もうすぐ宛先人の部屋、と言う所を紅魔館の主であるレミリアと出くわしてしまった。チルノの命運やいかに。
門番はまた眠ってしまった。荷物を送り届ける事に関して彼女に頼ろうと言う考えは捨てた方がいいかもしれない。どうしたものか、宛先に荷物を届けなければならないばかりか荷物を持ち去ったジェーンまで見つけなければならない。
「はろー、私を探してる?」
「ジェーン!」
いつの間にか影から現れて笑う。私は彼女の肩を掴んだ。
「あの荷物を返して!」
「荷物はちゃんと宛先の部屋に置いておいたよ。部屋のドア付近」
私はホッとした。
「それじゃあ、ちゃんと届けられたんだ」
「どうかな。ちゃんと手渡ししてないから小間使いにでも処分されるかも」
ううう…。また侵入して届けなきゃいけないって事か…。さっきは情けをかけてくれたあのメイド長も次は攻撃して来るだろう。気が進まない。
「大丈夫だって。近くまでは送り届けてあげるから」
「でもメイド長にバレたらまた逃げるんでしょ?話を付けて来てよ」
「持ち場を離れた事バレちゃうし、怒られるの嫌だし」
飽くまで協力してあげている立場って言いたいわけね…。私はもう一度彼女の協力を得て中に入る事にした。この館の広さからは妖精の数は少ない様にも見えるが、それでもこの数の中をバレずに中に入る道を知っているのは凄い。
本当に新人なのかとか、美鈴や咲夜がジェーンと言うメイドを知らないと言っていたとか色々と聞きたい事はあったがはぐらかされそうなので聞くのはやめた。
「さ、ついたよ。部屋に入ってすぐの所に置いてあるから」
「わかった」
深呼吸をする。この辺りは妖精の行き来も少ない。隙を見計らって部屋に向かう事は難しくはない。咲夜も訳もなくこの辺りを何度も来るはずがない。私はあたりを確認して進む。
階段下に行き、ロッカーの中に隠れて辺りの状況を確認する。ジェーンはロッカーの影に隠れる。そもそもここのメイドで、いざとなれば姿を消すのも難しくない彼女が隠れる必要はあるんだろうか。
辺りの静けさを確認してから階段を上る。大丈夫だ。周りには誰もいない。
「ここの廊下を右側だっけ?」
振り返るがジェーンがいない。なんなんだ。でもあの子の言う事が本当なら宛先人の部屋はもうすぐだ。私は慎重に先に進むことにした。
その時、廊下をだかだかとエネルギッシュに走る足音が聞こえた。隠れられる遮蔽物がない。非常にまずい。
「速いぞぉ!」
そう言いながら現れたのは、確か博麗神社の宴会にいた…。確かレミリアとかいう吸血鬼でこの紅魔館の主だ。ルーミアがよくやるようなあの両手を水平に伸ばしたポーズで走っていた。
私と目が合うと彼女は飛び上がって驚いた。しばらくあたふたしていた様子だったが、急に思い出したように深呼吸をして睨みを利かせる。
「ほお…メイドでもない野良の妖精の分際でこの紅魔館を闊歩するとは。いいだろう。ネズミの始末一つできない不出来なメイドに代ってこの私が直々に相手してやる」
駄目だ…まともに相手をして勝てる相手じゃない。それに言葉の通りあのメイド長の様に見逃してもらえるとも思えない。ならば一か八か…その心を挫く!
「取り繕えてない!!」
「うぐぅ!」
言葉が矢として放たれたように胸の辺りを抑えて怯むレミリア。
「速いぞぉ!!!」
私は腕を水平に持ち上げながら叫ぶ。
「あがっ」
アッパーカットでも叩き込まれたように上を見上げながらよろよろとしている。言葉でこんなにダメージを与えられるとは思わなんだ…。彼女はその場に膝をついてうつむく。
「貴様…」
ヤバい。怒らせてしまったかもしれない。私は今のうちに走って逃げた。今はとにかく遠くに…。すぐには見つからない場所に…。
しまった、どうせならこのままあの右側の部屋に向かうべきだった。今は知っている方向は逆。とはいえ今から戻れば掴まってしまう。今はとにかく逃げないと…。
「チルノ、こっち」
声が聞こえた。そこへ向かうとドアが開き、私の手を引っ張った。私がよろめきながら部屋に入るとドアは閉まった。目をやるとそこにはジェーンがいた。彼女はドアに耳を当ててしばらくしてこっちへ戻ってくる。
私は呼吸を整える。上手く行ったとはいえあのレミリアと対峙した。今でも心臓がバクバクする。この事をにとりに話せば分かってくれるはず。今は荷物より自分の命が惜しい。できる事なら、とにかく帰りたい。
「あはは、やるね。さっきのはとても面白かった」
「見てないで助けてよ…」
やっとの事で落ち着いてきた。私の言葉は無視して部屋に干してある服の一つを持って来て手渡ししてきた。これは…メイド服?
「私ここで働く気はないよ」
「馬鹿ね、変装よ。その服で歩き回るよりはまだマシになるわ」
なるほど。私は早速と服を受け取って着替える。割とサイズはあってる。元の着替えはどうしようか…と思っていると彼女が預かってくれた。帰りに渡してくれるんだろう。
少し休憩して行こう。私は壁に背もたれて一息ついた。ジェーンは静かに私を眺めている。
「ジェーン、あなたはどうしてここに?」
「強大な勢力に属すると言うのはその立場を持つ事。外界を歩く時、下手に襲われたりされにくくなったりもする。そうでしょ?」
つまらない事を聞くなと言った口調で言った。私は言葉を返さず水筒の水を飲んだ。珍しそうに見てるので渡すとしばらく見つめていた。
「荷物を届け終えたなら、あなたはもうここへは来ないのよね」
「多分ね」
「ここを出たら、もう私達は会えないと思う」
「どうして?ジェーン・ドゥにはいつでも会える」
彼女は意外そうな顔をした。それからため息をつくとそっぽを向く。
「そう。それじゃ、荷物の配達頑張ってね」
そう言ってこの場からいなくなった。私もそろそろここを出るとしよう。