スオムスへ
ロンドンにあるスオムス大使館についたわたしに、本国から帰国するよう命じられるまでそう時間は掛からなかった。
ガリアにあるネウロイの巣が消滅してから一週間もしないうちにエイラは同じようにスオムスに向かうよう命令を受けたサーニャと共にスオムスの首都、ヘルシンキまで汽車で向かっていた。
仮にもガリアにあったネウロイの巣を破壊した501部隊の一員であるため到着時刻などを告知すればマスコミや国民が出迎えにくることが予想された。そのためエイラの帰国は秘密裏に行われることになりバレないように大勢の軍人が迎えに行くようなことはせずウィッチが一人、迎えにくるに留まった。
「お久しぶりですユーティライネン少佐」
間違いなくエイラを迎えにくるには人選ミスと言えるウィッチ、アレクサンドラ・イワーノブナ・ポクルイーシキン大尉が駅に降り立ったエイラ達を出迎えた。
「久しぶりだな。バルバロッサ以来か?」
ポクルイーシキン大尉の内心は穏やかではなかっただろうがそんなことをおくびも出さずに再会の挨拶は終わった。
「ええ。そちらがリトヴャク中尉ですか?」
「はい、オラーシャ陸軍中尉アレクサンドラ・リトヴャクです」
「優秀なナイトウィッチだと聞いているわ。どう、手が空いているならうちの部隊に来ない?」
ナイトウィッチのいない502部隊からするとサーニャは是が非でも欲しい人材であったため早速と言わんばかりに誘いをかけた。
「すみません。スオムスではエイラのサポートをするように言われているので」
「ふふ、冗談よ。もし機会があったら遊びに来てくださいね。貴女なら歓迎しますよ」
「はい。機会があればエイラと一緒にいかせてもらいますね」
「…ええ、是非来てくださいね」
エイラと一緒にと言ったところで一瞬眉間に皺を寄せたがすぐに表情を戻すと言った。
「立ち話はこれくらいにしてそろそろ車の所に行きましょうか」
そう言うと自然な動作でエイラの手から荷物を奪った。
「自分で持てるぞ」
「迎えに来た者が迎えた者の荷物を持たせたままにするのは問題があると思いますが?」
「それはそうだけど…」
「それともなにか?私が貴女の足の状態を知っていながら荷物も持たないような非道な人間にしたいのですか?
「知っていたのか」
「ええ、貴女がどんな状態かは概ね理解しています」
「そうか」
「ほら。リトヴャク中尉も」
「ありがとうございます」
この後、駅から司令部に向かうまでの間がサーニャにとって地獄の時間となった。
ポクルイーシキンはこの後一切エイラに対して自ら話しかけることはなくエイラもまたポクルイーシキンに対して自ら話しかけることがなかった。普段それほど喋る方ではないサーニャだったがあまりにも車内の空気が悪かったため無理矢理二人を話すように仕向けようとした。
「夜間飛行の際に何かコツとかはありますか?」
「わたしは魔導針があるのでない人に対するアドバイスはむしろエイラの方ができると思います。
エイラ何かコツはあるの?」
「別に特には。わたしも未来予知を併用してるだけだからな」
それ以上話すことはなくエイラは黙り込んだ。
ポクルイーシキンもまたそれに突っ込むことなく何も聞かなかったかかのようにサーニャに尋ねた。
「夜間哨戒中とかはお腹が空きませんか?」
「夜間哨戒前にエイラと一緒に夜食を作ったりしてます。エイラは料理もうまいんですよ」
「そう。リトヴャク中尉は料理が好きなの?」
このようにエイラに関する話題を徹底的に無視するポクルイーシキンと最低限の返事しかしないエイラという二人に挟まれたサーニャは今までにないくらい精神をすり減らしていた。
幸いなことにポクルイーシキンが命じられたのは出迎えとあくまで司令部までの案内役で司令部についてからは別の人物により案内を受けることになった。
司令部に着くとエイラとサーニャはそれぞれ別々の部屋へと通された。
「久しぶりだなユーティライネン少佐。ブリタニアはどうだった?」
「こんな目に遭った国ですからいい国ではありませんでしたね」
右足の太腿を軽く叩きながら言った。
「そうだろうな。お詫びに暫くブリタニアと関係のない任務を与えよう」
「そんなものより休暇が欲しいですね」
「ウィッチとしても軍人としても優秀な君に休暇など与えられるはずがないだろう。早速任務について話をしたい所だが一つ聞きたいことがある」
分かっていたことではあったがマンネルヘイム元帥はアッサリとエイラの要望を切り捨てエイラにいった。
「なんでしょうか」
「何故マロニー大将を殺したのかね?」
「逃走を図ろうとしたからです」
「建前はいい。事実を話してくれ」
暫く沈黙が流れた後、エイラが口を開いた。
「あの時、ヴィルケ中佐がカールスラントの憲兵隊を呼んでいたからです」
「…なるほど、たしかにそれは殺さざるを得んな」
エイラの言葉を聞いたマンネルヘイム元帥は即座にエイラが決断した理由を察した。
「はい。ブリタニアの憲兵隊が先に来たから良かったもののもし順番が逆であればスオムスとブリタニアの繋がりが露呈しかねませんでした」
「ヴィルケ中佐がウォーロックに関する書類を一部とはいえ読んだと聞いたがそこにスオムスとの繋がりを示す証拠は?」
「直前に抜き取って焼却済みです」
「流石だ。君が501部隊にいて良かったよ。他のウィッチじゃこうはいかないからな」
「ありがとうございます」
「さて、今回の任務だが喜びたまえ。軍集団の参謀職を用意したぞ」
「いきなり軍集団ですか。せめて軍団くらいの方が良くないですか?」
そもそもウィッチが軍団以上の部隊で公式に参謀につくこと自体が今まで前例が無いため反発がある可能性がありエイラはそれを心配していた。
「問題ない。今回新たに出現したネウロイの巣、グリゴーリ。これの攻略のために新編したペテルブルク軍集団の次席参謀だ。他の巣と違い攻略の優先度が高いためネウロイの巣の破壊実績のあるユーティライネン少佐を次席参謀に据えることで作戦の成功率を上げるのだ。反発など起きようがない」
「巣の破壊は偶然の産物だとご存知だったと思いますが?」
「もちろん知っている。だが知らぬ者からしたらこれほど心強いものはないだろう」
「しかし時間が経てばその効果は薄れます。実際に破壊できる可能性のある兵器や作戦はあるんですか?」
たしかにエイラがいることにより士気は向上するだろう。しかし破壊できずにズルズルと現状維持を続けることになれば国民や兵士がどう動くか予想がつかない。
「あてが無いわけではない。詳しくはペテルブルク軍集団司令官のマンシュタイン元帥に聞いてくれればいいが簡単に言えば超巨大な列車砲を使ってグリゴーリを破壊することを考えているようだ」
「列車砲ですか」
いくら大きくてもただの列車砲でネウロイの巣が破壊できるとは到底思えなかった。
「それと形式だけではあるが北方方面軍司令部にも参謀職を用意した。少佐専用の執務室もある。自由に使ってくれ」
「ありがとうございます」
「ペテルブルク軍集団の司令部は当分の間ヘルシンキに置くことになっているから必要ならばこちらで住む場所も手配するがどうするかね?」
現在エイラの両親は安全な北部に避難しているためヘルシンキの近くに住める場所はなかったためその行為に甘えることにした。
「お願いします。それとできればリトヴャク中尉の分もお願いできますか?」
「勿論だ。同じ家でいいかね?」
「はい」
「話は以上だ。外に私の副官がいるから彼に案内してもらえ」
兵士の士気を考えたらエイラとサーニャをどんな形でもいいから作戦に加えた方が良かった気がしますがどうして加えなかったんでしょうね。
巣を破壊に関わったウィッチの各国の保有数のバランスがとかって言う話ならカールスラントと扶桑はどうなるのかって言う話ですし、何より直接的な破壊任務でなく直前のつゆ払いとかでも良いわけですし。