宇野対山田先生回。
ピットに戻った私は、織斑君と山田先生の戦いを見る気まんまんで壁面のテレビを目を皿にして凝視していたのだが、思った以上にあっけなく終わってしまい、拍子抜けしてしまった。
「ありゃりゃ……出ちゃったかぁ、ヤマヤの悪い癖。あの子、強いことには違いないんだけど、どうにも緊張に弱くてねぇ……大方、一夏君に教師らしいところ見せようとしてミスったって感じなんだろうけどさ」
「なるほど……」
「ところで君ぃ、こーんな美人なお姉さんがすぐ近くにいるんだ。少しぐらいそれらしい反応してくれないかナー?」
…………幻聴だ。うっかり返事してしまったけどこれは幻聴だ。俺の隣にいるスク水っぽいISスーツの上に白衣を着た、ワカメみたいな髪型の、吸血鬼みたいな長い犬歯の女性は幽霊的な何かなんだ。そうさきっと間違いないさ!
「おーい、目が死んでるよ〜? ど〜する、ババ抜きでもするかい?」
そう言いながら女は抱きついてくる。
ワースゴイナー、サイキンノユウレイッテアシモタイオンモアルンダナー。
「……はぁ。しょうがない、これやるか。大丈夫? おっぱい揉む?」
「……あーもう! 分かりましたよ結構です! はぁ、どうしてこうも私の周りには変人が集まるのかねぇ…………」
「む、変人とは失礼な! これでも私、凄い人なんだよ?」
「ほう? それじゃ、少し失礼だが名前をおしえて貰っても────」
「
「……マジで?」
篝火ヒカルノ──言わずとしれた、かの『量産型コア』の開発者の一人であり中核を担った天才である。
そんな人が今、私の真横にいる……普通なら泣いて喜ぶぐらいはしなきゃいけないのだろうが、どうにも喜べない。主に服装的な意味で。
「おう、マジよマジ、マージ・マジ・マジーロよ!」
「マジレンジャーとは懐かしい……じゃなくて、なんでこんな所にあなたみたいなお偉いさんが来ているんですかね?」
「よーくぞ聞いてくれました! それはね……君達のデータを集める為さ。やっぱり生のデータってのは貴重だからねぇ」
「あぁ、だから私が戻って来た時壁のアレ見ながらホログラムで色々やってたんですか」
そう考えれば腑に落ちる。私がウンウンと納得していると、山田先生から
『宇野君! パーツの換装が終わりました。待たせちゃいましたか?』
『いいえ、むしろ丁度いいタイミングですよ……こちらもそろそろ出撃しますね』
返事をして、ゲートへ飛ぼうとした時に篝火博士がこちらに話しかけてきた。
「全く、試験官があの
「ありがとうございます。それじゃ──」
ゲートの向こう側にいるであろうラファールを睨みつけながら、両足と腹に力を入れる。
……あぁ、全くもって最高だ。ロマンの塊みたいな物にのって、どでかい武器をブン回しながらバカスカ弾幕を貼れるんだ。
男の子なら誰もが一度は想像するそれを、絶対に出来ない筈だったそれを……今、
「宇野誠一、打鉄、出る!!」
意気揚々とピットから飛び出して、空中で静止する。
これ以外にも多種多様なデータがハイパーセンサーを通じて送られてくる。俺の
「宇野君、どうですか?」
「どうって言われたら────そりゃあ『最高』に決まってるじゃないですか、山田先生。こうやって飛んでみると、やっぱり俺も男の子なんだなぁって」
「うふふ……それじゃ、そろそろ始めますか?」
「えぇ──やりましょうかぁ!」
そのやり取りを皮切に、互いに戦闘に入る。
最初に仕掛けてきたのは先生で、五一口径アサルトライフル『レッドバレット』でこちらを牽制してくる。
それを避けた俺は、右手に葵、左手に焔備を同時に展開する。三十分間の練習の時に武装を眺めていたのはこれの為だ。
狙いをつけて何発か撃つが、それは楽々と躱されてお返しとばかりにグレネードを撃たれる。
打鉄の特徴である二枚の盾で爆発を防ぎながら、更に距離を詰めていく。
「はっはぁ! キリンだかなんだか知りませんが、やっぱり強いっすなぁ先生ぇ!」
「なんか宇野君キャラ変わってませんか!?」
「興奮するとこうなる質なんです、よぉ! 」
そう言いながら、右手を180°回転させて擬似的な逆手持ちにし、葵を先生目掛けて全力でぶん投げる。
意表を突かれたためか回避後に隙が生まれたので、それを利用してラファールへと近づきながら右手にもう一丁焔備を展開し、一斉に放つ。
「ちょっと!? 刀は投げるものじゃありませんよ!?」
「はっ、そんなありきたりな考え方じゃあんたにゃ勝てなさそうなんでねぇ! 邪道? 型破り? 大いに結構!! 負ける気で戦うなんざぁ御免だねぇ!」
思ったことが即座に口に出る。……自分でも意外だけど、俺ってこんなに饒舌になれるんだな。
頭の片隅でそんなことを考えながら、一マガジン分撃ちきったので焔備を収納。先生に向かって投げた葵が偶然地面に突き刺さっていたので、そこまで移動してこれも収納する。イメージを固めておいたおかげでこういうことが出来るので、イメージ・インターフェイス様様だ。
────ただ、この時の俺は『調子』と『勢い』に乗って……いや、
葵を回収している間に山田先生が体制を立て直したのを見逃してたのがいい例だ。
「強いですね、宇野君……正直言って、意外でしたよ」
「お褒めに預かり恐悦至極ぅ! キリンだかなんだか知らねぇが、『呼名』があるってこたぁあんた、当時は相当
「……えぇ、それなりには」
先生はそう呟きながら、空中で指を動かしていた。その速度はかなり早く、ハイパーセンサーがなかったら視認できなかったかもしれない程だ。
視界に文字が表示されるより早く、変化は訪れた。
両腿にロケットランチャー、カスタムウイングのハードポイントにグレネードランチャーとミサイル、そして両手にショットガン……これらの装備が、
本来、武装展開時には形成する過程で発生する粒子や光といった前兆がある、とあの参考書には載っていたはずだ。その前提をぶっ壊すような事実に、俺は面食らって頭の中が真っ白になってしまった。
「少し時間も押してるんで、これで最後にしますよ〜」
「……最
俺は恐る恐る質問する。すると先生はにっこりと、あぁそれはもう天使のような笑顔でこう答えた。
「今展開している全ての武装が弾切れになるまで撃ち続けるので、とにかく生き残ってくださいね! それじゃ、スタート!」
「えっちょままだ心の準備g──ギャアアアァァァア!?」
合図と同時に、恐ろしいまでに濃い弾幕が俺に襲いかかってくる。
絶対防御に繋がりかねない攻撃は盾で防ぎ、時折混ざるグレネードやミサイルは焔備で撃ち落としながらとにかく逃げ回る。
よりにもよって打鉄よりもラファールの方が機動力が高いうえ、ワンセット撃ち切ったと思ったら即座に量子展開を応用して弾薬をリロード、そのまま継続して弾幕を貼ってくるもんだからもう手のつけようがない。
壁を蹴ったり天井を蹴ったりしてなんとか加速したり、葵を地面に刺して急カーブを行った結果そのままお釈迦になったり、弾切れになって使い物にならなくなった焔備を先生にぶん投げたりしながら、逃げて逃げて逃げまくった訳だ。
「10分……いやはや、本当に凄いですね宇野君! こんなに生き残れるなんて!」
「ははは……もう死ぬ寸前ですけどねぇ!? ……いや本当、どうして織斑君の時はああなったのか、これもはやオカルトに片足突っ込んでるぐらい謎なんですけどね?」
軽口を叩いてはみるものの、状況ははっきり言って悪い方だ。焔備は二丁とも投げ捨ててしまったし、葵も折れかけの物が一本だけ。
その上、ミサイルとグレネードが山のように飛んできたのを防いだせいで、打鉄の売りである
まぁ、要約するとアレだ。いわゆる敗北確定ってやつだ。それも勝率0%どころか
「で、どうしますか宇野君? 私としては、これで終わりが丁度いいと思うんですけど」
「へへっ……機体と全部の武装が壊れるまでってのは、ダメd────」
「駄目です! 整備だって無料じゃないんですよ!」
「ま、そうでしょうなぁ……それじゃ、これで終わりにしましょうか。
気分も落ち着いてきたしキリがいいので、これで試験は終わりになった。
ピットへと戻り、打鉄を脱いだ後は織斑君やボディーガードと合流して再び例のホテルへと戻ることになったのだった。
ピットに戻ってきた私は、リヴァイヴから飛び降りる。……やっぱり、またISスーツの胸部分がキツくなってきてる。そろそろ買い替えの時期ですかねぇ?
「おーい、ヤーマヤー! 今回は随分と張り切ってたじゃないか!」
「その呼び方は止めてください!! ……ってあ、篝火さん! いつの間にこっちの方に?」
「あぁ、君が例のノッポ君と戦ってる間にね。にしても……彼、想像以上にヤバいよ」
「ですよねぇ……私なんて最後の方は結構疲れてたのに、宇野君一切肩で息をしてませんでしたし。若さって凄いですよね」
「いやいやいや、そこじゃないそこじゃない……ま、とりあえず見てよこれ」
「ん、あの打鉄の稼働データですか?」
彼女が差し出してきたスマホのホログラムに表示されたデータを一緒に見る。
ダメージレベルBに、シールド残量8%……この状態でも戦おうとするなんて、やっぱり彼はどこか違う感じがする。
そう思いながら読み進めていくと、ハイパーセンサーのデータが表示され始めたのだが────
「…………あのー、篝火さん。これバグってませんか?」
「そう思うよねぇ……ところがどっこい、バグじゃあないんさ。現実……現実なんさ」
表示されているのは、ハイパーセンサーによって認識された方向や範囲のデータ。
普通の操縦者なら、生身の時の視界の度数が高く、死角の方はかなり低くなる筈です。……だけど、宇野君のデータは
「これってつまり……?」
「あの男……宇野誠一は、試験中
篝火博士が眉間を抑えながら、忌々しそうに呟きました。
……これは、一波乱起きそうですね。私はそう思いながら、打鉄の稼働データを黙々と読んでいったのでした。