艦これ世界で配信者   作:井戸ノイア

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難産でした。
全然納得出来なくて進まない。
とりあえずギリギリ納得出来たので投稿。
また、変えるかもしれない。




ぽいとクマの旅行Ⅰ

 軽巡ツ級との戦いを終えてから二週間が過ぎた。

 初めは資材不足に悩まされ、報告書の山に悩まされ、忙殺されていたスイラン島泊地も、今や通常業務へ戻ろうとしていた。

 

「それじゃあ、楽しんでくると良いぴょん!」

「お土産は日持ちするものを選んだのです。帰ってきたら食べて欲しいのです」

 

 が、戻る前に一イベント。

 明日から二泊三日の慰安旅行である。

 そして、先に旅行に行ってきた宿毛湾泊地の面々からお土産と、スイラン島泊地周辺の哨戒任務の引継ぎをして、これから旅立ちとなる。

 今は昼過ぎの時間帯。

 宿毛湾泊地へたどり着く頃には夕方となり、そこで一晩過ごし、翌日より二泊三日の旅路となっている。

 

 最初は四国なら道後温泉かと思った2人だったが、有名どころよりも静かなところでゆっくりしたいと意見が一致した。

 言ってしまえば、顔出し配信をしてしまっているため、人が多いところでは落ち着けないと考えたのだ。

 ついでに、せっかくだから配信をしたいのだが、道後温泉も含め有名どころでは難しいというのもあった。

 今回の宿では事前に撮影の許可済みであった。

 

 

 そんなこんなでやって来たのはとある山の麓のホテルであった。

 少しでも長く遊ぼうと、夜のうちに宿毛湾泊地を出発したため、早朝に着いた。

 

 今回の旅路では、軍からドライバーが派遣されていた。

 夕立達に限らず、卯月達も動画に出てしまっており一躍有名人。

 余計な混乱を招かないためにも移動は車で行うのだった。

 移動制限も無くなるため、特に文句も無い。

 

 宿に荷物だけ置かせて貰って、散策へと出掛ける。

 とりあえず朝ごはんを食べようと、モーニングをやっていそうな珈琲屋へと入った。

 店内に漂うコーヒー独特の匂いは、なんだか香ばしくて好きだと夕立は思った。

 ドライバーは車の中で寝ている。眠そうだったし、置いてきた。

 付いて行きたいと言われても困るし、それは向こうも分かっていたのだろう。

 

 熱々の珈琲と、トーストとゆで卵。

 何ら変哲の無いモーニングセットであるが、食を楽しむ余裕の無かったスイラン泊地にいた夕立と球磨は久しぶりの普通の食事に感動した。

 

「ん~、やっぱり朝食はこんなのが良いっぽい!」

「焼き魚と重油と保存食しか無い生活には飽き飽きクマ!」

 

 実のところ、調味料はあったので焼き魚以外も作れるには作れる。

 しかし、二人の料理スキルの前では、あっても無くても大して変わらない。

 焼き魚の味付けが変わる程度だった。

 

「でも、安全に行き来可能なルートが確定出来たし、帰る頃には人が増えているっぽい? ギリギリ間に合うか、間に合わないかくらいっぽい」

「どのみち、これで全部二人でやらなきゃいけない生活からおさらばクマ! 球磨としては、哨戒任務が少なくなるのが嬉しいクマ!」

 

 通常、泊地のすぐ前方ならば哨戒しなくとも、見張りの人員が立てれれば問題が無かった。

 事実、宿毛湾泊地で哨戒任務と言えば、泊地、鎮守府間の海の哨戒により、人々を護るという意味が大きい。

 二人しかいないために、敵襲の警戒を常にする必要があった。

 流石に負担が大きすぎて、固定カメラを配信することによって、哨戒代わりに使用したりもしていたが。

 信憑性は段違いなので、出来れば専門に任せたい。

 さらに言えば、敵影を発見出来たとしても即座に知らせるという意味では全く使えなかった。

 

「そういえば、派遣される駆逐艦って決まったクマ? どこの鎮守府も余裕はそんなに無いと思うけれど、大丈夫クマ?」

「あーっと、んー、もう決まると思うっぽい。こっちもたぶん帰る頃には? 重巡洋艦の方ももう見つかっているっぽいけど、うちに来る前に性能とかいろいろ検査してるっぽい」

「もう見つかってたクマ? ちなみに誰だったクマ?」

「内緒っぽい! 来てからのお楽しみっぽい!」

 

 当然ながら、提督という立場も持つ夕立と、球磨の知っている情報は違う。

 泊地の運営も行うために、第一に夕立に事の経緯が伝わり、そこから艦娘へと伝達されていくのだ。

 といっても、その艦娘も現在は球磨一人だけ。

 夕立の悪戯の範疇で内緒にしておくには何の問題も無い。

 

「えぇ、気になるクマ~」

 

 と言いつつもそこまで気にしてない顔でコーヒーに口を付ける球磨。

 少しだけ飲んで、顔を顰めてカップを皿の上に戻した。

 クマなのに猫舌とはこれ如何に。

 

 

 ご機嫌な朝食も終わり、二人は予定していた山へとやって来た。

 大した山という訳でも無いが、ロープウェイで山頂まで行くことが出来て、それなりに景色も良いらしい。

 頂上には小さなお社と休憩所もあるらしく、観光がてらそこまで登って、景色を見ながらお昼ご飯を食べようという運びになっていた。

 

 コンビニでサンドイッチと飲み物、それと漫画で読んでやってみたかったことがあったので、冷凍の肉まんを購入して持って登る。

 

 

 艦娘は海の上を何時間も移動し戦闘をこなすことから分かるように、非常にタフだ。

 その力は艤装を装備していなくとも、それなりに発揮されている。

 本来は上級者コースに分類されるような山道を、景色や自然を楽しみながらゆっくり登ったとはいえ、山頂までたどり着いても大した疲労は無かった。

 途中、霧が出て来た時には一瞬焦ったもののすぐに晴れたため、それ以外にはトラブルらしきもののも無く、お昼前には着いてしまった。

 

「おぉ、思ってたよりも立派なお社っぽい!」

「しかも綺麗クマ!」

 

 山頂に着いた二人の目の前に現れたのは大きな鳥居と、その向こうには落ち葉も無く整備が行き届いた石畳が続いている。

 巨大なしめ縄の付いた社はどこか神々しさも感じた。

 

 とりあえずと、携帯で二人揃って写真を撮る。

 そのままSNSにアップしようとしたのだが、どうやら電波が届いていないようだった。

 まあいいか、と賽銭箱の前に立ち、ご縁を投げ入れた。

 

 夕立は、これからも誰も失うことなく、戦い勝てるようにと。

 球磨は、より良い出会いと、まだ見ぬ新たな仲間達の無事を願う。

 

 と、コツと足音がした。

 見ると、社の奥から誰かやって来たようだ。

 真っ赤な衣服を身に纏った女性は、その出で立ちや、紫色という不思議な髪色から艦娘のようなただの人では無いという印象を受ける。

 あるいは、社という俗世から離れた場所にいるからだろうか。

 

 

「おや、ここに人が来るとは珍しい。それに、キチンと信仰を持って願いを籠めるとは感心だね」

「あはは、どんな神様が祀られているかは知らないっぽいですけど……。こんなご時世だから神様も本当にいるかもしれないなって思うっぽい……です」

「ふむ、別に自然体で構わないよ」

 

 突然話しかけられたが、どうにも艦に引っ張られて語尾が付いてくる。

 敬語を咄嗟に使えないのは不便だ。

 

 女性は、八坂神奈子と名乗った。

 この神社に住んでいるらしい。

 

「ここに住んでるクマ?」

「そうだね、本来は他にも同居人がいるのだけれど、今は買い出しに出掛けているのさ。良かったらお茶でもしていくかい? 久しぶりの客人だから色々話を聞きたいな」

「んーどうするクマ?」

「じゃあ、休憩も兼ねてお邪魔させて貰うっぽい?」

 

 特にキッチリと予定を立てている訳でも無い二人。

 こういったことも旅行の醍醐味かもしれないと、了承した。

 相手が女性だったことと、自分たちにある程度力があることを自覚しているが故の大胆さである。

 

 昔懐かしといった様相の縁側から中に入り、お茶を受け取る。

 それからは、様々なことを話した。

 

 別に自分たちが艦娘であることを隠す必要は無いのだ。

 そもそもの話、露出が多すぎて外に出れば、すぐにバレるようなことになっている。

 そのため、動画のことから、忙しすぎる愚痴から様々なことを話してしまった。

 女性が聞き上手だったこともある。

 初対面とは思えないほどに話し込んでしまい、ついついお昼ご飯までご馳走になってしまった。

 

「お昼までご馳走になっちゃって、ありがとうっぽい! そういえば、聞くのが随分と後になっちゃったのだけど、ここってどんな神様を祀っているっぽい?」

「軍神と祟り神だね。ま、色々あって二人の神様を祀っているのさ」

「なるほど、それは球磨達にピッタリなところだったクマ」

「もう一回くらい祈っておくっぽい? 勝利と亡霊からの守護をお願いして」

「知らなかったとしても信じる心を持って祈っていれば、一度で通じるものさ。それに社というのは人に対して、祈る相手が分かりやすくするように作られているのさ。どこで祈っていたって、神様を思っていれば効果は同じさ」

 

 八坂神奈子の言葉には妙に説得力があった。

 それこそ、神様を見てきたかのような。

 

「それじゃあ、そろそろ行くっぽい! また何かあったら来るっぽい!」

「またクマ!」

「ああ、また機会があったら会おう」

 

 思ったよりも疲れなかったため、再び山道を降りる。

 綺麗な景色も見れたし、不思議な出会いもあった。

 なんとなくで来ただけであったが、きっと思い出に残るものになるだろう。

 

「あっ! コンビニで買った袋置いて来ちゃったっぽい!」

「クマ!? すぐ近くだし取りに戻るクマ!」

 

 しかし、再び戻った二人の前には先ほどまで居た立派な社では無く、小さな祠と呼んだ方が良いような壊れかけた社があるだけだった。

 先ほどまでの場所は何だったのか。

 不思議とは思うが、そこに恐怖は無かった。

 何せ、亡霊が現れ、それらに対抗するために自分たちも同様の力を借り受けて戦っているのだ。

 

 世界は知らなかっただけで、ファンタジーに溢れている。

 下山しながら話したのは、先ほどの八坂神奈子という女性のことと、あったら良いなと思えることについてだった。

 きっとそれらの内のいくつかは、遠くない内に解明されると思うと何だか魅力的だった。





コンビニ食は美味しく頂かれました。





後書き

たぶん、5,6回書き直した
これを入れるかも数日悩んだ
けど、書きたいものを優先しました
このクロスオーバーは触れる程度で多勢には影響しないと思います
でも、私の中の世界観としては入れたかったのです

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