前半はセシリアと主人公の会話、後半は授業と主人公の独白です。
一時間目が終わり、情報収集の為の具体的な方法を私は考えていた。
手元が寂しいので参考書のページをパラパラと弄っていると、視界の片隅にスカートのフリルと菱形が連続したチェック柄のニーソックスが入った。
「ちょっと、よろしくて?」
「ふむ?」
いきなり声をかけてきたのは、発色のいい金髪を、コロネ……というかドリルの様な形にしている女子──つまり、例のセシリア・オルコットさんである。
白人特有の透き通るような碧眼をやや釣り上げながらこちらを見ている彼女は、
今の御時世、佐藤さんやアンジーさんの様な人は少なく、ISのせいで女性が色々と優遇されている為に、男性に対して高圧的な態度を取る風景は町中でも時折見かける物だ。
そして、私の
「まぁ! なんですの、そのお返事は。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではないかしら?」
「あぁ、すいません。少しばかり考え事をしておりまして」
今までの接客相手には女尊男卑主義のお客様も少なからずいたので、対応にはある程度慣れている。その時の経験を全力で思い出しながら、彼女に言葉を返す。
「さて、セシリア・オルコットさん。イギリスの代表候補生──謂わば『エリート』であるあなたが、私になんの用事があるのでしょうか?」
「あら? わたくしのことをご存知で? ……まぁ、いいでしょう。あなた、その机の上の分厚い本はなんなんですの?」
……何故そんなことを聞いて来るのだろうか。訝しみながらも、本を閉じて表紙を見せる。
「これですか? 見ての通り、参考書ですよ。まぁ、一般的なものと比べると些か厚すぎますがね。……で、何故そのようなことを?」
「わたくしは
「ほう、それは
「何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから。これも
……ふむ、どうやら彼女は『エリート』や『優秀』といった物に固執しているようだ。
「なるほど……ところで、ノブレスということはつまり…………名のある家の出身なのでしょうか?」
「…………はい?」
私が質問した瞬間、オルコットさんが────いや、話をそれとなく聞いていた周りの生徒達が凍りついた。
「あ、あなた!? まさかオルコット家をご存じないんですの!? Wikipediaにも載ってるのに!? 」
「へぇ、それは知りませんでした」
「う、嘘ですわ……こんな馬鹿げたことが……きっと悪い夢ですわ……」
明後日の方向を向きながらボソボソと呟くオルコットさんをよそに、周りの生徒が私に話しかけてきた。
「宇野さん、『オルコット・コスメティックス』って聞いたことない?」
「ないですね」
「それじゃ、『オルコット・フーズ』は!」
「それもないですね」
「『オルコット・アパレル』ぐらいは知ってるよね!? ほら、こういう服見かけたことあるでしょ!」
「生憎、お洒落には興味がないのでね。こういう服が売っているところにはあまり行かないんだ。基本はユニ○ロかし○むらばっかりさ」
返事をする度に、周りのざわめきが大きくなっていく。
どの様に対策するべきか悩んでいると、教室のドア──万が一の時に備えてエアロックが採用されている──が開かれて織斑君と一緒に箒さんが入ってきた。いつの間にか教室の外に出ていたようだ。
それにみんなが注目した瞬間、二時間目開始のチャイムが鳴った。今の私にとってはまさしく福音である。
大体の生徒が急いで自分の席へと戻る中、オルコットさんだけは私を少し睨んでから席へと戻っていった。
…………後でスマホで色々調べておくべきだな。
「──であるからして、ISの基本的な運用は現時点では国家の認証が必要であり、枠内を逸脱した運用をした場合は、刑法によって罰せられ──」
山田先生がすらすらと教科書を読んでいく。この授業の内容は、ISに関する様々なルールについてだ。
私用に用いた場合の罰則の内容、過去にあった事例の紹介、競技として使用する際のISの機能制限の決め方、etc……。
授業の流れに合わせて机から投影されているホログラムは変化していく。それとは別の画面にメモを逐一取る。
複雑な手の動きも認識してくれるし、この机を開発した人達の執念を感じられる。
電脳メガネも同じようなことはできるが、そのレベルに至るまでの運用データの収集にかなり時間がかかったことは記憶に新しい。
……そういえば、織斑君などの来館者様たちが使っていたモデルは今月発売予定だった筈だ。
それに合わせて私やアンジーさんのメガネもアップグレードしてくれる手筈だったな……後日、受け取りに行かないとな。
そんなことを頭の片隅に浮かべている間にも、授業はどんどん進んでいく。周りに置いていかれないように、私は再び授業に意識を戻すのだった。
・オルコットグループ
セシリア・オルコットが現在代表を務めている企業グループ。
様々な分野で成功を収めており、日本における藍越グループの様な存在。
テレビを回せば必ずどこか一局はグループ傘下の会社のCMが流れている程なのだが、主人公はCMが流れた瞬間チャンネルを回す人種なので知識が無かった模様。
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