「表出るぞロク」
「上等」
そう言い放つと二人とも駆け足で扉から外に出て行き、それにヒトカゲもゼニガメもついて行く。
行き先は裏手にあるバトルフィールドだと思う。
そんなことよりも!
「は、博士止めなくていいの!?」
「ほっほっほ、ポケモントレーナーたるものライバルはいて当然じゃ。それにこんなのお前さんたちにとってはいつものことじゃろ」
確かにそうだけれども……!
さっきのは完全にミーちゃんが悪いのは誰の目から見ても明らかだ。私だってフシちゃんを馬鹿にされでもしたらミーちゃんの顎を殴って気絶させてから馬乗りになって追撃の拳が火を噴くのは当然のことだろう。ついでにクーちゃんを研究所の屋根から突き落として頭蓋骨を割る。あんな見え透いた挑発に乗りやがってぇ…!
「ミロクのやつも分かってて挑発したんじゃろ。長い付き合いだからそこら辺も知っておるだろうし」
「せっかくの始まりの日なのに二人して血の気多すぎ!」
博士が「二人ともアオイにだけは言われたくないじゃろうなぁ」とつぶやいた気がするが気のせい。私は立派な乙女だから血の気なんかとは無縁なのです。
「それよりもアオイは見なくてもいいのかい?」
「え?」
「お前さんたち三人はこれから旅に出るのじゃ。それぞれのスピードで進むとは思うが目指してるのは一緒なんじゃろ?」
「……うん」
ずっと話してきたこと。
私たちは昔博士が出場していたポケモンリーグへ挑戦すること。あの舞台で三人が最高のバトルをするのだと決めている。
カントーのジムバッジ八個全てを集める。それがポケモンリーグへ挑戦するための切符。
「なら、少しでもバトルに慣れて置くべきじゃよ。見るのも勉強じゃ」
「分かりましたよー」
しょーがない、ライバル兼幼馴染みの初試合だからこの目に焼き付けてやろう。
―――お仕置きは全てが終わった後にしてやろう。覚悟しとけ。
☆
勝負は一対一のポケモンバトル。
当然、俺たちは一体ずつ、しかもさっきもらったポケモンしかいない。
必然、キング対ゼニガメの戦いだ。
「キング戦るぞ、ロクたちを倒してお前の強さを証明する」
「いいこと教えてやるぜクレナイ」
ロクはゼニガメの後ろ姿に目をやってから俺を見る。
「炎タイプは水タイプに弱い。意味分かるか?」
「キングじゃゼニガメは倒せないってか?」
「その通り!タイプ相性ってのがあるんだよポケモンには。だから相手の苦手なタイプを出せば勝ちに格段と近くなるんだ」
確かにその通りだ。
炎タイプに水タイプの技は効果抜群。一発もらうだけで戦闘は一気に不利になってしまう。
そんなのは知っている。
「
「ッ!」
だからどうしたというのだ。
そんなのは百も承知。
それでも俺は、俺のキングの存在を知らしめてやる。
「御託はいいだろ、さっさと始めるぞロク」
「……ああ、ぶちのめしてやるよクレナイ」
クレナイVSミロク――――バトル開始!
「ゼニガメ『あわ』だ!」
「キング左前に避けて近づくんだ!」
「ゼニ!!」
「カゲ!」
それぞれの指示でキングとゼニガメが動き出す。
ゼニガメから放たれたあわ攻撃をキングは指示通りに動き、難なく攻撃を避ける。
そのままキングは地面を蹴ってゼニガメへと近づく。
クレナイは内心でガッツポーズをとる。
(よしッ、やっぱり『あわ』は技の速度が遅いから避けれる、このまま接近戦で詰める!)
「キング行けッ、『ひっかく』!」
キングはクレナイの指示に応えるように吠えてゼニガメへ爪を振るう。
「甘いんだよ!ゼニガメ『体当たり』!!」
振り上げた爪により晒された胴体に向けゼニガメの体当たりが突き刺さる。
「カッ!?」
「キングッ!!」
もろに入った体当たりにキングはうめき声を上げながら地面を数回転がりゼニガメから離れてしまう。
「接近戦なら勝てると思ったのかよ!?わかりやすいんだよクレナイはよぉ!!」
「クソがッ!」
ミロクの考えは理にかなっていた。ゼニガメのあわ攻撃に意識を割きすぎたせいで接近戦の攻撃の可能性を切り離してしまっていたのだ。
戦略を読まれていたのなら対処をするのは容易である。
ゲホッ、とキングは咳き込みながら立ち上がりゼニガメへと向く。
「まだ、やれるかキング」
「カゲ!」
当然だとばかりにキングはクレナイの声に反応する。
「ゼニガメたたみかけるぞ、『あわ』!」
「ゼニ!」
もう一度、ゼニガメからあわが飛んでくる。
(避けて近づく、これしか攻撃の手段はキングには無い。けど、それは―――!)
そう、先ほどの攻防と全くの一緒。決められた通りに進んでしまえばもう一度体当たりの餌食になってしまう。
打開策を。
それがなければ何も示せずにキングを敗北させてしまう。
「キング横に二歩ずれろ」
「カゲ!」
時間稼ぎをするしか今は無いのか。
「おいおい避けてるだけじゃ勝てねぇぞクレナイ!」
「うるせぇぞロク!黙ってろ!!」
普段とは百八十度違う口調と態度でクレナイが吠える。
歯を食いしばり思考し続ける。
その間もキングはゼニガメのあわ攻撃を避ける。だが、それを続けることにも体力を使うのは当然、キングにも疲れが見え始めてくる。
(このままじゃ削りきられる…!)
今のところゼニガメに有効打を与えられていない。というより、一撃も加えることが出来ていない。
ただでさえ、弱いと言われているのにこのまま何も出来なければ弱いことを肯定することになってしまう。
弱くないのに、それを否定することが出来ない。
それはキングでは無くトレーナーであるクレナイの弱さでしか無いのに。
(ふ、ざけんじゃねぇぞ
自分のせいで負けるなんて許さない。
やることはただ一つしかないんだ。
なら覚悟を決めろ。
「言われっぱなしじゃ終われねぇ、やられっぱなしじゃ終われねぇ。なあ、そうだろキングッ!!」
奮い立たせろ想いを。
「キング、お前は強い!行くぞ!!」
クレナイの声に腹の底からキングが吠え、全身に力を込める。
「来いよクレナイ!」
「あわを避けて突っ込めキング!」
キングは最初と同じように左斜め前に避けて突っ込んでいく。
「繰り返しか芸が無いぞクレナイ!」
ふと、キングが少しだけ振り返った。
ここから起こすことへの不安だろうか。
それも仕方の無いことだ、一度目の指示でここから負かされそうになったのだから。
「信じろキング」
だが、キングは自身のトレーナーの
その獰猛な笑みを、自分を信じ切っている瞳を。
お前ならやれる、負けはしないと。
たった数分前に出会い弱いと言われた自分を根拠も無く信じていた。
負けたくない、本気でキングはそう思った。
「カゲ!」
避けきった先にゼニガメはいる。
「同じだやれゼニガメ『体当たり』!」
「今だ急停止!」
「はあ!?」
土を抉るように踏ん張りキングは俺の指示に応える。
逆にゼニガメが出した技を止めることが出来ずにキングに頭から突っ込んでくる。
「狙ってんのが胴体なのが丸わかりだぜロク。伏せろキング!」
急停止からの伏せ。
そうすることで頭上をゼニガメが通る。
「今だキング、ゼニガメの顎を狙って『ひっかく』!!」
ピンポイント。
通過点に置くようにキングのひっかくがゼニガメの顎へと吸い込まれていく。
「そのまま振り抜け!」
「カァゲ!!」
「ゼニ!?」
「なっ!」
体当たりの勢いが乗った一撃がゼニガメへと当たった。
「ゼニガメ!」
「追撃だ、行け!」
ひるんだ隙をのがすことはしない。
キングの連続ひっかくがゼニガメへと繰り出され全て当たる。
「なめんな、ゼニガメ『からにこもる』だ!」
「しまッ」
ゼニガメの甲羅は固い。それに加えて『からにこもる』は自分の防御力を上げる技でもあるのだ。
キングのひっかくが甲羅に弾かれる。残りの力を全て込めて振るっていたひっかくの反動は大きな隙を晒す。
「トドメだ『あわ』!」
「キング!!」
ゼニガメは頭と手足を甲羅からすぐに出して近距離からあわ攻撃を放つ。
それをキングが避けることは出来なかった。
キング戦闘不能。
よって、ミロクの勝利。
クレナイ、ポケモントレーナーになって初めての勝負。
試合時間4分28秒。
決め手、ゼニガメによるあわ攻撃の直撃。
結果:敗北。
それが、クレナイの始まりだった。
ゼニガメ:『あわ』、『体当たり』、『からにこもる』
キング:『ひっかく』、『なきごえ』
フシちゃん:『たいあたり』、『つるのムチ』、『なきごえ』
各御三家の初期技となります。
ゲームとは若干の違いはありますけどそこは許しくださると助かりますん。
弱いと言われていることからキングの技は他の二匹より減らしています。