IS 〜殺し屋奮闘記〜   作:黒鉄48号

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 皆様初めまして、四葉亭六迷と申します。
 ちょっとした息抜きもかねて、この話を書いて見ました。どうぞ、読んでいってください。


番外編
プロローグ


 その夜は、恐ろしく暗かった。

 月の光の一切を遮る程に厚い雲が空の全てを覆い、故に人々の心も空模様と同じくどんよりとしていた訳だ。

 

 草木も眠る丑三つ時、人々が自分の家のベッドや布団でぐっすりと眠る時間。これから語られるのは、そんな時刻の一幕である。

 

 

 今時テレビの時代劇以外じゃ耳にしない、時代錯誤な刃の打ち合う音が鳴り響く。一合、二合、繰り返す。

 それを振るうは二つの人形(ひとがた)、白と黒。

 

 鎧武者の如き白を駆るは、美しい黒髪の女性である。鋭い目付きに、腰程までの長さの髪を纏めたポニーテール。

 手に持った白い大太刀が似合う、凛とした雰囲気を纏う彼女————人呼んで世界最強(ブリュンヒルデ)、先日行われたISの世界大会『モンド・グロッソ』総合優勝者である『織斑(おりむら)千冬(ちふゆ)』は、自身の専用機たるIS『暮桜(くれざくら)』を纏い相手を睨みつける。

 

 彼女に相対するは、夜の雲の様な、星のない宇宙のような、そんな『黒色』の人形である。大きさは社会人の女性程で、四肢は人より少し大きくはあるが、暮桜と比べればあまりにも細く短い。

 頭部に備わった日本の(アンテナ)に、暗褐色のツインアイ。その目の下には血涙を彷彿とさせる赤い隈取が彫られている。

 まさに『鬼』という言葉が相応しい形相の機体だが、それに反して振るう得物は金棒ではなく一振りの刀。闇夜に溶けてしまいそうな黒いそれに、紅く禍々しい刃紋が浮かび上がっている。

 

 二機の戦いが始まってから、既に一時間が経過している。その間に双方とも有効打を与えようと幾度となく刃を交えたものの、その大半は避けられ弾かれ受け流されて、今はこうして睨み合うしかない状況だ。

 ほんの刹那でも気を抜けば、それが致命的になるであろう極限の緊張状態、それがかれこれ十数分も続いている。いかに最強と讃えられる千冬も当然人の子であり、生まれた時代だって日常的に戦争が行われている訳では無い、非常に平和な時代だ。

 

 故に、彼女は刻一刻と近く集中力の終わりに焦りを感じ、肩で息をしていた。そもそもとして、彼女自身の戦闘スタイルが『真っ直ぐ突っ込んで叩っ斬る』であり、試合時間が十分を超えたのだって準決勝と決勝戦の二回だけである。

 彼女が纏うISには、それこそ過剰と言っても過言ではないレベルの機能が山程積まれているし、その中の一つには操縦者の生態機能を補助する物も存在している。

 

 だがしかし、それでも黒い鬼に勝つ為の一手には繋がら無い。何故なら、息も絶え絶えな千冬に対し、鬼は一切コンディションを落とさないどころか、寧ろ最初よりも確実に技能が向上しているのだ。

 

「ふむ……織斑千冬(ブリュンヒルデ)、貴方に一つ質問をしたい」

「はぁ……はぁ…………なんだ?」

 

 緊迫感に溢れた静寂を破る言葉を、鬼は千冬に投げかける。ごく自然に、それこそ誰もが見ても違和感を感じないぐらいに自然に首を竦めた彼は、言葉の続きを話す。

 

「貴方は、私のような()()でも、夢や幻を見ることはあり得ると思うか?」

「……何を言いたい」

「なに、単純なことだ。——私は実は既に倒されていて、今見て聞いている物は人間で言うところの『走馬灯』ってやつではないのか、とても不安でね……」

「ほう……随分つまらない冗談だな」

「冗談? いやいや、そんなこと無いさ……何せ、私が今戦っている貴方はかの『世界最強』だ。そんな化け物相手に一時間も戦えているなんて、あまりにも現実味が無さすぎるとは思わないのか?」

 

 鬼は、恐怖を滲ませながら話し続ける。そのあまりにも人間くさい言い回しで、両者の緊張は僅かに和らいだ。

 千冬は大きく深呼吸をし、呼吸を整えて相手を見つめ直す。先程まで緊張で固まりきっていた体は、自然体へと戻っている。

 

「いいや、思わんな。確かにお前は機械で、その上人でなしだ……でも、確かな信念を持っていることも事実だ。故に、お前は私と渡り合えている訳だ」

「……貴方がそう言ってくれるとは、意外だな」

「だが……いや、だからこそ、か。私はお前を討たねばならない————さぁ、構えろ!」

「言われなくとも!」

 

 そのやり取りを皮切りに、両者は再び互いの得物を構え、同時にスラスターを吹かした。

 最初に仕掛けたのは鬼で、一瞬鞘に収めてからの居合を放つ。機械特有の精密さと素早さを兼ね備えたその一撃は、虚しく空を切る。

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)! ……いや違う、二段階(ダブル)だと!? 正気の沙汰じゃないぞ!?」

 

 瞬時加速——スラスターから放出したエネルギーを即座に取り込み、圧縮して再放出することで通常より速く加速する、IS特有の特殊技能の一つである。

 機体によっては最高瞬間速度2000km/hを叩き出すとんでもない代物だが、織斑千冬が行った二段階瞬時加速(ダブル・イグニッション)は、それに加えて間髪入れずにもう一回瞬時加速を発動させる物だ。

 

 だが、鬼が驚愕しているのはそこでは無い。瞬時加速を織斑千冬が得意としているのは周知のことであり、ダブルも度々使用されている技術だ。

 問題は、()()()()()()()()()()()()使()()()と言うことだ。

 原則として、瞬時加速中は軌道変更はご法度である。なぜかと言えば、いくらPIC*1があるとは言え、音速以上の速度で曲がったりなんてしたらタダでは済まない。

 よくて亀裂骨折、酷い場合は内臓損傷もあり得る大変危険な行為なのだ。

 

「ふん、流石に予想外だったか!」

「馬鹿な……そんなことをすれば、貴方だって無事では————」

「なに、死ぬほど痛いだけだ!

「それは無事とは言えんぞ!?」

 

 周りに一切の声が聞こえない個人間秘匿通信を用いて、彼らは言葉を交わす。

 その間にも、上空へと回避した千冬が上段からの振り下ろしを放ち、それを黒鬼は受け流して反撃をする。

 

 何度も何度も打ち合う二人だが、段々と千冬が有利になっていく。

 いかに機械といえど、学習速度には限界が存在する。その上、実は黒鬼が実戦を行うのはこれが()()()であり、そもそもの経験が不足しているのだ。

 対して千冬は、己の身と太刀一本で並み居る強豪達を打ち破って来たのである。————故に、勝負の幕はあっさりと落ちることになった。

 

 

 何度も続いた斬り合いの末、遂に黒鬼の握る刀が弾き飛ばされる。

 その隙を千冬が逃す筈もなく、自身の愛機の必殺技——単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)零落白夜(れいらくびゃくや)』を発動させ、目にも止まらぬ速さで何度も斬りつける。

 黒鬼の両腕両足が斬り飛ばされ、PICによる飛行が出来なくなったその体が地に落ちる。胴体部分を踏みつけながら、千冬は鬼の目を悲しげに見つめる。

 

「……これで、私の勝ちだな」

「あぁ、貴方の勝ちだよ織斑千冬」

 

 そのやり取りを終えた瞬間、彼女は鬼の胴体を貫いた。僅かに残っていた力も消え、人形(ひとがた)はガラクタになった。

 そんな二人を、雲の切れ間から朝日が照らしていた。


 

 これは、物語の始まりの前の数ある前日譚の一つである。

 本当の物語は、この戦いから数年後に始まるのだ————その行方を知る者は、未だに現れていないのだが。

*1
Passive Initial Canceller……直訳すると『受動的な慣性除去装置』であり、ISが高速で滑らかに飛行できるのはこの装置のおかげである




IS:皆さんお馴染み例のアレ。宇宙で活動する為に作られたけど色々あって宇宙に行けてないパワードスーツ。オーバーテクノロジーの塊みたいなもん。

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