原作ネタも少しあるで
一夏君を家付近まで送ったオレは、やっとこさ本来の目的である五反田食堂へと辿り着く。
バイクから降りた瞬間に、結構大きく腹の虫が鳴いた。よくよく考えると、腹が減った状態であんなに激しく動いたのだから当然だな。
空腹は最高のスパイスなんて言葉を思い出しながら、暖簾をめくって扉を開ける。
中はカウンター席とテーブル席があって、今はカウンターの方に仕事帰りのサラリーマンや高校生が何人か座っていた。
空いている席へと座り、メニュー表を開いてみる。……とりあえず、鉄板メニューの『業火野菜炒め定食』を頼もうか。
「すいません。業火野菜炒め定食一人前ください」
「あいよ!」
料理をしているのは赤髪の老人だ。肩まで捲り上げられた長袖の調理服を着ていて、剥き出しの腕は筋肉隆々だ。その気になれば、今降ってる中華鍋を同時に二つは使えるぐらいに思える。
「おい、
「は〜い、わかりました」
そう言って料理を運んで来たのは綺麗な笑顔の女性だった。見た目的には大体二十代後半ぐらいの若い人だ。
目の前に定食を置き、オレの顔を見て少し驚いた表情になる。
「あら、初めての人かしら。どうぞごゆっくりね」
「ありがとうございます。——それじゃ、いただきます」
定食の内容は、多めに盛られた白米と、ワカメと油揚げの味噌汁。隅っこにカボチャ煮があり、真ん中には名前にもなっている野菜炒めが堂々と大皿に盛られている。
名前のインパクトとは裏腹にかなりシンプルな見た目をしているそれを、先ずは一口食べてみる。
感じたのは、シャキッとした強い歯応えと濃い目の味。ご飯と相性が良さそうなので、今度はご飯に乗っけてから一緒に食べてみる。
うん、思った通りこっちの方が美味しく思えるな。一旦味噌汁を飲んでから、更に一口、二口と食べ進めていく。
大体食べ終わったところで、ふと隅っこにあったカボチャ煮が目に入った。やべぇ、ついつい野菜炒めばっかり食べちまった。
幸いなことに、ご飯がまだ少し残っていたので、一緒に食べてみる。……瞬間、そばに置いてあったコップに入ってた水を一度に飲み干してカボチャを無理矢理飲み込む。
「どうしたあんちゃん? なんか変な物でも混じってたか?」
「いや、なんというか……このカボチャ煮、クソ甘くないですか? 具体的に言うなら……蜂蜜漬けをシロップ煮にしたぐらいなんですけど」
「おいおい、そこまで言うか?」
店主さんは満面の笑顔でそう言ってきた。いや、本当に甘いんですけどこれ。……だけど、何故だろうか。もう一口、後もう一口とついつい食べ続けてしまう。
結局、カボチャ煮もあっという間に食べ終わってしまった。手を合わせてご馳走様を言ってから、会計を行う。
「ご馳走様でしたー」
「あいよー! また来いよー!!」
量のわりに値段が安いので、給料不足の時とかは今度からここを使うのも良いだろう。
外に出て、夜空の月を見上げながら今夜のことを思い出す。一夏君が誘拐されかけていたのも気になるが、一番の問題は蛇鴉の野郎だ。
いきなり現れた時のセリフからして、確実にあの時近くにいてオレ達を——いや、正確には『オレ』を監視していたのだろう。
けど、どうにも納得いかない。お世辞にもオレは頭が良いとは言えないし、何かヤバい秘密を知っている訳でもない。そんなオレを、わざわざ人を使って監視する必要があるのだろうか? 今のご時世、適当なドローンを使った方が安上がりだしバレにくい筈だ。
色々と疑問を抱きながらバイクに跨り、オレは自宅へと出発したのだった。
「ふぅ、やっと一通り終わったよ……風呂掃除、料理、明日の準備全部ヨシ!」
終わらせた家事を口に出して確認した僕は、ソファーに倒れ込んで一息つく。
ついさっきまでの非現実的な戦いが嘘に思えるほど、ありきたりで見慣れた景色——『当たり前』の有り難味を痛感していると、ドアの鍵が開く音がした。
僕は玄関まで小走りで向かい、そこに立っている人——千冬姉さんへ話しかける。
「お帰り、千冬姉さん! お風呂にする? それともご飯?」
「あぁ、ただいま一夏。そうだな……お腹が空いてるから夕食にしようか。もう出来てるのか?」
ちょっぴりくたびれた様子で、姉さんはそう聞いてきた。
「うん、ばっちり! 後は装るだけだし、仕事で疲れてるだろうから姉さんはテーブルに座っててね」
「そうか……いつもありがとうな、一夏」
直ぐにキッチンへと向かって、まずはご飯と味噌汁を装ってテーブルまで運ぶ。次に、主菜の肉味噌キャベツと副菜のサラダを両手で運び、テーブルに置いてから箸とお茶を置く。
「「いただきます」」
先ずは味噌汁を一口。——うん、やっぱり小松菜と油揚げの組み合わせはとても美味しい。白味噌ベースに赤味噌をほんの少し混ぜたのもいいアクセントになってくれている。
流れで白米を一口食べてから、今度は肉味噌キャベツを小皿に取って食べる。キャベツの歯応えと僅かな甘味、それが肉味噌の味をしっかりと引き立てているのがポイントだ。
「そういえば、姉さん」
僕が話しかけると、千冬姉さんは口の中に入ってたご飯と肉味噌をお茶で流し込んでから応える。
「ふむ、なんだ?」
「あそこ……IS学園での仕事は順調なの? なんか、今日は随分とくたびれてたからさ」
「あぁ、そのことか……いやな、今年は色々と訳ありでな。代表候補生や専用機持ちが大量に在籍するらしい。そのせいで、ここ最近はずっと
「なるほどね……」
姉さんは気怠げにそう語る。世間では、やれ世界最強だとか完璧超人だとか持て囃されるこの人も、実際はただの……いや、ちょっぴり家事が苦手でお酒が好きなだけの人間だ。
仕事が多ければ疲れるし、僕がおつまみを作れば喜び、マッサージをすれば表情筋が緩む。そんな人だ。
「まぁ、今日はゆっくり休んでよ、姉さん」
「それじゃ、その言葉に甘えさせてもらおうか」
そこまで話し合ってから、再びご飯を食べ始める。——あぁ、家族と一緒に食べる料理は普段よりも美味しい物に思える。
ご飯を食べ終えた僕らは、姉さんはソファーに座り、僕は食器を洗浄機にセットしてお風呂のスイッチも入れる。そうしてからソファーに座ろうとしたら、姉さんが自分の膝の上を指差してきた。
「……姉さん、一応僕後二ヶ月ぐらいで高校生になるんだけど?」
「だとしても、私の弟であることに変わりはないだろ?」
姉さんは
食洗機の音、ニュースのアナウンサーの声、姉さんから感じる体温と鼓動————普段はあまり意識しないそれを、今日はやけに強く感じる気がする。
今日の出来事は、もう少し後で伝えよう。今はただ、この日常の有り難さをもっと味わいたいんだ。
今作はマイルド千冬さんで、原作と違って髪を縛っておらず常にロングです
…後、若干ブラコンの気があったりする
ご精読ありがとうございました。感想、誤字報告もよろしくお願いしますm(_ _)m