艦これ世界で配信者   作:井戸ノイア

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vsツ級っぽい!




近海海域攻略作戦Ⅶ

 戦いが始まりはや一時間。

 陽が沈み始める時間帯となっても、夕立達はその化け物に、軽巡ツ級に致命打を与えることが出来ずにいた。

 全くの無傷では無い。

 しかし、その固い装甲は駆逐艦の火力では微かなダメージを与えることしか敵わず、球磨と那珂の火力でも大きなダメージを与えるには至っていない。

 皆、疲労が嵩み、こちらも致命傷を受けてはいないものの、戦闘の始まりよりも砲撃が掠る回数は着実に増えていた。

 そのうえ、これだ。

 

『ッ! ソナーに感あり! 潜水艦がまた来たっぽい! すぐにやるから警戒を!』

 

 定期的に襲い来る潜水艦。

 これで三隻目だろうか。

 対潜装備のおかげで、迫って来る潜水艦を発見し、打ち倒すこと自体は出来ている。

 しかし、いつ来るか分からない潜水艦の存在は確実に五人の精神を擦り減らしていた。

 

おいおいおい、これ本当に倒せるのかよ

というか、赤黒いオーラが怖すぎる

潜水艦がやば過ぎる。発見出来ても撃破まで時間かかるし、疲労がやばい

急がないと夜が来ちまうぞ

同士討ちがやばい

 

 既に陽は傾き、夕日が海をオレンジ色に染めている。

 即席の艦隊で夜戦を行うということは、同士討ちの危険性が非常に高い。

 何せ、単純に見えないのだ。

 さらに、潜水艦は発見がより困難になる。

 状況は均衡しているかのように見えて、艦娘側は少しづつ追い詰められていた。

 

『夕立ちゃん、どうするクマ! このままじゃ、ジリ貧だクマ! 球磨は一旦退くことを進言するクマ! もう十分と言って良いほど情報は得られたクマ!』

 

『ぴょん!? これはチャンスぴょん! 今でさえギリギリなのに、敵戦力がこれ以上増えたら攻略出来なくなるぴょん! 夜に視界が悪くなるのは向こうも同じ、それにあのオーラがあるなら暗闇でも多少は見えるはずぴょん! 夜戦で何とか倒すべきぴょん!』

 

『情けない話だけど、那珂ちゃんはちょっと限界が近いかなー! 球磨ちゃんと同じく撤退を進言するよ!』

 

『電はまだ戦えるのです! 何人か撤退してでも、夜戦に縺れ込ませるべきだと思うのです!』

 

 各々が意見を夕立に伝える。

 ツ級の砲撃を避け、潜水艦の位置を必死に割り出しながらも考える。

 夕立は艦娘でありながら、提督でもある。

 意見が対立した以上、この場の決定は夕立に託された。

 

てったーい!

逃げても誰も文句言わねぇよ

というかそもそもこれ、撤退出来るのか?

あああああ、命が掛かっていると思うと見ているだけで、心臓がやばい

 

 夕立は考える。

 今の状況だけを見れば撤退するのが正解だろう。

 だが、本当に安全に撤退出来るのだろうか。

 撤退とはすなわち、敵に背中を見せる必要がある。

 今の疲労状態ではその隙に、誰かが避け損なう可能性が高いのではないか。

 

 先を見据えて、今戦うとしよう。

 確かに、これに加えて大量の取り巻きが居た場合、誰かの犠牲無くして倒すことは難しいものになるだろう。

 今は五人でようやく、ツ級一体を抑えられている状態だ。

 だが、もう夜が来る。

 纏った赤黒いオーラは、他よりも目立つだろう。

 それを標的にし、陣形を固めれば同士討ちは起きないかもしれない。

 

 しかし、夜になった瞬間に敵潜水艦の残りの勢力が現れたら。

 三隻までは確認した。

 撃破も出来ている。

 だが、残りがどれだけいるのか、何を考えて逐次投入をしているのかが分からない。

 もしかしたら、夜になるのを待っていて、逃がさないために敢えて少しづつ投入しているのかもしれない。

 

 撤退か、夜戦か。

 どちらを取っても、ハイリスク。

 そして、撤退はローリターン、夜戦ならワンチャン、ハイリターン。

 

 腹が決まった。

 夕立は声を張り上げた。

 

『我々はこのまま夜戦に突入するっぽい! 陣形を決して崩さず、今、ここで、敵を撃滅するっぽい! 那珂ちゃんは、ごめんだけどもう少しだけ頑張って欲しいっぽい! どうしても無理なら、誰かを付けて撤退させるから進言を!』

 

『那珂ちゃんはまだ、やっぱり大丈夫だよ! アイドルは弱音なんて吐かないんだから!』

 

『よく言ったクマ! 長くは持たないことを考慮して、短期決戦で行くクマ! 単縦陣を組むクマ!』

 

 旗艦は球磨。

 陣形、そして現場指揮は球磨の仕事だ。

 夕立は提督として、大局を考える。

 

『! そこっぽい!』

 

 そして、ソナーの反応に気が付いた夕立が爆雷を投射する。

 大きく水柱が立ち、深海棲艦の残骸が浮かび、そして沈んでいく。

 三隻目の潜水艦を撃破した。

 

おお、三隻目!

夜戦の時間だあああああああああああ

暗闇での戦闘、やばいって、何で撤退しないの

↑撤退出来るかも怪しいと判断したんだろう。周囲に潜水艦が潜んでいればどうせ夜戦でも撤退でもやばいことになる。なら、いないことに賭けて、ワンチャン撃破だろ

 

 潜水艦が倒されたことに動揺したのか、ツ級の砲撃に一瞬間が出来る。

 瞬間、球磨は叫んだ。

 

『全艦、砲撃クマああああああああああ』

 

 合図に合わせて、五人の砲撃音が鳴る。

 それらはツ級に寸分違わず命中した。

 煙が晴れたそこには、右手のグローブがボロボロになったツ級がいた。

 

『や、やったのです!』

 

 始めて与えられた傷らしい傷。

 しかし、その気の緩みが悲劇を生む。

 思わずと言った形で喜びの声を上げた電に向かってツ級の砲が向けられていた。

 

 そして、轟音。

 お返しと言わんばかりに、ツ級の砲撃は電へと直撃。

 電は悲鳴を上げることすら出来ず、飛ばされていく。

 

『拙いっぽい! 那珂ちゃん、すぐに電ちゃんの救出を! 卯月ちゃんは二人の護衛を!』

 

 一番近くにいた那珂へと電の救出を指示し、対潜装備で火力の劣る自身よりもと卯月を護衛に付ける。

 ツ級の攻撃からは、二人で逸らさなければならない。

 意図を察した球磨はすぐに加速。

 電達と対角線になるように、真逆の方向へと円を描くように進行した。

 砲撃を交え、ツ級の注意をなんとか引けている。

 

 夕立の元へ無線通信が入った。

 

『電ちゃんを救出したぴょん! 意識も無くて、航行も不可能だけれど、生きているぴょん! 夕立ちゃん、さっきはああ言ったけれど、戦闘はもう無理ぴょん! すぐに撤退するぴょん!』

『了解したっぽい! 卯月ちゃんはそのまま、那珂ちゃんと撤退して欲しいっぽい!』

 

 それだけ伝えて、無線を切った。

 遠目に卯月達が撤退していくのが、見える。

 夕立と球磨も撤退するべきだ。

 

 ツ級が逃がしてくれるならば。

 

 卯月達から少しでも離すことを意識して動いた結果、陸はツ級の後ろ。

 手負いとは言え軽傷のツ級と、ダメージさえ無いものの疲労が蓄積した二人。

 逃げられるはずが無かった。

 きっと卯月はそれを分かっていたはずだ。

 しかし、自分たちが残ったところでやれることは無いと撤退を選択したのだろう。

 電を背負った那珂一人だけ撤退させては、途中で襲われれば沈む他無い。

 

 そして、陽が落ちた。

 赤黒いオーラを纏ったツ級の輪郭が闇の中に浮かび上がる。

 

『二人きりになったっぽい』

『そうクマね』

 

『『でも』』

 

『夕立ちゃんなら球磨の砲撃を避けれるクマ?』

『球磨ちゃんなら夕立の砲撃も避けれるっぽい?』

 

 二人が過ごしてきた時間は、期間として見ればそう長くは無い。

 しかし、無人島でたった二人だけだったのだ。

 その間の時間はより濃密なものとなり、いつしか友達、親友と思うようになっていた。

 だから、夕立は、球磨は、暗闇の中であっても、相棒が自分の砲撃の方角が分かると確信していた。

 親友のことはよく分かっている。

 互いに、思い思いに撃ったところで、相棒に当たるはずが無い。

 

『『さあ、ステキなパーティーをしましょ(するクマ)!』』

 

 

 

 

 ツ級は元より、五隻相手に夜戦を挑まれれば勝てるとは思っていなかった。

 三隻しかいない潜水艦を逐次投入したのも、まだ続くと思わせ、夜戦を躊躇わせるためだった。

 陽のある内に、予想外にも粘ってきた艦娘達を一隻も落とせなければ、夜戦では勝ち目が無い。

 何人かを道づれにすることは出来ても、最後には自身が沈む未来が見えてしまった。

 だから、己に傷を付け、油断しているところで一隻落とすことが出来たのは幸運だった。

 

 そこから、三隻が撤退し、それを見逃したのは偏に四隻に仇討と言わんばかりに襲われれば沈む可能性があったから。

 三隻は見逃して良い。

 残り二隻ならば、こちらが負ける道理は無い。

 ……そのはずだった。

 

 暗闇から砲撃の音が響く。

 瞬間、左側面から衝撃。

 ダメージになる程のものでは無かったが、体勢が崩れた。

 そこに、襲い来る再びの砲撃音。

 今度は頭に命中。流石にダメージが大きい。

 

 おかしい。

 暗闇では同士討ちを恐れて、一か所に固まるはずだ。

 何故、全く別の方向から合図も無しに撃ち合って、互いに被弾しない。

 何故、己の身体ばかりに傷が増えていく。

 艦として、あり得ない動きをする二隻に戸惑い、砲撃があった方向へ砲を向けてもそこにはもう誰もいない。

 それどころか、予想だにしていない方向から再び砲撃を食らう。

 イライラする。

 四方八方へと数撃てば当たると言わんばかりの行動をしようとした瞬間、己の失敗を悟った。

 迫りくる、魚雷の軌跡。

 同時に撃つために、海上へ砲を固定した今、それを避けることは敵わない。

 

 そして、巨大な水柱が立った。

 薄れゆく意識の中でツ級は……

 

 






次で長かった近海海域攻略作戦も終わりっぽい!
そしたら、また日常の配信に戻っていくっぽい!

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