道中、香霖堂という店を見かけた。そこに射命丸の姿が。
彼女なら何か知っているかもしれない。そう考えたチルノは大きく息を吸い込んで…
「やっぱり新聞と言えば花果子念報だよねぇーっ!!」
夕方。ゆっくり養生していた事、非常に快適な環境である事もあって風邪の治りは早かった。私はにとりの許可書を持っているから堂々と下山できる。
私はにとりの家の電話を使って寺子屋に連絡し、リグルに魔法の森の集合場所を伝えた。私は山を降りていく。またここを登る事になるのだが。
いつ止められても良い様に手に通行許可書を持って歩く。周りの妖怪は私を見ていたが、特に話しかけはしなかった。
結局、誰からか引き止められる事もなく山を降りる事ができた。それから魔法の森へ向かう。集合ポイントとなるのはここ、魔法の森の入り口だ。いかにもなオンボロの看板がある。一体いつ壊れるんだろうか。
魔法の森に入り口なんてあるのか。初めはそう思っていたが、およそ人間も妖怪も利用しないだろうに割としっかり整地された道が続いている。誰も通らないなら、その道に草木が生い茂っても良さそうなものだが。
とは言え万人を歓迎する道でもない。人の通行のための道は迷わない様にどこかへ繋がっているものだが、同じ物と思って安心して歩いていると出られず力尽きて倒れる事になる。
「あるいは、そのために森が作っていたりしてね」
ぼんやり呟くと、リグルが向こうからやって来た。
「チルノ、もう風邪はいいのか?」
「すっかり快調。それじゃ案内を頼むね」
一緒に森の中を歩く。目的地までは遠い。
「チルノ、私を奇襲した相手が魔理沙だってどうして?」
「霊夢の話を聞いたあの日、湖に隠れてた気配を感じたんだ。それが魔理沙。元よりみだりに姿を現さない奴だけど、ここ最近は特に見なかった。霊夢の感じた何かに一枚噛んでる。それに関与してるのがここ、魔法の森だと思ったんだ」
この森に何かある。だからリグルを近づけまいと攻撃した。結果的に、リグルは魔理沙が隠したかった何かを偶然にも知ってしまった。
〝霧雨魔法店に水着とシュノーケルがある。貸そうか?〟
この言葉、湖や池、川の事を言ってるとは思えない。リグルと私が幻想郷の海について調べようとしているのを知っていると言いたかった様に思えた。
霧雨魔法店…。罠か、あるいは…。
「リグルも魔理沙と戦った事がある。魔理沙の魔法…光と熱をメインとした魔法。奇襲された時、攻撃がそうだったんでしょ?」
「参ったな。チルノの言う通りだ」
「でも、リグルは話をはぐらかしてた。どうして?」
リグルは頭を掻いてこちらの顔をじっと見る。私はリグルの目を見据える。
「…弾幕勝負は飽くまで遊びだ。例えそれが命を賭ける事になっても。この幻想郷を崩壊させないための一種のルールでもある。魔理沙は素行は良くなくてもそこは分かってるはずなんだ。それなのに、奇襲だなんて…彼女のやる事とはとても思えない」
言われてみれば何だか変な気もしてきた。リグルは魔理沙との弾幕勝負を通して彼女の実力を認めている。交わした戦いの中で、彼女の気性と言う物を感じ取ったのだろう。ゆえに攻撃の特性のみで彼女だと判断したくなかった。そんな所だろうか。
「リグルの言う事も一理あるかもしれない。頭に入れておくよ」
しばらく歩いていると一軒家が見えてきた。香霖堂と大きく看板に書いてある。
「こんな所に店?」
「チルノは知らないのか?知る人ぞ知る店だ」
「へえ。今度寄ってみようかな」
「やめておきなよ。店主は気難しいらしいし、店の中にある物には非売品も多いらしい。利用客も物好きばかりだから、チルノが興味あるようなものはないと思うよ」
そういうもんか…。私は両手を頭の後ろに組んだ。そうしていると風を切る音が聞こえてくる。見やると一体の烏天狗が空を飛んでいた。それは急降下して来るかと思うと、高速で新聞を香霖堂の家の中に投げ入れた。
「ぎゃーっ!」
けたたましい音が聞こえた。中の人は大丈夫だろうか。
そして飛んで行くあの姿は…確か文々。新聞の射命丸文とか言う新聞記者の…。
私は息を吸い込んだ。
「やっぱり新聞と言えば花果子念報だよねぇーっ!!」
射命丸がまるで銃に撃ち落されたかのように落下する。地面に落ちた音がしない。木に引っかかっているのかもしれない。やや困惑しているリグルを傍目に彼女の元へ歩み寄った。いた。枝と言う枝に引っかかり面白い事になっている。
「そこのお嬢さん、文々。新聞を読んだことない?」
「実は寺子屋の授業で少し見たぐらい」
「それは結構。ではますます読みたくなりますよ。さあさあどうぞ、最新号です」
射命丸はショルダーバッグから新聞を取り出して私に投げた。私とリグルは一緒に斜め読みにする。最新号でも大して大きなニュースは載っていない様に見えた。一応、見逃している情報がないか花果子念報も一読しておいた方がいいだろうか。
「お買い得でしょう?んああ仰らないで。花果子念報なんて横書きで読みづらいし、中身はセンセーショナル的でエビデンスに乏しくザ・ゴシップでとても読めたものじゃない。どうぞ熟読してください。コラムから4コマまで中身は充実していますよ」
私は1面を読み直す。1つの見出しが目に入った。ここ最近、幻想郷の所々で体調を崩す人が続出しているらしい。共通点がなく原因は不明とのことだ。とにかく手洗いうがい、栄養バランスの管理や睡眠時間の確保など生活習慣の見直しについて喚起されているとのこと。
私の風邪ももしかしてソレなんだろうか。でも、ここ最近は忙しかったしただの偶然かも…。あるいは季節的なものなんだろうか。
「いい記事でしょう?クオリティが違いますよ」
「確かに興味はあるけど、購読する金が無いよ」
「あやややっ?変ですね、おたくはあのカッパの元でバイトしてると耳にしておりましたが」
「最近は色々と忙しくてバイトに行けてないんだ。新聞代が払えないんじゃあなたも困るでしょ」
「うむむむ…」
射命丸はうなりながらペンをグルグルと回す。まだ食い下がる気なんだろうか。
「よろしい。それじゃあお嬢さんには特別にタダで新聞を配りましょう」
「チルノ、やめた方がいいよ。天狗との怪しい取引きは」
「私も新しいネタを探しに幻想郷中をあくせくと飛び回っておりますが、記事にする上で品質管理や裏取り、ライバルを出し抜いたりととても大変なんです。そこで、あなたにその手伝いをして欲しいんですよ」
「ほらでた」
リグルがジト目をする。不覚にもちょっと可愛いと思ってしまった。
「難しい事をさせようってんじゃありません。主な手伝いはこのカメラでネタになりそうな写真を撮ったり、特定人物への軽い取材をするだけです。なお、そのカメラは私の方へ画像を送る事も出来るので、プライベート用と仕事用も分けることができます。現像は有料ですけどね。悪くないと思いませんか?」
射命丸はそう言いながら木の枝から落ち、着地する。そしてショルダーバッグからカメラを取り出した。変なカメラだ。使い方を教えてもらった。こんなに良い条件はない。私は快諾した。
詳しい連絡は電話で行うと言うと、再びこの場を去っていった。
カメラか…。これなら幻想郷の海と言うのを写真で撮り、フランに見せてやることができるかもしれない。
「それじゃ、そろそろ行こうか」
「うん」
私達は魔法の森の、妖怪の山に通じる通路へ向かった。