1940年10月大学を無事卒業し中尉に昇進したエイラは24戦隊第一中隊中隊長に就任する辞令を受け、第一中隊が駐屯するベルツィレ基地の執務室で隊長のルーッカネンから業務の引き継ぎをしていた。
「しかしまさかイッルが私の後任になるとは思わなかったな」
「わたしもまさか小隊長を飛ばしていきなり中隊長になるとは思っていなかったから驚きました」
「ここ半年ほどの戦闘で中隊長をできる中堅ウィッチの多くが前線からいなくなったからな。そのせいで24戦隊も小隊長の殆どが今年の春以降に任官した奴らが勤めている」
「24戦隊は比較的優遇されていると聞いてたんですけど違うんですか?」
「優遇されているさ。隊によっては小隊長がいない隊も出始めているがうちは定数揃っているからな」
そんな話していると執務室の扉がノックされ3人のウィッチが入ってきた。
「紹介しよう。第一中隊の小隊長と私の僚機だ」
「ハンナ・ヘルッタ・ウィンド少尉です。第二小隊小隊長を務めています」
「ラウラ・ニッシネン少尉。第三小隊小隊長」
「えっとニッカ・エドワーディン・カタイヤネン軍曹です。ルーッカネン隊長の僚機をしています」
「今日からルーッカネン隊長に代わって中隊長になるエイラ・イルマタル・ユーティライネン。階級は中尉。よろしく」
「カタイヤネン軍曹は今日から私ではなくユーティライネン中尉の僚機として行動してもらうことになる」
「了解」
引き継ぎに必要な事を全て伝え終えたルーッカネンが一度退室すると交流を深めるためにティータイムをすることになった。
「ユーフィ!?」
エイラの名前を呼ぼうとしたカタイヤネンが舌を噛み口から血が流れ始めた。
「カタイヤネン軍曹!?」
エイラが慌てて立ち上がり傷の具合を確かめようとすると
「あ、そのままで大丈夫ですよ」
ウィンドがそう言った。
「こんなに出血していてどこが大丈夫なんだ!」
「ニパは自己回復の固有魔法を持っているんです。このぐらいの傷ならすぐに治りますよ」
「自己回復?」
「はい、だから大抵の怪我はすぐに治るんです」
ウィンドがそう言いエイラを安心させるためカタイヤネンに舌を見せるように促した。
「すごいな、もう血が止まってる」
「そういえばニパはユーティライネン隊長に何か聞こうとしてなかったかい?」
ウィンドにそう言われたカタイヤネンが話そうとするのを遮ってエイラが言った。
「カタイヤネン軍曹、また舌を噛まれても困るからわたしの事は呼び易い名前で呼んでくれて構わない。ちなみにルーッカネン隊長とかはイッルって呼んでる」
「じゃあわたしもイッルて呼びます」
「上官に対してあだ名で呼ぶのは流石にどうかと思います」
ニッシネンがそれに対して異議を唱えた。
「普通の隊なら問題だけどわたし達はウィッチだから特に問題はないぞ」
「しかし」
「いいじゃんラプラ。イッルもこう言ってるんだし」
回復するとはいえ噛むと痛いことには変わりはないためその心配がなくなるエイラの提案をカタイヤネンはあっさり受け入れた。
「イッルもわたしの事はニパでいいよ!」
「わかった。それで何が聞きたかったんだ?」
「わたしいろんな隊に知り合いがいるんだけどイッルのこと知ってる人がルーッカネン隊長以外誰もいなかったからここに来る前はどこにいたんだ?」
「半年くらいヘルシンキにいてその前は24戦隊第二中隊にいた」
「半年前ってたしかネウロイの大規模侵攻があったからだよね。怪我でもしてたの?」
「怪我はしてない」
心配そうに聞いてくるニパにそう伝えると安心した顔を浮かべた。
「けど暫くユニットも履いてないからちょっと腕が鈍ってるかも知れないな」
「大丈夫なの?」
「よし、勘を取り戻すためにこの4人で模擬空戦をしよう」
エイラがそういうとニッシネンが訓練用の武器とペイント弾が無いことを告げる。しかしそんな事はエイラも知っているため実弾を使うことを提案した。
「わたし対3人で対戦して3人が実弾を使ってわたしにシールドを使わせたらわたしの負け。逆にわたしが全部避け切ったらわたしの勝ち」
「いくらなんでも危険すぎます」
ウィンドがエイラの提案に反対し他の2人もそれに続いた。
「いくらシールドがあるとは言え当たったら怪我じゃすまない可能性もある上にそんな事に使う弾はありません」
「いくらなんでも3人から狙われて全く当たらないなんて事はないと思うけど」
「当たらないから全然危なくないし、丁度わたしの着任に合わして司令部で手配しといた補給もあるからたまにも余剰はあるって」
話が平行線になりそうだったその時、戻ってきたルーッカネンがエイラ達の話を聞いていった。
「3人が流れ弾にさえ気を付ければ特に危険もないしいいじゃないか」
そうエイラの意見に賛成するとそしてどうせならと今手の空いている隊員を集め模擬空戦を見学させることにした。
3人が作戦会議をしている間、先にエイラは離陸しユニットの調子を確かめるために曲芸飛行を始めた。
「調子は良さそうだな」
インカムを通してルーッカネンがそう言った。
「はい、これなら3人相手でも特に問題ないですね」
「そうか。こっちの準備も終わったからそろそろ始めるぞ」
そう告げられてエイラは少し高度を上げ離陸してきた3人の正面に立った。
暫くしてインカムからルーッカネンの「開始」という声が流れた。それと同時にウィンドがL39対戦車ライフルを発砲しニッシネンはエイラの背後に、ニパはエイラの上を取るために上昇を始めた。
一方のエイラはウィンドの狙撃をその場から大きく動く事なく横に180度傾ける事によりかわすと続いて飛んできた頭上からのスオミKP/31による射撃を約1メートル前進することによりかわし、さらには後方からのニッシネンの同じくスオミKP/31による射撃を後ろを振り返る事なく少し上昇することによりかわした。
「後ろに目でもついてるのか」
思わずニッシネンが呟いた。
「どうしたー、もう終わりか?」
そうエイラに言われ今度はニッシネンは確実に当たる距離まで近づこうとするが流石にそれは当たると考えたエイラは逃走を開始した。
「待て!」
思わずニッシネンが叫ぶ。
「待つわけないだろー」
エイラがそう答えると未来予知がウィンドからの狙撃を感知しそれを回避するために上昇した。
すると今度はニパからの射撃が来ることを感知するがこれもいとも簡単にかわして見せた。
「今のも避けれるんだ」
思わず感心したようにウィンドが言った。
結局この後もエイラは一度もシールドを使う事なく全ての弾を避けきり模擬空戦はエイラの勝利で終わった。
「腕はまったく鈍ってなさそうだな。これなら安心してこの隊も任せられる」
地上に戻ってくるとルーッカネンはそう言ってエイラを褒めた。
「ありがとうございます。あの3人も思っていたよりも上手くて驚きました。特にウィンド少尉のあの狙撃の正確さには驚きました」
「そうだろう。ハッセの狙撃能力の高さは今のスオムスではトップクラスだ」
そう話しているところに悔しそうな顔をした3人が近づいてきた。
「完敗です。まさか本当に全て避けられるとは思いませんでした」
悔しそうな顔をしながらもウィンドがそう言った。
「わたしは未来予知の固有魔法を持ってるからな。当たらなくても仕方ないさ」
「なにそれずるい」
それを聞いたニパが思わずそう言った。
「ずるくはないだろ。3対1なんだから」
エイラがそう言い返した。
「イッル、ダイヤマークが変じゃないか?」
ルーッカネンにそう言われダイヤマークを見るとダイヤマークの塗装の一部が剥がれていた。
「なんだこれ、飛ぶ前は確かにちゃんと塗られてたはずなんだけどな」
「もしかして弾が掠ったんじゃないのか?」
「大きさ的に丁度ハッセのL39対戦車ライフルの20ミリ弾くらいの大きさの傷だね」
エイラのユニットの傷を覗き込んだニパが言った。
「言われてみれば確かにそれくらいだな。一本取られたなイッル」
ルーッカネンがからかうように言った。
「別にこの勝負はシールド貼ったら負けってルールーだから掠ったくらいどうって事ないです」
少し悔しそうにエイラはそう言った。
「イッルがシールド張り損ねただけじゃん」
ニパがそう反論した。
「シールド張ってないから勝ちだろ」
「引き分けってところじゃないか?シールドを張ってなくてもこれじゃ当たったようなものだろう」
ルーッカネンがそう提案しすると渋々ながらもエイラが同意し戦闘結果は引き分けとなった。なお、これはエイラにとって初の被弾であり3人の評価がエイラの心の中では大きく上方修正された。
今回はロマーニャについて
ロマーニャは現実のイタリアがモデルですが、ヴェネツィアにより国力が半分から3分の2程度に落ちています。その事からストライクウィッチーズの世界では所謂七大国に当たらないのではないか、という疑惑が個人的に湧いています。ただロマーニャについて考察しようにも501メンバーが関係してる国で一二を争うくらい情報が少ないのでまともな考察ができません。紅の魔女でもあまり情報がないし今後の展開に期待ですね。