特殊タグ楽しい……楽しい……(現実逃避)
あの誘拐騒ぎが起こってから一週間が過ぎた。ついに明日は藍越学園の受験日だ。
願書と筆記用具を鞄に詰め込み、玄関に置いておく。
「なぁ……一夏、本当に明日は一人で大丈夫なのか?」
千冬姉さんが僕に問いかける。デスマーチも完璧に終わったらしく、白地に水玉模様のパジャマを着崩して、普段以上にゆったりとしている。
その証拠に、彼女の手には缶ビールが握られている。ついでに言えば、既に空っぽの缶が二個テーブルに転がっていた。
「もう、心配しすぎだってば。少し恥ずかしいけど、防犯ブザーも着けたしさ。それに、真昼間に人目が沢山ある場所で誘拐する人なんて、そうそういないよ」
「そうは言うがなぁ……」
姉さんが一気にビールを飲み干したのを見て、僕は冷蔵庫から新しい缶ビールを取り出す。
お酒が飲める方とはいえ、いくらなんでもテンポが早すぎないかとも思う。だけど、せっかくの休日なんだ。今日ぐらいは大目に見てあげても良いだろう。
そんなことを考えながらビールを手渡したら、姉さんが僕の背中に手を回して抱き寄せてきた。
……うん、これ確実に酔ってるね。普段より頬が火照ってるし。
「
「ちょ、ちょっと姉さん! 流石にこれ以上は——」
「お前が誘拐されかけたって聞いた時はなぁ! 本当に心配したんだぞぉ……例のナントカカラスってのが助けてくれたから良かったけど、もしも誘拐されてたら……あぁ、想像するのも嫌になる……」
姉さんの回す手により一層力が込められる。──その手は僅かに、ほんの僅かに震えていた。
普段は見せない、姉さんの弱気な所……でも、こればっかりは譲れないんだ。
「……わかったよ、姉さん。でも、やっぱり明日は自分だけで行きたいんだ」
「……そうか」
自分自身に言い聞かせるようにゆっくりと紡いだ言葉に、千冬姉さんも納得してくれたみたいだ。
その後は、更に二本もビールを飲んでそのまま眠りそうになった姉さんを寝室まで肩を貸しながら運んでから、自分の寝室に入って参考書をある程度確認してベッドに寝転んだ。
…………にしても、まさか一番近い高校の受験会場に行くのに四駅乗ることになるなんてね。
全く、昨年に
そんなことを思いながら、僕はゆっくりと眠りに落ちていった。
日曜日のお昼時……それは、図書館利用者が最も少なくなる時間帯であり、同時に私達の数少ない休憩時間の一つである。
スタッフルームに備え付けられたレンジでコンビニの牛丼を温めていると、受付のアンジーさんが入室してきた。
「はぁ〜、やっと一休みできるわねぇ……宇野くん、何があるかしら?」
「カップ麺なら狸と狐、後はラーメンや焼きそばとかが」
「なら、今日は赤い方を頂こうかしら」
その返事を聞いて、温め終わった牛丼を取り出しながらついでにキツネうどんのカップ麺を持っていく。
牛丼の具をご飯の上に乗せて、プラスチックのスプーンを袋から取り出し、手を合わせる。
全体をささっと混ぜて、味わいながら食べていると、目の前にアンジーさんが座ってカップ麺を食べ始める。
「確か、そのタイプって五分間待つやつでは?」
「まぁそうだけど、私は固めが好きなのよ。油揚げはもう戻ってるし」
「ほう……にしても、相変わらず似合わないですな、その容姿でカップ麺が好物なんて」
「いいじゃない、別に。これでもれっきとした日本生まれ日本育ちなんだし」
そう呟きながら、彼女はうどんをズズッとすする。
アンジーさん──本名『
空色に近いショートヘアスタイルに、琥珀色の目。普通に考えれば引く手数多なモテ具合になるんだろうが、そんな上手い話もないわけで。
如何せんこのご時世、女尊男卑の影響で下手にナンパ等をしようものなら、有る事無い事言われて警察にお世話になる事例が多い。
それだけならまだしも……暇な時に態々サメ映画やら、なんとも言えない出来のB旧映画を見ようとするのがこの人だ。
デートの時もそういうのを見に行ってしまうせいで、今までの最長交際期間が僅か一ヶ月なんだとか。
閑話休題。
アンジーさんが汁を飲み干したのと同時に、私もペットボトルのお茶を飲み切る。
軽く空気を吐き出したら、彼女と雑談を始める。
「そういえば、ここ一週間はどんな本が借りられてるんですか?」
「えぇっと……『ドラゴン桜』や『二月の勝者』とかの受験漫画に、勉強の持論とかを取り扱った本、後は新書とかね」
「ふむ。やっぱり、その手の本がメインなんですか」
「まあね……丁度この時期は公立私立、両方とも受験のピークだし。みんな、藁にもすがる思いなんでしょうね」
彼女と会話を交わしていると、ふとあることを思い出した。
「あ、確か今日が藍越学園の受験日でしたっけ?」
「えぇ、そうよ……まぁ、今年の受験生には同情するわね」
「何か事件でも?」
「去年の事なんだけど、組織的なカンニングが起こってね。その手口が、受験会場が受験日の数ヶ月前に知らされることを応用したものらしくて」
「はぁ。全く、いつの時代もそういうことをする人は居なくならないですね」
「そうね……といってもまぁ、具体的にどんな手口だったのかは知らないのだけれどね。ま、そんなかんなで受験会場の通達が二日前になったんですって」
「えぇ…………そりゃまた随分と遅く」
確かに、これには同情を禁じ得ないな。人によっては予期せぬ出費ができそうだし。
それから暫くくっちゃべっていると、部屋の外が騒がしくなってきた。
何ごとかと思って、私とアンジーさんはエントランスに向かう。
「……ねぇ、宇野くん。もしかしてこれって夢?」
「はははっ……それだったら良かったんですけど、残念なことに、こりゃ現実みたいですね」
私と彼女──いや、今この場にいる全員が同じ場所を見ていた
そこには、こんな見出しのニュースがAR画像で大きく映し出されていた。
やっと……原作開始にたどり着いたんやなって(感動)
まぁ、まだまだイベントあるけどね!(白目)
いつになっったら学園に入学するんだよこいつら(頭抱え)