IS 〜殺し屋奮闘記〜   作:黒鉄48号

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後の展開を頭の中で練って文字にしながら投稿


第六話 ルールを守らない奴は——

 目の前の少年が、あの織斑千冬の弟である——予想外の事態に、俺は暫く口を開けた状態で考えるのをやめていた。

 

あの、佐藤さん? 大丈夫ですか? 大丈夫ですか!?

「うわぁ!? ……あ、あぁ。平気だよ。にしてもなぁ、まさか君があのブリュンヒルデの弟なんてなぁ……」

 

 現実に引き戻された俺はそう呟く。さっき挙げた呼び名はあくまでネタ枠であり、純粋に彼女を尊敬している人たちは『世界最強』と呼んでいる。……後は『抱かれたい女性、漢女(おとめ)部門第一位』とか。

 そんな彼女に弟がいるということは、以前どっかのテレビ局のIS特番でそれとなく触れられてはいたが、写真や氏名が明かされることは無かった。

 噂によれば、番組の制作側は彼女の弟についてのコーナーを番組内で企画していて、高視聴率間違い無しと息巻いていたのだが……()()()実際にはそのコーナーは没となり、ISそのものについてのコーナーが代わりに作られたとかなんとか。

 話が逸れてしまったが、要は織斑千冬の弟のことは謎に包まれていたってことだ。

 

 オレの台詞を聞いた一夏君は、遠い目をしながら呟いた。

 

「はは、どうせ僕は低身長ですよ……千冬姉さんと比べて力も無いし」

 

 自虐を始めた彼を励ます為にオレは声をかけよう——とした所で、後ろからとてつもない気配を感じた。

 一夏君もこの世の終わりをその目で見てしまった様な表情をしている。恐る恐る後ろを確認してみると、そこにはオレより頭一つ分ぐらいには背が高い男性が立っていた。

 

「う、宇野さん……どど、どうしてここに……?」

「君達がうるさくしていたからだよ。全く、周りに殆ど人が居なかったから良かったものの……」

 

 受付の女性とそっくりな格好からしてあの男——宇野はこの図書館の職員の一人の様だ。

 一夏君と軽く会話を交わした彼は、次にオレに話しかけて来た。……今気づいたが、彼が身につけている電脳メガネはオレや一夏くんの物とも、さらに言えば受付嬢の物とも違うタイプだ。

 なんというか、アレだ……そう、自転車レースとかの人たちの、あのお洒落なサングラスのレンズ部分を透明にした感じだ。

 

「えーと……佐藤巧さんか。どうしてこんな所にいるんだ?」

「あぁ、それはそこの一夏君が困ってたから——って、あれ? オレ、あなたに名前教えてましたっけ?」

「このメガネのおかげだよ。丁度君の顔の横辺りに君の名前が表示されてるんだ。……で、織斑さんが困っていたってどういうことか詳しく教えてもらえるかい?」

「えーとまぁ、かくかくしかじかでして……」

 

 オレが一通り説明すると、宇野さんは納得して赤べこの様に何度も何度も頷いた。その度に頭からほんの少しだけ飛び出たアホ毛が揺れているの様は、最初の彼の雰囲気とのギャップを感じさせるものに思えた。

 

 

「それにしても、意外と真面目ですね、佐藤さん。……髪の色は一昔前の不良みたいに思えますが」

「いやいやいや、何言ってるんですか宇野さん。この髪はバリバリ地毛っすよ! そんじょそこらの美容院や、薬局で売ってる髪染めじゃあこんな綺麗な茶色にはなりませんって!」

「へぇ……それはまた珍しい。私はここで何年か働いているけど、やっぱりよく見かけるのは紫や緑、後はオレンジ色とピンクぐらいだからね」

「それ言ったら宇野さんの方が数倍珍しいですよ……黒髪ってだけでもそうそういないのに、しかも黒色の瞳ってのは本当に珍しいっすよ。一夏君もそう思うよな?」

「そこで僕に振りますか!? いやまぁ確かに、同級生や別学年の知り合いにも宇野さんみたいな見た目の人はいませんけど……」

 

 そんな他愛もない話をいくつか交わしてから、宇野さんは一夏君にまた別の参考書を本棚から取り出して渡し、オレには電子書籍を館内で閲覧する時の注意点を教えてくれた。

 手元のカートリッジを弄りながら歩いていると、ふと昨日のことを思い出す。

 

あの無愛想な男——蛇烏も、宇野さんと同じ髪の色で背丈も同じくらいだったはずだ。…………いや、多分考えすぎだろう。黒髪は割合こそ少ないが、街中でも一人や二人くらいは見かけるし、背丈だって偶然似ているだけだろう。

 ——そして何より、人を400人以上殺した奴があんな表情をできるはずが無い。もしできる奴がいたら、そいつは正真正銘のサイコパスだろう。

 そう思いながら、専用の機械にカートリッジを挿したオレは、本格的に教科書の閲覧を始めたのだった。


 

 

 彼らと軽く会話を交わして来た私は、ひとまず受付へと歩いて行った。

 

「あら、宇野くん? この後は読み聞かせに行く筈では?」

「すまないな、アンジーさん。()()のことで少し、話さないといけないのでね」

「——何か、問題があったのね」

 

 彼女が纏う雰囲気が、先程までのどんな人でも受け入れる様な暖かなものから、感情を削ぎ落とした冷静な物へと変わる。

 

「今日登録した佐藤巧……彼は昨日、()()()顔を合わせている」

「なんですって!? まさか、顔を合わせた訳では無いでしょうね?」

「すまない、少し会話をしてしまった。だけど、大丈夫そうだ。()()はちゃんと機能している様だ」

 

 私がそう伝えると、一瞬強張った彼女の表情が、ほんの少し……自信を持てないぐらいにほんの少しだけ和らいだ。でも、次の瞬間には元に戻ってしまった。

 

「ならいいけど……あまり仮面に頼らないことよ。技術は頼もしいけど万能じゃあ無いわ」

「ああ、そうだな。肝に銘じておくよ」

 

 軽く返事を返して、読み聞かせへと向い始める。

今日はどんな本を、どんな子供達に、どんな風に読み聞かせようか。お気に入りの仕事に心を踊らせながら、私は軽やかに向かって行った。

 

 

 ——尤も、この後起こるあの事件のことを知っていたのなら、気分が地面をぶち抜く程に低くなっていただろうが。




・電脳メガネの種類
 現時点では、アンジーが使っている普通の眼鏡と同じ感じのタイプ、佐藤や一夏が使っている実験眼鏡タイプ、宇野が使っている一枚レンズサングラスタイプがある
 宇野達の使っている物には特殊機能として、利用者の氏名の確認や一定以上の大きさの声を検知した時には通知がくるようになっている

ご精読ありがとうございました。感想、誤字報告もよろしくお願いします。
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