ついに真打ち登場。会場を去るリグルを追っていると、
ルーミアが落ちてきた。
そして、彼女を襲撃した相手は…。
響子が来るまでの2人のライブが始まった。マイクとマイクスタンドを私達が急いで運ぶ。
歌はハートだなんて言うが、本当にハートだけで技術面をカバーするのは無理だ。リグルも最初の叫びで観客の掴みは取れたものの、その後の歌はやはりぎこちなさが出る。
それでも何とか様になっているのはみすちーのエレキギターと歌声のサポートあってこそだ。現時点ではメロディを覚えてもらいやすい様に割と簡単な曲が多いと言う事もある。
曲が終わると、水を飲んだり簡単な挨拶と響子が遅れてくる事について話している。
そういえばカメラを持って来てるのを思い出したので、撮れそうな所に回って複数写真を撮って射命丸に送った。
2人の話が終わると次の曲に入る。リグルも緊張感がほぐれたり曲調を掴めて来たのか先程よりいい感じに歌を歌っている。観客もワイワイ騒いだり、中にはリズムを取る様に指を叩いてる人もいた。
見知った人もいるようで…。
「あれ、紅美鈴」
「お、チルノじゃん。まさかスタッフやってるとは」
「まぁ色々あってね。美鈴もライブ聴いてるなんて思わなかったよ。1人?」
「咲夜さんも誘ったんだけどねー。仕事が終わらないんだって」
メイド長も大変だなぁ。
「実は2人で音楽やらないって聞いた事あってさ。咲夜さんも満更でもなさそうなの」
「あのメイド長が?!」
「意外でしょ。そこにお嬢様が現れてさ、ギターは任せろってウクレレ持って歯弾きやってね『ワァーオゥッ!』て叫んで床に叩きつけて壊して以来、誰もその事について話さなくなったんだ」
「初めて会った時からずっと思ってるけどぶっ飛んでるよね、レミリアって」
ルーミアとレミリア、遭遇したらどんな会話をするんだろう。少し気になる。私は美鈴と別れてステージの裏に戻った。すでに次曲のイントロが始まっていると言うのにリグルの姿があった。
私はリグルの元に走る。
「次の曲、始まっちゃうよ?」
「真打ちの登場だよ、ほら」
リグルが指を差すと、明らかに移動速度がおかしな雲がこちらに向かっている。その雲には少女がぶら下がっていた。間違いなく幽谷響子だ。
やがて会場に近付くとその手を離し、ステージの上に大胆に着地する。
その手にマイクはない。彼女は開始一声、会場に大音声を放った。心臓を鷲掴みにする様な声。凄まじいものだった。
私は聞き入っているとリグルが会場から離れていくのが見えた。私は急いで追いかける。
「最後まで聞いていけばいいのに」
「ご機嫌な曲は苦手なんだ」
「素直じゃないなぁ…」
そんな事を言っていると、何かが落ちて来た。その正体が分かると私達は2人でそれを受け止めた。
「あだー。チルノってば急にどうしたのさ」
ルーミアだった。私の顔を見るとギョッと驚く。まさかと思ってルーミアの飛んで来た方角を見ると、月の光をバックに空中に佇む私の姿が見えた。プロトチルノだ。
「む…オリジナルとリグルか」
しかし、その声は球磨だった。
「球磨!」
私が叫ぶとプロトチルノが笑った。
「アリスが教えてくれました。最近、また家に来たらしいですね。何をやったんですか?あれから問題だらけで苦労が絶えないんですよ」
どうやら青緑の本について記憶をなくしてるらしい。今後、この問題解決には使わない手はない。球磨から感じるのは冷ややかな殺意。口調はあの時と変わらないがかなり怒ってる様だ。
「球磨?」
ルーミアが尋ねた。私は何も言わずにカメラをルーミアに預ける。
「ルーミア、写真の撮り方は?」
「ここを押せばいいんでしょ?」
「これから私はあいつと戦う。何枚撮ってもいいから、私達が1枚の写真内に同時に写ってる写真が3枚ぐらい欲しい」
「おk」
ルーミアはカメラを携え闇に消えた。
「球磨、私はお前の居場所が分かった。じきにお前の目論見も潰れる。早い所、馬鹿な真似はやめた方がいいんじゃないのか」
「そんなはったりには乗りませんよ」
リグルが私達を見比べている。パッと見じゃ区別はつかないだろうな…。私はリグルにも話をする。
「リグル、あいつと戦うの手伝って欲しい」
「いいけど…」
「何とか偽物だけ区別して攻撃できる方法はない?」
「そうだなぁ」
リグルは急に私にハグをする。そして離れた。プロトチルノが氷の刃で襲って来た。2人で避けて距離を開けながら弾を撃つ。プロトチルノは私に攻撃を仕掛け見分けをつかなくしようとしたが、リグルのやったあのハグの効果なのか私に弾が当たる事はない。
少しずつプロトチルノを追い詰める。
「何が目的なんだ、球磨!」
「私だけの理想郷を作るのに、ちょいと君らの協力が必要だというだけです」
「理想郷?」
「誰も私を傷つけない、私だけの理想郷です」
「哀れな奴。痛みが教えてくれる事だってあるだろうに」
「だったら、あなたの大好きな痛みで心を埋め尽くして差し上げましょう!」
プロとチルノが放つ氷の弾幕の厚さが増す。私はギリギリのところで回避していると、先にリグルに攻撃しに行ったのが見えた。しかし、この弾幕のカーテンの中ではまともに近寄れない。プロトチルノは氷の刃で接近戦を仕掛けている。
あの間合いはリグルにとってやりづらい。どうにかしないと…。
「まず、ご友人の死に別れの痛みはどうですか?」
「リグル!」
氷の刃がリグルに届くかと思ったその時、リグルの姿が消えた。プロトチルノが驚いていると、リグルのいた位置にルーミアが現れた。
「はい、チーズ」
パシャリ。
「えっと…球磨だっけ、プロトチルノだっけ。どっちでもいいや。あのさ、私達に手を出すとあなたの大嫌いな痛みがついてくるよ」
プロトチルノがあたりに弾幕をまき散らして行動を制限しつつ斬撃を加えていく。ルーミアは姿を現したり消したりしながら弾幕を置いて空中遊泳している。ちゃんと回避できているかといえば、割とかなり被弾しているようだ。
私は何とか弾幕を抜けるとプロトチルノに掴みかかって地面に一緒に落ち、地面の直前で突き落としつつ自身は上昇した。
「蓄積ダメージが…。いいでしょう、今日の所は一度引きます。またお会いしましょう」
そう言うとプロトチルノは消えた。やれやれ…。
私はこれまでの顛末についての大雑把な所をリグルやルーミアに言った。少しずつ偽物の正体を知る仲間が増えていくのは嬉しいが、誤って誰かが魔法の森の秘密の通路でイミテーションを増やしたりしないか不安だ。
アリスの事は伝えなかった。アリスや球磨が私の家にいるということ…あれは一体どういうことなんだろう。
しばらくすると電話がかかってきた。射命丸からだ。
〝さっきの写真、あれ何ですか!?〟
「えっ?」
ルーミアからカメラを返してもらった。どうやら私とプロトチルノが同時に移っている写真を送ってしまったらしい。
「ごめんチルノ。なんか操作がよく分からなくって」
なんてことをしてくれたんだ…。
「ごめん射命丸。今忙しくて…またかけなおす」
そういって一方的に電話を切った。彼女が記事にするなら、何とか幻想郷の海や秘密の通路の事を隠して偽物の存在がいる事を知らせるようにしなきゃいけない。どんな風に話したものか…。あまり時間をかければ向こうから取材にやってきかねない。
私は頭をくしゃくしゃにする。
「どうしよ…あの新聞記者を煙に巻いたりするような話術、私にはないよ。今から人里に行けばけーね先生を頼れるかもしれないけど、みすちーのライブは最後まで聞けなくなっちゃう」
「それなら私の闇に隠れるといいよ」
ルーミアが言った。なるほど、その手があったか。リグルにイミテーションは半日に一度はよみがえることと、合言葉を伝えるとライブ会場に戻っていった。
20話のイラスト、みすちーの爪を描くのを忘れるというミス。割とショック