あった場所に戻しに行くぞ!」
「なんで?」
「なんでって明らかに見たらヤバいやつだろ」
「えーけどエイラが触ったらダメって言ったところにはなかったよ」
「いやそういう問題じゃなくて…。とにかく返しに行くぞ。バルクホルンにでも見つかるとまずい」
「何がまずいんだリベリアン」
タイミングを図ったかのようにシャーリーの後ろから声が掛かった。
「い、いやなんでもないぞ」
ファイルを背中に隠しながら振り向くとそう言って誤魔化そうとした。
「少佐の書類を勝手に持ち出しといて何もないはないだろう」
「わかってるならそう言えよ。中は見てないから安心しろ」
「そういう問題じゃないだろ。ルッキーニもいくら少佐が許しているとは言え気をつけろ。全く、戻してくるからそれを寄越せ」
「それだけか?」
てっきりなんらかの処分を下されるものだと思っていたシャーリーは拍子抜けして思わずそう尋ねた。
「ただでさえミーナと坂本少佐が処分されるかもしれないんだ。これ以上処分される人間を増やしてマロニー大将達上層部に隙を見せたくない」
そう言いながら受け取ったファイルの題名を見たバルクホルンはそれが奇妙なことに気づいた。
「…なぜ人型ネウロイの報告書があるんだ?」
「なぜって昨日宮藤が取り逃したからだろ」
「それならば機密指定する理由がわからないしそもそもこれは誰が書いたんだ。少佐の字じゃないぞ」
「一体何が言いたいんだ?」
言いがかりのようなバルクホルンの言動に一体何を言いたいのかシャーリーは理解できなかった。
「…人型ネウロイを目撃した噂、あれは確かスオムスだったな」
「まさか本当に人型がスオムスに出たっていうのか?」
「わからない。だがもしそうなのだとしたら隠している理由はなんなんだ」
「そんなに気になるならそれ見りゃわかるんじゃないか?」
「バカを言うな。そんなことしたら軍規違反だぞ!」
こともなげにそう言うシャーリーにバルクホルンが語気を荒げた。
「今ここにいるのは私とルッキーニ、それにバルクホルンだけだぞ。誰かが話さなければバレる事はないだろ。バレなきゃ軍規違反でもなんでも無いんだからさ」
これに心が揺らがなかったと言えば嘘になるだろう。しかしバルクホルンはその場では軍規を優先した。
「ダメだ、それは出来ない。とにかくこれは私がもとあった場所に戻しておく。エイラ少佐の机の上だったな」
そう言ってバルクホルンはミーティングルームを出て行った。その足でバルクホルンが向かったのはエイラの執務室ではなくミーナ中佐の部屋だった。
「ミーナ、少し相談したいことがあるんだが…」
「どうしたのトゥルーデ。できれば一人にしておいて欲しいのだけど」
「すまない。だがルッキーニが妙なものを見つけたんだ」
そう言ってシャーリーから預かった機密書類の入ったファイルを差し出した。
「これは…いったいどういう事なのかしらね」
ミーナ中佐と言えどエイラが持つ書類に対する閲覧権限があるものは少ない。そのため中を読む事は叶わないがその題名と機密指定の文字からそれがあまりよくない内容であろう事は容易に予想がついた。
「トゥルーデはこれを私に見せて一体どうしたいの?」
「もし上層部が人型に危険性がある事を知っていて隠蔽していたのならそれを理由にミーナと坂本少佐が処分を受ける事を防げるんじゃないだろうか」
「らしくないわね。貴女から軍規を破ろうとするなんて」
バルクホルンの思いも寄らない言動に思わずそう言った。
だがバルクホルンも何の理由もなしに軍規を破ろうとしているたわけではなかった。
「少佐だって自分の執務室がルッキーニの寝床になっている事を知っているんだ。だから機密書類の出し入れには気を配っていたんだぞ。それなのに今回偶々忘れたとかあると思うか?」
「エイラさんがわざと見せるために置いて行ったと?
ありえない話では無いけど昨日のエイラさんは冷静とは言い難かったわ。偶然直し忘れた可能性も十分あるんじゃ無いかしら?」
「…これはさっきシャーリーが言っていたことなんだが、バレなければ軍規違反では無いそうだ」
「ここで中身を読もうというの?」
それにバルクホルンは静かに頷くことで応えた。
それに対してミーナ中佐は少し考えたあと無言でそのファイルから書類を取り出し中身を読み進めて行った。
全てを読み終わるのに掛かった時間は約一時間と短い物だったがその中身の濃厚さはその時間の比ではなかった。
「なんて事だ。これが事実ならば宮藤は…」
「ええ、不味いわね。今宮藤さんは?」
「自室にいるはずだが…」
「すぐに確認に行くわよ!」
「ああ!」
結論から言うと宮藤は自室にはいなかった。
すぐにハンガーに向かったがそこに宮藤のストライカーユニットはなく、このことから二人は最悪の事態に陥った事を悟ったのだった。
やっと一期の終わりが見えてきました。
この後の予定としては軽くブレイブウィッチーズに触れてから二期に進む予定となっています。
ちなみに最近は3期7話をどうするのか悩みまくっています。
あれは文字に起こすの無理です。幸いこの調子なら当分先なんで猶予はありますがモノローグ的な感じで流すのも視野に入れないとヤバいかもしれません。