お前の拳法では死なん杯 黒単VS茶単
「オムナスーッ! 死ねえーッ!」
ドリルは激怒した。必ず、かの邪知暴虐のエレメンタルを除去せねばならぬと決意した。ドリルにはMTGがわからぬ。ドリルはカジュアルプレイヤーである。紙をしばき、パックを剥いて暮らしてきた。けれども壊れに対しては、人一倍に敏感であった。
今日、ドリルはランクマッチで10敗を記録している。野良プレイではもっと戦績が悪い。デッキは悪くない。プレイングも悪くない。ただひたすらに環境が魔境なのだ。
「どうしてオムナス刷っちゃいましたの? WotCの脳みそはまだ瓶詰め*1から上陸*2できてませんの?」
「うーん、今回は私も擁護できない……」
ドリルはのど飴を噛み砕いて苛立ちを紛らわせようとしたが、口を切りそうになるだけだった。
お互いにカード資産が充実するまではお休みという約束だった。しかし、環境が明らかになってくるうちに資産がどうとか言っている場合ではないとわかった。先日開催されたMTGアリーナの世界大会日本予選ではTop8のうち4つがほぼ同じ構造のデッキ、Top32まで広げれば50%がおおよそ同じといっていい。
「コブラ*3、僻境*4、当然オムナス*5。オムナス落としたと思ったらケンリス*6。オムナスの暗黒面に落ちそうですわ……。本当にテストプレイしましたの? 本当に? 小学生のオリカ遊びしてんじゃないんですのよ?」
「普段とは違う方向のキレ方してるドリルちゃんが面白くはあるんだけど、うん。なんだろうねえ、プレイヤーとしては微妙な気分になる環境かも」
「一番気に入らないのは!」
「なに?」
「黒単が息してないってことですわよ!」
ドリルはリモンチェッロの炭酸割でフライドオニオンを流し込んだ。23時だが、多忙だったせいで今日最初のまともな食事である。
「なんだ、いつものかあ」
「せっかくドラーナ様のカード*7があるのに、ドラーナ様が動くデッキはほぼ介護ですわよ介護。推しキャラのカードがまともに機能しないってめちゃくちゃ萎えませんこと?」
「うーん、推しキャラ常に強いからなあ」
「糞が……」
「でも、ゼンディカーの夜明けで黒もいいカード増えたんでしょ? ほら、なんだっけ、《タルモゴイフ》*8みたいなやつ」
「ああ、《夜鷲のあさり屋》*9ですのね。正直黒のカードって言うよりディミーアローグ*10のカードな気がしてますわね。いや、もちろん黒単でも採用できますけれど、シナジーを最大限活かすなら切削がほしいですし、ならず者ですし」
しばらくコレクションをチェックしながら雑談していたが、自然と対戦の流れになった。
「対よろですわ。キープ」
「対よろー。んー、まあキープ?」
「ではわたくしの先攻」
ドリルの手札は《穢れ沼の騎士》*11、《帆凧の掠め盗り》*12が2枚、《葬儀》*13、そして《沼》が2枚と《マラキールの再誕》*14だ。かなりいい立ち上がりと思っていいだろう。
1ターン目先手、ドリルは《沼》を置き、《穢れ沼の騎士》を唱えた。
「げー。アドベンチャーに宗旨替えしたの?*15」
「一度組んだのですけれど、ぶん回りしすぎて自分のドローでライブラリーアウトしてからは使ってませんわ」
「そんな贅沢ある?」
「栄養過多って感じですわね。もしくはテクノブレイク」
1ターン目後手、モノポリーは《ザルファーの虚空》*16を置いた。占術はトップ。
ドリルは知っている。モノポリーは強くて面白いデッキを好むプレイヤーだ。多色デッキなら序盤で頑なに多色土地を置くし、多色土地のないハンドをキープはしないだろう。ただのマナ拘束が緩いデッキを使うイメージもない。とすると茶単、アーティファクトメインの無色デッキだ。
「初動から人を絶望させるとは、やはり天才……」
「何が?」
「もうわたくしが教えることは何もないでしょう……最後にこのヤシャーン*17をお持ちなさい」
「え、いらない」
「レアワイルドカードと交換です……」
「しかもただじゃないんだ」
「何事も対価が必要、それが世の理ですわよ。蒙古タンメン中本を食べたら翌日に肛門が死ぬように」
「たとえが最悪なんだよなあ」
「中本食べたいですわね。ちょっとお湯沸かしてきますわ」
数分後、ドリルはカップ麺を手にしていた。
「いただきますわ。ズゾ、ズゾゾ、ズゾッ!」
「この時間帯にそういう飯テロするの許せないよほんと」
「グエフッ、エフッ」
「しかも咽せてるし」
「実は温玉乗せたんですけれど、やっぱ最高ですわね。辛いものに卵、これがマイフェイバリットですわ!」
「再開していい?」
「あ、はい」
2ターン目先手、ドリルのドローは2枚目の《葬儀》。ドローソースはかなり盤石だ。もし次に土地が来なくても《マラキールの再誕》を土地として置けば十分に動ける。2枚目の《沼》を置き、《帆凧の掠め盗り》を唱えた。
「はーい、ちょっと鞄の中見せてくださいましね。身分証明書持ってらしゃる? お仕事は何なさってるの?」
「急に職質じゃん。ドリルちゃん職質受けすぎじゃない?」
「地元の治安が悪いんですわよね。最寄りの大型公園とか夜は暴走族と露出狂しかいないんですの。《露出する暴走族》ってカードよくありませんこと? 《遁走する蒸気族》*18の黒版でいかがかしら」
「何もかもがだめじゃん」
公開されたモノポリーの手札は《結晶の巨人》*19、《次元間の標》*20、《よろめく鎧》*21、《パラジウムのマイア》*22、2枚目の《ザルファーの虚空》、《工匠の達人、テゼレット》*23、《魔術遠眼鏡》*24だ。
《帆凧の掠め盗り》が対象に取ることができるのは土地でもクリーチャーでもないカード、つまり《工匠の達人、テゼレット》か《魔術遠眼鏡》。ドリルは《工匠の達人、テゼレット》を選択して追放した。
「あれ、そっちなんだ」
「起動型能力持ちのカード、ほぼ入っていないんですの。我が社の人材は皆、指示しなくとも率先的に行動できる立派な社会人ばかりですわ」
「社会人? 10割反社じゃない?」
「黒が作った社会では秩序こそが反社でしてよ」
「絶対住みたくない」
「ご安心なさって。いずれ多元宇宙は黒に包まれますから」
「もう言ってることがファイレクシアじゃん!」
《穢れ沼の騎士》で攻撃し、1点ダメージ。モノポリーのライフは残り19点だ。
2ターン目後手、モノポリーは2枚目の《ザルファーの虚空》を置き、占術はトップ。そして《更生の泉》*25を唱えた。ドリルにとってあまり都合のいい展開とは言えない。ライフの回復手段が入っているだけで少し困ることが生じるデッキなのだ。
3ターン目先手、ドリルのドローは《残忍な騎士》*26。《マラキールの再誕》を裏面、黒単色の土地である《マラキールのぬかるみ》として置いた。このカードはタップインのため、このターンは2マナしか出ない。
ひとまず2枚目の《帆凧の掠め盗り》を唱える。
「すごい掠め盗るじゃん。イナゴの大群?」
「イナゴの大群と言えば、幼少期にローラ・インガルス・ワイルダーを読んだんですの」
「大草原の小さな家だっけ」
「そう、それですわ。シリーズの中にイナゴの大群の話が出てくるのですけれど、そこで初めてイナゴが地面に管を刺して卵を産むことを知って」
「へー、そうなんだ」
「たぶん今のわたくしが抱える蟲系な性的嗜好はそこが源流ですわね」
「うわ……真面目に聞いちゃった……」
「ロックマンエグゼとかだいぶわたくしを歪ませましたわよ。変身、ショタ、丸呑み、触手、チキチキ、洗脳」
「とりあえずドリルちゃんが知っていたよりさらにやべーやつだってことはわかったよ」
《魔術遠眼鏡》を追放、2体で攻撃して残りは17点。
3ターン目後手、《更生の泉》でモノポリーは1点回復し、18点。そして《次元間の標》を置き、《パラジウムのマイア》を唱えた。これで次のターンには無色マナが5点出ることになる。
4ターン目先手、ドリルのドローは3枚目の《沼》。早速置く。そして、《残忍な騎士》をインスタントとして唱えた。《パラジウムのマイア》の除去だ。
「え、撃つんだ!」
「そらそうですわよ」
「接死クリーチャーブロッカーにしておけば勝手に死ぬよ?」
「いや殴ってこないでしょうに。マナクリで殴るしかやることがないハンドじゃないのは知ってますのよ」
「ばれてるかあ」
「見たのですけど。え、あなたがボケに回りますの? いいですわよ? その代わりこの空間ツッコミいなくなりますがよろしいかしら? わたくしはツッコミがいないとボケのクオリティが一瞬で落ちますのよ?」
「これ以上落ちるのちょっと興味あるな」
「ちんちん!」
「落ちすぎでしょ。クオリティも尊厳も」
「うんこちんちんで笑えているうちが人生幸せなんですわよ」
《残忍な騎士》の能力で2点ライフを失い、ドリルのライフは残り18点。そして3体で攻撃し、モノポリーは15点。
4ターン目後手、モノポリーは《更生の泉》で1点回復。さらに《光輝の泉》*27を置き、2点回復。18点になる。そして《結晶の巨人》を唱えた。載ったカウンターは威迫。大当たりではないが、弱くもない。
強めのクリーチャーが立っていて、ライフの回復手段がある。ドリルにとってあまりいい状況ではない。
5ターン目先手、ドリルのドローは4枚目の《沼》。これを置き、そして《葬儀》を唱えた。
「お葬式の効果じゃないよねそれ、なんなの?」
「別段おかしくはありませんわよ。2枚墓にぶち込んで、2枚香典もらって、2点分葬式疲れ」
「あー……微妙に説得感があるなあ」
「ところで香典は渡す側が必要なのですけれど、ここはライフを5点ほどドレインする効果をですね」
「刷る前に禁止案件じゃん」
「最近のWotCならあるいは」
「……ちょっとありそうって思っちゃった」
引いてきたのは《大群への給餌》*28と《アガディームの覚醒》*29、墓地に落ちたのは《残忍な騎士》が2枚だ。そしてライフを2点失い、残りは16点。
さらにドリルは引いてきた《大群への給餌》を唱えた。対象は《結晶の巨人》である。除去し、3点のライフを失って残り13点だ。
「今日は飛ばすじゃん。そういう気分なの?」
「いつだってフルスロットルでしてよ。モーターのコイルがあったまってきたところだぜ……!」
「なんだっけそのネタ」
「AKIRAですわね」
「ああー。あの赤いバイクかなにかに乗ってる人がアキラ?」
「作品を知らない人がそう勘違いするのも仕方がないと分かっていて、それでもなお時代を感じてしまう……! バイクに乗ってるのは金田ですわ」
「えっ、じゃあアキラって誰なの?」
「んー、それを説明するのはちょっと。今度観賞会しましょうか」
3体で攻撃し、モノポリーは残り15点。
5ターン目後手、モノポリーは《更生の泉》で1点回復し、16点。そして《精神石》*30を唱え、さらに《精神石》からマナを出して2枚目の《結晶の巨人》を唱えた。載ったのは警戒、これも悪くない能力だ。
ドリルとしては早めに《結晶の巨人》を何かしらの形で盤面から取り除きたい。《残忍な騎士》は1枚使用済み、2枚墓地に落ちている。《大群への給餌》は残り3枚、すべてライブラリーの中だ。引いてくる確率はそれほど高くない。《葬儀》で引いてくる可能性もあるが、墓地に落ちてしまうかもしれない。
6ターン目先手、ドリルのドローは2枚目の《アガディームの覚醒》。強力なカードではあるが、複数枚ほしいものでもない。ドリルは悩んで、《葬儀》を唱えることを選んだ。
「お祈りタイムですわね。こういうときって何に祈ればよろしいのかしら。ほら、わたくし神をも恐れぬ女ですから」
「最近まで灰色商人*31使ってた人の発言とは思えないよ」
「宗教ボケをかまそうかと思ったのですけれど、さすがに怖いのでやめておきますわ」
「恐れてる、恐れてるじゃん!」
「ああ……ツッコミがいるっていいですわね……。ファンタジー作品の奴隷市ありますわよね。今閃いたのですけれど、あれでキレッキレのツッコミができる奴隷とかいたら高値つきますわよ絶対」
「いいじゃん。どんなお話になるの、それ」
「まず、転生者の主人公が奴隷市に怒鳴りこみに来るんですのよ。奴隷を解放しろって言って」
「ここまではテンプレかな。それで?」
「そしたら、その奴隷が立ち上がって、ツッコむんですの。いやちゃうやろ自分、これ行政の認可を受けた経済行為やから。法的手続きを介して異議の申し立てをするのが筋やん。なに刃物ぶん回しとんねん」
「今時流行りのロジハラじゃん。主人公折れちゃうよそんなの」
「それで、この冴えわたったツッコミのおかげで奴隷は高値で売れました、と」
「落語? 今もしかして落語のあらすじ聞かされてる?」
引いてきたのは《死住まいの呼び声》*32と《ロークスワイン城》*33、墓地に落ちたのは3枚目の《葬儀》と《スカイグレイブの災い魔》*34だ。いいところが落ちた。手札には墓地からクリーチャーをリアニメイトする《死住まいの呼び声》と《アガディームの覚醒》があり、墓地が肥えるのはアドバンテージになるのだ。
ドリルは《ロークスワイン城》を置き、《残忍な騎士》をクリーチャーとして唱えた。そして3体で攻撃し、3点ダメージ。残り13点。
6ターン目後手、モノポリーは《更生の泉》で1点回復し14点。《総動員地区》*35を置いた。
「市民が暴動を起こそうとしていますわね。セバスチャン! 制圧いたしますわよ! 火炎放射器をお持ちになって!」
「こわ。為政者の風格だなあ」
「あら、モノポリーも皮肉を言うようになったのですわね。お母さん嬉しい」
「母親面するじゃん」
「そうよね、ごめんなさい……あなたに何もしてあげられないまま、こんなに大きくなって。わたくし、母親失格ですわね」
「そもそも母親じゃないんだよね。血がつながってないからね」
「つまり、わたくしとモノポリーは結婚できる……?」
「《拒絶》*36」
「いけず」
モノポリーは《よろめく鎧》を唱えた。アーティファクトは4つ、よって現在のサイズは4/3だ。
そして戦闘フェイズ。《結晶の巨人》に呪禁カウンターが載った。3/3警戒呪禁、これで攻撃。ドリルは《残忍な騎士》でブロックを選択した。《残忍な騎士》の絆魂で2点ライフ回復し、13点。そして《残忍な騎士》は死亡した。
7ターン目先手。ドリルのドローは《マラキールの再誕》。ドリルは《死住まいの呼び声》を唱えた。対象は《葬儀》で墓地に落ちた《残忍な騎士》だ。これで2/3絆魂接死威迫になる。
「うっわ、3マナで出ていい性能じゃないでしょ」
「3マナで出ないと弱い性能なんですわよ。3マナまでしかリアニできないカードで3マナのクリーチャー拾ってきただけなのですから」
「載ってる能力カウンターがさあ」
「結晶の巨人禁止されたら考えますわ」
「ぐぬぬ」
「推定美少女のぐぬぬいただきましたー! うぇーいありがとうございまーす!」
「何のノリそれ」
「2000年代のホストクラブですわね。行ったことありませんが」
2体の《帆凧の掠め盗り》で攻撃し、2点ダメージして残り12点。接死を持つ《穢れ沼の騎士》をブロッカーに立たせることで相手の動きを固めた。
7ターン目後手。モノポリーは《更生の泉》で1点回復し13点。手札は0枚。今モノポリーが使っているのは茶単コントロールであり、常に潤沢な選択肢を必要とする。ドリルはここまで読めているのにドローを封じる手段を何も講じていなかった。単純な頭の不足である。
モノポリーは《精神石》を起動。1マナと生贄で1ドローする。
そして戦闘フェイズ。
「ここで《結晶の巨人》が仕事できれば少しは勝ちも見えてくるんだけど」
「見えなくていいですわよ。頓死なさって」
「この盤面なんだから運が来たっていいと思うんだよね。ほら、日ごろの行いがいいし」
「ならわたくしにも運が来るはずですわ!」
「日ごろの行いは?」
「悪いですが! 悪いですがね! そこで静かに詰められるとさすがに来るものがありますわよ!」
飛行が載った。
「神は言っている、ここで死ぬ定めではないと――」
「あ、それ知ってる、エルシャダイ!」
「あら、世代じゃないと思ったのですけれど、意外ですわね。普通にゲームとして悪くはない出来なのに広告が流行りすぎて期待を超えられなかった悲しい作品ですわ。エノク書のビジュアル化って意味ではすごく面白かったですし、あのデザインで3時間映画にしてたら最高でしたわね」
「たまにインテリモード入るよねドリルちゃん」
「タオカカぶん回してチンパンしてるとき以外は基本インテリですわよわたくし」
「えっ」
「えっ」
《結晶の巨人》で攻撃、3点受けて残り10点。3/3警戒呪禁飛行、完全に止まらなくなってしまった。早くゲームを決定する必要がある。
8ターン目先手、ドリルのドローは5枚目の《沼》。これを置く。現在出るマナは7、《アガディームの覚醒》を撃ったうえでマナを残して警戒させるのに十分な数だ。X=3、合計6マナで唱えた。
「お、新環境カード」
「これいいですわよ、かなり仕事しますもの。《死住まいの呼び声》とは使い方が微妙に違いますし裏面が土地ですから共存しますわね」
「今回の裏面土地神話サイクル、いいよね。《髑髏砕きの一撃》*37とかよく見かけるし。雑に強いわけではないのがいいよね、すごく便利って感じで」
「《海門修復》*38撃たれても不愉快にならないですし、壊れ性能ではない強さが好きですわね。……これくらいべた褒めしておけばオムナスdisとバランス取れますかしら」
「取れてる取れてる、コンプラOKだよ」
X=3で唱えたため、点数で見たマナコストが1~3のクリーチャーを1体ずつまで蘇生できる。ドリルが選んだのは2マナの《スカイグレイブの災い魔》と3マナの《残忍な騎士》だ。6マナで7/7のクリーチャーと2/3絆魂のクリーチャーが出る。
戦闘フェイズ。《結晶の巨人》が飛行持ちになったため、《帆凧の掠め盗り》で攻撃するわけにはいかない。接死クリーチャーもブロッカーとして立たせておきたい。試行錯誤の末、ドリルはこのターンに戦闘を行わないことを選ぼうとした。
MTGアリーナのUIはシンプルで、カードをクリックすればそのカードを選択でき、捜査の決定やキャンセルは右下のボタンで完了する。攻撃を選択するには今回攻撃を行うクリーチャーをクリックし、次に「攻撃」ボタンをクリックすればいい。
ドリルは《帆凧の掠め盗り》の攻撃指定を解除し忘れたまま、間違えて「攻撃」ボタンをクリックしてしまった。
「……あら?」
「えっ、いいの? なんか構えてる?」
「よくないですわね。操作ミスってプレミに入るのかしら」
「MTGのプレミではないけどMTGAのプレミではあるかな」
「プレミ、プレミ、プレミ! プレインズウォーカーとして恥ずかしくないのか!」
「プレインズウォーカー以外の発言は認めない!」
「わたくしたちプレインズウォーカーですわよ。*39さて、どうしましょうかしら……」
ここで追放していた《工匠の達人、テゼレット》を無意味に返すのは望ましくない。残っている1マナとライフ2点でドリルは《マラキールの再誕》を唱えた。対象は攻撃している《帆凧の掠め盗り》だ。これで死亡時にもう一度盤面に帰ってくる。ドリルのライフは残り8点になった。
《結晶の巨人》にブロックされ何も成せずに死んだ《帆凧の掠め盗り》が再入場。これによって能力が再度誘発し、手札を確認することができた。モノポリーの手札は今しがた返った《工匠の達人、テゼレット》と《島》だ。《工匠の達人、テゼレット》を追放する。手札には土地しかないとわかったのは大きい。
「妙にテクいコンボをしたような気がしますわね。1マナとライフ2点でハンドのチェックと1枚追放」
「そう言われると強い気がしないでもないかもしれないような気がする」
「ほぼしてませんわね。うちの妹のモテ期と同じくらい微量」
「やめたげなよ、身内でもさ……」
「あいつわたくしの知らないとこでわたくしの黒歴史ネタにしてやがったからお相子ですわ。いいじゃありませんか、わたくしにだって……自分が世界一可愛いと思い込んでたシーズンがあったって……」
「それは、うん、まあ。前に写真見せてもらった感じ可愛いと思うけど」
「本当にぃ? 結婚してくれますぅ?」
「安定してキモい……」
8ターン目後手、モノポリーは《更生の泉》で1点回復し、ライフは14点。そして《宝物の地図》*40を唱えた。さっそく起動し、占術はボトム。続けて《更生の泉》を起動、生贄に捧げて1ドローした。
「引きはー、んー、悪くないね」
「悪いですわよ。それめっちゃ悪いですわよ。捨てたほうがよろしくてよ」
「自由に捨てられたら墓地肥やし放題じゃん」
「賢い、天才か?」
「天才。IQ5000くらいある」
「一瞬にして馬鹿になりましたわ」
《島》を置き、戦闘へ。《結晶の巨人》に載ったカウンターはトランプルだ。大変に強い。無色3マナで3/3警戒呪禁飛行トランプルになってしまった。
呪禁と警戒の載った《結晶の巨人》を処理する場合、考えられる手段としては接死持ちのブロッカーを立たせる、全体除去で対象に取らずに落とす、布告除去で相手に生贄に捧げさせるなどがある。ドリルのデッキからある動きは《死住まいの呼び声》で《帆凧の掠め盗り》を蘇生して接死をつける、《魔女の復讐》*41を撃つのいずれか。
ひとまずドリルは攻撃してきた《結晶の巨人》をもう片方の《帆凧の掠め盗り》でブロックした。死亡するが、返すのはほぼ意味のない《魔術遠眼鏡》だけ。それほど痛手ではない。
「わーい遠眼鏡だー」
「魔法の望遠鏡もらったんですからもっと喜びなさいな」
「もともと私の持ち物なんだよなあ」
「魔法の望遠鏡、実際ほしいですわね」
「うっわ」
「天体観測とかしたいですし。……あら、何を想像なさったのかしら? 興味深いですわね、露骨にドン引きボイスを発する魔法の望遠鏡の使い道」
「くそがよ……」
トランプルでダメージが貫通し、1点受けて残りは7点。そして《帆凧の掠め盗り》が死亡した。
9ターン目先手、ドリルのドローは《葬儀》。ここでドローソースのツモはとても偉い。除去さえ引くことができれば十分に勝負を決めにいける盤面だ。さっそく唱える。
「うわ、ここで?」
「ここで、ですわ。おお、神よ、わたくしにこの推定美少女を敗北アクメさせる力を!」
「応える神がいるなら私が滅ぼしてやるからねそれ」
「ゴッドスレイヤーモノポリーは普通に見たいのでそれはそれで……」
「だめだ、どう振っても勝ちが見えない」
「ミーの勝ちデース!」
引いてきたのは《帆凧の掠め盗り》と《沼》。墓地に落ちたのは《大群への給餌》と《マラキールの再誕》。ひどく微妙である。2点ダメージを受け、残りは5点だ。そろそろゲームを終えないと事故がありうる状況だが、決定するものが見えてこない。
《沼》を置き、飛行ブロッカーを増やすために《帆凧の掠め盗り》を唱える。入場でモノポリーの手札を確認した。《魔法遠眼鏡》と《結晶の巨人》だ。
「げえっ、おかわり!」
「ほら、この終盤で3マナのクリーチャー抱えてるだけだからさ」
「その3マナがどうかしてるんですのよ……どうかしてるぜ! ヒーハー! 辛くてヒー! うまくてハー!」
「よくないよ、自分が面白くないからって面白い人のネタをパクるの」
「急に殺しに来ますわね。日記に書きますわよ今の」
「いいよ?」
「結婚式の友人代表スピーチで読み上げますわよ?」
「それは嫌」
「あら、友人代表スピーチはさせてくださいますのね。嬉しいですわ、友達だと思っていただけているようで!」
「テクが詐欺師! 詐欺師の動きだよそれは!」
戦闘フェイズ。最低限のブロッカーとして《帆凧の掠め盗り》2体を残し、すべてのクリーチャーで攻撃する。《穢れ沼の騎士》は1/1接死。ブロックすれば大損のため、まず1点通る。接死と威迫の載った《残忍な騎士》はブロックすれば1:2交換になるため、これも2点通る。となれば残りの《残忍な騎士》と《スカイグレイブの災い魔》を止めることになる。ドリルはそう読んでいた。
しかし、モノポリーがブロックしたのは《残忍な騎士》だけだ。合計9点通り、残り5点。そしてドリルは《残忍な騎士》2体の絆魂で4点回復し、残り9点。《スカイグレイブの災い魔》は最も多いライフを参照するため、ドリルの9点を20から引いて11/11になる。
「いいんですの?」
「ライフは1点残ってれば勝ち。知らないの?」
「あら、スーサイドデッキにでかい口叩きますわね。吐いた唾は呑めないって慣用句ありますけど、あれ吐いた唾這いつくばって呑まされるほうがよっぽど精神的にきますわよね。いつかやらせてみたいですわ」
「発想がさ、すさまじく邪悪」
「こんなピュアピュアガールを指して邪悪とおっしゃる」
「純粋悪ってやつだよきっと」
「ちょっとかっこいいなって思ってしまうからわたくし一生中二病ですわね。明日は腕に包帯巻いて出勤しようかしら」
「普通に心配されるだけじゃないの?」
「確かに。眼帯付けていったときもそんな感じでしたわね」
「実行済みとはおそれいったよ」
9ターン目後手、モノポリーは《宝物の地図》を起動し、占術はボトム。そして2体目の《結晶の巨人》と2枚目の《宝物の地図》を唱えた。さっそく《宝物の地図》を起動し、占術はボトム。勝ちを諦めないムーブは対戦相手としてドリルも気持ちよく思うが、それはそれとして無限に動く様子が恐ろしい。
そして戦闘フェイズ。先に出ていたほうの《結晶の巨人》には接死が、新しい《結晶の巨人》には飛行が載った。かなりまずい盤面だ。
「どうして巨人すぐ飛んでまうん?」
「ドリルそれ能力ちゃう! カウンターや!」
「この丁々発止があるから雑ボケやめられないんですわよね」
「つまり……私がツッコむからそのボケが止まらない?」
「そうなりますわね」
「ごめんね……」
「ガチの哀れみみたいな声出さないでくださるかしら! 演技力がすごいんですのよモノポリーは! ちょっと苦しさで涙滲みましたわよ今!」
《帆凧の掠め盗り》でブロック。接死の「1点でもダメージを与えれば相手を破壊する」とトランプルの「ブロックされて減った残りのダメージはプレイヤーやプレインズウォーカーに与える」が組み合わさり、《帆凧の掠め盗り》は1点のダメージで死亡、残りの2点をダメージとして受けて残りは7点。《魔術遠眼鏡》が戻るがそこは誤差の範疇だ。そろそろ苦しい盤面になってきた。
10ターン目先手、ドリルのドローは《葬儀》。悪くない引きだ。ライフがコストに要求されるものの、勝ちにいくカードを探しにいける。
シミュレーション。2点支払って残り5点、《大群への給餌》を引いてこれれば新しい《結晶の巨人》を除去するために3点支払って2点残る。盤面には《よろめく鎧》と古い《結晶の巨人》が残る。《穢れ沼の騎士》、《帆凧の掠め盗り》、《残忍な騎士》、《スカイグレイブの災い魔》で攻撃し、《スカイグレイブの災い魔》が必ず止まる。接死で相討ちを狙って《結晶の巨人》でブロックするなら残るのはサイズの縮んだ《よろめく鎧》だけのため、絆魂分の2点が回復して4点残っており、引き次第では次のターンに勝ち。《よろめく鎧》でブロックするなら難しいが、《結晶の巨人》に+1/+1カウンターが載らなければ勝ちがぐっと近づく。
あとは引くだけ。
「来いッ!」
引いてきたのは《穢れ沼の騎士》と《スカイグレイブの災い魔》、落ちたのは《残忍な騎士》と《大群への給餌》。除去がすべて落ちてクリーチャーを引いた。
「あああ……」
「なんか一瞬ペルソナのカットイン入る声出さなかった?」
「ペルソナいいですわよね……P5Rやりました?」
「PS4持ってない」
「PS5出たらぜひお買い求めになって。デモンズソウルでマルチいたしましょう。わたくしこれでも裸ブラムドでカンスト最黒走ってた猛者ですのよ。すっかり要人になりましたけれど」
「なんかわからないけど変態なのはわかる。ソウルシリーズ触ったことないんだよね。デモンズソウルって面白いの?」
「かぼたんの足がえっち」
「きも」
こうなれば計算をやり直す必要がある。ブロッカーとしても機能するよう《スカイグレイブの災い魔》を唱え、入場。そして同様に《穢れ沼の騎士》を唱え、これも入場。かなり盤石な盤面だが、飛行ブロッカーが1体しかいないうえにブロックすると《工匠の達人、テゼレット》を返すことになるのが心残りだ。
戦闘フェイズ。《穢れ沼の騎士》、《残忍な騎士》、《スカイグレイブの災い魔》で攻撃する。
「これはブロックしかないなあ」
「そらそうでしょう、土地フルタップなんですから」
「まあ、でも、死なないしセーフ」
「本当に? 死とは見えぬ間にそのくるぶしを掴むものでしてよ?」
「それ誰の言葉?」
「わたくしですわ」
《残忍な騎士》を新しい《結晶の巨人》と《よろめく鎧》で、《スカイグレイブの災い魔》を古い《結晶の巨人》でブロック。《穢れ沼の騎士》の攻撃が通って1点ダメージを与え、残り4点だ。そして《残忍な騎士》と《スカイグレイブの災い魔》を犠牲にしてモノポリーのクリーチャーをすべて死亡させた。
もちろん、まだ油断はできない。しかし、勝ちを掴みつつある。
「よーし、ここから勝つ!」
「その意気ですわよ。折れた相手を負けさせても気持ちよくありませんもの」
「たまにドリルちゃんがマゾなのかサドなのかわからなくなるよ」
「困難を乗り越えた瞬間が一番絶頂できるんですわよ。乗り越えられない困難は普通に嫌いなのでマゾにはなれませんわね。それはそれとして美女にピンヒールで踏まれたくはありますが。今度やってくださる?」
「え、無理」
「いけずぅ」
10ターン目後手。モノポリーは《宝物の地図》を起動し、占術でボトムに送り、そして《宝物の地図》を《宝物の入り江》へと変身させた。さらに新しいほうの《宝物の地図》も起動し、占術はボトム。
モノポリーがこの盤面で唱えたのは《崇高な工匠、サヒーリ》*42だ。《次元間の標》が誘発して1点回復し、ライフは3点に。そして早速《魔術遠眼鏡》を唱え、霊気装置を出す。これでは延命として不十分だ。しかし、モノポリーが投了していないということは、何か考えがあるのだろう。ドリルは背筋に汗が伝うのを感じた。
11ターン目先手。ドリルのドローは《沼》。ブラフとして構えておくことも考えたが、この状況ではブラフがあろうと生き残るために動くだろう。《沼》を置く。
「フルパンだと足りませんわねこれ」
「そうだね、災い魔が止まって3点通って残り2点」
「んー、それなら」
ドリルは《アガディームの覚醒》を唱えた。X=3、持ってくるのは《残忍な騎士》と《スカイグレイブの災い魔》だ。次のターンに《宝物の入り江》からブロッカーを複数展開されても確実に押し切るための動きとして悪い判断ではないはずだとドリルは確信していた。
「うわあ、広がるじゃん」
「暗黒の中であんこ食いなさい」
「は?」
「は?」
計算通り3点通り、残りは2点。かなり勝ちが見えている。
11ターン目後手。モノポリーは《宝物の地図》を起動し、占術はトップだ。
「トップ?」
「トップ!」
そして《宝物の入り江》を起動し、宝物トークンを生贄に捧げて1ドローした。トップに置いたカードを持ってくることになる。
「私の答えはこれだ!」
無色8マナ。ドミナリアの古きエルダー・ドラゴン、《精霊龍、ウギン》が入場した。
《精霊龍、ウギン》*43が入場したことで《次元間の標》が誘発、1点回復しモノポリーのライフは残り4点。そして《崇高な工匠、サヒーリ》も誘発し霊気装置トークンが出た。しかし、それらはすべて些事だ。
忠誠度を-3し、《精霊龍、ウギン》の能力を起動。点数で見たマナコストが3点以下の有色パーマネントはすべて追放される。
《穢れ沼の騎士》、《帆凧の掠め盗り》、《スカイグレイブの災い魔》、《残忍な騎士》。すべて盤面から消え、残ったのは《精霊龍、ウギン》と霊気装置トークンだけだ。
「これはー……なるほど。やられましたわね」
「でしょ?」
感嘆のため息しか出てこない。カードの性能だけではない。8マナのリセットカードを撃てるデッキを組むデザイナーとしての実力も、ここで引いてくるプレイヤーとしての実力も。
モノポリーは《スコフォスの迷宮》*44を置きターンを終えた。
12ターン目先手。ドリルのドローは《ロークスワイン城》だ。これを置けば《ロークスワイン城》が2枚、残りの黒マナが出る土地は8枚。《ロークスワイン城は》3マナとタップで1ドローでき、その後手札の枚数だけダメージを受ける。使わなければ負けるが、ライブラリーに勝ち筋は残っているだろうか。プレインズウォーカー除去は《残忍な騎士》のみだ。
それでも投了する気分ではなくて、ドリルは《ロークスワイン城》を置いて起動した。
起動。《帆凧の掠め盗り》。1点ダメージ。残り6点。唱えて《工匠の達人、テゼレット》を奪いなおす。
起動。《ロークスワイン城》。1点ダメージ。残り5点。土地は1ターンに1枚しか置けない。
「フルタップ。手札1枚。クリーチャーはすぐに焼ける状態。ふふ、どん詰まりですわね」
「悔しい?」
「そりゃもう。無色8マナのトカゲ風情に勝ちの盤面をひっくり返されて怒り心頭ですわよ。黒焼きにして温泉地で売ってさしあげますわ。《残忍な騎士》がいればすぐ串に刺せたのに、惜しいですわね」
「そっかあ。よし、勝つよ!」
12ターン目後手。《精霊龍、ウギン》の忠誠度能力で3点火力が《帆凧の掠め盗り》に飛び、死亡。そして《工匠の達人、テゼレット》がモノポリーの手札に返る。次に《宝物の入り江》を起動し、宝物トークンを生贄に捧げて1ドロー。《聖遺の塔》*45を置き、取り戻したばかりの《工匠の達人、テゼレット》を唱えた。《次元間の標》が誘発して1点回復、モノポリーのライフは現在残り4点。
まだ止まらない。《工匠の達人、テゼレット》の忠誠度能力で2ドロー。《宝物の入り江》で宝物トークンを生贄に捧げて1ドロー。4マナで《ウルザの後継、カーン》*46を唱えた。再び《次元間の標》が誘発して1点回復、残り5点に。そしてモノポリーは《ウルザの後継、カーン》の忠誠度能力で構築物トークンを出した。霊気装置トークン、宝物トークン、《魔術遠眼鏡》、自身で4つのアーティファクトをコントロールしているため、4/4になる。
霊気装置トークンで攻撃し、ドリルのライフは残り4点。
どうあがいても負けだ。
13ターン目先手、ドリルのドローは《靴かじり》*47だ。唱え、ターンエンド。
「やれぇ、隻狼!」
「最後の最後でネタがわからない、ごめん」
「そんなことってあります?」
13ターン目後手。モノポリーは《精霊龍、ウギン》の忠誠度能力で3点火力を飛ばし、《靴かじり》を除去した。
「せっかくなのでやっておきますか」
「なにを?」
「スーサイドですわ」
ドリルは《ロークスワイン城》を起動した。
起動。《沼》。1点ダメージを受け残り残り3点。
起動。《悪魔の抱擁》*48。2点ダメージを受け残り1点。
「しまった……貴様の拳法では死なんをしようとしたのですけれど、マナが足りませんわね」
「あと1点かあ。惜しかったよ」
「ウギンの前に敗北した黒のプレインズウォーカーには自死すら許されないのですわね……くっ、殺せ!」
「いま殺すよー」
「くっころ女騎士をノータイムで殺す話あります? えぐすぎませんこと? エロゲだって言われてそれ出されたらお電話とお便りだけじゃすみませんわよ?」
「なにするの?」
「一揆」
「もうなにもわかんないよねドリルちゃんのこと」
トークン2体で攻撃し、ドリルのライフは-4点。爆散。
「ぐっげーぐっげー、って感じですわ」
「うん、グッドゲーム。楽しかった!」
「そうですわね、なかなかいい感じでしたわ。ウギン強いですわね……」
「あれは完全にデスティニードローだよね。右手光ってた」
引きの強さも実力のうち。これはそういうゲームであり、その運をモノポリーは大量のドローソースで補強している。然るべきムーブだ。
「実は勝ち筋ないこともなかったんですわよ、あの盤面」
「そうなの?」
「《マラキールの再誕》で固めずに構えて、ウギン入場後に唱えればあるいは。ウギン引いてくる可能性とブロッカー引いてくる可能性で後者に賭けたので、完全に運負けですけれどもね。もしくはマナコスト4点以上のクリーチャー引いてこれればそれでもありでしたわね、ウギンで落ちませんし」
「4点以上かあ」
「《虐殺のワーム》*49今引きで出せればトークン落としつつ2点ダメージでしたわね。んー、最後の最後で引き運に負けましたかしら」
ドリルは伸びをして、だいぶ炭酸の抜けたリモンチェッロを飲み干した。空腹でめまいがしている。カップ麺の残り汁に白飯を突っ込むことを心に固く誓いながら、ドリルはデッキの確認をした。
「プレインズウォーカー並ぶともうだめですわね。《残忍な騎士》4枚しか入ってないのに最終局面で落とさなきゃいけないプレインズウォーカー3体。どうしろってんでしょう」
「《古呪》*50入ってないんだ」
「あれスタン落ちしてますわよ、いい加減スタンのデッキお組みになって。……やっぱプレインズウォーカーってやべえですわね」
「いい加減使いなよ、持ってるんでしょ?」
「それはまあ、パック剥いてますし。でも、なんか使う気になれなくて」
スタンダード環境で黒単に入るのは2種類のリリアナ・ヴェスなのだが、ドリルはこの人物に軽くない思い入れがある。ストーリーも好きだが、初めて剥いたパックで出てきたカードなのだ。その人物が微妙な性能で、しかも消極的な選択でデッキに入れるというのは、どうにも嬉しくないように思えた。
「まあ一応チェックしましょうか。6マナのリリアナ*51が微妙なのは覚えてますわよ。あとはー……え、これ強くないですか?」
「4マナのほう*52?」
「そう、4マナの。……これ、これって。いや、間違いないですわね。《ヴェールのリリアナ》*53ベースに調整したデザインですわ。わたくし、これ使います!」
「よかったじゃん。これでプレインズウォーカー使ってないは言い訳にならないよ!」
「いやスタンダードのデッキでヒストリックに食いつけてるだけで褒めてもらえませんこと?」
このあと二人は散々オムナスの悪口を言ってから解散したが、翌日にオムナスが禁止された。それを知った二人のお祭り騒ぎはまた別のお話。