「ふぎぎ、後何分…」
カッパコインの報酬は2枚から3枚になったけど、働く時間も2時間オーバー。私はパソコンの本体に囲まれている。これらを冷却するのが私の仕事。
昨日の稼ぎが2枚で、1枚は返済した。日付を跨いでるとは言え、昨日の仕事もあってしんどかった。
意識せずとも冷気は体から流れ出るものの、そのままではパソコンの発する熱量の方が多く、かと言って強過ぎる冷気を放ってもパソコンは壊れる。微細な加減が必要だった。
にとりはパソコンに集中している。スイッチが入ったら呼びかけには応答しない。聞こえているらしいが、気を散らすと再び集中するのに時間がかかるらしい。
にとりの機嫌を損ねた日には…。
「ようし、ありがとうチルノ。もういーよ」
やっと終わった。コイン3枚を受け取り、握り締めて家に帰る。1秒でも早く飛んで帰る。地上を歩く人を見て、空を飛べない人の生活は不便だろうなぁなんて思う。
カラスにぶつかりかけた。危ない危ない。私は素早く地上に降り立つと家の中に入った。ああ…やっぱりドアつけてもらおうかな。
そう思いながら玄関近くのコイン投入口にカッパコインを入れた。通電の確認ランプが光ったのを確認するとげーむのきょうたい…、ゲームの筐体の前に座った。
本当は100円入れなければ動かないが、コイン投入口のすぐ隣のボタンを押せばコンテニュー及びスタートできる。昨日は1面まで終わった。2面でゲームオーバーになって、コンテニューボタンを押さずに苛立ちに任せて通常ボタンを連打した結果メインタイトルに戻った。
かなり難しいアクションSTGだが、コンテニューボタンを押せば無限にコンテニューできる。しかしこれに甘んじていいものか…。
兎にも角にもプレイしながら考えよう。
プレイを始めて4時間。気がつけば昼の14時だった。途中で何度もコンテニューボタンを押し忘れて3回ぐらい1面からやり直した。
そしてこれが4回目。さすがに集中力も切れてきてため息をついた。ふと消えかかってる文字が見えた。辛うじて書いてある内容は読める。
「連コ」
連コ?その先はしっかり消えてて読めない。
カッパコインによる電気の使用可能な時間は残り2時間。使い切らなければ勿体ない気もするものの、考えれば今日はまだ宿題の感想文を書くための本さえまだ見つけていない。
より近く最も確実で、すぐに読み終わる本を入手できそうな場所と言えば大ちゃんの家だ。リグルは感想文用の本は見つけられたのかな。
家を出て大ちゃんの家に向かった。えっと、ドアベルはこれか。そう思って手を伸ばそうとすると、郵便受けの中に(チルノへ)と書かれてる手紙を発見した。
大ちゃん家の郵便受けなのに、私宛ての手紙?不思議に思って手紙を手に取る。私に宛てたものだから、私が読んでもいいよね?
私は手紙を見た。
〝チルノ、ここに来たのは本を借りに来たからだろう。でも残念ながらここに君が欲しがる様な本はない。他を当たるんだ〟
この内容…リグルか。読者感想文のための本を見つける事はできなかったのかな。
「チルノちゃん?」
いつの間にかドアは開いていた。
「ぎゃあ!」
手紙に気を取られていたとは言え、ドアが開く音には気付くはずだ。大ちゃんがドアを開いた時、音もしなかった気がする。私は手紙を背中に隠した。
「驚かせるつもりはなかったんだ。でも、いつまで経ってもドアベルを鳴らしてくれないから待ちくたびれちゃって…。ごめんね」
私がここへ向かう所を見ていたらしい。
「こんな所で立ち話もなんだし、家にあがってってよ」
リグルの手紙を思い出す。あの子とは趣味は割と似通っている。この家には私の趣味に合う本はきっとないんだろう。日没までに感想文向けの本は手に入れたいからここは去るべきだ。
とは言え、家の前まで来て帰れば不審がられる。時間もない事だし、何か適当な言い訳を作ってこの場を離れなければ…。
「そうだった、この後急用があるんだった!」
「急用?」
「うん、14時30分にとりの所にバイトに行く用事があったんだ」
「…おかしいな。にとりさんは午後から出かけるって聞いたけど」
「そう、それであたいは店番をする事になったんだ!」
「ごめん、さっきの嘘。にとりさんは店にいるよ。今さっき買い物に行ってきたんだよね」
ぐうぅ…。
「み、店番だと思ったんだけどなぁ。何のバイトだったかなぁ」
「聞いてみようか?」
大ちゃんがドアから離れると家の向こうからにとりが現れた。何で事だ…。
「チルノ、どんまい」
だめぽ。観念して中に入る事にした。にとりは家を去って行く。
中はこざっぱりとしている。すぐに目に入ったのは6つの本棚で、4つの本棚は青緑の背表紙の本で埋め尽くされていた。残り1つの棚には様々な本が入っていて、もう1つの新しい本棚は空だった。大ちゃんの買い物と言うのは新しい本棚の事か。
他の本と違い青緑の本にはタイトルが書いてない。私は本の一つを手に取った。表紙にもタイトルがない。一体何なんだろう。
少し離れた所にある机を見ると書きかけの紙とペンがあった。作文ではないようだ。
「青緑の本は私が書いてるんだ。どれも一巻完結だから適当な所から引き抜いて読んでいいよ」
私は1つ適当な場所の本を引き抜いて読んでみた。全て手書きだ。しばらく見入っていた気がしたが、パタンと本を閉じた。そして元の位置に戻した。