そこでふと自分がいつ頃ハーメルンに登録したかなって調べたら意外と昔でちょっとビックリしました。
「暇だなぁ」
「うん」
グリゴーリを破壊してから一ヶ月ほどが経過しグリゴーリ撃破に伴う作業が概ね終了したことによりペテルブルク軍集団に所属する二人は暇を持て余していた。
「そういやロマーニャのこと聞いたか?」
「いいえ。何かあったの?」
「詳しいことは分からないんだけどネウロイとの戦争に終止符を打つかも知れない作戦を実施したみたいだぞ」
「そうなんだ。けどかも知れないってどう言うこと?」
「さあ?結局失敗したみたいだから意味ないけどな」
余程特殊な作戦だったのかエイラの耳にはその作戦の詳細は届いていなかった。主力として第504統合戦闘航空団が用いられた事とその作戦により同部隊が壊滅的被害を被ったという事くらいしか知らなかった。
「おまけに作戦の対象だった巣が新しく出現したさらに大きな巣に飲み込まれて大変な事になってるみたいだしな」
「大丈夫なの?」
「現状はヴェネツィアが陥落したくらいだけどほっといたらそれだけじゃ済まないだろうな。
大口を叩いた南方方面軍の上層部が責任の所在でゴタゴタしてるみたいだから暫くは機能不全になるだろうしそれに加えて喪失した戦力の補充も必要だ。多分西方方面軍あたりから戦力を引き抜く事になるだろうな」
「北方方面軍からは引き抜かないの?グリゴーリを破壊したから多少余裕があると思うけど…」
「それはないな。元々アンナとヴァシリーに対応するための戦力しかウチにはないんだよ。グリゴーリは予備戦力と機動力の高いウィッチを一時的に集中運用して倒しただけだから戦力はあんまり増えてないんだよな。
多少カールスラントが援軍を送っていたけどグリゴーリ破壊とかの被害でトントンって感じで余裕が出きたわけじゃないな」
この理由からパリを解放した事によりやや戦力に余裕のある西方方面軍から戦力を抽出するのは自明の理と言えた。そのためエイラは自分に全く関係のない事だと思っていたが2名ほど暇を持て余しているウィッチがいる事を忘れていた。そしてそれを証明するかのように2人はマンネルヘイム元帥から呼び出された。
「今回来てもらったのは他でもないロマーニャの件だ」
「まさかとは思いますがウチから戦力を引き抜くつもりですか?」
「察しがいいな。その通りだ」
「しかしペテルブルク軍集団はおろか北方方面軍にさえそんな余裕は…」
マンネルヘイム元帥の言葉に驚き反論しようとするエイラを手を挙げて止めると言った。
「第501統合戦闘航空団がロマーニャにて再編される事になった」
「504に補充要員を送るだけでいいんじゃないですか?」
「ロマーニャの民衆は501部隊が再びネウロイの巣を撃破する事によりロマーニャを救うことを望んでいる」
「メンバーは誰ですか?」
坂本少佐などは魔法力が著しく低下しているため流石に参加できないだろうと思い尋ねた。
「現状除隊した宮藤芳佳以外の全員が参加する事が決定している。もちろん中佐と中尉も参加する事になっている。全員ブリタニアの時と役職の変更はない」
その返答に思わずエイラは眉を顰めたが他に気になる点があったためその事を尋ねた。
「ブリタニアの時と違ってわたしは中佐になっていますが指揮系統に悪影響を与えないでしょうか?」
「たしかに隊長のヴィルケ中佐とは同じ階級だが特に問題はないだろう。今回中佐は501部隊の副司令官に就くとともに南方方面軍の軍事顧問となる事になっている」
「軍事顧問ですか?」
現在501部隊と同格の502部隊に対して命令できる立場にあり副司令官になるのは実質的に降格とほぼ同義と言ってよかった。そのため他に何かしらの役割が与えられるというのが自然ではあるが、マンネルヘイム元帥の答えはやや意表をついたものだった。
「そうだ。ロマーニャは中佐に直接作戦立案に関わって欲しくないらしい。軍事顧問は方面軍司令部に籍をおきつつも実質的な権力はない。あくまで助言という形にでしか方面軍に意見することはできない」
「わたしはそれでも構いませんがよろしいのですか?
ブリタニアなどの大国ならともかく我が国より多少国力が大きいからと言ってあまり大きい顔をさせる必要はないのではありませんか?」
大戦前ならば明確に格上と呼べたロマーニャも長きにわたる戦争とスオムスの経済発展により経済力においては殆ど同格、軍事においても空軍ならばスオムスが勝てる程度にはその差が詰まっていた。
「構わん。今回の件はロマーニャに恩を売ることと中佐、君に対する懲罰的な意味合いが大きい」
「…懲罰ですか?」
「一ヶ月前の失敗の件だ。表向きは何もなかったが、知っているものからすると何かしらの処罰を与えんわけにもいかん。同盟国からの信用にも関わるからな」
流石にエイラの武勲ではこれ以上昇進を遅らせるのも難しく今回のロマーニャからの打診は渡りに船だった。
「それと今回のロマーニャへの派遣だが途中ブリタニアによってくれ。ガリア解放とグリゴーリの破壊の立役者に是非とも会いたいという人間が沢山いるそうだ」
「本気ですか?」
マンネルヘイム元帥の言葉にエイラは頬を引き攣らせて尋ねた。
「我々にはやましい事はなにもない。なぜ断る必要があるのかな?」
「ご存知の通りあの国でわたしは足を吹き飛ばされましたからね、躊躇もしますよ」
「ならば何も問題はないな。実行犯はリベリアンの人間だったのだ、ブリタニアに苦手意識を持つ必要はあるまい」
命令である以上行きはするができる事ならば回避したいエイラは反論を考えたが特に名案も浮かばず渋々その命令を受領した。
「では早速準備に取り掛かってくれ。明日出発のブリタニアに行きの飛行機を手配している」
「明日ですか?」
「何か問題があるかね?」
「…いえありません」
この程度のことならもっと早く知らせられただろ、と思わず言いたくなったが相手はスオムス軍のトップ。流石に言うわけにもいかずその言葉を飲み込んだ。
「話は以上だ。準備もあるだろう、今日はもう帰って構わん」
「ありがとうございます」
そう言ってエイラは部屋を退室した。
しばらく廊下を歩いて誰もいないことを確認するとエイラは大きくため息を吐いた。
「急すぎるだろぉ」
「きっとグリゴーリのことで忙しかったのよ。仕方ないわ」
そう言ってサーニャがエイラを宥めるがエイラは知っていた。グリゴーリ破壊の処理で最も忙しかったのはペテルブルク軍集団で北方方面軍そのものはさほど忙しいわけではなかったことを。
もちろんペテルブルク軍集団からの書類の決済などは増えただろうがマンシュタイン元帥が優秀だったためその負担も最小限だった事は想像に難くなかった。
「はぁ、過ぎた事に文句を言っても仕方ないか。荷造りに時間はかかりそうか?」
「あんまり時間はかからないと思う。エイラはどう?」
エイラはともかくサーニャはそれほど私物は多くない。あっても猫の置き物などそれほど場所をとらないものばかりだ。
むしろものはエイラの方が多い。軍事関係の本から占い関係の本や物などとにかく物が多い。借りている家が軍のものではないため最悪の場合借りるのを延長すればいいが整理して引き払うに越した事はなかった。
「契約延長するかぁ」
少し考えた後にエイラは言った。十分な給料をもらっていてお金にも余裕がありわざわざ今日中と言う短い時間で片付ける必要がエイラには見つけられなかった。
前にも書いたと思いますけどロマーニャについて改めて。
現実のイタリアって工業地帯が北部に集中しているんですけどロマーニャってヴェネツィア公国とイタリアを二分している関係でイタリアの4割から6割程度まで工業力が落ちていると思うんですよね。
もちろんその分人口も少ないため軍事力も低くなりとてもじゃないけど大国とは呼べません。
そのため本作ではスオムスより少し強い、ないしは同等程度という設定でいかせてもらいます。