扉の先は人里の茶屋に通じていた。人は1人もいないので、先ほどの妖怪の山同様、本物の人里ではないんだろう。私たちは遠慮なく歩いていく。この世界は温かみも感じないが寒くもない。過ごすには快適な温度だ。
「チルノちゃん、着替えなくてもいい?」
「でもタオル持ってないし」
「はい」
魔理沙はタオルを渡した。
「お、おう」
私は体を拭いて着替えた。
人里を探索してみるけど、ある程度距離を歩くとやはり見えない壁があって先へは進めなくなっている。しばらくすると魔理沙が私と大ちゃんを呼んだ。妖怪の森へ進む道に壁がないらしい。
一緒に踏み出すと、湖に到着した。この先に進むと私の家がある。
「…アリスの言っていた、私の家って…」
「こっちの世界の、というわけか」
わからないはずだ。
「おいおい、お客さんなんて及びじゃないぜ」
向こうの道から魔理沙が現れた。イミテーションだ。
「もう何度も相手してきたが、もう1人の自分というのは見慣れないもんだな」
「同感だな。でももうすぐ元の1人に戻れるから安心してくれ」
両者ともにらみ合う。
「チルノ、ここで時間を食えばその間に球磨が何か小細工するとも分からん。隙を見つけて先に行くんだ」
「わかった」
星形の弾幕をばら撒くイミテーション魔理沙。魔理沙も同じように弾幕を張る。かなりの数が相殺されて美しく散る。まるで花火の様だ。複数の砲台かれレーザーを照射する。
1つが大ちゃんのほうへ飛んだ。上手く回避できず被弾しようとした所を氷の壁で防御させる。
「ありがとう、チルノちゃん」
「大ちゃんは私のそばを離れないで」
弾幕勝負なら私のほうが経験が多い。飛翔速度が遅いわけじゃないので、私と同じ動きをすれば多少なりと被弾も減るはず。
「くそっ、なんだ…前に戦った時よりパワーアップしてる!?」
魔理沙が押されている。
「あっちで戦うのとホームグラウンドで戦うのとでは訳が違うぜ、オリジナル」
「そうかい」
球磨の力が及ぶ範囲ではより強力になるという訳か。何にせよ厄介だ。私は力を込めて、一面の弾幕を凍らせた。イミテーションの魔理沙が驚いてる間に魔理沙が攻め込む。私と大ちゃんはその隙に先へ向かった。
私の家の前にはリグルがいた。
「魔理沙の次はリグルか…。今、時間がないからどいてよ!」
「そういう訳にもいかないんだよチルノ。それよりこの間は結構痛かったんだよ?一瞬で凍らされて、砕かれて」
「あの時はしょうがなかったんだよ…」
偽物とは言え、友達をあんな風にするのは全く心が痛まなかったわけじゃない。大ちゃんが前に出る。
「チルノちゃん、ここは私に任せて」
「大ちゃん?」
「大ちゃんが私に勝てるとは思えないなぁ」
リグルが構える。
「勝てなくても負けない事はできる。チルノちゃん、任せたよ」
にっこりと笑った。そうだ。イミテーションを操る球磨を倒す事ができれば…。私はうなずいて私の家に向かった。
家の中は、屋内とは思えないほどの広さになっていて捕まっているアリスと球磨がいた。球磨は私を待っていたようで、お茶を淹れている。
「やあ、来たかチルノ」
「球磨!もう気は済んだでしょ!」
「いや、済んでない。まあ聞いてよチルノ。私達は争いあうべきじゃない。似た者同士だからだ」
彼女はお茶に角砂糖を2こ入れている。
「イミテーションはあの幻想郷の海の空間に入った時点でコピーされる。あまり深い物は覗けないが、ある程度の記憶なら見られるんだ。君の記憶、覗かせてもらったよ」
「悪趣味だな…」
彼女は注いだお茶を一気に飲んだ。
「君がもっとも恐れているのは変化だ。人に好意を向けられるのも慣れていない。君は過ごす日々の中で、他人が自身に向ける感情の変化に動揺を隠せていない」
球磨はイミテーションの私をここへ召喚した。
でも、球磨の言う事は分からない訳じゃなかった。初めはフランドール・スカーレットからのキスだった。話を聞くに単にキスしてるわけじゃないが、あれは初めての経験で動揺した。
次は大ちゃんだった。自分と恋愛関係になっている小説を書いていて、私に向けている感情が恋愛である事が分かって、キスもされた。
意識が変わってくると、ただ友達だったりした関係が崩れていくような気がして…。少し怖かった。友情と愛情の境界はあまりに曖昧。
青緑の本も…、私が恋愛感情に少しずつ理解を深めていってからは気絶したりしなくなった。大ちゃんの小説の内容はおそらく普通の人でもかなりショックな内容なのだが、恋愛感情というのが理解できなかった私にとっての「こうであるべき」事が揺るいだショックが気絶するほどだったんだと私は思っている。
「君は強がっているが内心では人を傷つけるのも傷つけられるのも嫌っている。初めから好きになったり、好かれたりしなければ傷つく事はないと。だから徒に周りと関係を作ろうとしない」
大ちゃんと知り合ったのは、草むらで妖怪に襲われているのを助けてからだ。でも、その他の大抵は誰かを通して知り合った。確かに私から積極的に誰かと仲良くなろうとはして来なかった。
「私もだよチルノ。私も怖いんだ。だから生きてる間変わらないものを作ろうとしている。この世界だ。恋愛には一生発展しない、居心地のいい世界を作るんだ。その実現までもう一歩、君の力が必要だ」
「そんな事のために、人を傷つけてまでイミテーションを増やそうとしてたのか!」
「自分を傷つけるだけの存在に、どんな気遣いがいるというんだ!」
「移ろいゆくものが怖いのは皆同じなんだ球磨…。でも、その変化の痛みを受け入れながら、成長していく。いつまでも同じ時間の中では生きられないんだ。私もお前も」
「……、君となら分かり合える気がしたのにな…」
球磨はプロトチルノに乗り移り私に攻撃を仕掛けてくる。球磨も気を遣っているが、私も間違ってもアリスに攻撃しないようにしないと…。
こちらの世界でのプロトチルノはやはりホームグラウンドということもあって強い。しかし、あの魔理沙やリグルほどではないのは操っているのが球磨だからなんだろう。
この体の扱いなら、誰よりも自分が慣れている。
最初は手こずったが、慣れてくると私が押し返す。プロトチルノは膝をつき、肩で息をしている。
「お前の負けだよ、球磨。アリスは返してもらう」
「駄目だ!」
プロトチルノから抜け出してきた球磨が歩き出す私の足にしがみついた。
「駄目だ…、アリスを失えばイミテーションを制御できなくなる…。私の理想郷が潰えてしまう。チルノ、お前も大事だけどアリスも同じぐらい大事なんだ」
「私はこの異変を終わらせに来た。だからそれでいいんだ。誰かにだけ都合のいい世界なんてありはしないんだよ」
私は彼女を無理矢理引きはがし、アリスの元へ行く。アリスに問えば、アリスを縛っているシステムの解除方法を教えてくれた。球磨はしつこくまた私に掴みかかる。
「チルノ、私からこの世界を奪わないで…」
「君が他人の痛みに無関心なら、他人も君の痛みには無関心だ。球磨、外で一緒に生きていく世界を見つけようよ。手伝うから…」
「無理だよ…今更どんな顔で向き合えばいいんだ」
私はレバーを引いてアリスを解放した。
しばらくすると魔理沙と大ちゃんがやって来た。魔理沙はアリスを介抱し、永遠亭に連れ行った。ここには大ちゃんと私が残る。球磨はしばらくうなだれたままだった。
「もう君らは行けよ。ここには何もない」
球磨は消えそうな小さな声で言った。
「球磨がいる」
「…好きにしなよ。私が君らにそうしたように」
私はため息をつくと、球磨の手を引っ張って一緒に私の家に向かった。
13話時点でピンピンしてたはずの魔理沙が夜にはボロボロになってたり、何で海に水着とシュノーケルが落ちてたのかとか、そもそもサイズはあってたのかとか、リグルを襲った魔理沙はイミテーションなのか本物なのかとか、矛盾点と説明不足点が見つかり過ぎて失踪したい←