「オーキド博士、こんにちは」
「来たぜジイさん」
「お待たせしましたー!」
勝手知った扉を開け問答無用に研究所の中に入る。
しかし、いつも入ってすぐの部屋にいるはずの博士は見当たらない。
ロクに目を向けると首を横に振られた。アオには聞く意味もないだろう、どうせ知らないと思う。
「むむっ、バカにされた気配がする!」
「とりあえず奥行ってみるかクレナイ」
「そうしよう」
この日に限り助手さんたちもいらっしゃらないから聞く相手もいない。フィールドワークとかポケモンのお世話に行っているのだろうか。
あまり踏み入れたことのない奥の部屋にならいるだろうと足を向けてみる。博士に限って約束をすっぽかすことなんてしないはずだ。
部屋の扉に近づいていくとなにやらドタバタと何かが暴れているような音と慌てている声が聞こえた。
「おお主ら……あば……」
声の主は博士だろう。
「お、オーキド博士大丈夫!?」
「ジイさんなにがあった!」
「部屋の中で暴れちゃダメだって言ったの誰ですか!?」
僕たちは慌ててその扉を開けて中に入る。
そこには見慣れたおじいさん、つまりオーキド博士と三体のポケモンがいた。
背中に大きめの蕾を持つ青緑っぽい色のポケモン。
オレンジのような色の体を持ち尻尾の先端に灯をともしているポケモン。
亀のような甲羅をもつ水色のポケモン。
その三体が互いに威嚇しあいながら睨みあっている。
(いや、これってもしかして……)
「おお!お前さんたちよう来た!」
僕たちの来訪に博士は救世主が来たとばかりに声をあげる。
「ジイさんどうなってるんだよ、オレたちにくれるっていうポケモンは?」
「こいつらじゃよ」
「え、この子たち?」
「いやー、お前さんたちを待っている間に様子を見ようと思ってのぅ。ボールから出したら急に喧嘩を始めよって」
「え?」
喧嘩?確かにこれはどう見ても喧嘩だけれど。
「ほれ、フシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメ喧嘩なんかしとらんでお前たちのトレーナーになる子が来たぞ」
博士が声をかけてもポケモンたちは僕たちを見向きもしない。目の前の相手の方を気にしている。
「博士、どうしてこの子たちは喧嘩してるの?」
「うむぅ、正直わからんのぅ。ちょっと目を離したらもう喧嘩を始めておって」
「ロク、アオ」
「言われなくてもわかってるよ」
「止るよ二人とも!」
アオの声がけで僕たちは動き出す。
それぞれが一体ずつ確保して落ち着けようという作戦。
だが、僕たちの思惑だけで世界は動かない。彼ら三体もそれぞれの意志がある。
僕はヒトカゲと呼ばれたオレンジ色のポケモンに向かった。
しかし、ヒトカゲは目の前で起きる残りの二体が放つ『たいあたり』に向かって駆け出したのだ。
ヒトカゲがしたいことに僕はやっと気づく。
やっぱりヒトカゲは、
(止めようとしているんだ……!)
三体のうちヒトカゲだけが攻撃の意識があまりにも見当たらなかったことに皆は気づいていなかったけど僕はおかしいとは思っていた。
優しいんだな、と。
この混乱した状況下で自身が傷ついても他の子をどうにかしたいと、何とかしなくてはと。
その気持ちを僕は尊敬する。
何より、その思いを無に帰すことを許したくはなかった。
勝負は一瞬。
背負っていた鞄の中から手頃な物を手に取る。
「ヒトカゲっ、2歩下がれ!!」
「!?」
指示に従うかは分からない。けど、彼らを止めるために僕は賭けるしかない。
そして、衝突地点へと僕は今朝鞄の中に入れていた『キズぐすり』を投げる。
放物線を描いたキズぐすりはゼニガメとフシギダネがぶつかるちょうど真ん中に落ちた。
「「ッ!?」」
そのおかげで二体はぶつかり合う前に急停止。
あからさまな隙を僕の幼馴染みが逃がすわけがないのを僕は知っている。
「確保ぉ!」
「暴れちゃダメー!」
そのおかげか二体とも自分をおさえた人を見上げ落ち着きを取り戻した。
そんな中、僕は先程まで立っていた場所から
驚いたヒトカゲは僕を見上げると、緊張の糸がきれたのだろう僕の足にしがみつく。
「ふぅ~、お前さんたち助かったわい。戻りなさい三体とも」
騒動が落ち着いたところでオーキド博士が三体をボールに戻す。
あれはモンスターボールだ。ポケモンたちを捕まえるためのカプセル式ボール。
研究室から移動しリビングに行く。
僕たちはいつものソファに座り、対面にはオーキド博士が座った。
そしてオーキド博士は彼らが入っている三つのボールをテーブルの上に置いた。
「始まりからなんともまぁ前途多難じゃったが準備はこれでオッケーじゃ」
「てことはジイさん」
「うむ、この子たちがお前さんたちに渡す最初のポケモンじゃよ」
「暴れてたけど大丈夫なの?」
「はは、心配せんでええよアオイちゃん。こやつらは一緒に育ったから喧嘩するほど仲がええんじゃよ。さっきのはじゃれあってたみたいなものではないかの」
「あたしたちみたいな感じ!」
その言葉にオーキド博士は笑ってそうだ、と答える。
「さて!お前さんたちにはこの中の一体を渡そう。誰から選ぶんじゃ?」
そういえば何も決めていなかった。三人とも選ぶポケモンすら研究所にいってから決めようとしていたから当然だろう。
けど、僕の中ではもう決まっている。
「ねえロク、アオ。僕が最初でもいい?」
「いいぜ、オレは寛大だからな」
「ロクそんなこと言ってきまってないだけしょ?」
笑いながらアオが言う。僕の方をみて親指を立てた。オッケーということだろう。
僕はテーブルの上のボールに手を伸ばす。
うん、さっきの騒動で僕が一番気になった子だ。
「君に決めた」
僕の手は真ん中のボールを手に取った。
「今日からよろしくね……『ヒトカゲ』」
ボールのから僕を見上げる顔が嬉しそうに変わってくれた。