「朝ディカーの多色土地が気になりますわね。ところで朝ディカーって略称なかなかセンスあると思うんですけれど、いかがかしら。戦ディカーがあったんだから朝ディカーもありですわよね。寝起きにパジャマの下で股間が朝ディカー。受け止めてくださいまし、わたくしの白マナ……ッ!」
「ドリルちゃんはどうしてそうなっちゃったの?」
「これには深いわけがあるんですのよ。あれは、そう。忘れもしません。えー……忘れもしません。その……忘れましたが」
「だめじゃん」
このとき、8月31日の夜。ゼンディカーの夜明けがお披露目になるまであと少しというところで、二人は少しだけそわそわしながらデッキをいじっていた。数日後は阿鼻叫喚だ。
基本的に単色、多くても2色のデッキしか使わないドリルはそれほど土地で困ることはないが、その分あまり多色の環境になるのも困る。たとえば最近は《石とぐろの海蛇》*1の存在が多色を脅かしたように、単色デッキを刺すカードが登場する可能性、あるいは不安がよぎるのだ。たとえば《ギルドパクトの守護者》*2を実用的にしたようなカードが来てしまったら。
「いい感じの多色土地こなかったら、いよいよヒストリック*3しかやらないなあ」
「寂しくなりますわねえ」
「え?」
「え?」
どうやら認識の齟齬があるらしかった。今日ばかりは突飛なボケをしたつもりはない。ドリルはグレープフルーツサワーのグラスを伝う雫に指を濡らしながら答え合わせを待った。
「私ずっとヒストリックデッキ使ってたよ?」
衝撃の事実。咳き込んだドリルは鼻からグレープフルーツの酸味と苦味が噴き出るのを感じてティッシュを引っ張り出した。
ドリルはこれまでずっとヒストリックのデッキにスタンダードのデッキで挑んでいたことになる。セリーグの一球団でメジャーリーグのオールスターに挑むようなものだ。一枚一枚のパワーでは見劣りしないかもしれないし、特定の球団を貶す意図はないが、それにしたってフェアではない。そしてドリルは野球をほぼ知らない。
「は? わたくしスタンダードデッキなんですが? なんでそういうことしますの? うそついた?」
「え、だってドミナリアのテフェリー*4見ても何も言わなかったじゃん」
ドミナリア、2018年4月発売。2019年秋にローテーション落ち。
「ずっとイクサランのチェックランド*5使ってたのに無反応だったし」
イクサラン、2017年9月発売。2019年秋にローテーション落ち。
「もしかしてガルタ*6もスタン落ちしてらっしゃる?」
「いやラヴニカでもテーロスでも出ないでしょ恐竜。あれイクサランの相克だよ」
イクサランの相克、2018年1月発売。2019年秋にローテーション落ち。
「貝になりたい」
今までドリルを苦しめていたカードはヒストリック環境のものだったのだ。これについてドリルは文句を言う権利がない。ローテーション落ちしているカードを見た時点で自分もヒストリックのデッキを組めばいい話だ。それに、地道にプレイして集めたカード資産を「自分が持っていないから使うな」と強いるのも馬鹿げている。
それはそれとしてスタンダードのカードプールで回答を探し続けたドリルはだいぶダメージを受け、椅子の上で丸まった。
「もーやーですわ。なんですの? 自分が馬鹿すぎて普通に凹みますわ。わたくしって、ほんと馬鹿」
「なんだっけそれ、魔法少女のやつだった気がする」
「モノポリーは見ないほうがいいですわよ、名作ですが割としんどいので。んー……あー……」
「今日はなんか鑑賞会する?」
「いや……ヒストリック組みますわ。ワイルドカードありませんけど」
MTGアリーナは紙で高騰しているカードでもワイルドカードを使えば無料で交換できる。つまり、アリーナプレイヤーにとってワイルドカードは生命線だ。しかし、ドリルは先日ラクドスアグロを組んでしまったので、ワイルドカードが枯渇していた。入手の容易なアンコモンですら7枚しかない。
実績を残しているデッキレシピを漁り、手持ちのカードリストからまだ採用したことのないカードの可能性を考え、レンチンで作ったお手軽チーズスナックを齧り、ドリルは確信するに至った。
「肥溜めですわこのカードプール」
「汚いけど伝わるから技術を感じる。そんなに?」
「何組もうとしてもワイルドカードが足りないんですわよ。オルゾフライフゲインとか好みですけれど、《血の芸術家》*7もヴィト*8も持っていないですし、なんなら《希望の夜明け》*9すら1枚しか持ってませんわ」
「カードプールと目指すデッキが噛み合わなすぎでしょ」
すったもんだの末、ドリルはスタンダードのカードプールでヒストリックのデッキと渡り合えるものを組むことになったが、それは新カードセットのパックを剥いてからでもよいだろうということで、しばらくはスタンダードデッキ対ヒストリックデッキの構図になる。
時刻は22時。翌日がお互い休みであること、そして1か月ほどスケジュールが詰まっていることを鑑みて、今日は遊び倒す約束になっていた。
「1戦20分と考えて、朝までに18戦できますわね。10先でもします?」
「いいじゃん、かかってきなよ」
「誰が……てめえなんか怖かねえ! へへ……ハジキも必要ねえや……」
「すすめられたから見たけど、あの映画面白いの?」
「娘の居場所がわかってないのに爆破するあたりが最高ですわね」
「そういう映画なんだあれ」
そして時は進み、25時半。
「脳みそ焼けきれますわ」
「久しぶりにゲームで疲労感じてるよ……」
「冷静に考えて重めの打ち合わせ明けにこれやるの馬鹿ですわね。シナプス焼き切れて快感が生じるのはエロ漫画の世界だけでしてよ。本当に気持ちよくなるならおくすりなんか使わなくても締切に追われるだけで絶頂できますわ」
「真面目なのか下品なのかわかんなくなってきた。両方?」
ここまで10ゲームプレイし、ドリルは2勝8敗。ラクドスアグロ、ゴルガリアドベンチャー、ディミーア諜報まで手を変え品を変え、なんとか勝ちを拾えないかと足掻き続けた。その結果、頭を使いすぎてしまったのだ。
ドリルは自分の頭から湯気が上がっている気すらして、飲み物を流し込み冷却を試みた。
「何飲んでるー?」
「オルヅォ・チョコラータをアイスミルクで出したやつですわ。悪魔的うまさ……」
「オルゾフ……なに?」
「オルヅォ。イタリアの麦茶みたいなもんでしてよ。全国チェーンの紅茶屋で売ってますからぜひ」
「いいなあ。……よし、次でひとまずラストにしよう」
ドリルは了承の返事をしてデッキを選び、対戦を押した。
選んだデッキは黒単。これまでドリルは《アスフォデルの灰色商人》*10を愛用してきたが、このデッキは信心を軸にしていない。というのも、ジェスカイカラーには《轟音のクラリオン》*11や《時の一掃》*12といったリセットカードが多く、信心を維持するのが難しいのだ。
そこでドリルは別の勝ち筋を用意することにした。このデッキにはそれが搭載されている。
「対よろですわ」
「対よろー。ドリルちゃんの先攻だね」
「左様。キープでしてよ」
「私もキープ!」
ドリルの手札は《鋸刃蠍》*13が3枚、《帆凧の掠め盗り》*14、《悲哀の徘徊者》*15、そして《沼》と《ロークスワイン城》*16だ。後続の土地さえ詰まらなければ動きやすいだろう。
「よし……ちょっと気合入れましょうかしら」
「今日こそノープレミでいきたいよね*17」
「ふっ……余裕ぶっていられるのも今のうちですわよ」
1ターン目、先手。ドリルは《沼》を置き、《鋸刃蠍》を唱えてターンエンド。
後手、モノポリーは《ラウグリンのトライオーム》*18を置き、ターンエンド。
ここまでは当たり前の動きだ。この初動ができないならお互いにキープはしないだろう。問題はここから。
2ターン目、先手。ドリルのドローは《ヤロクの沼潜み》*19。《ロークスワイン城》を置き、《帆凧の掠め盗り》を唱える。
「うわ。人の手札見るなんて、ルール違反だよ! ジャッジ呼ばなきゃ……」
「もしかして、ルールをご存知でない?」
「MTGのこと何もわかんない」
「いい調子ですわよ。そのまま幼児退行!」
「いや、やらないからね」
モノポリーの手札は《浄化の輝き》*20、《覆いを割く者、ナーセット》*21、《時の一掃》、《ヴァントレス城》*22、《ラウグリンのトライオーム》、《夢さらい》*23、《神聖なる泉》*24だった。
「積み込み! 積み込みしやがりましたわね! 全体除去2枚にフィニッシャーにナーセットまで! そんなハンド恥ずかしくありませんの? 羞恥心皆無? 大会で半ケツ晒して紙しばいてるタイプのプレイヤーかしら?」
「引きがいいだけだよー」
「このままではモノポリーが返り血でびしょびしょの濡れ透けになってしまう……濡れ透けは好きですが、スプラッタはちょっと……」
追放できるのは《浄化の輝き》、《時の一掃》、《覆いを割く者、ナーセット》のいずれかだ。全体除去2枚のうち、《浄化の輝き》は白単色で唱えられるがやや遅い。《時の一掃》はそれより少し早いうえに回避能力がある。《覆いを割く者、ナーセット》は2ターン後に唱えられる可能性が高いが、常在能力であるドロー加速の禁止は現状それほど刺さらない。
悩みに悩んでドリルは《時の一掃》を追放した。
「あれ、そこなんだ」
「ナーセットが丸い気もするのですけれどね。……いや、ナーセットが丸いですわね」
「プレミ?」
「んー……微妙なところかしら」
実のところ、ドリルは「プレインズウォーカー除去を構えていますよ」というブラフを張ったつもりだった。
《鋸刃蠍》で攻撃し、モノポリーは残り19点。
後手、モノポリーは《ヴァントレス城》を置き、《アズカンタの探索》*25を唱えた。
「やーい、お前んち、水没いーせき! カンタァ!」
「げっほ……人がさあ、お茶飲んでるときにさあ、そういうボケをさあ!」
「フヒヒ、ごめんあそばせ」
3ターン目先手、ドリルのドローは《村の儀式》*26。土地が詰まった。
ひとまず2枚目の《鋸刃蠍》を唱え、《鋸刃蠍》と《帆凧の掠め盗り》で攻撃。モノポリーは残り17点。そして攻撃し終わった《鋸刃蠍》を生贄に《村の儀式》を唱える。《鋸刃蠍》の能力で2点ドレインし、22点対15点。そして2ドロー。引いてきたのは《沼》と2枚目の《帆凧の掠め盗り》だ。2枚目の《沼》を置き、3枚目の《鋸刃蠍》を唱えてターンエンド。
「いい動きができてますわね……気持ちがいいですわ。これだからMTGってやめられませんのよ」
「うーん、きつい。蠍で微妙に全体除去止まりがちだし、それずるいなあ。青にちょうだい?」
「やーですわよ。死亡誘発のドレインなんか青に出したら色の評議会*27に不信任決議出しますわ」
後手、モノポリーはデッキトップを確認し、そのままドロー。《神聖なる泉》をアンタップインして2点ダメージを受け、残りは13点。そして3マナで《覆いを割く者、ナーセット》を唱えた。忠誠度能力を起動し、デッキから《タッサの介入》*28を持ってきた。
4ターン目先手、ドリルのドローは《沼》。3枚目の《沼》を置き、《ヤロクの沼潜み》を唱えた。
「おらっ、《夢さらい》追放なさってっ!」
「あーもう、そのカード嫌い!」
モノポリーが追放したのは《払拭の光》*29だ。これを追放させられたのは大きいが、残ったカードがあまりに強い。
「では、こう!」
続いてドリルは《帆凧の掠め盗り》を唱えた。追放するのは《タッサの介入》、カウンターとドローのいずれも撃たせたくない。
「あっ、やられた」
「いい動きしてますわねこれ。掠め盗りが永続追放なら完璧でしたのに」
「2マナでハンド見つつ永続追放のフライヤーはインチキじゃない?」
「青がそれをおっしゃりますの?*30」
3体で攻撃して《覆いを割く者、ナーセット》を死亡させ、ターンエンドだ。
後手、モノポリーはデッキトップを確認し、《アショクの消去》*31を墓地に送った。そしてドローし、2枚目の《ラウグリンのトライオーム》を置いてターンエンド。
5ターン目先手、ドリルのドローは《ロークスワイン城》。2枚目の《ロークスワイン城》を置き、《悲哀の徘徊者》を唱えた。ヤギ・クリーチャー・トークンが出る。
「ヤギの鳴き声は可愛いよね」
「効果も可愛くてよ?」
「このくだり前もやったよ」
動けるすべてのクリーチャーで攻撃し、残りは8点。土地を引かれなければ次のターンで十分に勝負が決まる。ここからは確率の勝負だ。
「いやあ、ピンチだね」
「ふふ、だいぶアグロなムーブできてますもの。コントロールにはアグロ。メスガキにはおじさんくらい当たり前の話ですわよ」
「なるほど……なるほど?」
後手、モノポリーはデッキトップを確認してそのままドロー。そして、《平地》を置いた、
「やったー!」
「くっそああああ今引き! ディスティニードローってなんですの、許されませんわよそういうのは!」
「ふふーん、これが持ってるってやつだよ!」
「運命の相手見つけてからおっしゃってくださいまし!」
「キレそう……」
《浄化の輝き》を唱え、全体除去。ドリルは《悲哀の徘徊者》を起動して占術を行い、トップに《忘れられた神々の僧侶》*32を置いた。《悲哀の徘徊者》を脱出させて生贄にし、ゲームを決める狙いだ。
《鋸刃蠍》の能力で4点ドレインし、4点対26点。
6ターン目先手、ドリルのドローは置いた《忘れられた神々の僧侶》。除去を釣るため、先に《悲哀の徘徊者》を5マナで墓地から脱出させる。ヤギ・クリーチャー・トークンが出て、ターンエンドだ。
「さーて、ここから捲らなきゃね」
「ここから捲られたら軽く死ねますわよ。……軽く死ねるで思い出しましたけど、『宇宙よりも遠い場所』もうご覧になりました?」
「まだー」
「はよ見ろ」
「近所のレンタルショップになかったんだもん。全部借りられてた」
「そら名作ですから。配信がいいですわよ」
「うーん、まあ、そうするかなあ」
後手、モノポリーはデッキトップを確認し、《海の神のお告げ》*33を墓地へ送る。そしてドロー。《島》を置き、《時の一掃》を唱えた。
「延命に全体除去切らされるのきついなあ」
「妥当な判断だと思いますわよ。それはそれとしてこの1ターンはでかいですわね。黒のカウンターがほしいですわ」
「あってたまるかって感じだよ」
「ないこともないんですけれどね*34」
ドリルはヤギを生贄に占術を行い、デッキトップの《死より選ばれしティマレット》*35を一番下に置いた。今はそれではない。
7ターン目先手。ドリルのドローは《沼》。4枚目の《沼》を置き、《忘れられた神々の僧侶》を唱えた。全体除去はすでに切らせたため、ここで動かないと次のターンに《夢さらい》が出てきて絆魂で挽回される。
「まっずいねこれ」
「さあ、勝ちますわよ……ドン勝つしてやりますわ……かつ丼食べたいですわね。出前頼もうかしら。クーポン、クーポン……」
「お嬢様とは」
さらに《ロークスワイン城》を起動し、1ドロー。1点ダメージを受け、《沼》を引いてきた。これなら起動せずに土地を立たせてインスタントを構えているように見せたほうがよかったかもしれないと思いつつもターンを終える。
後手、モノポリーはデッキトップを確認し《神聖なる泉》を墓地に送る。そしてドロー。《メレティス誕生》*36を唱えた。能力でライブラリーから《平地》を1枚手札に加え、さっそく盤面に置き、5マナで唱えたのは《タッサの介入》。デッキトップを上から3枚見て2枚を手札に加える。
「怖すぎますわねそのムーブ」
「さて、どうかな?」
「こういう秘密を纏って余裕ぶった奴が焦ってる姿を見るのが人生の楽しみですのよ、わたくし」
「性格悪くない?」
「あら、慧眼をお持ちですのね」
8ターン目先手、ドリルのドローは《帆凧の掠め盗り》。本当なら《悲哀の徘徊者》を脱出させたいが、コストである墓地のカードが不足している。ここで相手の動きを遅延させつつ《夢さらい》をブロックできるカードを引いてきたのは悪くない。
ドリルは早速《帆凧の掠め盗り》を唱えた。
「さあ、露出プレイなさって」
「なさってって言われてするものなのそれ」
「そういう性的嗜好の方もいらっしゃるかと。ところでわたくし、性的嗜好の意味で性癖という言葉を使われるのがどうも気になりますの。この性は性質とか性格とかの性であって、性欲とか性別とかとは別ですのよ。パスポートのSEXをいやらしい意味で捉える中学生レベルの誤解ではなくて?」
「真面目な話……なのかな?」
「爪を噛む話で、そういう性癖って大人まで続くとなかなか直りませんわよねって言ったら微妙な顔されましたの。ちょっとそういう羞恥プレイする性的嗜好はなくってよ」
モノポリーの手札は4枚。《夢さらい》、《神聖なる泉》、《エルズペス。死に打ち勝つ》*37、《意味の渇望》*38だ。《意味の渇望》で回答を引いてこられるのは困るが、この盤面で勝ち切れなかったときに《エルズペス、死に打ち勝つ》で脱出した《悲哀の徘徊者》を追放されるのも困る。悩みに悩んで《エルズペス、死に打ち勝つ》を選んだ。
そして《ロークスワイン城》を起動。1点ダメージを受け、《沼》を引いてきた。土地は現状余り気味だ。できればクリーチャーを引いてきて《忘れられた神々の僧侶》の弾にしたかった。
《忘れられた神々の僧侶》で攻撃、3点対24点。
「よし、ここから勝つよ!」
「露骨に主人公ムーブなさりますわね。何か曲かけましょうか?」
「いや、いま音楽流れると脳の処理が追い付かない気がする」
「それはそう、実際そう」
後手、モノポリーはデッキトップを確認し《ラウグリンのトライオーム》を墓地へ。《アズカンタの探索》が変身し、《水没遺跡、アズカンタ》になった。さらに《メレティス誕生》で0/4の壁が出る。
そしてモノポリーが唱えたのは《古き道のナーセット》*39だ。
「んひぃ」
「すごい声出たね今」
「自分でもびっくりしましたわ。そっかあ、ナーセット、そっかあ」
《古き道のナーセット》で青1マナを出しながら2点ライフゲイン。5点対24点。そして《意味の渇望》を唱え、3ドローし、《神聖なる泉》と《ドミナリアの英雄、テフェリー》*40を捨てた。さらに《氷河の城塞》*41を置き、《払拭の光》を唱えた。対象は《帆凧の掠め盗り》だ。
「くっそ、いい引きしますわね……」
「ふふーん、これで勝負がわからなくなってきたよ!」
「いや、わたくしは勝ちますわよ。ここで勝たないと国民感情の悪化で政権がやばいですわ」
「政治の話?」
「盤面に僧侶いますし、あとは野球があれば最高ってところかしら」
「最悪だよ、最悪」
9ターン目先手、ドリルのドローは《忘れられた神々の僧侶》。クリーチャーは嬉しいが、できれば《ヤロクの沼潜み》で手札を削るか、《ラゾテプの肉裂き》*42や《悲哀の徘徊者》で生贄を用意したかった。もしくは《鋸刃蠍》を引いてくれば勝ちが見えるが、ライブラリーには残り1枚だ。
6枚目の《沼》を置き、《ロークスワイン城》を起動。1点ダメージを受け、《死より選ばれしティマレット》を引いた。早速唱える。
「うるさっ」
「現状、ティマレットはMTGアリーナで一番強いんですわよ」
「その心は」
「爆音で唸って親フラさせられるから」
「盤外戦術じゃん! ずるだよ!」
「あら、世の中には体臭で投了させた猛者もいるんですのよ。カードゲーマーとして悪い方向に熟成されてますわね。臭さも性格も芳醇ですわよきっと。顔面にファブリーズかけたら反則になるのかしら」
「なる……いや、ならないでほしいかも……」
ドリルは考える。ここで《忘れられた神々の僧侶》の能力を起動した場合、布告除去で飛ばせるのは壁トークンだけ。盤面には《忘れられた神々の僧侶》のみが残る。であれば次のターンに《死より選ばれしティマレット》の能力でできるだけ墓地を追放してから動きたい。もし次のドローで《鋸刃蠍》を引いてこれればもっといい。
ここまで考えて、ドリルは動かずにターンを終えた。
後手、モノポリーは《メレティス誕生》の能力で2点のライフゲイン。7点対23点。《夢さらい》を唱え、《古き道のナーセット》で2点のライフゲインと青1マナ。9点対23点。そして2枚目の《意味の渇望》で3ドローし、《平地》と《島》を捨てた。
10ターン目先手、ドリルのドローは《沼》。あまりいい流れではない。できればここでクリーチャーか除去を引いておきたかった。このデッキには《残忍な騎士》*43と《ファリカの献杯》*44、《見栄え損ない》*45が搭載されている。それらのいずれも引いていないのはひたすらに運がない。
モノポリーの墓地を確認したが、思ったよりもクリーチャーがいないことに気が付いた。現状見えている動きではおそらく《夢さらい》がフィニッシャーであり、墓地利用を重視したコンボの類は見えていない。それほど嫌がらせにならないと読んで、ドリルは素直に《忘れられた神々の僧侶》を起動した。
「ぐえー、痛いなあ」
「大したことないでしょうに」
「バレた?」
「そりゃもう」
2点ダメージ、残り7点。そして壁トークンを除去し、ドローは《想起の拠点》*46だ。このデッキの勝ち筋の一つだが、少し来るのが遅い。早速唱え、兵士トークンが出た。さらに《悲哀の徘徊者》を脱出させ、ヤギが出る。これでターンエンドだ。
「うわ、一気に広がっちゃった」
「闇は潜み、そして瞬く間に広まるものですわ」
「お、名言。誰の言葉?」
「わたくし」
確かに盤面は有利だが、《夢さらい》が止まらない。毎ターン5点の絆魂が確約されている以上、早く除去を引かねばならない。
後手、モノポリーのドローで《夢さらい》はサイズアップ、4/5に。そして《水没遺跡、アズカンタ》を起動し、3マナ払ってライブラリーから《意味の渇望》を手札に加えた。
攻撃で《夢さらい》の能力が誘発、1ドローして5/5に。当然止まることはなく、そのまま通る。18点対12点。
そして《古き道のナーセット》で白1マナを加え、2点ライフゲイン。18点対14点。かなり追いつかれた。
さらに動く。《エルズペス、死に打ち勝つ》を唱えた。対象はもちろん《悲哀の徘徊者》だ。ある程度は予想通りの動きとは言え、かなり厳しい盤面になってきた。
まだ動く。《島》を置き、《海の神のお告げ》で占術2、1ドロー。
「青のインチキムーブ詰め合わせですわ……ご存知かしら、青は食欲を減退させる色なのですわよ。つまり、本能的に人の気分を損ねる色。快適なゲームプレイのために青を排斥いたしましょう」
「トンデモ理論じゃん」
11ターン目先手、ドリルのドローは2枚目の《想起の拠点》。早速唱え、兵士がもう1体。兵士1体とヤギ1体を生贄に《忘れられた神々の僧侶》を起動。先に《古き道のナーセット》を攻撃させるべきだったが、もう対象選択を終えて処理に入ってしまった。ささやかなプレイミスだ。
《想起の拠点》の能力が誘発し、4点ドレイン。そして《忘れられた神々の僧侶》で2点ダメージ、布告除去で《夢さらい》が落ち、1ドローで《村の儀式》を引いてきた。
兵士トークンを生贄に《村の儀式》で2ドロー、《死より選ばれしティマレット》と《沼》を引いてきた。《想起の拠点》の能力で2点ドレイン。もしプレイヤーを攻撃しておけば、ここで残り4点になり、次のターンに《古き道のナーセット》で2点ライフゲインしても6点。勝ちが見えていたかもしれない。
「うわうわ、またピンチかなこれ」
「ピンチでしてよこれ」
6枚目の《沼》を置き、《死より選ばれしティマレット》を唱える。念のため《死より選ばれしティマレット》の能力を起動して《ドミナリアの英雄、テフェリー》と《夢さらい》を追放。クリーチャーを1体追放したため、1点ライフゲイン。6点対25点。
《ロークスワイン城》を起動して《沼》を引き、1点ダメージを受け、ターンエンド。
後手、《エルズペス、死に打ち勝つ》の能力でこのターンの間ドリルが唱える呪文はコストが2マナ多くなる。今の盤面においてはあまり関係がない。
《意味の渇望》を唱え、3ドローして《平地》と《集団強制》*47を捨てた。そして《氷河の城塞》を置き、《払拭の光》を唱え、《忘れられた神々の僧侶》を追放。
「おおっと……まずいことになりましたわね……」
「まあね、次にクリーチャー置かれたら負けだし」
「賢い。さては天才でらっしゃる?」
「算数ができただけなんだよなあ」
《古き道のナーセット》で2点ライフゲインと白1マナ。そして《メレティス誕生》を唱え、《平地》を手札に加えた。そこからさらに《覆いを割く者、ナーセット》を唱える。《古き道のナーセット》と《覆いを割く者、ナーセット》は同一人物だが別名カードなので同時に存在できるのだ。
「ドッペルゲンガーと会うと対消滅するって話はご存知?」
「うん、知ってる」
「ではナーセットを2枚とも追放してくださいますわね?」
「なんで?」
「なんで?」
モノポリーは《覆いを割く者、ナーセット》を起動し、手札に《時の一掃》を加えた。
状況は芳しくない。
12ターン目、ドリルのドローは《ヤロクの沼潜み》。悪いカードではない。《忘れられた神々の僧侶》がいるうちに引けていたらもっとよかっただろう。早速唱え、手札追放の能力でモノポリーは《平地》を追放した。
そしてドリルは《ロークスワイン城》を起動するが、マナコストを支払ったのにドローができない。
「あれ? 壊れました? この場合は何を叩けばよろしいんですの?」
「ナーセットがね、いるんだけどね」
「あっ」
《覆いを割く者、ナーセット》は常在能力で追加ドローを禁止する。マナコストの払い損だ。
「禿げそうですわ。禿げますわ。禿げましたわ。ただいまは剃髪致してドリルと名乗りまする」
「ツインテドリルのないドリルって何?」
「螺旋はハートでしてよ!」
とはいえ、マナがだぶついていることを考えれば、痛いミスではない。《死より選ばれしティマレット》で攻撃し、残り6点。
後手、モノポリーの《メレティス誕生》が壁を出す。そして《エルズペス、死に打ち勝つ》は盤面に出て3ターン経ち、墓地からクリーチャーかプレインズウォーカーをリアニメイトできるが、対象となりうるカードはすべて《死より選ばれしティマレット》で追放済みだ。能力を発揮できず、墓地に送られる。
モノポリーは《覆いを割く者、ナーセット》の能力を起動し、ライブラリーから《海の神のお告げ》を持ってきた。そしてそれを唱え、占術2、いずれもライブラリーの一番下へ。そして1ドロー。
ここで《古き道のナーセット》の奥義*48を発動。クリーチャーでない呪文を唱えるたびにクリーチャーかプレインズウォーカーかプレイヤーに2点のダメージを飛ばすことができる紋章を得た。
「げえっ、ナーセット!」
「いや出てたじゃん。2人も」
「なんというか、どうにもプレインズウォーカーというやつに慣れないんですの」
「そんな世代だっけ?」
「ほら、わたくしプレインズウォーカーだから……プレインズウォーカーは使役する側であってされる側ではないから……*49」
モノポリーは《水没遺跡、アズカンタ》を起動。ライブラリーから《海の神のお告げ》を持ってきた。そしてそれを唱え、まずは《古き道のナーセット》の紋章が誘発。ドリルに2点ダメージ。残り22点。そして占術2、1ドロー。
《島》を置き、《海の神のお告げ》を起動して占術2を行い、両方をライブラリーの一番下に送ってターンエンドだ。
早急に勝ち筋を引いてこないと負けのありうる盤面になってきた。
13ターン目先手、ドリルのドローは《沼》。引きが腐りはじめている。ドリルは舌打ちした。《沼》を置き、攻撃へ。2体でモノポリーを攻撃する。
モノポリーは壁で《死より選ばれしティマレット》をブロックした。
「あら、そちらでよろしいの?」
「え? あ、うーん……まあ、そっか、あー、うん」
「え、何ですのそのリアクション、怖すぎますわよ」
《ヤロクの沼潜み》の能力を4回起動し、5/5にサイズアップ。攻撃が通り、1点対22点だ。プレイミスがなければ勝っていたのだが、ドリルはまだそれに気づいていない。
「危ない危ない」
「殺しきれない……殺しきれないですわ……次は殺す、必ず殺す」
「こわ」
後手、モノポリーの《メレティス誕生》の能力で2点ライフゲイン。残り3点。そして《古き道のナーセット》で2点ライフゲイン、白1マナを出す。残り5点。ここでモノポリーが唱えたのは、《夢さらい》だ。
「ナムアミジーザスくそったれ! 2枚目引いてきやがりましたわ!」
「ふっふー、それだけじゃないんだなあ」
さらにモノポリーは7マナで《ヘリオッドの介入》*50を唱えた。10点のライフゲイン。
「この……くそ……畜生……やってられない……」
「もう見なくても顔真っ赤なのわかるよね」
「真っ赤通り越して真っ青ですわよいま。台パンしなかったから偉いですわ。わたくし、偉い。いい子、いい子……おとうさま、ことしのクリスマスはおやすみをとってくださいますの?」
「どうしよう普通に可哀そうになってきた」
口ではそのようなことをのたまいつつも紋章で2点火力を《ヤロクの沼潜み》に飛ばし、除去。《想起の拠点》が誘発し2点ドレインする。13点対24点。
14ターン目先手、ドリルのドローは《ヤロクの沼潜み》。ここでサイズアップ持ちを引いてこれたのは偉いが、《夢さらい》を除去できたほうがもっとよかった。だいぶ勝ちが遠のいている。ひとまずこれを唱えた。モノポリーは手札から《老いたる者、ガドウィック》*51を追放した。
壁と《夢さらい》で攻撃が止まる。これといって動かせるギミックもない。ターンを終えるしかなかった。
「どうしよう、ドリルちゃんが黙っちゃった。もしもし? もしもーし」
「……ふがっ。失礼、うとうとしてましたわ」
「えっ」
「えっ」
後手、モノポリーは《ドミナリアの英雄、テフェリー》を唱えた。紋章が誘発し、《ヤロクの沼潜み》に2点ダメージ。《ヤロクの沼潜み》が死亡したことで《想起の拠点》が誘発し、2点ドレイン。11点対26点。そして《ドミナリアの英雄、テフェリー》の能力を起動。《死より選ばれしティマレット》をドリルのデッキの上から3番目に置く。
これで盤面が片付いてしまうが、ただで綺麗にされるのはうまくない。ドリルは《死より選ばれしティマレット》を起動し、マナが尽きるまで墓地のパワーカードを追放した。
「シンプルに嫌がらせするじゃん」
「これ、ランク戦でやると操作中にタイムオーバーしかけるんですのよ。ちょっとシステム何とかならないのかしら」
「その起動を前提にしてないシステムなんだと思うよ、うん」
そして《夢さらい》の攻撃。1ドローしてサイズアップし、5点ダメージだ。21点対16点。
さらに《古き道のナーセット》を起動し、2点ライフゲインと青1マナを出した。21点対18点。ライフは序盤に戻ってしまった。
15ターン目先手、ドリルのドローは《忘れられた神々の僧侶》だ。引いてくるのが遅い。出すだけ出し、ターンエンド。
「もしかして、ピンチですの?」
「ピンチだね」
「泣けてきましたわね。いいんですの? いい年した女がゲームに負けそうというだけでみっともなく泣き喚きますわよ? 本当にいいんですの?」
「そんな脅し初めて受けたよ」
「モノポリーの初めてをもらってしまいましたわ……!」
「急にキモいじゃん! びっくりしたよ!」
ターン終了時にモノポリーは《海の神のお告げ》を2枚起動し、占術2を2回行った。4枚ともライブラリーの一番下に送る。
後手、モノポリーは《夢さらい》で攻撃。1枚ドローし、ドリルに5点ダメージだ。16点対23点。捲られた。
《意味の渇望》を唱え、まずは紋章でドリルに2点ダメージ。残り14点。そして3ドローし、《氷河の城塞》と《スコフォスの迷宮》*52を捨てた。続いて《アズカンタの探索》を唱える。紋章でドリルに2点ダメージ、残り12点。そして《古き道のナーセット》を起動、2点ライフゲインと青1マナを出す。12点対25点。
おおむね勝負は見えてきたが、まだ完全に負けてはいない。
16ターン目先手、ドリルのドローは《見栄え損ない》。除去がほしいとは願ったがそこではない。-2/-2修整では基本サイズが3/5の《夢さらい》は死なないのだ。ターンエンド。
「これは勝ったかな?」
「慢心なさって。そして投了なさって」
「この盤面から投了された勝ちって嬉しい?」
「全然ですわ。いくらわたくしでもそんな屈辱的勝利に喜べる間抜けではなくてよ。ただしFoil掴んだときのドラフトは除く」
後手、《アズカンタの探索》でライブラリートップを確認し、そのままドロー。そして《古き道のナーセット》の能力を起動。1ドローし、1枚捨てる。捨てたのは《神聖なる泉》。ここまでで《夢さらい》がサイズアップし、5/5になっている。
そしてモノポリーは2枚目の《古き道のナーセット》を唱えた。紋章でドリルに2点ダメージが入り、残り10点になる。《古き道のナーセット》は伝説のカードのため、古いほうが墓地に送られる。
攻撃。《夢さらい》の能力で1ドローし、6/5に。ドリルはやむを得ず《見栄え損ない》を唱えた。
「あれ、除去……じゃない?」
「黒はコンバットの色! 黒はコンバットの色でしてよ!*53」
延命にしかならないが、ひとまず4点ダメージ。6点対29点。
そして《古き道のナーセット》で2点ライフゲインと白1マナを出し。6点対31点。
17ターン目先手、ドリルのドローは《死より選ばれしティマレット》。今ではない。ドリルはこれを唱えた。
「そこぉ!」
モノポリーが唱えたのは《物語の終わり》*54だ。《死より選ばれしティマレット》は伝説のクリーチャーであり、対象に取ることができる。そして紋章が誘発、ドリルに2点ダメージ。残り4点。
「ああ……終わりましたわ……」
「終わったねえ。いやあ、いい戦いだった」
後手、モノポリーは《夢さらい》で攻撃。ドリルに5点ダメージ。モノポリーの勝利である。
「グッドゲームですわ。いや、本当にこれはグッドゲームですわね」
「うん、グッドゲーム! すごかった……残りライブラリー5枚だよ私。あと少し逃げられてたら負けてた」
「逃げの手段が引けなかったのは痛いですわね。せめて入ってる除去は引きたいものですわ」
「実際、除去引かれてたらまずかったかな。今何時?」
「午前2時ですわね。踏切に望遠鏡担いでいかなくてはなりませんわ」
「え、なんか用事あるの?」
「このネタをご存知でない? え、このネタをご存知でない? わたくし、ちょっと老いを感じましたわ……」
綺麗な勝負だった。ドリルが焦らずに兵士トークンで攻撃していれば勝敗が変わっていたが、一瞬のプレイミスが勝敗を分けるゲームだということをドリルに思い出させてくれた。
「これでしばらくはおやすみですわね」
「そうだねー。まあ、今月末にはスケジュールも余裕出てくるし、ゼンディカーの夜明けのパック剥くためにデイリーはこなしておくよ」
「賢明ですわ。もう少し起きてます?」
「そうだね。なんかやる?」
「鑑賞会したいですわ。宇宙よりも遠い場所」
「よーし、見よう!」
ゼンディカーの夜明け本実装までおやすみですわよ。