その日エイラは南方方面軍司令部があるロマーニャの首都、ローマに来ていた。
「今後は今回のジェットストライカーのような試作機や正式配備前の装備を501にまわすのは辞めて下さい。迷惑です」
挨拶もそこそこにエイラはそう言った。
「だがジェットストライカーのお陰でネウロイを倒せたそうじゃないか」
南方方面軍司令官にしてロマーニャ陸軍元帥、エルヴィーノ・バスティコが言った。
「ジェットストライカーがなくても基地には十分な予備兵力がありました」
予備兵力が間に合ったかどうかは多少疑問の余地はあるが、ウィッチを上げられなくても最悪の場合はリーネが地上から狙撃すれば事足りることだった。
「結局のところ、ジェットストライカーを寄越した理由なんて各国に対してジェットストライカーを売り込むため以上の意味なんてなかったんでしょう。
ロマーニャが何を交換条件にそれを許可したのかは知りませんがせめて自国の中に留めておいてくれませんか」
「それが目的というのが分かっているのなら501がもっとも適していると言うことも理解しているだろう」
各国からエースウィッチが集まる501部隊は注目度も高く、また所属ウィッチも国際色豊かでありウィッチ経由でも各国に宣伝できると言うメリットがあった。
「あくまでも501部隊含む統合戦闘航空団は各国の善意のもと成り立っています。足並みを乱す可能性のある行為は控えてほしいです」
統合戦闘航空団という性質上配置されている国の扱い方によっては各国が統合戦闘航空団の解体を考えることさえあり得た。
「それはこの話を持ちかけたカールスラントに言うべきだな」
「それを許可したのはロマーニャでしょう」
たしかに持ちかけたのはカールスラントかもしれないが最終的に受けるかどうかは南方方面軍、つまりロマーニャが決めることでありカールスラントが決めることではなかった。
「我が国の外交方針にまで口を出す権利が君にはあるのかね?」
「わたしはロマーニャの外交方針ではなく501部隊を招集した国としての最低限の義務を果たしてもらいたいと言っているんです」
エイラの言葉にバスティコ元帥は面倒臭そうな顔をすると徐に口を開いた。
「我が国は様々な国からラブコールが来ていてね」
「はい?」
「スオムスなどとは違って世界各国から頼りにされているのだよ。ならばその気持ちに多少は報いなければならないと思わないかね?」
軍の内情に詳しくない人間ならば言葉通りに受け取っただろうがエイラはそうではなかった。
「ようするに統合戦闘航空団を二つも持っているのだから多少は役に立てって事でしょう。全く羨ましくないですね」
エイラは鼻で笑うとそう言った。
現状二つもの統合戦闘航空団を指揮下に収めている国はいない。そもそも統合戦闘航空団自体がネウロイに対する攻勢のための部隊であり防衛をするための部隊ではない。後々のカールスラント奪還の際にアルプス方面から侵攻することを考え504部隊を創設したがアルプス山脈のせいでこの方面にはそこまで大きな期待はされておらず、今回の501の招集は連合国にとっては不本意な出来事だった。
「ヴェネツィアなんぞにネウロイの巣が現れなければこんな状況になりはしなかった」
「ああ、それはスオムスには理解できない事情ですね。
我が国は三つの巣から攻撃を受けても防衛した上でオラーシャ領を取り返していますから」
奪還にはカールスラントとオラーシャの力を借りているがヴェネツィアと力を合わせても守り切る事ができていないロマーニャと比べればどちらがマシかは考えるまでもなかった。
「北アフリカにも兵力を配置している我々とスオムスを同じに扱われても困るな」
苦々しげな表情で言った。
「身の丈に合わないことするからこんな事態になるんですよ」
元々ブリタニアなどの列強国と比べると軍事力が劣っていたロマーニャが北アフリカに海外領土を獲得した事がロマーニャの現状を招いていた。
もともと少ない軍事力をさらに分ける事になり本来ならアルプス山脈により余裕を持って防衛をできるはずが北アフリカにも兵を送らなければならなくなりロマーニャは自国の防衛を他国に頼らざるを得なくなっていた。
元々征服者と非征服者という関係から植民地の統治のために人手を割く必要があり、また言語の壁から現地人を戦力化する事も難しかった。
「スオムスにはわからないだろうが他の列強国との植民地獲得競争で乗り遅れる訳にはいがなかったのだ」
「…ロマーニャが列強と呼ばれているとは初めて知りました」
たしかに開戦時の陸軍兵数はガリア陸軍の常備軍よりやや少ないくらいの数を保有していたが軍事費はその半分以下でありGDPはガリアの6割程度だった。
「開戦当初の話だからな。10歳そこらの中佐が知らないのも無理はない」
列強というのがまるっきり嘘というわけでもないが全てが真実というわけでもなかった。世界的にも高い海軍力を持つヴェネツィア公国との強固な同盟関係を考えるとロマーニャとヴェネツィアのニ国で列強に匹敵するほどの力があり当時は一目置かれていた。
「それがたった数年でスオムス以下とは随分と落ちぶれたものですね」
「国力的にはまだ我が国の方が上だ」
オブラートに包むことなく放たれる言葉にバスティコ元帥はタジタジになりながら言った。
「いずれ抜きますけどね」
実際問題やってくるネウロイを迎撃するだけのロマーニャと侵攻していくスオムスでは各国からの重要度は大きく異なる。
特にカールスラントやオラーシャなどはスオムスの働きが自国領の奪還に直接影響があることからスオムス国内のインフラ整備などの為に多くの援助をしていた。
「所詮スオムスなどこの戦争の間しか興味を持たれない弱小国家だろう」
「そのスオムスと同程度まで落ちぶれた国が、果たして大戦後も前と同じような関係を維持してもらえるのでしょうかね」
ヴェネツィア陥落によりロマーニャヴェネツィア同盟の国力は大幅に落ちた。戦後復興にはロマーニャが協力することになるだろうが少なからずロマーニャも被害があり、他国からの支援が必要になることは疑いようがなかった。
「ヴェネツィアの巣を破壊すればそうなるだろう」
「単独でできればそうでしょうね」
カールスラントのような強力な列車砲があるのならばロマーニャとヴェネツィアだけでもなんとかなるが現在南方方面軍が立てている作戦ではその火力は他国から借りることになっていた。
「巣の破壊は他の国の力を借りるがそれ以外は我が国とヴェネツィアだけでやる」
「501が参戦した時点でいくらロマーニャが頑張ろうと501のおかげで撃破できたという印象は拭えないと思いますよ」
かと言って501を主力から外すという選択は召集した手前できるはずもなくロマーニャの国力低下を世界に晒すこととなるのは避けようがなかった。
「そこまで言うんだ中佐、この後の会議では軍事顧問として何かいい考えを提案してもらいたいものだな」
「ありませんよそんなもの。今までの戦訓からネウロイの巣は大火力で破壊するしかありません。花形の護衛と露払いを501以外に任せれればロマーニャとヴェネツィアで破壊したといえるかもしれませんがわざわざ召集した501をそんなことに使う事を各国が許すわけがありません。
初めからヴェネツィアとロマーニャだけでやるべきでしたね」
エイラの言うことなどバスティコ元帥は承知していた。
ヴェネツィアのネウロイの巣が巨大化した事により504部隊含む多くのウィッチに被害が出た事により他国に援助を頼まざるを得なくなりその結果召集されたのが501部隊だった。ロマーニャが積極的に望んだわけではなかったが各国がガリア戦線に注力したいと考え戦力を出し渋った為少数だが精鋭の揃った501部隊の召集という形となった。
もっとも、それも北アフリカに植民地がなければその分予備兵力が増えヴェネツィアの巣にも対応できた可能性が高くエイラの言う通り身の丈に合わない事をしたのが原因と言えなくもなかった。
史実イタリア海軍がヴェネツィア海軍となっているので強固な同盟とかありそうだなって思ってロマーニャヴェネツィア同盟を組ませました。