不気味な教示者再録記念杯 黒単VSジェスカイ
「お行儀よくアップキープ宣言しなくても進行してくれるからアリーナは神ゲーですわ。わたくし、紙しばきにショップ行ってくっせえオタクに宣言指摘されたのが一生の不覚ですの。おファックですわ、シーブリーズ1ガロン飲み干してから外出してくださるかしら」
「あはは、ドリルちゃん今日もキレッキレだね!」
画面に向かって上品に暴言を吐き捨てるツインテールドリルの彼女は、別に正気を失ったわけではない。まだ《正気泥棒》*1にキーカードを盗まれて捲られたわけではないのだ。
フィールディング家の令嬢、次期社長としての期待を寄せられているザラ・イーディス・フィールディングにとって、ドリルちゃんのハンドルネームに身を隠し、罵声と奇声を喚き散らしながらMTGをプレイする時間は貴重な幸福であり、生の実感であった。そんな深い意味はない。ただのカードゲーマーである。
「あ、そうそう、創案*2とテフェリー*3のスタン禁止おめでとうございます。ざまあみそらしどですわ」
「そっちも《大釜の使い魔》*4いなくなったよね」
「糞わよ……コンボの中核パーツ禁止とかいかれてますわ」
「それだけ猫かまど*5が強すぎたんだよ!」
「それなら最初から刷らなければよろしいのでは? スタンダードで禁止が10枚ってなんですの? マローもとうとう頭が……いや、元からでしたわね」
煽りあいながらもお互いにランク戦でデイリーミッションを片付け、フレンド戦の準備をする。
MTGAプレイヤーにとってミッションをこなしてもらえるコインは生命線だ。ローテーションでキーカードが落ちていくたびにデッキを組み替えねばらならない以上、パックを購入する資産は多ければ多いほどいい。
「次のローテ落ちでだいぶ環境が変わりそうですわね。スゥルタイ*6ジャンク*7はシルバーバレット*8増えるんじゃなくて? 増えないと許しませんわよ」
「あれ、黒と緑入ってるから好きなんじゃないの?」
「ウーロ*9とニッサ*10がいる時点で触る気にもなりませんわ。IQの低いムーブをするデッキはわたくしに相応しくなくてよ」
「黒単信心はIQが高かった……?」
「糞ァ、正論で人を殴らないでくださる? 接死*11でもお持ちなのかしら?」
ドリルはそれなりに年季の入った黒使いだ。紙のカードを触る機会は減ったが、それでも初めて購入したパックで出会った死霊術師の超高齢お姉さん、そして公式ストーリーのひとつでラスボスを務めた王様の墳墓は大事に保管してある。
「モノポリーネキは相変わらずトリコロール*12ですの? 短気の赤と傲慢の白と根暗の青、ドブゲロな3色ですわよ*13」
「外でジェスカイ*14のことトリコロールって言うと年がばれるよ、ドリルちゃん。……よし、調整終わった。対戦押しとくね」
「ふっ、もう私は押し済み……祝福されし完成を見よ!*15」
対戦開始の画面がモニターに映し出される。対戦相手はモノポリー、やはり年季の入った青白赤使いだ。
ドリルの経験上、青白赤はバランスに優れている。青で相手の動きを制限しながら優位に立ち、赤で緊急時に対応して押し勝ち、白で状況を維持し続ける。
しかしその分、3色のマナをひねり出すために土地で苦労するし、その苦労を解消するためにカードを追加すれば今度は動きが悪くなる。
「対よろですわ。キープ*16」
「対よろー! キープだね!」
「マリしたあと占術*17できるようになったの、面白いですわよね。まあわたくしはマリしないので関係ありませんが。さて、あなたの先攻でしてよ」
ドリルの手札は《ヤロクの沼潜み》*18、《残忍な騎士》*19、《悲哀の徘徊者》*20、《悪夢の番人》*21、《アスフォデルの灰色商人》*22、そして《沼》*23が2枚だ。初動、除去、サクリ台、ギミック、フィニッシャー。勝利の予感にドリルの鼻息が荒くなる。
1ターン目先手、モノポリーは《ラウグリンのトライオーム》*24を置く。
「ひっ……初動で多色土地置くのは条約違反でしてよ!」
「え、何の条約?」
「ABC兵器禁止条約! アゾリウス評議会*25のA、ジェイス・ベレレン*26のB、真鍮の都*27のC、義務教育で教わりませんでしたの?」
「トレイリアのアカデミー*28でも教えないよそんなの」
後手、ドリルがドローしたのは2枚目の《残忍な騎士》。《沼》を置いてターンエンド。
2ターン目先手、モノポリーは《ギルド門通りの公有地》*29を置く。土地詰まりによるマナスクリュー*30を期待していたドリルにとっては都合の悪い動きだ。
「公有地を? 公有地を使える? つまり、競売に参加すればプレイされた公有地を買い取れる? ちょっとその土地売ってくださらない?」
「利用価値があるので売り払いませーん」
後手、ドリルがドローしたのは《沼》。2枚目の《沼》を置き、《ヤロクの沼潜み》を唱える。
「うわあ、そのカードやだなあ」
「土地はフルタップ、今から唱えようにもマナは出ない。絶対にハンドを削りますわ……さあ、全部追放なさい、全部!」
「いや、1枚追放するカードだからねそれ。しょうがないなあ。《島》を追放」
「最強のカードですわよそれ、追放してよろしいの?*31 これは勝ち確では? いまから全裸でおどるポンポコリンしてきますわ!」
「撮影してね、あとで鑑賞会するから!」
モノポリーが《島》を追放してドリルのターンは終了。
3ターン目先手、モノポリーは2枚目の《ラウグリンのトライオーム》を置く。マナスクリューの線はまずなくなった。ドリルは舌打ちしたが、これくらいではもうリアクションもないのが二人の関係である。
後手、ドリルのドローは《沼》。3枚目の《沼》を置き、《悲哀の徘徊者》を唱える。入場で白のヤギ・クリーチャー・トークンが1体出現。
「ヤギの鳴き声は可愛いよね」
「効果も可愛くてよ?」
「なにが?」
「なんで?」
《ヤロクの沼潜み》で攻撃し、モノポリーのライフは19点に。ターン終了。
「んー、盤面ちょっときつくなってきたかな」
「面制圧は戦の基本、哲学者プラトンの言葉でしてよ?」
「嘘しかないじゃん」
「確かに。訂正しますわ。プラトンは哲学者ではなくレスラーでした」
「そうなの?」
「これは本当ですの」
「なるほど。いいこと教えてもらったからいいもの見せてあげる!」
4ターン目先手、モノポリーは3マナで《轟音のクラリオン》*32を唱える。事実上の全体除去だ。
「アギャア! 恥ずかしくありませんの、そんな大人げないカードぶっぱして!」
「音響兵器だからいいと思うんだけどなー、非殺傷だし」
「おめめないないしちゃいましたの? 殺傷してますわよ? ヤギ、さっきあなたが可愛いっておっしゃったヤギが消し飛びますわよ?」
ドリルはキレ散らかしながらも《悲哀の徘徊者》の効果を発動。ヤギを生贄に捧げて自分のライブラリーの一番上を確認する。
トップは《悪夢の番人》だった。常なら喜んでいるところだが、すでに手札の中にいる。クリーチャーの死亡時に死亡したクリーチャーを追放してコピーを作るという能力の構造上、2枚以上並べても意味は薄い。
「チェンジですわ、ノーセンキューですわ!」
「わあ、デリヘル呼んだら元カノが来たみたいなリアクション」
「あれカラオケでよく歌いますわよ。次!」
《悪夢の番人》をライブラリーの一番下へ。そしてもう一度《悲哀の徘徊者》の効果を発動。《ヤロクの沼潜み》を生贄に捧げてトップを確認する。トップは《悪夢の番人》だ。
「はあ? なんですのこのカードは、わたくしのことを慕って慕ってやまない糞メンヘラヤンデレサイコパスですわね? 六条御息所にカード名を変えるよう要望を出そうかしら!」
「光源氏ってカラーパイ的には何色だと思う?」
「それはもう、黒でしょう」
「ほほう、その心は!」
「インキュバスって《夢魔》*33でしょう?」
「うまい。座布団あげる」
「ありがたく受け取りますわ」
《悪夢の番人》をライブラリーの一番下へ。ようやく《轟音のクラリオン》の効果が解決され、《悲哀の徘徊者》が破壊された。
後手、ドリルのドローは《沼》。4枚目の《沼》を置き、4マナで《悪夢の番人》を唱える。とはいえ、《悪夢の番人》単体ではただの4/4飛行クリーチャーでしかない。
5ターン目先手、モノポリーは《蒸気孔》*34を置き、3マナで《牢獄領域》*35を唱えた。対象は《悪夢の番人》だ。せっかく出したキーカードが盤面を去っていく。
「オーマイチンチン!」
「ついてないでしょ!」
「ついてますわよ喉奥に! ああ、でもこれはわたくしのプレミですわね……単品で出しておく意味がそれほどないなら後から出せばよかった……本当か? 本当に出す意味なかったか? わたくしは何の意図があってこれを出した? わかんない、わかんないよお……卯月……」
「一人でデレアニの名シーン雑モノマネしてるよこの人。占術はー……ボトムかな」
「へっ……てめえは俺の心に火をつけた……! 覚悟しな、すぐに燃え尽きさせてやるからよ……!」
「なら赤使いなよ」
「黒が最も高貴で美しい色でしてよ」
後手、ドリルのドローは《地獄界の夢》*36。5枚目の《沼》を置く。
「考えますわ」
「はーい! 指名対戦に長考ボタンほしいよね。お手洗いで離席するときとかに使いたいし」
「排泄物をプレインズウォークさせればよろしいのでは?」
「歴史に残る無駄遣いだよそれ」
出るマナは黒5マナ。手札は3マナの《残忍な騎士》が2枚、3マナの《地獄界の夢》が1枚、そして5マナの《アスフォデルの灰色商人》が1枚。除去にもクリーチャーにも使える《残忍な騎士》はまだ切りたくない。《アスフォデルの灰色商人》を勝ちが確定する前に見せるのは浅慮。となると、残されたのは《地獄界の夢》だ。
ドリルは3マナで《地獄界の夢》を唱えた。
「げえっ、それ完全に嫌がらせじゃん!」
「最近ランク戦であまり青を見ないから抜こうかと思っていましたけれど、モノポリーネキとやるときは必ず差すようにしていますわ」
「友達やめようかな……」
「わたくしたちズッ友の誓いを立てたではありませんか! 桃園で!」
「それ死ぬときは一緒ってやつじゃん! 重いよ重い!」
沼を2枚立てたままターンエンド。ドリルのデッキに2マナインスタントは入っていないのだが、何かの間違いで除去を警戒してくれることを祈ってそれっぽく手札にカーソルを合わせたりなどしてみる。
6ターン目先手、まずはドローで1点ダメージがモノポリーに入る。これでモノポリーのライフは18点。そしてモノポリーが唱えたのは《覆いを割く者、ナーセット》*37だ。
「あああ、青特有のインチキ臭い低コストインチキ臭い強能力の権化! つまりインチキ! ゲロ吐きそうですわ! 吐きますわ! オウ、オウ、オヴゥエ! 吐きましたわ! 嘔吐するほどしんどいので追放してもよろしいかしら!」
「リアルな吐き真似されたこっちもしんどいからお相子ね!」
「くっそ……いらんボケしましたわ……」
カウンターがあるはずもなく、《覆いを割く者、ナーセット》が入場。モノポリーは早速忠誠度能力を起動して、ライブラリーから《古き道のナーセット》*38を手札に加えた。この能力はドローではなく「ライブラリーのトップから4枚を見て、1枚選んで手札に加える」ので、《地獄界の夢》の効果は誘発しない。
「ジェスカイにそんなカードを与えてはならないって言おうと思ったのですけれど、ナーセットってそもそもジェスカイでしたわね*39」
「タルキールのころって何してた?」
「バナナ見て笑ってましたわよ*40」
後手、ドリルのドローは《沼》。6枚目の《沼》を置き、《残忍な騎士》をインスタントとして唱えて《覆いを割く者、ナーセット》を破壊した。《残忍な騎士》の能力でドリルは初めてのダメージを受け、ライフは18点。そしてそのまま《残忍な騎士》をクリーチャーとして再度唱え、入場。
「あれ、ここで切るんだ」
「そうですわね。ドロー制限が……別に痛くないですわね。なんで? わたくしはなんで今破壊したの? え? 致命的なプレミでは? 無期懲役までありうる……獄庫*41は、獄庫は嫌だ……!」
「アズカバンじゃないんだからさ、面会には行くって」
「ほんとぉ?」
7ターン目先手、ドローでモノポリーに1点ダメージ。ライフは17点。モノポリーは先ほどサーチしてきた《古き道のナーセット》を唱えた。そして能力を起動。カードを1枚引き、1枚捨て、捨てたカードが土地でないなら捨てたカードのマナコスト分の火力をクリーチャーに飛ばす。モノポリーが捨てたのは《吸収》*42、3マナなので3点火力だ。これによって《残忍な騎士》が死亡した。ドローで《地獄界の夢》が誘発し1点ダメージを与えたが、それでも18点対16点とやや膠着状態だ。
後手、ドリルのドローは《沼》。7枚目の《沼》を置き、手札にもう1枚あった《残忍な騎士》をインスタントとして唱えて《古き道のナーセット》を破壊した。しかし、《残忍な騎士》の効果でさらにダメージを受けたドリルはモノポリーと同じ16点のライフになる。
「え、2枚目!? 今引き?」
「序盤から手札にありましたわ。さっきのプレミは完全に2枚構えている安心からの油断ですわね」
「ドリルちゃん慢心しがちだよね」
「慢心などしておりませんわ。ただ毎秒脳死しているだけでしてよ!」
「だめじゃん!」
まあ見ていてくださいまし、と嘯きながらターンを終える。まだ勝ちが確定しているわけではない。これは高等戦術、はったりである。
8ターン目先手、ドローでモノポリーに1点ダメージ。ライフは15点。
ここでモノポリーが動いた。
「よし。《地獄界の夢》にスタックして、《裁きの一撃》*43を唱えるよ! 対象はもちろん《残忍な騎士》!」
「ほほう、かまいませんわ」
「これで盤面は……あれ?」
《残忍な騎士》はパワー2、タフネス3のクリーチャーである。《裁きの一撃》が与えるダメージはパワーと等しい。よって、《残忍な騎士》は死亡しないのである。
「プレミ~出た出た~、プレミ~出た、あゝヨイヨイ」
「ああもう、やだぁ!」
「フヒヒ、推定美少女の羞恥と絶望の声はたまりませんわね……!」
「過去最高にキモい」
「あ、少しだけ傷つきましたわ」
後手、ドリルのドローは《沼》。8枚目の沼を置き、土地の枚数を確認したところでドリルはあることに気が付いた。
モノポリーの盤面に出ている土地は4枚。先ほど《裁きの一撃》を唱えた時、土地は2枚しか立っていなかった。2マナでできる動きはそう多くない。だからターンが回ってきたのだろうか。
「もしかして、マナスクリューしてらっしゃる?」
「うぐ……」
「あは」
ドリルは《残忍な騎士》でモノポリーを攻撃した。2点ダメージが入り、残りは13点。
9ターン目先手。モノポリーのドロー。
「土地来い、土地……!」
「来るな来るな来るな来るな」
「きちゃあ!」
《地獄界の夢》で1点ダメージ、12点。そしてモノポリーは3枚目の《ラウグリンのトライオーム》を置いた。
流れは芳しくない。しかし、《ラウグリンのトライオーム》はタップインだ。次のターンからしかマナが出ない。このターン、4マナで動きがなければ、かなり勝ちが近づく。
「うーん……エンド」
「ターンいただきますわ」
後手、ドリルのドローは2枚目の《アスフォデルの灰色商人》だ。このデッキのフィニッシャーであり、延命装置でもある。
《アスフォデルの灰色商人》は入場で黒の信心、つまりコントロールしているパーマネントのマナコストに含まれる黒のマナシンボルの総数と等しい点数のライフをドレインする。今、盤面には信心2点の《残忍な騎士》、信心3点の《地獄界の夢》が置かれている。そして《アスフォデルの灰色商人》自身の信心は2点。よって、合計7点のドレインが生じる。
このターンで《アスフォデルの灰色商人》を入場させ、7点ドレインしてモノポリーのライフは5点。《残忍な騎士》で攻撃して3点《地獄界の夢》が入って2点になり、次のターンでブロッカーが出たら2枚目の《アスフォデルの灰色商人》が入場し、カウンターが出たら盤面に残った《残忍な騎士》と《アスフォデルの灰色商人》で殴って勝利。
ドリルは勝利を確信したが、ここで慢心はしない。さもやることがなくなった風を装って声を発する。
「そうですわね……とりあえず置くだけ置いておきましょうか」
《アスフォデルの灰色商人》が入場した。
「ぐえ、7点……きっついなあ」
「これで5点対27点。だいぶ有利でしてよ? ほら、狡智*44を披露してくださいまし? 加油、加油!」
「ぐぎぎ、憎たらしい……。日ノ本言葉で喋れよう」
「add oilは英語としても普及しつつあって……いや、英語は日ノ本言葉ではありませんわね」
《残忍な騎士》で殴って残り3点だ。
10ターン目先手、《地獄界の夢》で1点ダメージ、残り2点。モノポリーは《次元間の標》*45を置いた。
「うーん、来るのが遅かったなあ」
「いつもそのカードに苦しめられてますわよ。ぺっ」
「まあね。そして、このカードにも苦しんでもらってるよね?」
続けてモノポリーが唱えたのは《主無き者、サルカン》*46だ。《主無き者、サルカン》が出すドラゴンは4/4飛行であり、いまドリルが使っているデッキの飛行戦力では《悪夢の番人》が相討ちできるだけ。対策を取るにも展開されたときには手遅れなことが多く、ドリルの弱点と言ってよかった。
「おぎゃ、ファックですわ! 特殊性癖おじさんに腹パンされますわ!」
「サルカン・ヴォルかっこいいじゃん!」
「ええ、まあ、そこは認めますし、カードとしても強いですが、それはそれとして煽りと罵りはあらゆるとっかかりを掴むのがマナーでしてよ。たとえそれがサルカン・ヴォルのご立派なドラゴン息子、略してドラ息子でも掴んでみせますわ」
「ああもう、何も言うまい……」
プレインズウォーカーが入場したことで《次元間の標》の能力が誘発し、モノポリーは1点回復して残り3点。そして《主無き者、サルカン》の能力で4/4飛行のドラゴン・クリーチャー・トークンが出た。
「とりあえず、急場は凌いだかな。ふふ、私の勝負はここからだよ!」
「――それはどうかしら」
後手。ドリルのドローは3枚目の《アスフォデルの灰色商人》だ。デッキが囁いている。勝て。
「2枚目の《アスフォデルの灰色商人》を唱えますわ。カウンターがなければ勝ちですが、何かございますか?」
「……対ありグッドゲーム!」
モノポリーが使っているジェイス・ベレレンのアイコンが爆散した。投了したのだ。
10ターン目で終了。ドリルの勝利である。
ドリルは対戦画面を閉じてデッキの確認をしながら感想戦の準備をした。
「土地つまりって怖いですわね」
「本当にね! なーんもできない。ナーセット出して、ナーセット出して、サルカン出して、終わり!」
「普段ならもっとクラリオン警戒するのですけれど、今回はわたくしも展開が遅くて、ぬるいゲームになってしまいましたわ。お互いプレミもありましたし」
「単体除去ミスるのはさすがに恥ずかしい……」
「せめて確実に除去できていれば《残忍な騎士》で削られずに済んだかもしれませんわね。まあ、手札にもう1枚灰色商人いたので、連打するだけなのですが」
ヘッドホン越しに大きなため息が聞こえた。
対モノポリー戦でドリルの戦績は芳しくない。勝率は30%を切っているだろう。そしてほとんどの勝ちはこのようなマナスクリューによって拾った勝ちで、気持ちのいい勝ちはあまりない。それはそれとしてドリルは性格が悪いので、相手の切断でも勝てれば気持ちがいい。
「サルカンが早めに出ていたら危なかったですわね」
「いや、でも《残忍な騎士》2枚構えてたんでしょ? トークン出して落ちたんじゃないかな。騎士以外に除去って入ってたっけ」
「今は入れてませんわね。目をつけている除去がローテ落ちするので萎えてしまって」
「入れるだけ入れておいたら? 次のエキスパンションでいいの来たら差し替えればいいし」
「そういたしますわ。《地獄界の夢》って使われてどうですの?」
今回の勝因のひとつに《地獄界の夢》による地道なダメージがある。理論上、相手が回復手段を持たないならば出してから20ターンで勝利できるのだ。
ただ、現環境は全体的に早く、ドリルもランク戦で《地獄界の夢》を出してくる相手と当たったことはまだない。3マナ帯を遅い置物に割くくらいならクリーチャーを出すプレイヤーのほうが多いようだ。しかし、大量ドローするデッキはちらほら見受けられるうえ、ドローしないデッキはないため、置き得だとドリルは考えていた。
「んー、きつい。無視できると思って放置するとじわじわ効いてくるし、かといって対策を入れるほどでもないし。テーロスでエンチャントがよく出る環境になったからエンチャント割るカード多めに仕込めばいいんだろうけど、そうすると割ってる間少し遅くなるし」
「よし、今後も使っていきますわ!」
「敵に塩を送っちゃったなあ。テフェリーとサルカンの相性がよかったぶん、テフェリーの禁止が痛いし。うーん、調整しなきゃ」
スタンダードで禁止になった《時を解す者、テフェリー》の常在能力でインスタントの除去が飛んでくる可能性を消し、《主無き者、サルカン》の忠誠度能力でプレインズウォーカーをドラゴンにして殴る。しばしば見かけた強力な戦法だ。飛行戦力の乏しいデッキでは自ターンにプレインズウォーカーを除去するか戦闘で死亡させる以外の対応ができず、いずれにせよ動きが遅れることになる。
「時間ある? もう一戦いこうよ」
「どんとこい、ってやつですわ」