「睦月型駆逐艦四番艦の卯月だぴょん!
やって来た三人の艦娘。
その代表として卯月が放った言葉は夕立に衝撃を与えた。
戦闘終了から数時間、球磨の入渠も手伝ったうえに、装備の整備もしていた。
幸いだったのは自身が高速修復材のおかげで、入渠が要らなかったこと。
そして、装備や修復材について妖精さんに尋ねていたために、書類仕事にはまだ手を付けていなかったことだろうか。
『も、もしかしてずっと配信されていたっぽい……?』
はい、それはもうバッチリと
球磨ちゃんがセンシティブだった……
●REC
消されてないのが奇跡なくらいギリギリだった……
対潜装備とか修復材のことも妖精さんの声聞こえないのに完璧ですわ
「く、くまああああああああ」
すっかり傷も治った球磨であったが、新しい傷が出来てしまったようだった。
顔を真っ赤にして、夕立から、正確に言えば夕立の耳に付いている小型カメラから姿を隠す。
もう手遅れだが。
『あ、あーとりあえず今日は配信終了するっぽい! またっぽい!』
「配信者がすっかり板に付いてるぴょんね」
チラッと聞こえた声は艦娘?
あー気になる
今更だし、配信続けようぜ!
「ふぅ、これで良いっぽい」
改めて、救援に駆け付けてくれた三人に目を向けた。
「もう一度自己紹介しておくぴょん! 卯月だぴょん! いちおう夕立ちゃんの同期になるぴょん!」
卯月は夕立と同時期に徴兵された艦娘だ。
よく訓練を共にしたり、忙しい夕立を案じてお菓子の差し入れなんかを貰ったこともある。
「私は暁型駆逐艦の
「川内型軽巡洋艦の那珂ちゃんだよ! よっろしくぅ!」
そして、残りの二人とは初対面だった。
「スイラン島泊地提督、兼白露型駆逐艦の夕立っぽい! 救援感謝するっぽい!」
「球磨型軽巡洋艦の球磨だクマ! よろしくクマ!」
「まあ、今回は間に合わなかったからあんまり意味は無かったかもしれないぴょん。でも、司令官から三日ほどはこちらに駐留するように任務が言い渡されているぴょん!」
「第二波への警戒は電達に任せて欲しいのです」
「那珂ちゃん達に任せて、少しの間だけどゆっくり休んでね!」
夕立と球磨にとっては非常に有難い申し出だった。
何せ一度襲撃されているのだから、二度目がある可能性は十分にある。
そのために神経を擦り減らす日々を再開するのはなかなかに心労がかかる。
しかし、夕立には一つの考えがあった。
「うーん、すごく有難い申し出なんだけれど、ちょっと聞いて欲しいことがあるっぽい。とりあえず、食堂にでも移動して、そちらの提督とも話しながら意見を聞きたいっぽい」
「ぴょん!? さっきまで死線を彷徨っていたのに、仕事熱心ぴょんね! 前から全然変わってないぴょん!」
「そっか、卯月は夕立ちゃんの訓練時代を知っているクマね。また後でそのころの話を聞かせて欲しいクマ!」
「あ、それならそれなら、那珂ちゃんも卯月さんのこと聞きたいな!」
「電も興味あるのです」
「あんまり、エピソードは多くないっぽい。まあ、それでも良いなら後でいくらでも話すっぽい!」
「うーちゃんも問題無いぴょん!」
食堂へ向かう道すがら話も弾む。
話題はもっぱら、初期艦とも呼ばれる最初の十人の内の二人、夕立と卯月のことだった。
初期艦には半年の訓練というアドバンテージがある。
それ以降に建造された艤装に適合した艦娘は彼女らから基本を学び、実践と共に成長していく。
もっとも、軍の計らいか基本を学び終えていた球磨が二人目としてやって来たために、夕立は未だに教えたことは無いのだが。
「あ、球磨ちゃん球磨ちゃん。たぶん勘違いしていると思うっぽいけど、卯月ちゃんは成人してるっぽい。子供扱いをむしろして欲しいって言ってるくらいだから、問題無いと思うけど、いちおう伝えておくっぽい」
「クマ!?」
道中、夕立の囁きに驚き、思わず声を上げたりしながら、食堂に着いた。
もてなせるようなものも無いので、特製のコップに注いだ重油を皆に配って、持ってきたパソコンを起動した。
「あーあー、うん。突然の連絡すみません、スイラン島泊地提督の夕立です。通話、聞こえますでしょうか?」
「宿毛湾泊地提督の
「い、いちおう年上ではありますし……」
「配信だって見てるから普段を知っているし、だいぶ無理して話しているだろう? 卯月だって、かなり気合入れないと普通の話し方が出来ないって言ってたぞ」
「うぅ……ぽい……」
宿毛湾泊地提督、卯ノ木陽。
彼は卯月の実の兄であった。
国内唯一の、兄妹で提督と艦娘になるという珍しい事例だ。
ついでに言えば、夕立と共に提督としての勉強をしていた同輩でもある。
提督適正者のほとんどが男性だったせいで、たまの休みにはもう一人の女性提督に連れられての艦娘との交流が多かったため、あまり接点自体は多くは無かったが。
「で、何かしら連絡は来ると思っていたんだが、突然どうした? 俺も配信は見ていたから、事のあらまし自体は把握しているが」
「クマぁぁぁぁ、配信は忘れて欲しいクマ……」
チラッと見えたコメントを読んでしまったクマは羞恥に小さくなる。
怖くて、自分がどんな姿を晒してしまったのか見れそうにない。
「まずは救援感謝するっぽい。普通なら二度目の襲撃を警戒すると思うのだけれど、夕立はここがチャンスなんだと思うっぽい」
夕立も始めは二度目のより戦力を集結させた襲撃を警戒していた。
しかし、球磨の修理にかけた数時間によって、考えは変わり始めていた。
「配信を見ていてくれたなら、詳細は省くけれど、潜水艦の深海棲艦は逃げて行ったっぽい。つまり、敵には私たちのことが既に漏れているっぽい。そのうえで襲撃が無いのなら、考えられるのは三つっぽい。一つ、機雷による防衛を脅威と見なし襲撃を諦めた。二つ、潜水艦による襲撃を計画し、気が付かないだけで既に囲まれている。三つ、敵戦力が削れていて増援を諦めた。だと思うっぽい」
「それで?」
「一つ目と三つ目に関してはあるかもしれないっぽい。でも、二つ目に関しては、さっきまでソナーや爆雷投射機の性能を確かめるために試運転をしていたから無いと言えるっぽい。つまり、これだけの時間襲撃が無いということは、次の襲撃の可能性は薄いっぽい。そして、ここからが本題、二分の一の確率で戦力が減っている敵深海棲艦の中枢を攻撃すれば、ここにいる戦力だけでも撃破出来る可能性があると思う……っぽい」
夕立は今まで調べてきた深海棲艦の動向についても説明する。
凡その深海棲艦がやって来る方向、そして接敵後に撒いて逃した敵が戻って行く方向。
それらを分析すると、ほとんどがこの島と本土の中間より少し東方面。
そちらからやって来ていた。
二隻では敵の大勢相手に数の暴力で負けてしまうだろう。
襲撃の危険性があるのでは、防衛戦力が必要になるだろう。
だが、もし数の優位を得ることが出来て、一時的には防衛の心配をしないでも良いのであれば……?
「ここに何があるかは分からないっぽい。もしかしたら深海棲艦の巣みたいなものがあって、圧倒的な戦力が待ち構えているかもしれないっぽい。でも、もしここに何かがあって、それを撃破することが出来たら、日本に希望の光が見えるっぽい?」
四話掛けてようやく
タイトルが仕事を始めたっぽい
もう一話くらい配信が息しないかもしれないっぽい