IS 〜殺し屋奮闘記〜   作:黒鉄48号

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 二度目の初投稿です


第二話 休憩

 丑三つ時を少し過ぎた頃に、私は家に着いた。

 壁は白色、屋根は黒色といったありきたりな配色のこじんまりとした1DKの一軒家だ。玄関の鍵をポケットから出してドアを開ける。

 玄関にキャリーケースを置いた私は、自分の寝室へと直行し裁縫道具を取り出して今の衣服の撃たれた部分を布で覆っていく。少々不格好になってしまうが、最近はメンズの服はほとんど売っておらずしその上ボッタクリ価格なので、背に腹はかえられ無い。

 

 服を修繕してから、寝巻きを持って予め沸かしておいた風呂へと向かう——前に、体にめり込んだ銃弾を指で摘んで引き抜く。()()()()痛いが、我慢できない程では無い。

 そこまでしたら、改めて風呂場へと向かい、浴室に入って正面の鏡で体を確認する。先程撃たれた場所を見てみると、()()()()()()()()()()()。と言っても、この程度の傷は同業者の人達でも治る傷なのでそこまで特別な体質では無いのだろう。

 そんなことを思いながら体と髪をささっと洗い、待ちに待った入浴タイムである。

 

「ああ——最高の気分だ。一日の疲れを湯船で、気が済むまで洗い流せる。こんな贅沢、ひとり暮らしじゃなければそうそうできはしないだろうな」

 

 極楽気分を味わいながら、独り言を呟く。私の生活は入浴と読書がなければ成り立たないと言っても過言ではない程である。そのことを痛感しながら、私は目を閉じる。

 想像するのは、演劇の舞台。ついさっきまで役を演じていた役者が、舞台の裏へと戻った途端に普段の姿へ——その道の人間に恐れられる殺し屋『宇野誠一()』から、害虫駆除のアルバイトをしている本好きの高卒青年『宇野誠一()』へと変化する。

 

 意識の切り替え——俺の特技の一つだ。仕事の時と普段の時で同一人物と見破られない様に生み出したちょっとした工夫であり、どちらかと言えば(こっち)の方が素に近いと言えるかもしれない。

 誰かに説明する訳でもなく、そんなことを頭の片隅に思い浮かべながら風呂から上がり、バスタオルで体をあらかた拭いて寝巻きに着替えて歯を磨き、リビングに向かう。

 

 

 リビングまできた俺は、冷蔵庫の冷凍室から朝炊いてパック詰にしておいた白米を取り出して、レンジに入れて解凍し始める。

 その間に、寝室の棚からライターと線香と線香立てを持ってきてテーブルの上に置く。解凍し終わったご飯をお椀に装り、それに箸を縦に刺す。

 線香にライターで火をつけて線香立てに置き、両手を合わせて暫く黙祷を捧げる。

 

 結局の所、俺や同業者だって『人を殺している』と言う一点においては今日殺したあの太った男と同類——いわば『同じ穴の狢』ってやつだ。同業者の人達は、そんな事を気にもせず、黙々と仕事を続けられる。

 だけど、俺はどうしても考えてしまう。

——もしかしたら、彼女達をより多く助けられたのでは無いか?

——もしかしたら、あのボディーガードを殺さずに仲間に出来たのではないか?

 もしかしたら、もしかしたら、もしかしたら——そんな事ばかりが脳裏に思い浮かぶ。だが、それが不可能な事は痛い程に理解している。ならばせめて、こうして弔うことぐらいは許されるだろう。

 

 五分ほど黙祷を捧げてからささっとご飯を平げて、茶碗を洗う。

 それが終わったら、寝室に入ってベッドの上に寝そべる。そして、明日のことを考え始める。

 来週は図書館でどんな本を借りて読もうか、どんな本が入荷されるのか、今読んでいるシリーズの続きはどうなっていくのか——仕事は暫くないことがわかっているので、安心して考えられる。そんな中、ふと自分が何者なのかと言うことが思い浮かんだ。

 

 

 俺——宇野誠一は、いわゆる記憶喪失だ。自分がどこでいつ、どの様に生まれたのか、言葉を知って生きていたのか……そう言ったことを一切合切覚えていない。

 覚えている限りで一番古い記憶は、所々破けた白衣を着ていた俺が山の中で雨に打たれていたこと。

 足首を痛めたりしながら山を下ったら、傘をさして散歩していたまだ髪の毛が白くなかった頃の霞野さんに拾われたこと——この二つだけだ。

 

 

 だが、それと同時に俺は『前世の記憶』と言うべきものも持っている。今世の記憶と同じく虫食いだらけのそれに拠れば、——()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()らしい。

 

 『インフィニット・ストラトス』——それは記憶によれば所謂ラノベの一つであり、一時期はかなり有名だったらしい。

 

 ……と言っても、ISの記憶の大半は機体に関する物で占められており、人物関連はちらほらとある程度だ。前世の俺は多分メカ好きだったのかもしれないな。

 もし仮に、作品内の大まかな出来事の記憶があるので割と楽に生活できたのに——と若干の淡い幻想を抱いていた時期が一週間程あったが、それも現在は粉々に打ち砕かれている。

 その原因は、I()S()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()ことだ。

 

 記憶が正しい、と()()すれば、本来ISコアを作れるのはISの開発者である『篠ノ之束』博士だけであり、彼女以外では解析できないブラックボックスが山程あって量産化はほぼ不可能だった筈だ。

 

 

 ……ところがどっこい! この世界の科学者達は、一致団結してコアを全力で解析しまくってブラックボックスの大半をこじ開けちゃったし、最終的には日本人研究者の『篝火(かがりび)ヒカルノ』が量産可能なコアを開発してしまった。

 

 彼女が作った量産型コアは性能こそ束博士製のオリジナルに少々劣るが、オリジナルに反応しなかった低適性の人間ですら使用することが可能となっており、これによって理論上はISはほぼ全ての女性が扱える代物になってしまった訳だ。

 その為、現在は各国の主要施設や軍事基地に防衛用として配備されている。そして、例として某世界の警察の軍の新規入隊者の女性の割合はIS登場前の約二倍にまでなっているという。

 

 また、コアの絶対数が大幅に増えたことで関連技術の研究速度も大幅に上昇し、今までだったら数十年後に訪れると思われていた筈の生活が、たったの数年で現実の物になった。

 これらの様々な変化は最初の頃は混乱を生み出したりもしが、そんな中比較的当たり前の様に受け入れられたのが『電子媒体の主流化』である。

 こいつによって、教育の現場にあった教科書達は薄っぺらくて軽いタブレット一つに纏められ、親が子供に読み聞かせる絵本もネットでダウンロードされることが多くなった。

 ……と言っても、俺の様な紙の方が好きな人達も僅かながらにいるので、今でも細々と紙の本は印刷されている。体感的には、前世での紙と電子書籍のマーケットの占有率が逆の関係になった感じである。

 

 だが、未だに変化しない物もいくつかある。その際たる例が、地面を走る車の数々だろう。

 ISにはPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)というものが備わっており、簡単に説明すると空を飛べる様になる装置である。つまり、これを車やバイクに搭載できれば翼をつけたりプロペラを搭載しなくても空を走れる訳だ。

 しかし、現実はそう簡単にはいかない。技術的には可能でも法整備に時間がかかり、将来おき得る事故の対策なども大量に必要だからだ。故に、車は暫く空を走る予定は無さそうなのだ。

 

 閑話休題。

 前世や原作との相違点を思い出しながら、俺は更に思考を続ける。IS世界で記憶喪失かつ出自不明——記憶によればこの世界には人造人間を作る技術が存在するらしいが、自分の身体的特性を考慮するとその線は薄いとしか言いようがない。

 なぜかと言うと、確かに俺は一般人よりは腕力や脚力が強く、回復力も高い部類だ。ただ問題は…………同業者の人達がそれ以上に強かったり、とんでも能力の持ち主なのだ。

 俺を拾った霞野さんは黒いの(空の魔王)白いの(死神軍団筆頭)を足して濃縮したレベルの射撃の才能の持ち主だし、本名不明の()()()()に至ってはかめはめ波とか石破天驚拳と言った謎エネルギーとかを使う、明らかに不可能な技以外ならほぼ再現できるヤベー人だ。

 それ以外にも、某蛇みたいな潜入専門のヘビースモーカーがいたり、尋問————と言うか拷問専門の覆面男がいたりと、この世界は超人マシマシの魔境だ。……そのせいで、この世界が本当にISなのか数週間悩んだのは今となっては良い思い出である。

 

 さて、そんな中に身体能力()()優れた奴を入れるとどうなるのか? 答えは簡単……勝てない。ただそれだけである。

 何せ、如何せん俺は細かい力加減という物が苦手なのだ。卵を持とうとして握り潰し、箸の先端をうっかり噛みちぎり、缶ジュースのプルタブが結構な頻度で中に落ちる。

 そういう訳で、何かしらの武術や格闘技を習得している人に対して、俺はとことん弱いのである。後はまぁ……命に関わる訳ではないが、何故か苦い物が食べられない。

 

 こんな世界で、わざわざ中間クラスの強さの人造人間を作るメリットは果たしてあるだろうか? いいや、あり得ない。少なくとも俺が研究者だったら上の下ぐらいの強さで量産が効く奴らを作っているだろう。

 ガンダムで例えるならばそう……ジム・スナイパーやゲルググ程度の強さとでも言うべきか。ちなみに、俺は『ドーバーガンやビームサーベルを外したトールギス』らしい。

 

 色々と考えたが、要は『自分は前世と原作の虫食い状態の知識しか持ってないクソみてぇな状態の転生者で、その知識もほぼ当てにならない』と言うことだ。

 ……きっと、神様は俺のことを相当に嫌っているか、数合わせに採用した程度の存在で既に忘れているかのどちらかだろう。————本当に、どうして俺は転生したのだろうか。

 

 こうして考えているだけで、時間は刻一刻と流れていく————過去を持たない俺は、果たして未来で何をしているのだろうか?




・宇野誠一
 主人公。黒髪黒目で痩身痩躯のノッポ。夜になると髪がほぼ暗闇と一体化するほどには黒い。
 冷蔵庫を片手で持ち上げられる怪力の持ち主で、人を殺すときは基本首を折るか締め殺すことが多い。
 転生者ながら記憶喪失であり、前世の記憶すら虫食い状態になっている。

 どこぞの『ただの人間』を超える程の不器用であり、特に力加減は壊滅的なレベル。最近やっと割り箸をうまく割れるようになったが、それでも十回に一回は妙な割れ方をする。後、ピーマンとゴーヤが食べられない。
 先述の不器用さ故に、武器を使うことを苦手としているので素手で戦うようになったという経緯を持つ。
 
 主人公は(この世界なら)中の下程度の強さです
 上の方がクソ強い奴らばっかりだからね、しょうがないね

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