IS 〜殺し屋奮闘記〜   作:黒鉄48号

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 比較的早くかけたので初投稿です


第七話 事実は小説よりも奇なり

 本棚から持って来たISの教科書を読み切り、更に二年生と三年生の物も頭に叩き込んだオレは、ちょっとした達成感と頭の痛みを味わっていた。

 

「よっしゃ……最低限の知識は覚えられたぞ。つまり、PIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)ってので飛行ができて、武装は拡張領域に量子変換(インストール)にしておいて使う時に呼び出し(コール)——いや、普通に横文字多いなおい」

 

 複雑な単語達を思い出しながら暗唱してみる。……よし、一応覚えられているな。

 

「にしても……ここまで頭が痛くなるなんてのは、学生の定期テストの時ぶりだなぁ」

 

 タブレットを見続けたことが原因であろう肩の凝りを解しながら、少し周りを見渡してみる。

 既に外は日が暮れかけていて、真っ赤に染まった夕日がわずかに館内に差し込んでいるぐらいの時刻だ。教科書を見始めた時にはそれなりにいた利用者も、オレを含めて両手の指で数えられる程までに減っている。

 置いておいた電脳メガネを掛け直し、椅子から立ち上がる。

 

 さて、とりあえず目標は果たせた訳だがここからどうしようか。

 ぶらりぶらりとゆっくり歩き、適当に本棚から本を手に取って数ページ読んでみる。————うん、やっぱりこういうのは苦手だ。

 挿絵の無い、堅苦しい文字がぎっしり詰まったページを眺めながら痛感する。さっきまで読んでいた教科書みたいなのは割と平気なのだが……本当にどうすりゃいいのだろうか。

 

 完全に日が暮れた頃、児童書エリアを横切りかけた瞬間ふと聞き覚えのある声が聞こえた。

 街頭に集まる虫の様に、エリアの声がする方へ方へと向かっていく。そこには案の定、あの宇野さんがいた。

 

「——さーて、上の道と下の道、次はどっちに進む〜? ……せーの!」

『下〜!!』

 

 彼は子供達——下は幼稚園児、上は小学校低学年程——に読み聞かせをしている真っ最中だった。読んでいる本は……オレが昔幼稚園で何度か読んでいた『こんがらがっち』の様だ。

 あのシリーズは子供に読み聞かせるのにかなり適しているタイプだろう。なにせ、物語が分岐していくのだから……幼いながらに一冊の全ての組み合わせを試していたことを思い出す。

 

 その後も読み聞かせはとんとん拍子で進んでいき、十分程で終わった。

 宇野さんが親御さん達と軽い会話を交わしながら同時に子供達とも会話し、彼らを一通り見送った所でオレは彼に話しかけた。

 

「なぁ、宇野さん」

「ん? ……ああ、佐藤さんですか、さっきぶりですね。何か用があるのでしょうか」

「そうですね。あのー……何か、おすすめの本ってありますか?」

 

 オレが彼に質問すると、彼は右手を顎に添えて考え始めた。

 

「……まず、どんな本が読みたいか教えてくれますか?」

「あ、そうですね。えーっと……ある程度挿絵のある小説で、シリアスじゃなくてギャグとかがあるやつですかね」

「なるほど……なら、あの本ですかね」

 

 歩き始めた宇野さんにオレはついていく。彼が向かった先は外国人作家の作品が集まっている棚で、そこから一冊を抜き取ってオレに渡した。

 

「『こちらゆかいな窓拭き会社』……面白そうなタイトルですね」

「ええ、それならページ数もお手軽ですし、何より話のテンポが最高なんですよ。絵も味がありますし」

 

 そう言いながら、彼は同じ作者の場所から更にいくつか本を取り出す。

 

「それを読み終わってからでいいのでこの『すばらしき父さん狐』を、これも読み終わったのならこっちの『チョコレート工場の秘密』、『ガラスの大エレベーター』をおすすめしましょう」

「チョコレート工場……ガラスのエレベーター……あ、それってもしかして——」

「おや、ご存知でしたか。そう、あの『チャーリーとチョコレート工場』の原作ですよ。……といっても、ガラスのエレベーターの方は省かれてますけどね

 

 いつだったか、金○ロー○ショーで放送していた作品だ。チャンネルを回していてそれを見つけてから番組が終わるまでずっとテレビに齧り付いていたのは割と覚えている。チョコレートの滝と川、食べられる草原、不思議な発明室、縦横無尽に動くエレベーター……これ以外にも色々と面白いものがあったなぁ。

 

「なるほど……それじゃ、その四冊を借りますね」

「えぇ、どうぞ。返却期限は二週間後ですので、ちゃんと守ってくださいね。……もし遅れたら、どうなるかわかってますよね?

「は、はいぃ! しっかりと期日を守らせてもらいます!!」

 

 最後に背筋が凍るような笑顔でそう言い聞かされ、オレは心臓をバクバクさせながら機械に本を置いて貸出しの手続きを終えた。

 館内から出ると、既に夜空に星がちらほらと見えるほどになっており、吹き付ける風に手がかじかむぐらいに寒くなっていた。

 

 スタンド下に敷いておいた缶を取り外し、バイクに跨ってスマホを弄る。せっかくなので、この街にはあってオレの街にはないお店とかで食べて行きたいな……お、あったあった。

 調べて出てきたのは『五反田食堂』——個人経営の定食屋で、クチコミの評判もかなりいい方だ。よし、今日はここに行こう。


 

 勢いよく風が吹き付ける。手袋やらなんやらで対策をしてはいるが、やはりこの時期の寒さは厳しいものだ。

 スマホホルダーに取り付けたスマホの指示に従いながら運転していると、ふと妙な物音が聞こえた。

 人が揉めているような音で、なぜかガシャガシャという音も鳴り響いている。まだそんなに遅くない時間なのに、一体何が起こっているのだろうか——

 

 物音のする方向に行ってオレの目に写ったのは、複数の男性が子供を車に無理やり乗せようとする景色——あぁ、驚くほどにありきたりなハイエース(誘拐)だった。

 オレは裏の人間だ。人殺しこそしていないが、借金の取り立てとかの非合法な仕事はまぁまぁやってきた。……だけど、こういうクソッタレな状況で素通りできるほど、冷徹にはなれないんだ。

 

オイゴルルァ!! 何やってんだテメェら!

「……っチィッ! 人が来やがったか……クライアントに追加で料金もらわなきゃなぁ」

 

 ヘルメットを外してバイクから降り、全速力で少年と男どもの間に割り込む。男達は何歩か引き下がり、二人を除いて全員が懐から警棒を取り出して構えてきた。

 背後の子供を確認する……はぁ、どうして悪い出来事は重なって起きるのだろうか。誘拐されかけれいたのは、今日出会ったばかりだった一夏君だった。

 

「さ、ささ、佐野さん……どどど、どうしてここに?」

「偶然通りかかっただけさ……にしても、もうちょい冷静になっときゃよかったかな?」

 

 昔取った杵柄でそれなりにステゴロは得意だが、流石にこの人数は少々キツい。はてさて、どうやって切り抜けようか。

 

「……!? 佐野さん、何か来m——」

 

 スタッ……と、オレ達とあいつらの間に、静かに人影が降ってきた。墨汁に漬け込んだような黒いコートに、それすらも上回る黒色の髪……そして、一度見たなら忘れられない、あの特徴的な仮面は——

 

「蛇鴉……あんた、なんで」

「ふふふ、()()()()()()()()()()()……なんてな」

 

 特徴的な冷徹さが漂う声で、こいつはそう答えた。

 男どもの方向を向いた蛇鴉は、首をゴキゴキと回しながらゾッとする声を出した。

 

「最初に言っておく……今の私は、最っ高に気分が悪い……!!」




 蛇鴉は休日出勤+トラブルでブチギレ状態です
 どうして彼がここにいるのかは、次話で説明させてもらいます


ご精読ありがとうございました。感想、誤字報告もよろしくお願いします
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