チルノの学校生活   作:ヤングコーン

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最終話 昨日と違う今日、今日と違う明日

「良かった、一時はどうなるかと思ったよ」

 

「どうにかなるのはこれからかも…」

 

フランは苦笑いした。部屋に来るのはこれが初めてだ。いつもこの部屋で過ごしているのか。珍しそうに見渡してるとフランはベッドに寝転がる。

 

私はそばに来て彼女を見下ろす。

 

「ごめん、しばらく連絡できなくて」

 

「本当だよ。何度も連絡したのにさ」

 

拗ねたように言って目をつむる。眠いんだろうか。私は彼女の隣に座った。

 

フランと連絡をしなくなってからの出来事をいっぱい話した。返って来るのは生返事だけだけど、聞いている気はする。最近考えていることとか、これからどうするかとか…。

 

しばらくすると話す事もなくなって、室内が静けさで満たされる。何か言わなきゃ、何か話さなきゃ…そんな気持ちにはならない。一緒にいるだけで何か居心地が良かった。フランは座ってる私の掌の上に柔らかい手を置いた。

 

「…ねぇ、もっと話して」

 

「もう話のネタは尽きちゃったなぁ」

 

「もっと声を聴かせて」

 

甘えるように言って来る。フランの方を見ると、いつもからは見ないような…微睡の中をさまよう少女のような表情をしていた。私は彼女の隣に寝転がると何となく頭を撫でた。そうすることが普通の様に思えた。子ども扱いされることを嫌う気がしたが、この時の彼女はそれを心地よさそうにしていた。

 

頭を撫でられ、目を細めている。

 

「ずっとここにいるから、話題なんてないんだ…」

 

「そっか…」

 

「チルノに会えなくて辛かったな」

 

「ごめんね」

 

懐く動物の様に私に抱き着いている。彼女の体温が伝わってくる。私も彼女を抱きしめて頭と背中を何度も何度も撫でた。時々小さな声で唸っては、背中の羽がピクピクと動いて宝石もじゃらじゃらと動く。

 

私よりも何倍も強くてとても危険な妖怪。それでも私の中で小さく収まっている目の前の少女は、とても弱く小さく見えた。それはまるで守らなきゃいけないような…そんな儚ささえ感じさせる。

 

彼女の寝息が聞こえる。私も眠くなってきた。彼女をあやしながらも、私も次第に眠ってしまった。

 

 

 

何時間経った頃だろう。ふと目が覚める。フランはまだ寝ている。

 

この部屋に時計はないが、持ってきた携帯で時間の確認はできる。見れば21時を回っていた。そろそろ遅いし、もう帰らなきゃいけない。私はフランを起こさないようにそっと離れる。

 

ところがフランはすぐに目をパチリと開けて私の服を掴んだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「駄目、チルノは私と寝るの」

 

「でも、もう遅いし…」

 

「絶対に離さない」

 

「フラン…」

 

私の服を握る手がふるふると震えている。私はため息をつくと彼女の隣に寝転がる。彼女は私を逃すまいと少し強く抱きしめる。

 

「甘えん坊さんだなぁ、フランは」

 

「いい子にしてるのに誰も褒めてくれないんだもん」

 

「いい子いい子」

 

私は頭をなでる。

 

「チルノのくせに生意気。でも好き。もっとやって」

 

「はいはい、しょうがない子だなぁ」

 

よく見ると、目尻から涙が浮かんで垂れる。私は驚いた。

 

「大丈夫?どこか痛いの?」

 

「ううん。違う。違うんだ」

 

「だって、涙が…」

 

「泣いてない」

 

彼女は私の服に顔を擦り付けて涙を拭いた。

 

「そう…」

 

また眠るフラン。私も眠くなったのでそのまま寝てしまった。

 

 

 

朝になった。フランはベッドに座ってあっちを向いている。私は体を起こして大きく体を伸ばした。携帯を見ると登校時間の1時間前に起きた様だった。フランはあっちを向いたままだ。

 

「おはよう、フラン」

 

「お、おはようチルノ」

 

こっちを向かない。私は隣に座って顔を覗き込むとフランは顔を赤面させて余所を向いた。

 

「何、どうしたの」

 

「何でもないよ!チルノ、今日寺子屋があるんだよね!そろそろ支度をしに帰ったがいいんじゃないかな!」

 

「冷たいなぁ、昨日はあんなに甘えてきたのに」

 

フランは枕を持つと私にボフンとぶつけ、ベッドでうつぶせになってバタバタと手足でベッドを叩く。

 

「もうやだ…私、チルノにあんな醜態を見せてたなんて…。もう恥ずかし過ぎて死にそう」

 

私も横になって彼女の背中をさする。

 

「もー、そういうのいいからぁ…。ああもう、私のバカバカバカバカ…」

 

下手な慰めは返って神経を逆なでするかもしれない。確かにもうすぐ支度をしなきゃいけない事もあるし家に帰ろう。私は起き上がって部屋の外に向かう。振り返って別れの言葉を言おうとすると、フランが追いかけて来て私の手を掴んだ。

 

振り返ると目を潤わせたまま私の顔を見てくる。恥ずかしくなってまた目だけ余所を向けた。

 

「…たまにでいいから、また私に会いに来てよね」

 

「うん。約束する」

 

「金貨もちゃんと持ってなきゃ駄目だよ!」

 

「今度こそね。それじゃあね、フラン。また」

 

私は彼女を抱き寄せた。

 

「あ……」

 

小さい声を上げた。これが最後の別れでもないのに、別れを惜しむようにしっかり抱きしめるフラン。よほど寂しいんだろう。また近いうちに会いに行こう。私はそう思った。

 

 

 

寺子屋に向かっていると球磨から電話がかかってきた。

 

〝チルノ、合い鍵作るからオリジナルのキーを貸してほしいんだけどいいかな〟

 

「いいよ。今から家に帰るから。用が済んだらポストの蓋の上側に張り付けておいて」

 

まあ、鍵なんてかけてもあんな所にわざわざ盗みに入るような妖怪も妖精も人間もいないのだが。家に帰ると、寺子屋に行く準備をして鍵を球磨に渡した。球磨はまたうきうきとにとりの店に向かう。

 

「まさか幻想郷にあんな妖怪がいただなんて!出会いは不思議なもんだ。もっと早く知り合いたかった!」

 

「思っていたより上手くやってる様で良かった」

 

「これもチルノのおかげだよ。ありがとう!」

 

嬉しそうで何よりだ。私は球磨に鍵を渡した。そして準備をして寺子屋に向かった。

 

また昨日とは違う今日が始まる。ずっとずっと、こうして時は過ぎていくんだろう。

 

大切な時を切り取っていつまでも遊んでいたい。そんな風に思う事もある。

 

それでも、明日はやって来る。

 

これから起こる事が良い事でも、悪い事でも。

 

私はこれまで通り生きていくんだろう。

 

早く皆に会いたいなあ。

 

 

 

…終わり




二次創作でのオリキャラってどう扱っていいか分からず、球磨というキャラをあまり掘り下げたりしなかったんですが友達に見せたところ本編で未回収の伏線とか説明不足の部分、加えて球磨の能力や異変を起こすまでの経緯についても不明瞭な点が多いとの事でしたのでスピンオフ作品の「ストーリー オブ ザ 球磨」を書きたいと思いますので宜しければそちらもよろしくお願いします。

本編後の話になります。本編でねじ込み切れなかった内容を詰め込むつもりです。まだまだ未熟で至らない点も多くありましたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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