艦これ世界で配信者   作:井戸ノイア

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割と間に合ったクマ!




近海海域攻略作戦Ⅲ

 水しぶきが上がり、球磨は顔を青ざめさせた。

 次いで、その中から夕立の姿を見つけ少しだけホッとし、その様相を見て再び顔を青ざめさせた。

 

 背負った艤装からは嫌な煙が上がり、右足は水面に沈みそうになりながらも、なんとか浮いているという状態。右手からも血が流れ落ち、常に快活さを見せていた顔は苦痛に歪んでいた。

 夕立は意識を朦朧とさせながらも、この下手人の正体へと思考を延ばした。

 

 そして、すぐに割り出す。

 

『ッ! 潜水艦っぽい! 球磨ちゃん、攻撃の軌跡は見えたっぽい!? 見えたならそちらの方面へ魚雷を放って!』

 

「 了解だクマ!」

 

 一瞬間が空くもすぐに状況を理解し、球磨が魚雷を放つ。

 しかし、手ごたえを得ることは出来なかった。

 

夕立ちゃんの声が! 無事だったか!

声が震えているのは大丈夫なのか!?

もしかしなくても、これ夕立ちゃん自分の身体を画面に入れないようにしてるよな

というか潜水艦!?

深海棲艦ってまだ駆逐級と軽巡級しか発見されてないのでは?

 

「全弾当たってないクマ! 夕立ちゃん、そのままじゃ戦闘の続行は不可だクマ! 球磨が抑えるからすぐに撤退するクマ!」

 

 潜水艦を逃したが、すぐ前方にはまだ駆逐イ級五隻と軽巡ホ級一隻が残っている。

 そして、それは球磨一人に任せるには荷が重い数でもあった。

 

『夕立もまだ戦えるっぽい! せめて、ホ級だけでも先に落とすっぽい! 集中砲火で、今すぐに!』

 

「駄目だクマ! 潜水艦が居るなら、それをどうにかしないと今度こそ夕立ちゃんが沈められてしまうクマ!」

 

 事実、ソナーも持たない二人では潜水艦の発見は困難を極める。

 そして、戦闘している際に飛んでくる不可視の一撃を避けることは、不可能に近い。

 機雷の配置された海も、潜水艦の前では丸裸も同然だろう。

 

潜水艦が居るなら、本気でヤバイ

隠れられたら絶対に見つからん

レーダーか何か無いのか!?

 

『……工廠妖精さん! 今すぐに対潜水艦用の装備の開発を! 資源はいくら使っても良いから、最速で!』

 

 工廠と無線を繋ぎ、連絡をした。

 そして夕立は泊地へ向かって、撤退を開始する。

 機雷の間を球磨と共に通り、その道にありったけの魚雷を発射。

 敵も学習し、それに引っかかることは無かったが、その道以外を通れないのもまた変わらない。

 少しは時間が稼げるはずだ。

 

『球磨ちゃん、すぐに戻ってくるっぽい。だから、少しだけ耐えて!』

 

「任せるクマ! 意外に優秀な球磨ちゃんって呼ばせてやるクマ!」

 

『ふふふ、意外には余計っぽい! 優秀な球磨ちゃんに任せるっぽい!』

 

 ハイタッチを交わして、泊地へと急ぐ。

 今度は、最初とは逆になった。

 夕立が戻ってくるまで、球磨が支える番だ。

 

「ここは球磨が絶対通さないクマ! 掛かってくるクマああああああああ」

 


 

 背後から砲撃の音が聞こえる。

 すぐにでも戻りたい。

 けれど、この傷では足手纏いになることは分かっていた。

 それでも、艦としての意思が、球磨という友人を戦場に一人残していくことに人としての意思が、戦いたがっていた。

 身体がぐらつき、バランスを崩しそうになりながらも、工廠を目指す。

 

 幸いにも距離はあまり無い。

 そこまで深海棲艦に迫られているとも言い換えられるが、今は一分一秒が惜しい状況。

 その近さは有難かった。

 

 水面から飛び上がり、工廠の中へと転がりこんだ。

 妖精さんがバケツになみなみと入った液体を持ってくる。

 

「こーそくしゅーふくざいです。建造とおなじくらいの資材がひつようになるけれど、持ってきました!」

「もどるなら、完全かいふくしてからです!」

「これが、九三式水中聴音機と九五式爆雷になるます!」

「溶けた資材はごあいきょう!」

「使い方はそうびすれば分かるのです!」

「魚雷を置いて、そうびするのです!」

 

 そして、バケツの液体をバシャリと掛けられた。

 途端、身体の痛みが引いていく。

 血の跡は随所に残っているが、再び流れ出すことも無い。

 艤装から出ていた煙も鳴りを潜め、万全の状態にほど近いものとなる。

 

『妖精さん、ありがとうっぽい! 急ぐからもう行くっぽい! 夕立、再出撃するっぽい!』

 

 夕立はゲームであったからという理由で大して気にしていなかったが、この光景は無駄に頑丈な妖精さん印の機材によって、全国に配信されていた。

 そして、これを機に、莫大な資源を消費することで即座に艦娘を回復させる高速修復材の存在が知れ渡っていくことになる。

 

 ちなみに、夕立は溶けた資材の量を知らない。

 ついでに言えば、配信していることすら既に頭の中には無かった。

 

 


 

 

 夕立が戻った先で見たのは、沈むイ級と、頭から血を流す球磨の姿。

 その先にはまだ無傷のホ級が残っていた。

 

 すぐさま、援護に駆け付けようとした瞬間、ソナーが水面下の存在を察知する。

 それはちょうど球磨の真後ろ。

 ホ級からの攻撃を避けることに手いっぱいの球磨に気付いた素振りは無い。

 

 そして、不可視の一撃が放たれた。

 

『球磨! 後ろ!』

 

 夢中で叫んだ。

 夕立の速力では間に合わない。

 振り向いた球磨は、驚愕の表情を浮かべ、そして一瞬諦めたような表情をした。

 だから、夕立は再び叫んだ。

 

『球磨、飛んで! 避けて!』

 

 片手だけになった砲を振り向いた球磨の後方に向けて構える。

 艦娘は、艦の意思を持つだけで、ベースは人間だ。

 海の上に浮けるのだから、海を蹴って人外の膂力を持ってして大きく飛ぶことで魚雷を躱すことも出来るだろう。

 

 しかし、同時に空中では敵の攻撃を避けることが出来ない。

 当たれば、バランスは崩れ、上手く水面に着地出来ない可能性だってある。

 その隙は致命的だ。

 

 球磨が砲を構える夕立を一目見て、覚悟を決めた。

 大きく飛び、海面下を走る魚雷を避ける。

 

 と、同時にホ級の砲撃が放たれた。

 

 全神経をホ級に寄せていた。

 これまでの訓練を思い出すんだ。

 来る位置はある程度予測が出来る。

 だから、この一撃に全てを籠めて!

 

 斯くして、夕立の放った弾は吸い込まれるように、ホ級の弾へと向かっていった。

 空中で大きな爆発が起こる。

 

 風圧で球磨が少しだけ体勢を崩したようだが、無事に着地した姿を見た。

 ソナーに、周辺で反応は無い。

 

『球磨ちゃん、あと一息っぽい! 行くっぽい!』

 

「もう駄目かと思ったクマ! これはそのお返しだクマ!」

 

 二人でホ級に向かい集中砲火を行う。

 その砲火に耐えることが出来ず、ホ級は海へと沈んでいった。

 

 もう一度ソナーを起動するが、反応は無い。

 油断は出来ないが、潜水艦の深海棲艦はどこかへ逃げていったようだ。

 

『潜水艦は近くにいない……夕立達の勝利っぽい!』

 

「クマあぁぁぁ、怖かったクマ……。腰が抜けたクマ……」

 

『お疲れ様っぽい。さ、帰投っぽい!』

 

 ふらつく球磨の肩に手を回し、支えながら泊地へと戻る。

 ソナーは起動させたまま、警戒だけは怠らずに。

 しかし、それも杞憂に終わり、泊地へと無事に戻ってくることが出来た。

 

 頭から血を流しているものの、球磨の傷自体はそこまで大きなものでは無かった。

 建設されていた資材風呂につかることで、数時間もすれば回復するだろうとは、妖精さんの談。

 

 

 

 

 

 

 そして、球磨の傷が癒えたころ、泊地へと近づく影があった。

 

「ぷっぷくぷぅ~! ここが夕立ちゃんの泊地かぴょん!」






配信成分が……足りないっぽい……



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