「本当にマロニー大将は逃亡しようとしていたと思うか?」
第一特殊作戦航空団の執務室でノルマンディー地方への上陸が成功したと言うことをミーナから聞かされた直後、トゥルーデがいきなりそんなことを言ってきた。
「わからないわ。怪しいところがあるのは事実だけど…」
「確証はない…か。ハルトマンはどうだ?」
「知らなーい。エイラはああ言っていたんだしそれが事実なんじゃないの」
私もあの時一体何があったのか詳しい事は知らなかった。けど二人より知っている事が一つ多かった分より正確に何が起こったのか想像がついていた。けどそれを馬鹿正直に言っても何もいいことはないと思って適当に誤魔化す事にした。
「そうか…」
そう言ったきり重たい空気が執務室に漂って気まずくなったからこの部屋から出ていく口実を考える事にした。
「ユニットの調子見てこよっと」
さっきユニットの調子は確認したばかりだから苦しい言い訳だとは思ったけど今はこの部屋から出て行く事が最優先と考えて反論される前に執務室から出ていった。
ハンガーに向かいながら私はあの日の事を思い返した。
基地に帰還した私達は部隊を沈没した赤城乗り組員救助班とマロニー大将に対応する班の二つに分けて作業を開始した。
救助といっても船もなくストライカーユニットの燃料も魔法力も無かったから近隣の基地に対して沈没した赤城の乗組員の救助の依頼と泳ぎついた人たちに対して毛布とかを渡すだけしかできなかった。これはトゥルーデを隊長として私、シャーリー、サーニャ、ルッキーニ、リーネ、宮藤達がこの活動を行なった。
残ったメンバーは拘束したマロニー大将達の身柄を引き渡すために近隣の基地に対して憲兵隊の派遣要請や暫くの間勾留するための場所に移動させたりしていた。
この時赤城の救助要請をするため偶然ミーナ達と一緒にいた私はマロニー大将の処遇に関してミーナとエイラが揉めているのを目撃していた。
「どうしてブリタニアの憲兵隊じゃなくカールスラントの憲兵隊に連絡したんだ?」
「ウォーロックのことを隠蔽されるからよ」
ちょっと考えたら分かりそうな事なのにどうしてエイラはそんな事を聞くんだろう。
「されるだろうな。けどそれのどこが悪いっていうんだ」
「ええっ!?」
論理的な反論が返ってくると思っていた私は声を上げて驚いた。
「たとえ何処の憲兵隊が来ようと今回の件は連合軍の足並みを乱さないために赤城が沈んだという事とガリアの巣が解放されたという事実だけが発表されると思うぞ。だからウォーロック隠蔽阻止のためにカールスラントの憲兵隊を呼んでも意味がないさ。
むしろ中佐の行為は各国のウォーロック技術争奪戦に拍車をかける事になるぞ」
声を上げた私に視線を一瞬向けた後、どこか棘のある口調でエイラが言った。
「ネウロイの技術を使っているのよ?そんなの欲しがるわけないじゃない」
「そうかな。たった一機で巣にいるネウロイ全てを撃破できるんだぞ。暴走した事に目を瞑ればこれほどまでに強力なものはないだろ。第一ウィッチだってネウロイに操られる可能性があるんだから危険性自体はさほど変わらないさ」
ミーナ達がさっき言ってたの本当のことなんだ。……だったらエイラの言う通りあんまり変わらない気がする。だって直接的な脅威はウォーロックの方が上だけど見分けがつかない分厄介さで言えば間違いなくウィッチの方が上だからだ。なら一刻も早くカールスラントを奪還するためにウォーロックを使うのはありなんじゃないだろうか。
「制御できると思うの?」
ウルスラなら出来るのかなぁ?
「さぁな。それは科学者連中が考える事であってわたしの考える事じゃないな。
そんなことよりハルトマンは連絡が終わったなら早く救助の手伝いに行ってこいよ」
思わず聞き入っていたけどたしかに救助活動を手伝わなと。出来る事は少ないとはいえそれで救える命もきっとあるだろうし。
「それもそうだね。いってきまーす」
そのあと何が話し合われたのか私はよく知らない。けどこの後起こった事件の直ぐ後、カールスラントの憲兵隊より少し早くブリタニアの憲兵隊が来たってことは多分ミーナはエイラの意見に納得したってことなんだと思う。
司令室から外に手伝いに行ったはいいけど負傷者が多くて医薬品が不足していたからすぐにまた基地の中に戻ってサーニャンと一緒に薬や包帯を取りいった時、それは起こったんだ。
「包帯見つかったー?」
「はい。けどこれだけしかありません」
サーニャンが見つけた分じゃ到底足りそうに無かった。
「うーん、これは他の基地からの物資を待たないとダメかなぁ」
「やっぱり足りませんよね」
「うん。取り敢えずサーニャンは今ある分だけ持って行ってくれる?私はもうちょっと探してみるよ」
私は持っていた薬を手渡しながら言った。
「分かりました」
サーニャンが倉庫から出て行こうとした時、突然一発の銃声が鳴り響いた。
「今、銃声が…」
「うん、けど一体どこから…」
そう言っている間にさらにもう一発、銃声が響いた
「執務室の方だ!」
それを聞いた瞬間、サーニャンの顔が青褪めた。今エイラの執務室をマロニー大将を一時的に軟禁するために使っていてそのマロニー大将の見張りを引き受けたのがエイラだった。
もしもこれが外部から誰かが侵入したのであれば銃声が二つあった以上二人とも撃たれた可能性がある。全員捕まったとは聞いているけどエイラを襲撃した教団の残党の可能性だってあるしもしそうなら魔法力を消耗している今、抵抗し切れるかは怪しいところだった。
「サーニャン最低限の医薬品だけ持って行くよ!」
誰かはわからないけど撃たれたのはたしかだから包帯とかは確実に必要になる。
「は、はい!」
私たちが執務室に向かって走り出した時さらにもう一発銃声が響いた。一発目と二発目の間隔より二発目と三発目の間隔の方が長かったからどちらかが生きていてトドメを刺されたんだろうと思った。その考えに至った時、高確率でエイラもマロニー大将も死んでいるんだろうと思ったけど一縷の望みにかけて執務室までの道のりを走り続けた。
執務室の前に辿り着くと手をかざしてサーニャンを止めると拳銃を手に持って勢いよく執務室の扉を開けた。
「エイラ!!!!」
サーニャンがエイラの名前を呼びながら飛び込むと中には血を流して仰向けに倒れているマロニー大将と肩から血を流して机により掛かっているエイラの姿が見えた。
「よぉサーニャ、ハルトマン」
「エイラ、マロニー大将は…」
マロニー大将の安否を尋ねた。
「死んでるよ。喉と心臓を一発ずつ弾が貫通したからな」
「……何があったの?」
サーニャンが尋ねた。
「マロニー大将が逃走しようとしていきなり銃を撃ってきたんだよ。説明責任とかあるし逃すわけにも行かないから隙をついて飛びかかったは良いんだけど揉み合いになってこのざまだよ」
よく見るとエイラの近くにはマロニー大将のものだろうウェブリー・リボルバーが転がっていた。周りはマロニー大将とエイラの血で汚れているのにその拳銃だけは一滴の血もついていなくてどこか不気味な雰囲気があった。
「サーニャンはエイラを見てあげて。私はマロニー大将が生きてるかどうか確認するよ」
サーニャンがエイラに近づいて治療を始めるのを尻目に私はマロニー大将の生死の確認を始めた。
瞳孔は開いていて脈拍も無く間違いなく死んでいるようだった。出血箇所を抑えて止血しようとしたのだろうか、その両手は血で真っ赤に汚れていて元の肌の色がわからないほどだった。
間違いなく死んでいる事を確認した私は落ちていた拳銃を拾って机の上に置いた。弾が入っていたから何かの拍子に蹴飛ばして暴発したら危ないと思ったからだ。その時手に付いていたマロニー大将の血が拳銃についてしまってそれをどうするか決めかねているうちにミーナとトゥルーデが執務室に入ってきた。
「エイラさん大丈夫!?」
「この通りだよ中佐」
「よかった無事なのね。マロニー大将は…」
「死んでるよ」
サーニャンの治療を受けているエイラに代わって私が答えた。
「一体何があったの?」
ミーナの問いかけに私はさっきエイラに聞いた事をそのまま話した。
エイラの治療が終わった頃にはブリタニアの憲兵隊も到着して私たちは取調べを受ける事になった。取り調べはエイラの証言に間違いがないかだけを聞かれて特に深く追求されなかった。拳銃に血をつけちゃった事を言おうかと思ったけど憲兵はただエイラの証言に間違いがないと言う事を証明する書類にサインさせてきてそれ以上の話を聞こうともせず結局言いそびれてしまった。
そのあとは知っての通り、エイラの主張が通る事になってマロニー大将は逃走兵として処理され軍籍を剥奪される事になった。
後になって考えてみると奇妙なことがあったけど私がそれを言ったところできっと何も変わらないだろうと思ったからだ。私の願いは少しでも早くカールスラントが解放される事だから今回の件に関して私は余計な事を言わない事にした。話せばきっとブリタニアとスオムスの間で不和が生まれてカールスラント奪還の時間がさらに伸びると思ったからだ。
それに私はミーナやトゥルーデみたいに潔癖でもなかったから真実がどうとか正直どうでもよかった。ミーナ達に話すことも少し考えたけど結局それはやめた。多分話したら二人は真実を知ろうと思うだろうしもし知ってしまったらミーナもトゥルーデも性格的に黙っている事ができないだろうからきっとエイラとの関係が拗れる事になっちゃうだろうからね。
配属としてはとしてはカールスラント三人組がブリタニア防衛、つまりノルマンディー上陸について行って功績をあげる事ができなくなっています。
他のメンバーも基本的に休暇とか配置換えとかでしばらくの間ガリアでの作戦参加不能ってことになってます。