何でも魔法の森に手掛かりがあるんだとか。魔理沙も一枚噛んでるかもしれない。
それから、ジェーンって言うあの女がやってきた。入れ違いにスカーレットデビルもやってきた。
ああ、これも世界の選択なんだろう。ラ・ヨダソウ・スティアーナ。
「幻想郷に…海?そんな馬鹿な、一体どこに…」
「山の中にあるんだ。妖怪の山だよ」
「…馬鹿にしてる?海を見た事なくても山の中に海なんてない事も知ってるし、あの山は余所者に厳しくてとても入れやしないよ」
「聞くんだ。私はある用事があって魔法の森に行ったんだ。そしたら何者かに奇襲を受けてしまって。戦おうにも相手の姿がどこにあるか分からないんじゃ戦いようがない。とりあえず隠れてやり過ごそうと茂みに隠れたら、そこに穴があったらしく落ちてしまったんだ」
ふと思い出した。ある夜に思い立って夜の空を飛びまわったあの日。人里の方角へ飛んで行っている最中に霊夢に会った。奇襲を受けて魔法の森の近くの池に隠れてやり過ごした。
霊夢の言う胸騒ぎの事が何なのかは分からなかったが、その場を飛び立とうとした時に感じたあの気配。
「ちょっと待ってリグル。その奇襲をした相手、正体は何となく誰だか分かってたりしない?」
「…まあ、何となくだけど確証ではないよ。でもなんで分かるのさ」
「魔理沙でしょ」
「………さっきの話の続きを言うよ」
リグルは答えなかった。あの間、あの表情。奇襲してきた相手の事なのにどうして明言を避けるのかはわからないが、私の返答はおよそあってるものと考えて言いに違いない。
池を飛び去ったあの時にこちらを覗いていた気配。私は魔理沙だったと考えている。数度に渡る弾幕勝負であの匂いをはっきり覚えた。用が無ければ頻繁に人前に姿を現したりしないが、それでも近くにいれば下手な妖怪や人間よりも明確に区別しておよその位置を探知できる。
何か面倒ごとに関わりそうだったから気付かないふりをした。霊夢の胸騒ぎ、リグルの見たとかいう海…何か関りがあるんだろうか。とはいえ現時点で霊夢に話すのはやめておこう。
「穴は深くなかったけどどこまでも続いてた。何か棲んでたら危険だって思ったりもしたけれど、そんな気配もなかったし興味本位で奥に進んだんだ」
「まさか、魔法の森から妖怪の山まで通ずる穴でした。なんてオチじゃないよね」
「ところがが通じてたんだ。妖怪の山の麓にまでだよ。良く分からない小さなお堂の後ろに繋がってた」
「あり得ない。魔法の森からでしょ?一体どれだけ距離があると思って…。それに、そんな穴を妖怪の山の妖怪が知らないとも思えない」
リグルは話の続きを言わない。
このままでは話が進まない。そういう事なんだろう。今はそのリグルのとんでも話が事実である事を前提に進めるしかないようだ。私は「ごめん」と言うとリグルは続きを話し出した。
「穴から出てるとどこからかチリンと鈴の音が聞こえた。気にせず先に進んで光景を見るとここが妖怪の山の麓だって気付いた。とんでもない所に来たって思った。もっと驚いたのはその後だ。穴に戻ろうとすると先ほどまでなかった道が左側にあるんだ。そこの先はその時刻にはあり得ないほど明るくて…」
リグルは少し興奮気味に話している。そしてその話の先は恐らく…。
「海に通じていたと?」
「うん。そうなんだ」
この表情、嘘を言っている様には思えない。リグルは私をからかったりするのに嘘をついたりすることもあるが割と表情に出てしまうからわかりやすいのだ。しかし、本当にあり得るんだろうか。何かの見間違いとか…。
リグルは大きく深呼吸をした。
「信じられないだろう。私も夢だと思った。その日は帰って、別の日にまた行ってみた。やっぱりあったんだ」
しばらく間が空いた。それからリグルは私の両手を掴んだ。
「今から行こう!チルノにも見てもらいたいんだ」
「そんな、急に言われても…」
「何も持ち物なんていらないよ」
確かに見に行くだけだしなぁ…。承諾しようと思ったその時、遠くにジェーンが見えた。
「え、ジェーン?」
私が驚くとリグルはそっちを向いた。ジェーンはこちらに気付くと駆け寄ってくる。リグルはため息をついてから私の肩に手を置いた。
「明日、学校が終わってから行こう。それまでに準備は済ませておいて。それじゃまた明日!」
そう言って走っていった。遅れてジェーンが駆け寄ってくる。もう、一体なんなんだか。私は呆れて一言何か言ってやろうと思っているとジェーンは私の目の前に来て勢いよくキスをした。私は驚いて突き飛ばす。
「ジェーン!キスはやめてよ!」
「まあ減るもんじゃないし許してよ。こっちで君を探すのに時間がかかったんだ」
「こっちで私を探すのと私にキスするのと何が関係……」
つい最近の大ちゃんの事を思い出した。
「もしかしてジェーンも私の事が好きなの?」
「給水ポイントみたいなものよ。それはそうといい加減私の事をジェーンと言うのはやめて」
「自分から名乗ったんじゃないか」
「だから、本名名乗ったでしょうが!この間の金貨、調べはついたでしょ?!」
お互いに怒鳴り声をあげるもので、少し離れていた所から見ていた人達から注目を浴びる。一度冷静になって場所を変える事を提案すると彼女も同意してくれた。近くの両替機でカッパコインを現金に換える。その金で茶屋に入った。
驚くことにジェーンはお金を持っていないらしい。仕方がないので私から支払うことになった。
「まず私から質問させて欲しい。どうして私を探していたのかと、紅魔館を離れられないんじゃなかったのかって事」
「1問目はあなたが私に会いに来ないから。2問目は今日は特別だったから」
答えてはいるが答えになってないような気がする。
「チルノは私の賭けに負けたの。だから私の遊び相手になる義務がある。でも来ない。酷いじゃん」
「まだ1週間も経ってないでしょ。さすがに毎日はいけないって、勘弁してよ」
「まあいいや。この間の金貨を貸して」
返して、じゃないのか。そう思いながら金貨を貸した。私もこんなものを丁寧に持ち歩かなくてもいいとは思っているんだけれども…。ジェーンはすぐにそれを私に返した。何やら不思議な力を感じる。何をしたんだろう。
「いい、これは肌身離さず持ってて。それから、絶対に売っちゃ駄目だからね」
「売らないよ…」
多分。
「それじゃ、そろそろ行くから」
ジェーンは立ち上がった。
「もう行くの?まだ色々と話したい事があるんだけど…」
「そのコインを通じて話ができる様にしたから。私の顔が見たいならいつもの場所に来ればいいし。もう時間がないから、じゃあね!」
本当に忙しいヤツだなあ。ジェーンは店を飛び出していった。彼女の通った後がゴォッと音を立てて後から風が吹く。少し姿勢を低く屈んだかと思うと枝の様な翼を生やした。その羽の先にはじゃらじゃらと宝石の様なものをぶら下げている。
そしてあっという間に飛翔していった。前紅魔館で見た時は姿を消したりもしていたが、結局何者なんだろうか。ひょうっとするととんでもない人と関わってるんじゃないかと段々と恐ろしくなって来た。
遅れてだかだかと誰かが走って来た。店の前で派手にどてーっと転ぶ。私は転んだ人の体を起こしてあげた。その人は肩で息をしながらこちらを向いた。
「はぁ…はぁ…。ね、ねえ…こっちに変な奴来なかった?」
「今この辺りで一番変なのはあなたよ…」
「ちが、そうじゃなくて…。金髪で赤い目で、いかにもな高慢ちきで、上から目線な物言いがいちいち鼻につく女の子が来なかったかと聞いてるの」
「よく似た子ならさっきいたよ。ジェーンって言うんだけど」
「あの子だわ。あ、もうだめ…」
そこまで言うと気絶した。参ったなぁ。私は店員に許可をえて店の中に入れて横にさせる。枕まで持って来たので頭の下に敷いた。ジェーンが一口もつけなかったお茶を飲む。この子どこかで見たような…。そう思っていると思い出した。あのレミリアと以下言う子だ。
まずい時にまずい子と会ってしまったなぁ。とはいえ、このまま置いて帰る訳にもいかないし…。
いや、ここは人里だ。ここで好き勝手暴れる事はできまい。素直に謝って確執を解いておくのもいいかもしれない。
…そう言えばけーね先生から授業で回復体位と言う物があると聞いた事があったな。まずは仰向けにして右足を左足に乗せてクロスさせる。次に右腕を胸の上に置く。そして体を左側に倒して横向きにさせる。顎を指で押して頭を少し上に向かせる。右手の甲を顎の下に敷いて呼吸がしやすいようにした。こんな具合だっただろうか。
※筆者は医療従事者ではないので記述が正確ではありません。気になる方は「回復体位」で調べてみてください。
しばらく休んでいるとレミリアが起きた。
「…はっ!いけない、気を失ってた。フラン、フランはどこ?」
「さっき言ってた金髪がどうたらの子?」
レミリアは私の肩を掴んで揺らす。
「すぐに連れ戻さないとまずいの!いつも大人しいから、パチュリーがいない3時間ぐらいって思ってたのに…」
「多分だけど紅魔館に戻ったと思うよ」
「そんな訳ないでしょ。サメ映画に出てくるサメよりも獰猛で理性的な考えができず、目に映った物を片っ端から襲っていくあの子が大人しく紅魔館に帰る訳がない!ああ、あるいは血が足りずに倒れてたらどうしようぅ…。たった1人の妹なのにぃ」
サメ映画?
「ああもう、分かった探すの手伝うって!お姉ちゃんなんでしょ、しっかりしてよ!」
レミリアをなだめてから一度外に出る。それからコインを通してこちらから連絡を試みた。案外とあっさりと通じる。
「あろー。紅魔館に帰ったよ。最初に連絡するのがそっちからとは思わなかった」
「おい、フラン!姉貴が心配してんぞ!」
「色々とツッコミたい気持ちはあるけど今は黙っておくね。とにかく家に帰ったって伝えてよ」
「信じてくれないんだよ!さっきまでここにいたけど自宅に戻ったって言っても!」
「あーあー、わかったわかった。一発で信じさせる合言葉があるの。私が去り際に『先に戻ってるね、レザンコンペトン』って言ってたって伝えて」
「は?レザ…」
「レザンコンペトン」
そう言って一方的に切られた。もう、何なんだか。私は急いで茶屋に戻った。
「レミリア、そう言えばフランから伝言をもらってたんだった」
「え、なに?」
「『先に戻ってるね、レザンコンペトン』だってさ」
「あのバカ妹、そうやってまた人を馬鹿にして!もう二度と心配なんてしてやるもんかよ!」
そう叫んで立ちあがった。私にお礼の金を渡すとすぐに店から飛んで行った。迷惑な姉妹だなぁ。それにしても今まで関わってたあの子の正体がまさかあの紅魔館の主の妹だっただなんて。神社での宴会で何回か耳にしていた程度だったけれど。
私もなんだかドっと疲れて家に帰ろうと思っていた頃にレミリアが戻って来た。
「ところで、私達どこかで出会わなかったっけ」
げげっ、完全に忘れてると思ったのに…。ここはこの子が好きそうなノリで適当に流すとしよう。
「組織の機密保持のために、お互いに深入りしない条件だったはずだスカーレットデビル。それじゃ幸運を祈る。ラ・ヨダソウ・スティアーナ」
「ラ・ヨダソウ・スティアーナ」
レミリアは決めポーズをして去っていった。ふぅ、上手く乗り切った。疲れたしさっさと家に帰ろう。そう思って前を向くと偶然通りかかったらしいルーミアがいた。目の前でさっきのレミリアのポーズを決めてキリッとした顔をする。
「ラ・ヨダソウ・スティアーナ」
うるせえ。
仕方がないので私も決めポーズをした。
「ラ・ヨダソウ・スティアーナ」
お互いに用事もないのでそのままルーミアと別れて家に帰った。ラ・ヨダソウ・スティアーナってなんだよ。
畳む風呂敷より広がる風呂敷の方が多すぎて手に負えなくなって来た事を感じるこの頃。