触れても濡れない海水で満たされた謎の空間だった。
一度家に戻り、相談する相手の事で悩んだりしていたチルノだったが、
魔理沙の言葉がどうしても気になって夜の魔法の森へ赴いてしまう。
しかし、そこである人物からの襲撃を受けてしまい…。
複雑な道を歩いていくと、やがてリグルの言っていた場所へ到着する。よく迷わずにここへ来れる。リグルの指をさした先には、わずかにそこだけ草の色が異なる場所があった。あそこらしい。
「確かに入り口からはそんなに離れていないけど、どうしてこんなに正確に来れるんだ?」
「ああ、ちょっとした目印をつけてて」
ううん…。虫ならではのわかる目印なんだろうか。また来るかもしれないし、帰り道は何かわかりやすいように自分なりの目印をつけておこう。
草をかき分け、中に入って下から草で穴を隠して進む。穴の中はほとんど光が差さないというのに、不思議と道が見える。
「日の光が届かないのにどうして先が見えるんだろう」
「わからない。でも、あまり細かいものは見えないから足元にはしっかり注意してね」
そう言いかけた所で私は躓いた。ちゃんと気を付けよう。リグルの手を取って立ち上がって前に進む。リグルの話ではここからそう遠くない所に出口があって、妖怪の山につくらしいけど…。
3分と歩かないうちに光が見えてきた。先のわからない道を歩かされる3分というのは体験時間が長く感じるものだ。
「ほら、ついたよ」
チリーン…。鈴の音が聞こえた。これがリグルの言っていた音か。あたりをキョロキョロとみても鈴のようなものはどこにもないが。穴をくぐった先には何か建物があった。さらに進むと…幻想郷を見下ろす高い所へやってきた。リグルの話の通りなら、ここは妖怪の山らしい。
そして、これがそのリグルの言っていたお堂。
「チルノ、あまり目立つところに立つなよ。見つかったらまずいって」
「大丈夫。今日まではにとりの許可証があるから問題ないよ」
とはいえ無闇に目立つべきではないのは確かだ。さっさと隠れる。ここはにとりの家から少し離れた場所だな。魔法の森に向かう途中で見たのを覚えている。まさかここに出るとは。
こうして本当に妖怪の山に到着してなお信じられない。魔法の森からこんなに短時間で妖怪の山のこんな場所に来ることができるだなんて。明かりがなくてもちゃんと見えたり、一体なんなんだあの通路は。穴に潜ってからは特に上に登ったり道を曲がったりすることもなかった。
「チルノ、こっちだ」
そうだった、今日の目的は幻想郷の海。リグルが言うにはこの先に海があるらしい。私はリグルに連れられて洞窟の先へ進む。すると、この時間帯ではありえない光が見えてくる。その先には…海が広がっていた。
「あ……」
言葉がでなかった。生まれて初めて見る海。どこまでも透き通った青が広がっている。これが…海…。
「な、本当だっただろ?」
私は砂浜を歩く。…あれ、足跡がつかない。それに、これは本当に砂なのか?踏んだ感覚がとても不思議なものだ。リグルも中に入ってあたりを見渡す。海水に触れてみた。海水の水をすくって…持ち上げる。
「濡れない…」
「え?」
「リグル、この海は何か変だ」
リグルは海水にふれる。リグルの手も濡れなかった。海の中に入っていくが、水の抵抗を感じない。海面というものはあるが、中はまるで空洞のようだ。あるところを境にぷっつりと真っ黒が続いているこれは、なんなんだ…。
「…この事、話そう」
「話すって…誰に?私たちがバカだって思われるだけだよ」
「でも…」
「チルノだってそうだったじゃないか」
そういわれると強くは言えない。私はふと気が付いてカメラを取り出した。
「写真…これを見せれば信じてもらえるかも」
「そっか、今はカメラがあるんだ。…でも、誰に?」
話す相手は慎重に考えたほうがいい気がする。私は考え込んだ。
「まずはけーね先生?」
「そうだね。それが無難かも。間違ってもチルノ、あの新聞記者やにとりに教えちゃダメだからね」
「うん」
今後次第では教える事もできるかもしれないが、今は黙っておこう。
私たちはしばらくあたりを探索すると自宅に向かった。秘密を知る人間は少ないほうがいい。一体誰に話すべきで、誰に話してはならないだろうか。慎重にならなければならない。家に帰りついてもあの出来事が頭に焼き付いて離れない。
ふと頭に浮かんだのは魔理沙の事。あれは、霧雨魔法店を訪れろという意味なんだろうか。頭の中でそんな風に結論付けられていてならない。単純にそう思いたいだけなんだろうか。この不気味で不明瞭なこと、彼女なら何か知っている気がして。
しかし、魔理沙はリグルを襲っている可能性がある。本人は否定しているとは言え…、視野から外すことはできない。
明日は今日遅れた勉強とみすちーの事とある。今日はしっかり休んだほうがいいはずだ。それでも、頭にあの事が何度も反芻される。
「ダメだ。こんなに気になるんじゃ、明日の事も頭に入らないよ」
日が沈み始めている。夜の魔法の森はとても危険だ。すぐに行って戻らなきゃいけない。私は急いで飛んだ。
夜の魔法の森。入り口とか構わず飛んで入る。空から飛んで探せばいいはず。そう思った。でも、現実はそうでもない。どこもここも似たような光景で、やがて自分のいる場所さえ分からなくなってくる。この森は、そんなに広いはずではない。でも、出てこれなくなりそうな気さえしてくる。
私は一度、森の中に降りた。くそう、まずい。どこがどこだかわからない。私はとにかく走ってあたりを探索する。どこからともなく視線を感じる。身の危険を感じる。やっぱり来るべきではなかったのか…。そう思っていたその時だ。
「おーい。こんな所で何をしているんだ?」
魔理沙だった。私はため息をついた。
「何って…。今からあんたに会いに行くところだったんだ。でも道に迷ってしまって」
「そうか。だったら案内してやるぜ!」
魔理沙の手元が光った。直感的に回避すると、私のいたところがレーザーで焦げる。
「ま、待ってよ。私をここへ呼んだのは、弾幕勝負のためだったの?」
「どうだったかな」
弾幕が飛んでくる。地の利もない場所での戦いは圧倒的に不利だった。ここは相手のホームグラウンド。そして私は病み上がりと来たもんだ。一体、一体どうすれば…。氷の弾を作って発射する。相手の動きは早くとても捉えられたものじゃない。
ダメだ、ダメだダメだ…。追いつけない。こんな勝負…。
接近してきた魔理沙が乗っていた箒を棒のように振って私に攻撃した。
「うぐっ、く…」
どうしてこんな…。
魔理沙が笑顔でやってくる。どうやらここまでのようだ。次に復活するのはいつ頃になるかな…。そんな風に思っていると、魔理沙の真横から何かが光った。極太のレーザーが放たれ、魔理沙は消え果た。
「!?!?」
あれは…マスタースパーク?
がさがさと音が聞こえて、魔理沙が現れた。かなりボロボロだ。
「よう、平気か?」
言い終えると魔理沙はその場に倒れた。
「魔理沙!!」
私は自分の傷の痛みも忘れて駆け寄った。何が何だかわからない。魔理沙が襲ってきたかと思ったら、魔理沙が魔理沙を倒して…。いや、とにかくこっちの魔理沙の事が大事だ。このまま放置するわけにはいかない。こんな時、一体どうしたら…。
ポケットにゴツゴツ当たるものがある。金貨だ。そうだ。こんな頭の状態じゃ何も考えられない。まずは冷静な第三者の話を聞こう。私は祈るような気持ちで金貨を握りしめフランの応答を待つ。