秘密兵器の受け取りのためにムルマンスクに来たエイラはあてがわれた部屋で気持ちの昂りを抑えることができなかった。ムルマンスクに来る秘密兵器の護衛に同行してサーニャがエイラと合流するためにムルマンスクに来るからだ。
コンコンと扉がノックされエイラが返事をするとドアが開き第502統合戦闘航空団のヴァルトルート・クルピンスキー中尉が入室した。
「サーニャはどこだ?」
一緒に連れてこられているはずのサーニャの姿が見えないことを訝しげに思ったエイラは挨拶すらせずにそう尋ねた。
「そう心配しなくてもちゃんと連れてきていますよ。今は直ちゃん達と別れの挨拶をしていますよ」
「そうか。ならいい」
正直本当にエイラの元に返してくれるのか疑問に思っていたためクルピンスキーの言葉を聞いて少しホッとしていた。
「ウチの隊長は手放したくなさそうでしたけどね」
「勝手に奪っていったくせになに言ってんだよ」
もともとエイラの副官だったのだから手放すもなにも元の形に戻っただけだ。
「ウチの隊長は手癖が少し悪いですから。
新型ユニットを受領するように言われてるんですけどどこにありますか?」
「なんでわたしに聞くんだよ」
ラル少佐の手癖は少しどころではなくかなり悪いだろと思いながら尋ねた。
「隊長からここについたら少佐の指示を受けるように言われてたんですけど聞いていませんか?」
「聞いてはないけど大体の場所なら分かる。ちょっと待ってろ」
そう言ってエイラは渡されていたムルマンスクの備蓄目録を取り出すとウィッチの装備品の確認を始めた。
「あった、これだな。扶桑から紫電、カールスラントからはBF109のK型が届いているな」
カールスラントのストライカーユニットはスオムスでも作っているが、その最新型となるとまだ製造許可がおりずカールスラントから運んでくる必要があった。
「どこにありますか?」
「ここから近いぞ。7番倉庫だ」
「ありがとうございます。少佐が案内してくれると嬉しいんですけど」
「この建物を出て右だ」
時間はあるから案内してもいいがエイラはこのクルピンスキーという人間を502部隊ではラル少佐の次くらいに警戒していた。女癖、酒癖共に悪く正直あまり近づきたくなかった。
「あ、はい。ありがとうございます」
そんなエイラの雰囲気を感じ取ったのか、苦笑いを浮かべるとさっさと出ていってしまった。
「そういやサーニャはいつ連れてくるんだろ」
連れてくるとは言っていたがその時間を告げられていないことに暫くしてから気づいたエイラは言いようのない不安に襲われるのだった。
そんな不安にエイラが襲われているとは露ほども思っていないクルピンスキーはサーニャ、菅野、ニパ、ひかりの3人を連れて倉庫でストライカーユニットを探していた。
「あったあった」
倉庫の一番奥に502部隊の新型ユニットはあった。
「オレの紫電改だ!」
「ピカピカだ〜」
「こっちはK型だね」
「そっちの箱はなんですか?」
ひかりが指差す方にはちょうどストライカーユニットが収まるくらいの箱が木箱二つとそれよりやや小ぶりの木箱が一つ置かれていた。
「こっちはラル隊長とロスマン先生の分だね」
「いいなぁ新しいユニット」
「じゃあニパ君はそれを使って」
「ええ!けどこれクルピンスキーさんのでしょ?」
「ニパ君のはここにくる途中で壊れちゃったから仕方ないよね。それに僕は…お、あったあった」
そう言って小さな木箱を開けて取り出したのは一本の瓶だった。
「なんですかそれ?」
「大人の葡萄ジュースだよ」
胡散臭い笑みを浮かべながらクルピンスキーは答えた。
「クルピンスキーさん」
「なんだいサーニャちゃん」
「任務中にお酒を飲むのは良くないと思います」
大人の葡萄ジュースなんて言葉で誤魔化されるほどサーニャは甘くはなかった。
「お酒じゃないよ。葡萄ジュースだよ」
ニコニコと上機嫌に笑いながらそう言った。
さらにサーニャが追及しようとしたところで菅野がそういえばと前置きすると言った。
「いつまでコイツはここにいるんだ?」
「勿論、少佐に返すまでだよ」
「だから、それがいつかって聞いてんだよ」
「別に長くいる分にはいいじゃないですか。それとも菅野さんは早く帰って欲しいんですか?」
語気を強める菅野をひかりが宥めた。
「そうじゃねえよ。ただ本当に返す気があるのかくらいは知っときたかっただけだ」
返せと言われてただ黙って返すほど自分たちの隊長は往生際は良くないと菅野はよく理解していた。
「直ちゃん鋭いねぇ。隊長には返すのは出来るだけ引き伸ばせって言われてるんだよ」
菅野の認識は正しく、クルピンスキーはそれを肯定した。
「えっ!じゃあサーニャさんこれからもウチにいるんですか?」
「うまくいけばそうなるね」
その言葉にやったぁなどと言っているひかりをよそに思わずニパが呟いた。
「うわぁ、イッル怒りそうだなぁ」
「クルピンスキーさん、早くエイラのところに返してくれませんか?」
「残念だけどそれは許可できないなぁ。あっさり返しちゃったら僕が後で隊長から小言を言われることになるんだよ」
「やっぱりそういう事か」
倉庫に5人以外の声が響いた。
「おかしいと思ったんだよ。返すって言いながら具体的な時間も教えられないし何故か4人部屋じゃなくて5人部屋を貸すようムルマンスクの司令部に申請してるし」
文句を言っているエイラをよそにこの場をどう乗り切るかクルピンスキーは必死に考えていた。通常であればサーニャを返すことになんの問題もないが今回は事情が違った。高い酒を隊長から与えられた上でもし返したら暫くの間禁酒を命じると脅されていたのだ。
酒好きのクルピンスキーとしては是非ともそれは避けたいところだった。
「…ユニットの動作確認をしようか」
クルピンスキーが出した結論は極めてシンプルだった。
「え?けどサーニャさんを」
「さぁみんな、日が暮れるまでに終わらしておきたいから急いで急いで!」
見なかったことにする。それがクルピンスキーの結論だった。
「無視すんな」
そう言って倉庫から出て行こうとするクルピンスキーの肩をエイラが掴んだ。
「そうだエイラくん!今夜一緒に一杯どうだい?隊長達とも飲んだと聞いたしどうせなら僕とも」
肩を掴んでいたエイラの手を取ると振り返ると強引に話題を変えようとした。しかし
「サーニャを、返せ」
クルピンスキーの誤魔化しは通用せずエイラはただ一言そう言うとあっさりとクルピンスキーは屈した。
※
「こ、殺されるかと思った」
エイラがサーニャを連れ帰った後、クルピンスキーは大きく息を吐き出しそう言った。
「大袈裟だなぁ」
「怖いっつても怒った時のサーシャみたいなもんだろ」
「全然ちがうよ。サーシャちゃんは怒っていてもその中にはどこか優しさが含まれているけど少佐にはそんなものはなかったよ」
「じゃあ変わんねぇじゃねえか」
「まったく、直ちゃんはわかってないなぁ」
「分かるかそんなもん!」
そもそも怒っているのに優しさなんかあるわけないだろと思う菅野だった。
エイラの未来予知ってマルチタスク必須ですよね。
多分エイラって味方がいる方が弱くなるんじゃないかなって思ってます。理由としては敵だけでなく味方まで未来予知してしまい標的を選択しなくてはならなくなるからって言う理由です。