その事を聞いて大ちゃんと直接話をつけに行くもおかしな雰囲気になって…。
リグルとみすちーに発生した不和。音楽性の違いってなんぞ。
このわかだまり、どうなることやら。
の2本です。
「大ちゃん!」
私は大ちゃんの家までやって来た。そしてドアベルの紐を引っ張って鳴らす。少しして大ちゃんが出てきた。
「ああ、チルノちゃん。なあに、どうしたの?」
「ちょっと話があってさ…」
「うん、いいよ。入って」
私は導かれるままに大ちゃんの家の中に入った。
「どうしたのそんな険しい顔をして。お茶をいれて来ようか?」
「いいんだ。今は大ちゃんと話がしたい」
大ちゃんは私と向かい合って座る。私は深呼吸する。ここに来るまでどうやって切り出すとか、どんな返事を出すとか悩んでいた。でも、私は不器用だから…。
だから、当たって砕けろで行こうと思う。下手に取り繕うより自然な気持ちを言葉にできるはずだ。
「大ちゃんは…私の事が好き?その、恋愛対象として…」
「うん、そうだよ。大好き愛してる」
面を向かってここまで言われると次の言葉に詰まるな…。
しかし、ここまで言ってくれたんだ。ちゃんと向き合わないと。
「大ちゃん、私は大ちゃんが好き。でも、それは友達としてなんだ。しばらく考えてみたけど、大ちゃんとは友達でありたい」
「うん。私もそうありたい」
即答だった。
「そ、そうなの?」
「チルノちゃん、あそこの小鳥が見える?とても可愛いよね」
指を差した先には雀がいた。ちゅんちゅんと鳴いてて可愛い。
「うん。可愛い」
「じゃあさ、あの小鳥を捕まえて籠の中に入れて家に飾りたい?」
「いや…あのままでいいと思う」
「太陽が見えるよね。とっても綺麗。でも、星空から太陽を奪って独り占めにしたいとは思わないよね」
「うん…?」
「同じなんだチルノちゃん。君はありのままの姿であってこそ真の輝きを放つもの。あなたは私の愛の籠の中では光を失ってしまう。私はあなたを愛せない。だからチルノちゃんの恋人になりたくない」
大ちゃんの顔から笑顔が消える。どこか先ほどまでの空気が彼方へ行ったように張り詰める。彼女の背中から八つの足が生えて、それぞれの足が私を離すまいと掴んでるような気分になる。開かれた眼はまるで捕食者だ。
前に誰からか聞いた事がある気がする。造網性の蜘蛛は、獲物を糸で雁字搦めにして身動きを取れなくすると消化液を流し、溶けた所から吸うのだと。私の体を縛るものは何もないが、指先1つ動かす事はできない。
「チルノちゃんとの恋は小説の中で我慢できる。だからもっと色んなチルノちゃんが見たい。野原を自由に駆けるチルノちゃん、友達と談笑するチルノちゃん、悪だくみをするチルノちゃん…」
そう言いながら近づいて来た。酷くのどが渇く。やっぱりお茶を頼んでおけばよかったかな…。
「恐怖で怯えるチルノちゃんとか」
そう言って唇を重ねた。紅魔館で体験したソレとも違う、優しくひんやりした這う様なキス。
どのぐらい時間が経っただろう。1時間ほどだったかもしれないし、数秒だったかもしれない。大ちゃんが離れる。
「ちょうど今書いてる場面のチルノちゃんのリアクションの描写に困ってたんだ。ありがとう、参考になったよ」
そう言いながら机に戻っていった。私はどっと疲れてその場にへたり込む。
「怖がらせてごめんね。とにかく私も恋人にはなる気はないよ」
嬉しい様な…残念な様な。自分でも良く分からない感情が胸中を渦巻く。
「もし…私の方から大ちゃんと付き合いたいって言ったら?」
「どう答えるだろうね。試してみる?」
大ちゃんは振り返りもしなかった。時々、大ちゃんが何を考えているかわからなくなる。私は「じゃあね」と言って家を離れた。大ちゃんは机に向かいあいながら手をひらひらとした。自宅に戻ると、リグルがいた。ゲームの筐体をじっと眺めていたが、私に気が付くとこちらの方に歩み寄る。
私の顔を見ると、何かを察してハグしてくれた。
「怖かった…」
「どんなやり取りがあったかは敢えて聞かないでおくよ」
「ありがと」
私を離すと、軽く背中を叩いてから去っていった。
とにかく大ちゃんはこれまで通り友達。これまでも、これからもそうなんだろう。
翌日、私は寺子屋に向かった。今日は割と早く出たので遅刻はないはず。大ちゃんは相変わらず先に行っている。道中で木を殴っているルーミアを見かけた。何をやっているんだろう。
「シッシッ、シッ!蜂の様に舞い蝶の様に刺す!」
木の蜜でも吸うつもりなんだろうか。
「おはよ。何やってんの?」
「けーね先生の頭突きにビクともしない体作り。シッシッ、シッ!」
何故そう努力の方向が明後日に行くのか…。(無理だろうけど)頭突きを避けようとか、宿題しようとか、余計なことを言わないようにしようとか思わない所がルーミアらしいと言うか。ウォーミングアップを済ませていくとの事なので私は先を急いだ。
更に進むとリグルとみすちーと会った。2人ともいつになく距離を開けて歩いてる。私は2人の間に入って肩を叩いた。
「やっほー」
「わっ、チルノか…」
「珍しく早起きなんだね、チルノ 」
別にいつも寝坊してるから登校が遅いわけではないけどね。
「2人ともどうしたの、朝から話もしないで何となく距離あけちゃってさ。不仲?不仲説?」
「音楽の方向性の違いってやつかなぁ」
みすちーが前髪を手櫛しながら言った。
「何そのワンフレーズ、イケてる。真似していい?」
「ダメ」
「昨日、みすちーが誘ってくれたからライブを聴きに行ったんだ。酷かったよ、あんなの音楽じゃない。頭に響いてぐわんぐわんしたよ」
「リグルってばこんな事言うんだよ。酷くない?」
「ただ叫んでるだけじゃないか。君の音楽には情緒がない。情景も浮かばない。そんなものは音楽とは言えない、そうでしょチルノ」
「またそんな事を言う。リグルが好きな音楽が古いんだよ。まるでお葬式みたいにしんみりした曲しかなくてさ。気が滅入っちゃう。チルノもそう思うでしょ?」
「ま、待ってよ二人とも。私は歌には疎くて…。そうだ、ルーミアとか大ちゃんに聞こうよ」
2人はしばらく考えていたが賛成してくれた。とりあえず何とかその場をしのいで寺子屋に到着すると、先生が来る前に早速とその話を大ちゃんにした。2人とも熱心に自身の好きな音楽について主張しているが当の大ちゃんはピンと来ている様子はない。
そのうち、大ちゃんはどんな曲が好きなのかとかそんな話になってきた。
「私は夜の女王のアリアが好きかな。と言っても香霖堂のクラシックレコードで一度聞いた事があるだけなんだけど」
聞いた事がない。リグルもみすちーも首を傾げた。
「へぇークラシックなんて聴いてるんだ、モーツァルト?」
ルーミアが扉をあけながらやって来た。
「おはよう、ルーミアちゃん。知ってるの?」
「知らない」
皆がその場でずっこけた。そうこうしているうちにけーね先生がやって来た。