3月に起こったネウロイの大攻勢によりスオムス軍が受けた被害は甚大であった。ウィッチは死者2名の他に重傷者9名、ウィッチのおよそ3割にあたる11名が戦線を離脱した。これらの補填と戦力増強のためにスオムス軍上層部は訓練中のウィッチ26名、予備役ウィッチ6名の計32名を配属し部隊の再編を図った。それに伴い開戦時から戦ってきたウィッチは士官へと昇進した。
大攻勢から一週間程がたった頃、ブリーフィングルームに隊員が集められ今後の第二中隊についての説明がルーッカネンからなされた。
「今回スオムスは大きな被害を受けた。それに伴い部隊の再編と増強のためにうちの部隊からは基幹員数名を残してほとんどが移動する。今から名前を上げる者は新編する第30戦隊へ移動することになる」
そういうとルーッカネンは数名の名前を呼び上げ第30戦隊での役職を伝えた後エイラの名前を読んだ。
「ユーティライネン少尉はこの後ミッケリの司令部へ行くよう指令が出ている。準備が出来次第向かってくれ」
そう言われたエイラは特に返事もせずただただ虚空を眺めるばかりでとても話を聞いていたように見えなかった。
「ちゃんと聞いていたかイッル」
「聞いてるよ。ミッケリに行けばいいんだろ」
エイラは眠そうな声でいった
「イッルお前最近寝てないだろ」
「そんな事ないちゃんと寝てるよ」
「そういうならせめてその目の下のクマをなくしてからそう言え」
「最低限の睡眠時間は確保してる」
「さっきから敬語が崩れてるぞ。頭がちゃんと働いてないから崩れるんじゃないのか。眠れないなら医務室で睡眠薬でも貰ってこい」
「必要ありません」
そう断言するエイラにルーッカネンは一瞬の迷いの後言った。
「もし眠れない原因があいつらで受け入れる事ができないならもうその事は忘れろ」
「そんなことできるわけないだろ!みんなの事を忘れるとかどうして隊長はそんなこと言うんだよ!」
ルーッカネンにつかみかかりそうな勢いで言った。
「私達には守るべき国がある。いつまでもそんな状態では私だけでなく国民が困るんだ」
「そんなこと言われたってどうやって受け入れろって言うんだよ」
「どうやって受け入れるかは人それぞれだから私からは何も言えない。厳しいかもしれないが自分で見つけるしかない。それができないなら更迭するしかない」
「それは嫌だ!みんなの仇を取るためにもそれだけはやめてくれ」
「なら受け入れろ。今後もきっとこう言う事は起こるんだ。その度に落ち込んでるんじゃ迷惑だ」
ルーッカネンはそこで話を打ち切りミッケリに行く準備をするよう促した。
ミッケリに着くと直ぐに人払いがされたマンネルヘイムの執務室に通された。
「さて、まずは君が先の攻勢を生き残った事を祝わさせてもらおう。おめでとう」
開口一番マンネルヘイムがそう言った。しかしこれは今のエイラにとってはある種地雷のようなものであった
「たくさんの人が死にました。なのに生きている事を祝われるのは死んでいった人達に申し訳ないです」
「そんな事はない生き残った事は誇るべきだ。むしろそう思うことの方が死者に対する冒涜だと私は思うがね」
「魔法力が尽きようともみんなを探していたら助かったかもしれない、そう思うと自分が生き残った事は素直に喜べません」
「君の戦闘報告書を読んだ限り仲間が死んだ事の責任は君にはないはずだ。とはいえそこは君自身が折り合いをつける部分だな。本題に入ろう」
マンネルヘイムは少し姿勢を正すと話始めた。
「この世界はおかしいと思わないか?各国の軍隊は通常、志願にしろ徴兵にしろ大抵は18歳程度が最低年齢だ。しかしウィッチは違う。ユニットの制限が許す限りそれはたとえ10歳の幼子であろうともその手に銃を持ち我々と共に戦う。これはおかしい、いやこんな世界は間違っている、そうは思わないか」
マンネルヘイムの口からまるで自分達の存在を認めないかのようなセリフが飛び出たことに少しムッとしながら答えた。
「それはわたし達ウィッチに戦う力があるからわたし達は戦うんです。それを否定するような事は言わないでいただきたい」
「何も否定しているわけではない。ウィッチに戦う力があるのは事実だが本心では皆戦って欲しくはないんだよ。だからこそ各国はウィッチをできるだけ死なせないように戦う力を身につけてきた。例えばカールスラントは戦車を主力とする事で生存性と火力を上げることによりネウロイに対抗しようとした」
「しかしスオムスにはそんなものを用意する余裕などないと思いますが」
「そうだ。だから我が国で装備ではなく人の力でそれを補うしかない。そのためには軍首脳部に現役のウィッチが必要だ。今後のウィッチの被害を減らすためにも軍大学に行ってはくれないか」
それを聞きエイラはずっと疑問に思っていた事を聞いた
「なぜわたしなんですか。士官学校の成績が良かったというのが理由の一つというのはわかります。しかし士官学校と現場の評価が必ずしも一致するとは限らないはずです。それに現役のウィッチなら24戦隊司令官のマグヌッソン少佐とかの方が書類仕事にも慣れているし軍司令部にいてもおかしくない階級です」
「確かに君がいう事はもっともだ。そしてそれを踏まえた上でマグヌッソン少佐のようなベテランウィッチを起用しない理由はウィッチ特有の考え方が根付いてしまっているからだ。平時ならともかく戦時にそれを矯正する時間は無い」
「特有の考え方?」
「先の戦いでもそうだったがウィッチは自分達がネウロイに対する最大の対抗手段である事をよく知っている。それ故に自分たちを過大評価し、私達がネウロイに対して有効と判断した兵器や作戦に対しては過小評価するきらいがある」
「より良い作戦や兵器を作り出す事が出来るよう欠点を洗い出す事が出来ているのなら過小評価する分には良いと思いますが」
「後者は問題ではないむしろ前者が問題だ」
「わたし達はそんなにも過大評価していますか?妥当な評価を自分達は下していると思います」
思い当たる節のなかったエイラは具体的な例を出すように頼んだ
「先の攻勢で第一中隊壊滅後たった4人で第一中隊の受け持っていた空域を守ろうとした。通常中隊が受け持つ範囲をたった一個小隊で守ろうとした。これを自らに対する過大評価と言わずして何という」
「それは援軍を出せなかったと聞いています」
「正確にはウィッチの援軍を出せなかっただけだ。インモラ基地には30機ほどのD21戦闘機が待機していた」
予想外の言葉に思わず小馬鹿にしたような口調でエイラは言った。
「戦闘機ではせいぜいが時間稼ぎしかできませんしそれを援軍と言えないと思います」
「時間稼ぎができるのなら充分じゃないか。その間に君たちウィッチはネウロイを各個撃破する事ができたかも知れないじゃないか」
「そんな事をしたら戦闘機隊が全滅するかもしれないじゃないですか!」
「全滅?それでウィッチが生き残るなら良いじゃないか。ウィッチが2人死ぬよりパイロット30人が死ぬ方がマシだ」
あまりの物言いにエイラは言葉が出なかった。
「いいかね、君たちウィッチは貴重な打撃力なんだ。遅滞戦闘で失うなどあってはならない。あくまでウィッチは矛であって盾ではない」
これが例えばチェスの様のゲームなら、例えば弱い駒二つを犠牲に強い駒一つを逃すという様な事ならエイラも理解できた。しかしこれはゲームではなく人の命がかかった戦争だとても理解できなかった。
「正気ですか?」
「正気か否かか、正気ではないだろうな。だが私がこの国守る為にはそんな物は必要ない。必要なのは感情に流されずに必要なものを残しそうでない物を捨てる覚悟だ」
「わたしには理解できません」
「そうだろうな。私も昔はそうだった。しかし君にはこの考え方をできる様になってもらう」
「お断りします。そんな考え方ができる様な人間にはなりたくありません」
「ウィッチは往々にして感情的過ぎる。自分達の出来ない事でも弱者である我々非ウィッチの助力を求めようとはしない。例えそれが自らの死に直結するとしてもだ。1人でもウィッチに感情を捨てた機械の様なウィッチがいれば今後のウィッチの被害は減るだろう」
「ウィッチがそうなる必要性がありません。ウィッチが戦闘機に頼る様通達すれば良いじゃないですか」
「しているさ。だがウィッチが非ウィッチに頼る事は殆どない。あくまで私達は守るべき対象であって肩を並べて戦う仲間ではないんだろうさ」
どこか自嘲気味にそう言った
「それは...」
「だが同じウィッチの言葉なら聞いてくれると私は思うしなんなら君に司令部との通信回線を用意する。だから軍大学で参謀教育を受けてくれ」
そういうと頭を下げた
「頭をあげてください。そんなに頼まれてもわたしは行きません」
「いいや君には是非行ってもらいたい」
「なら幾つか質問したいので頭をあげてください」
「答えたら大学に行ってくれるかね?」
「答え次第です」
その答えにようやく頭を上げた
「わざわざ大学に行く必要があるんですか?今のままでも司令部と通信回線があれば行く必要ないじゃないですか」
「3年を目処に君にはスオムスウィッチの総指揮を任したい。その為には軍大学に行くのは必須だ。それがその後のウィッチの生存率に直結すると私は考えている」
「わたしが大学に行けば今回の様な死は防げると思いますか?」
「少なくとも今よりはマシになる」
「マシですか、無くなるとは言わないんですね」
「そんな無責任な事私には言えんよ」
「わかりました。元帥のその誠実さに免じて行かせていただきます」
「ありがとう」
そう言うともう一度マンネルヘイムは頭を下げた。
「それでわたしはこの後どうすればいいんですか?」
「基地に戻り移動の支度をしてくれ。詳しくは追って連絡する」
「わかりました」
「あぁ、後一つ君に朗報がある」
「朗報?」
「意識不明だったニエミネン少尉が目を覚ましたそうだ」
「本当ですか!?」
「本当だ君がここに来る直前に連絡があった」
「よかった、本当によかった」
そういうエイラの目からは涙が溢れ出ていた。
「彼女が入院している病院はヘルシンキにある。大学もヘルシンキだから見舞いに行ってあげなさい」
「はい」
この日エイラは久しぶりにぐっすりと眠る事ができた
設定
ダイヤのエースのスオムス軍ウィッチは開戦前のウィッチは全員士官教育を受けた上で経費削減のためまずは軍曹になります。士官学校の成績や普段の素行により必要最低限の人数が士官となります。
開戦後は民間のウィッチを大量にスカウトして第一次動員をします。配備時には予備役と現役を一気に士官にする事で士官の不足を解消し半年程度で開戦時の約倍の兵力を確保します。最終的には開戦時の四倍程度になる予定です。
これは所謂クリュンパーシステムをウィッチ用にアレンジした上でスオムスっぽくしました。全ては面倒臭がりなエイラを無理やり士官にするためです^ ^
ここからは考察ですが原作カールスラントなども近いシステムな気がします、とりあえず平時は士官学校出たウィッチを配置して開戦時には予備役や民間人からウィッチをスカウトするシステムかな?