ジェットストライカーが届いた日の夜、サーニャと共に目を覚ましたエイラはミーナ中佐から業務を引き継いだ後、ジェットストライカーについて詳しいことを知るためにミーナ中佐と一緒にハンガーにきていた。
「バルクホルンはジェットストライカーについて何か欠点があるとか言ってたか?」
「本人はレシプロストライカーと比べて性能が大きく優っていることしか言ってないわ。
けどジェットを履いた後のトゥルーデはレシプロを履いた後と比べて随分と疲れているように見えたわ。これは他の人達も同じ意見よ」
ジェットストライカーを履いた後のバルクホルンはレシプロストライカーを履いた時と比べると明らかに疲労の色が強く501部隊の中でも体力の多いバルクホルンのその姿にミーナ中佐は驚いていた。
「初めはルッキーニが履いたって聞いたけどどうしてそのまま履かせなかったんだ?」
ルッキーニはストライカーユニットを飛ばす才能は501部隊でもトップクラスと言ってよいほどに高い。レシプロストライカーと多少の違いはあるとはいえルッキーニならばジェットストライカーでも問題なく飛ばす事ができるだろうとエイラは考えていた。
「本人が嫌がったのよ」
「嫌がった?」
ルッキーニの性格的には真っ先に履こうとするだろうと思っていたエイラはその言葉に驚いた様子を見せた。
「ええ。真っ先に履いたまではいいのだけどエンジンが回転し始めると急にストライカーを脱いで履くのを嫌がり始めたのよ。何かに怯えているみたいだったけど…」
怯える、というのはルッキーニにしては妙な話だった。好奇心旺盛で勇敢なルッキーニは、多少怖い思いをした程度では一番初めにジェットストライカーを履くという経験ができる機会を手放すとは考えにくく何か原因があるとエイラは考えた。
「一回わたしも履いてみようかな」
見ていても簡単にわかるものではないと考えエイラは一度履いて見ることにした。
「最低限、必要な試験は終わっているから他の人の履いた感想も欲しいしいいんじゃないかしら」
ミーナ中佐の同意もあり一度エイラもジェットストライカーを体験していることにした。
ジェットストライカーに足を通すといつも使うレシプロストライカーのように魔法力を込めてエンジンを始動した。
「すごいパワーだな」
エンジンを始動したエイラは思わずそう呟いた。
「そうでしょう。これがあればこれからのネウロイとの戦いは大きく変わる事は間違いないわ」
「そうかもしれないな」
たしかにジェットストライカーのパワーは凄まじい。しかし同時にエイラは違和感を感じていた。
「…ルッキーニじゃないけどわたしもこれはあまり履きたくないなぁ」
「あら、どうして?」
「なんか変なんだよなぁ」
レシプロストライカーと比べると何かが決定的に違う。しかしそれをエイラはうまく言語化する事ができずただ漠然と何か違和感があるとしかいえなかった。
「ジェットストライカーだからじゃないの?」
もちろんミーナ中佐の言う通りそれが原因の可能性もある。だからエイラもこの違和感の原因を急いで特定する気にはならなかった。
「…まぁ、この感覚は一旦置いておいてもこれの魔法力の消費量は少し気になるな」
「レシプロストライカーと大きな変わりはないという話だけど…」
「だとしたらこれほどのパワーをどこから作り出してるんだ?
燃料もあまり大きな違いはないって話だしあまりにも不自然すぎないか?」
「技術的な事は私も分からないけど、それを含めて問題が解決したからこそ私達にテストを任しているんじゃないかしら?」
たしかにミーナ中佐の言う通り燃費などは事前にテストしているだろうし心配する事でもないかと納得したエイラは微かな違和感を抱きながらもそれ以上ジェットストライカーについて言及する事はなかった。
それがエイラが見た最後のジェットストライカーの姿だった。
翌日、エイラが目を覚ました時にはジェットストライカーは変わり果てた姿となっていた。
「寝ている間に一体何があったんだ?」
「ばらばら…」
そこには外版の殆どが剥げ、フレームのひしゃげた無残な姿のジェットストライカーがあった。エイラと一緒に起きてきたサーニャも不思議そうな顔をしている。
「全く、人騒がせなストライカーでしたわ」
「ええ、それと使う人間もね」
そう言うミーナ中佐の視線の先には命令違反の罰としてジャガイモの皮剥きをしているバルクホルンの姿があった。
「おかげでネウロイを倒せたんだ、少しは多めに見てくれよ」
「規則は規則です!」
「しかし、バルクホルンが命令違反なんて初めてじゃないか?」
「そうね。けどこんなことならルッキーニさんとエイラさんの感覚を信じておくんだったわね」
ミーナ中佐が後悔の言葉を口にした。
「ルッキーニにしろエイラにしろ本人達に特に根拠があったわけでもないんだからな。仕方ないさ」
「みなさん、どうもお騒がせしました」
そう言ってハルトマンが頭を下げた。
「どうしてお前が謝るんだ?」
「お前のせいじゃないだろ?」
坂本少佐とシャーリーはハルトマンらしくない行動に不思議そうな顔でそう言った。
「あ、いえ私は」
「皆さんお腹空いてませんか?」
「お芋がいっぱい届いていたんで色々作っちゃいましたよ」
何か言おうとしたハルトマンを料理を乗せたワゴンを押すリーネと宮藤の声が遮った。
「ハルトマンさんもどうぞ」
そう言うと宮藤は手に持っていたフライドポテトをハルトマンに差し出した。
「あ、ありがとうございます」
「あれ?メガネなんかしてましたか?」
いつもと違いなぜかメガネを掛けているハルトマンに不思議そうに尋ねた。
「はい、ずっと」
「わぁ、美味しそう!」
そう言って後ろから来たハルトマンが宮藤の背中にもたれ掛かった。
「あ、こっちのハルトマンさんもどうぞ」
そう言ってもう一人のハルトマンにもフライドポテトを差し出した。
「えっ?」
二人のハルトマンに宮藤は驚いて目を丸くした。
同時に他のメンバーもそれに気が付きミーナ中佐以外が驚いた様な表情を浮かべた。
「お久しぶりです、姉さま」
「あれ、ウルスラ?」
「姉さま!?」
カールスラントのミーナ中佐とバルクホルン以外が驚いた様子でそう言った。
「こちらはウルスラ・ハルトマン中尉。エーリカ・ハルトマン中尉の双子の妹よ」
「妹!?」
ミーナ中佐の紹介にバルクホルン以外が驚いてそう言った。
「彼女はジェットストライカーの開発スタッフの一人なの」
「へー」
彼女達の専門はストライカーユニットを飛ばすことであるため開発スタッフと言われてもその凄さがイマイチ理解できずそう言うしかなかった。
「バルクホルン大尉、この度はご迷惑をかけて申し訳ありませんでした」
ウルスラがバルクホルンに近づくとそう言った。
「どうやらジェットストライカーには魔法力の供給に致命的な欠陥があったみたいです」
「いや、試作機にトラブルはつきものだ。それより、壊して悪かったな」
「いえ、大尉が無事で何よりでした。
この子は本国に持って帰ります」
「そのためにわざわざ来たのか?」
シャーリーが尋ねた。
「ええ。代わりと言っては何ですがお騒がせしたお詫びにジャガイモを置いていきます」
「ま、またこんなに…」
その多さにペリーヌが顔をこわばらせた。
※
「あー!!」
エイラが叫び声を上げたのは、ウルスラが帰還して数時間が経った後のことだった。
「しまった。どこかで聞いた事があると思ったらウルスラ・ハルトマンって義勇独立中隊の隊員じゃないか…」
まさかハルトマンの妹だったとは思わず、スオムスが一番大変な時期に来た恩人の一人に挨拶をし損ねたことに気付いた思わずエイラは机に突っ伏した。
ふと思ったんですけどストライカーユニットのパワーが上がるのって魔法力が多く消費されることと殆ど同義である以上ジェットストライカーってそんなにウィッチの装備としては適していないのではないかと思いました。