「総員傾注!」
ラル、エイラの両名が入室したのに合わせてポクルイーシキンが号令をかけた。
「楽にしてくれていいぞ」
エイラがそう言うのに合わせて敬礼を解き着席した。
「さて、多分みんな噂ぐらいは聞いているだろうけど近々大きな作戦がある。
作戦名はフレイアー作戦。作戦目標は白海に浮かぶネウロイの巣、グリゴーリの破壊だ」
その言葉に菅野が気合を入れるかのように手のひらに拳を打ちつけた。
「それで、まさかとは思うが501がネウロイの巣を撃破したのに準ずるのか?流石に危険が大きすぎると思うが」
「勿論そんなことはしない。使うのはカールスラントから運ばれてきた超大型列車砲ニ門」
その存在に心当たりのあったニパとひかりが小さな声で囁き合う。
「しかしただの列車砲ではネウロイを倒すことはできんぞ」
「勿論普通じゃない。特にコアを撃ち抜く魔導徹甲弾には数百人の陸戦ウィッチが魔法力を込めている」
「しかし肝心のコアはどうやって見つけるつもりだ。その魔導徹甲弾も無駄撃ちできるほど数は用意できていないのだろう」
「そのための502だ」
「…まさか」
「ちょっと待てっ!」
「イッル、ひかりをそんな危険な目には」
「時間次第では私が」
「ちなみに作戦は一週間後だ」
ざわめく502の面々に聞こえるよう少し大きな声でエイラが言うとその瞬間部屋は静寂に包まれた。
「一週間後だ」
声が小さくて聞こえなかったのかと思ったエイラはもう一度そう言った。
「ふっざけんな!!」
菅野の声を筆頭に方々から非難の声が上がり思わずエイラは肩を縮こまらせた。
「わ、わたしが決めたんじゃないんだからそんなに怒鳴るなよ」
そもそもこの時期を決めたのはエイラではなくマンシュタイン元帥でありエイラはもう少し遅らせるべきだと反対意見を述べていた。
「す、すまねえ」
全てをエイラが決められるはずがないことに思い至り菅野は謝罪の言葉を口にした。
「わたしだって反対したんだぞ。あと1日くらい作戦の発動は遅らせられるって」
「たいして変わんねぇじゃねぇか!」
てっきり数週間規模で遅らせらよう要請していたと思っていた菅野は思わず叫んだ。
「仕方ないだろ。グリゴーリがスオムスに向かって動いてきたんだから」
その言葉にまたもや怒号が響いた。
「聞いてないぞ!」
「そう言うことは先に言ってよ!」
予想外の反応に驚いたエイラは思わずラル少佐を見ていった。
「ラル少佐は知ってただろ?」
「知らん」
「てっきりどっかから情報仕入れていると思ったんだけどな。501がネウロイの巣を倒した方法も知ってたみたいだし」
エイラが話したわけではないから恐らくミーナ中佐あたりだろうと思っているが実際はわからない。
「最新の情報となるとなかなか手に入らないからな。少佐が教えてくれると助かるが…」
「残念だけど軍機に関わるものも多いから教えられるものはそう多くはないな」
とても残念とは思ってそうにない口調で言った。
「お二人とも世間話はいいですができれば作戦についてもう少し詳しく教えていただけますか?」
ポクルイーシキンがやや苛立たしげに言った。
「ごめん。えっとどこまで話したっけ」
「グリゴーリが動き始めたところまでです」
「ああ、そうだったな。今の速度だと一週間くらいで鉄道にたどり着く。厳密に言うと列車砲の射程に入るんだ。だからそれまでにまず502以外のウィッチでグリゴーリの周囲にいるネウロイをできる限り削る」
「削り切れるのか?」
「まぁ無理だろうな。残った敵は502の担当だ」
ラル少佐の疑問にそう答えた。
「イッルそんなの危なくてひかりを参加させられないよ」
「安心しろ。候補はそいつだけじゃない。入ってきていいぞ」
エイラの声に合わせて扉が開くと一人のウィッチが入ってきた。
「孝美!」
「お姉ちゃん!?よくなったんだ!」
「ひかり、どうしてあなたがここにいるの?」
駆け寄ったひかりに孝美は冷たく言った。
「え?」
「あなたの本来の任地はカウハバ基地だったはずよ。それがどうしてここにいるの?」
「そ、それは…」
「ひかり、ここはあなたがいていい場所ではないわ」
孝美のその言葉にひかりが反論しようとするのを遮ってエイラは言った。
「姉妹喧嘩はその辺にしてくれないか?」
「姉妹喧嘩ではありません。これは…」
反論する孝美を手を挙げて制すとエイラは言った。
「少なくともひかりに対して怒るのは筋違いだ。これはそこにいるさ、じゃなくてラル少佐が決めたことだ。怒るのなら少佐に対して怒るべきだろ」
「しかし」
「それになにも雁渕中尉を使うと決定したわけでもないぞ」
そう言ってラル少佐を見るとラル少佐は頷いて言った。
「作戦までに二人の実力と部隊との相性などを鑑みて最終的な判断は下す」
「ちなみにサーニャは一足先にわたしの指揮下に戻ることになるぞ」
「それなんだが少し遅らせることはできないのか?
リトヴャク中尉がいてくれるとグリゴーリ攻略も楽になるんだが」
一人追加される代わりに二人減らされては差し引きで一人マイナスになる。現場を預かる隊長としてはできれば避けたかった。
「ちょっとした任務もあるし無理かなぁ」
「ならひかりだけでも置いておくことはできないか?」
「ラル隊長!」
孝美が非難の声を上げた。
「少佐も知っての通りカウハバ基地との約束があるから無理だぞ。と言うかこの話はこの間の通信でもしただろ」
諦めの悪さに思わずため息が出た。
「少佐ならなんとかできるだろう。リトヴャク中尉は諦めるからひかりだけでも…」
「隊長!ひかりは」
「そもそもサーニャを正式にこの部隊の配属にした覚えはないぞ。
わたしは少佐と少佐が率いる部隊なら十分任務達成が可能な戦力だと思っていたんだけどそれはわたしの買い被りか?」
挑発するかのようにそう言ってやるとラル少佐の眉がピクリと動いた。
ラル少佐が口を開くよりも先に菅野が言った。
「やってやろうじゃねぇか!コイツなんかいなくてもグリゴーリぐらい倒してやる!」
「待て菅野、まだひかりがカウハバに行くと決めたわけではない」
「じゃあ一人カウハバに行かせるのは了承したと言うことでいいな」
カウハバ基地に対して一人人員を送ることを否定していない物言いに気付いたエイラは言った。
「…ああ、それでいい」
「それじゃあ話は以上だ。それと暫くはこっちにいるから一部屋貸してくれるか?」
エイラの問いかけに了承すると一言礼を言ってエイラはサーニャを連れて出て行った。
「…菅野」
大きなため息をつきながらラル少佐が呼びかけた。
「なんだよ」
「プライドが高いはいいことだがそれを出すところはもう少し考えろ。おかげで戦力を減らされた」
「けど隊長だってあんな言い方されたらムカつくだろ」
「それで戦力が増えるのならいくらでもそうする」
ラル少佐とて世界でも数少ない二百機越えの撃墜数を誇るスーパーエースだ。それ相応にプライドもある。しかし同時にウィッチの限界というものもよく理解していた。
例え実力においてやや劣っているといえど万が一孝美に何かあればひかりを使わざるを得ないため魔眼持ちの予備として手元に残しておきたいと考えていた。
「それで、どうやって決めるつもりですか?」
「模擬戦と、できれば実戦を一度挟めれば大体の実力はわかるだろう」
ポクルイーシキンな質問にそう答えた。
「作戦決行の前日までには決めるつもりだ。二人とも励めよ」
雁渕姉妹を両方とも502に置いとかなかった理由ってなんなんですかね。
やっぱり政治的な理由が大きいのか、それとも…