ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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最近書くスピードはともかく投稿当日の一時間くらい前に完成させることが増えてきてる気がします。


晩酌

サトゥルヌス祭が終わり皆が寝るために部屋に戻った頃、第502統合戦闘航空団の執務室には3人の人影があった。

 

「約束通り一番いい酒を用意したぞ」

 

「いやこれわたしが補給物資に入れて運んできたやつじゃないのか?」

 

そう言ってラル少佐が見せてきたのはエイラが運んできた酒と全く同じものだった。

 

「そうだ。だがユーティライネン少佐から私の手に渡った以上これはうちの酒だ」

 

「隊長…」

 

ロスマンが非難するように呟いた。

 

「冗談だ。ちゃんと用意してある」

 

その場の空気に耐えられなくなったのか、本当に冗談だったのかその表情から読み取ることはできなかったがラル少佐は棚の鍵を開けると中からウィスキーを取り出した。

 

「隊長が言うと冗談に聞こえません」

 

「私だってたまには冗談くらい言う」

 

「いや、少佐の場合は本当にやりかねないだろ」

 

普段から他の部隊の物資を犯罪紛いの手法で502のものにしている人物がする冗談にしてはあまりにも真実味がありすぎた。

 

「そんなふうに思われていたとは心外だな。私がいつそんな詐欺紛いなことをしたと言うんだ」

 

「自分の胸に手を当ててよく考えてみろよ」

 

「ふむ、全く思いつかないな。エディータはどう思う」

 

「一体何年の付き合いだと思ってるんですか?いくらでも思いつきますよ」

 

「奇遇だな。私もエディータに関してなら幾つか心当たりがある」

 

「隊長じゃないんですからありませんよ」

 

「お前の秘蔵コレクション、全て正規の方法で入手したと胸を張っていえるのか?」

 

尋ねられたロスマンはスッと視線を外した。

 

「…よくよく考えたら隊長が犯罪紛いな事するわけありませんでしたね」

 

ロスマンが秘蔵しているイクラやキャビア、特にキャビアは主な産地がオラーシャ帝国のアムール地方やカスピ海でありオラーシャとの貿易がインド洋からブリタニアを経由するルートが主となって以来キャビアは高騰していた。特にカスピ海北部がネウロイの勢力圏となってからはカスピ海産のキャビアは激減しており実質的にはアムール地方のみで作られているような物でその値段は日に日に上昇していた。

一時期ロスマンはこれを手に入れるため給料をよくしようと士官学校に入校するか真剣に悩んだほどであったが各部隊の隊長が教育係として優秀なロスマンが一時的にも前線から離れることを嫌い上層部に直談判した結果、ロスマンが所属する部隊酒保にある嗜好品に関しては通常の値段の半額以下で販売されることになった。

なおこれを行った中心人物がラル少佐であり途中からロスマンもノリノリで参加していたため共犯関係にあったと言えた。

 

「502には問題児しかいないのかよ」

 

「ユーティライネン少佐だって一度や二度そんな経験はあるだろう」

 

「わたしはブリタニアの駐在武官だったんだぞ。その程度のものを手に入れるために犯罪なんか犯すわけないだろ」

 

悲しいかな、ここペテルブルクとブリタニアでは同じ最前線でも物資の備蓄状況には天と地ほどの差があり食料や物資を獲るために不正を働くなどと言うこととは縁遠かった。

そのかわり金銭を用いた政治闘争が横行しているのだが501基地に引き篭もっていたエイラには縁のない話だった。

 

「羨ましい事だ。だが駐在武官になる前はどうだ?」

 

「ありがたいことにマンネルヘイム元帥に目をかけてもらっているからな。下士官の時ならともかく部隊指揮官になってからは特段補給に不自由したことはないな」

 

「それを少しでもうちに回してくれれば強引な手段を使わなくて済むんだがな」

 

「ユニットの破損が少なけりゃもう少し他のものの量を増やせるんだけどな」

 

「知っての通りここはブリタニア以上にネウロイが来る頻度が高い。その分出撃も多くなりユニットも破損しやすい」

 

ブリタニアと違いドーバー海峡がない分地上型ネウロイも相手にしなければいけないこと、中型以上のネウロイが少数で攻撃を仕掛けてくるブリタニアと違い小型ネウロイから大型ネウロイまで様々なタイプのネウロイが多数攻めてくる事から出撃回数自体がブリタニアとは大幅に違うため自然と損耗率が高くなっていた。

 

「それだとしても3人くらいユニットの損耗率が高いウィッチがいるだろ」

 

「否定はしない。だがそれなら元上官としてニパは少佐がどうにかしてくれ」

 

「あれは本人の能力以外のところで問題があるから無理だろ」

 

「それもそうだな」

 

二人の話が終わったタイミングでグラスと氷の入ったアイスペール、そしてキャビアなどの缶詰をロスマンが机に並べ終えエイラが持ってきたカールスラント産のワインをワイングラスに注ぐと乾杯をした。

 

「仕事の話はそれくらいにして飲みましょう」

 

「随分と豪華だな」

 

用意していた以上のつまみが用意され思わずラル少佐が呟いた。

 

「ええ。なんて言ったってユーティライネン少佐が希少なカールスラント産のワインを持ってきてくれましたからね。奮発しました」

 

現在流通しているカールスラント産ワインは基本的にノイエカールスラントで作られた物であり従来のカールスラント産とは異なる。

そのため従来のカールスラント産ワインは希少価値が高くヴィンテージ物として軒並み高騰していて、ものによっては車よりも高価なほどだった。

 

「しかしよくカールスラント産のワインが手に入ったな」

 

「ブリタニアで襲撃された時の見舞いでいい酒がたくさん届いたからな。その時取っておいたやつだ」

 

「傷はもう大丈夫なのか?」

 

「前みたいに前線で戦うのは難しいな」

 

「見たところ異常はなさそうですけどそんなにひどい怪我だったんですか?」

 

ウィッチが戦えなくなるというのは基本的には四肢のいずれかが欠損した場合であり見たところエイラにはそのような欠損が見られないためロスマンが不思議そうに尋ねた。

 

「右足が吹っ飛んだな」

 

「なに?ならその足はなんだ」

 

詳しい状況を知らなかったラル少佐は驚いた表情で尋ねた。

 

「義足だ。知らなかったのか?」

 

「初耳だ。それで飛べるのか?」

 

「カールスラントが開発したウィッチ用の義足だ。通常の義足よりもかなり高価だけど一応飛べる」

 

「一応と言うことはなにか問題があるのか?」

 

「まず第一にメチャクチャ高い上にメンテナンスも面倒臭い。次にウィッチ用といっても魔法力の扱いにかなり自信のあるウィッチじゃないと使いこなせない。現にわたしでさえ前ほど上手く飛べなくなって戦い方を変えざるを得なくなったからな。

中堅以下のウィッチじゃ扱えないし費用対効果が悪くておそらく作ってすらもらえない。並みのエースだと扱えはしても新兵同然の状態からやり直すことになるからこれも作ってもらえるかさえわからない。所謂スーパーエースと言われるウィッチなら扱えるだろうけどそのクラスになると片足だけ失うなんてことの方が稀だからこれは殆どわたし専用みたいなもんだな」

 

「そうか。引退したベテランウィッチの復帰の手助けになれば良かったがそう上手くはいかないか」

 

「わたしもこの義足を貰った時はそれを考えたけど使ってみて無理だと悟ったよ」

 

「私たち世代は無理でもユーティライネン少佐やハルトマンくらいの年代のウィッチが戻ってきてくれればかなり助かるが…そうか無理か」

 

大戦初期ほどではないがウィッチの消耗は激しい。戦闘で消耗するのは勿論のことながら年齢によるベテランウィッチが上がりを迎えて引退するケースも増え始めておりどこの国においても後進の育成は急務であった。

年齢と実績的に次世代ウィッチを指揮する立場になり得るのがエイラや少し年上のハルトマンの年代だがこの年齢層は戦争初期に充分な訓練を受けずに出撃したりして特に消耗が激しく生き残っているのはよほど慎重なウィッチか、とてつもなく実力のあるウィッチが多かった。

 

「そういえばロスマン曹長は雁淵軍曹の教育係って聞いたけど雁淵軍曹の実力はどの程度のものなんだ?」

 

「体力は人一倍あります。ただ魔法力が決定的に足りていませんし飛行技術も未熟です。今は少ない魔法力を補うための技術を今教えているところです」

 

「それだけか?少佐がここに置いてるんだ。強力な固有魔法か何かを持っているんじゃないか?」

 

「それは…」

 

チラリとロスマンがラル少佐に視線を向けた。

 

「接触魔眼だ」

 

「魔眼持ちか。それなら少佐が送り返さなかったのにも納得できる。飛行技術が未熟でも育て上げれば確実に化けるからな」

 

「ああ。あいつが使えるようになれば確実に502の戦力増強に繋がる」

 

コンコンと扉をノックする音がしたと思うと返事をする前に扉が開き長い銀髪と透けるような白い肌を持った長身のウィッチが入ってきた。

 

「失礼します。ってイッルじゃないか!」

 

「ね、姉ちゃん!?なんでここに」

 

「502のユニット回収部隊なんだからいるのは当たり前だろ。お前こそなんでここにいるんだ」

 

「わたしはここに補給するために…って何すんだよ!」

 

ひょいっとエイラが持っていたグラスを取り上げると一息に中に入っていたワインを飲み干した。

 

「やっぱりワインよりヴィーナのほうが上手いな」

 

「なら飲むなよ!」

 

「大尉、何か用があったんじゃないのか?」

 

「ああ、すみません。ペテルブルク駐屯部隊の陸戦ウィッチ隊の教導任務が終わったのでそれの報告です」

 

「そうか。なら一緒に一杯どうだ?」

 

「勿論ご一緒させてもらいます。せっかくなんでイッルのブリタニアでの思い出話も聞きたいんで」

 

そう言ってスタンとエイラの横に腰を下ろすとグラスを手に取りウィスキーをグラスに注いだ。

わかりきった事ではあるが酒豪である姉のアウロラがいて静かに酒が飲めるわけがなく良いように遊ばれることになった。

もっとも、さっきまでの暗い話を続けるくらいならこちらの方が遥かにマシではあった。




ロスマン先生が好きなキャビアって絶対高騰してると思うんですよね。理由は本編で書いた通りです。
シャンパーニュ地方で作られたものしかシャンパンって名乗れないはずなんでシャンパンなんかも高騰してると思います。
アニメでラルが普通に栓開けてたけどあれって一本いくらだったんでしょうか?
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