妖精さんが見えた私には提督適性があるみたいだ。
それに前世で一時期プレイをしていた艦これの『夕立』というキャラの改二の姿に、私が似ていることに気が付いてしまった。
髪や目の色は日本人らしく、黒だったから気が付かなかった。
で、私はすぐにこの原因に思い当ってしまった。
少しだけ優位になる能力。
確かに、海上が封鎖されているような艦これの世界においては、提督や敵性存在と戦うことの出来る艦娘は、非常に優位な存在だろう。
戦うことを強制されるということを除けば。
細かな設定こそ明かされていないため、様々な解釈があるものの、大まかに言えば艦娘は戦時状態と似たようなものだ。
つまり、もし予想通り、この容姿が似ているということがこれから艦娘になるということも示唆しているのだとすれば、戦力が足りているならばともかく、漁獲量の減少や、国が現状を私たち庶民に明かしていない現状を思えば、明らかに足りていない。
これは徴兵される。
そして、提督適性については、また案内がされるという通達を受け、帰宅。
前世で艦これを知っていたから、なんとなく分かるが、知らない人には何が何だかさっぱりだろう。
そして、そのうち艦娘としての適性も芽生えてしまうのだろうなと考えながら、布団に潜る。
その日、私は予想通りというか、夢を見てしまった。
戦時の艦としての記憶、そして身体を上書きされているかのような、奇妙な違和感。駆逐艦夕立と存在が混ざっていくような不思議な、けれど嫌では無い感覚だった。
目が覚めると、髪色が変わっていた。
ベージュ色の不思議な髪の毛だ。顔を洗うために洗面所に立つと、眼の色が紅色に変わっていることにも気が付いた。
報告したら、海軍本部へと連れて行かれた。
そこからはもう怒涛の展開。
日本の、いや世界の現状を聞かされた。
それは深海より現れる異形の存在により、海が奪われ始めていること。妖精という謎の存在により、魂や心霊というものの存在が明らかになったこと。
そして、深海より現れる異形の亡霊、深海棲艦に対抗するには、同じく霊的存在である艦とリンクした人間、艦娘と、それらの力を引き出すための提督という存在が不可欠なこと。
もうなんというか、一介の女子高生相手に話すことでは無いだろうと。
ちなみに、艦娘としての適性を得てしまった娘には全員に同じ話をしているらしい。
そして、日本を守るために戦えるのは艦娘だけと。
最大限、意思は尊重するが、戦いに巻き込まれることは確定のようだ。
そして、始まった艦娘としての訓練と、提督としての勉強の二重の日々。
環境としては、悪く無いのだが、如何せん忙しい。
周囲の艦娘は訓練後、他の娘と交流してたりしたのだが、私はその時間、提督としての勉強もしなければいけない。
まあ、もとよりボッチだったので、大した変化では無い。
給料も出るようなので、大きな不満も無かった。
二重に勉強しているから、給料も二倍だった。
と、そんなことをしていると、はや半年近くが過ぎた。
近々、配属が決まるとのことで、訓練、勉強共に佳境に入っている。益々忙しい。
そんな日々の中、残り一月ほどで全行程終了とのことで、それぞれの艦娘、提督に対して今後の希望調査が行われた。
配属先の調査等では無く、人間としてやりたいことは無いか? というものだった。
もしあれば、政府が全力でサポートをしてくれるらしい。
例えば、ケーキ屋さんをやりたいと言えば、休日や任務の無い時間には本当にケーキ屋を行えるように店と資金を用意してくれるらしい。
要するに、徴兵令の如く連れてきてしまったため、可能な限りの要望は応えたいという意図らしい。
実のところ、艦娘として艦とリンクしてしまった影響か、戦うことに対する忌避はあまり無い。
死にたくないという思いはあるが、それと同時に日本を守るために戦いたいという意思もあるのだ。
だから、そこまで手厚くしなくてもと思わないでも無いが、これは艦娘にならなければ分からない感覚だ。口で説明しても上手く伝えることは出来ないだろうし、まあ貰えるものは貰っておこうの精神だ。
私がやりたいことを本当に出来るのかは分からないが。
端的に言えば、私は配信者になりたかった。
高校生になったら、バイトして機材を買って、某有名動画サイトで顔出し配信をしようと思っていた。
これには前世の記憶が関係している。
前世では何をするでも無く、ただ漠然と社会の歯車になって生きていた。
死因は分からないが、きっとひっそりと死んでいき、そして皆の記憶から消えていったのだろう。
それを思うと、私は今世では、生きたという証を残したいと思った。
それは何でも構わない。だから、最も手軽に始められる配信者という形で残したいと思ったのだ。
それならば、例え有名にならなくとも、動画サイトが残っている限りは生きた証が残り続ける。
死はいつ訪れるか分からない。それを実感してしまったからこそ、強く生きた証拠を残したいと思ってしまった。
で、まあダメ元で前世云々は隠して伝えたところ、やけに軽く許可が下りた。
しかも、やりたいこととかあまり決まっていないと伝えたところ、少し勉強が増えるけれど正式な海軍の広報担当として配信しないかと勧められた。
どうにも、深海棲艦と艦娘、提督のことを隠し続けることが難しくなってきたそうで、そろそろ情報を出していかなければならないとのことで。
今まで隠してきたのは、そうした霊的なことを受け入れられるか分からなかったことと、混乱を避けるためみたいだ。
機密情報のことなど、追加で少しだけ勉強して。
そもそも艦娘のことなど、分かっていないことが多いみたいなので、機密事項は意外と少ないらしい。
それでもって、とある理由もあって、このスイラン島泊地へとやって来た訳だった。
拠点も何も無いし、ネット環境もありゃしない。
でも、提督と艦娘がいれば、あとは妖精さんが霊的なパゥワーで全て揃えてくれる。
そうして、私の提督、艦娘、そして海軍公式配信者として、三足の草鞋の生活が始まったのだった。
スイラン島
架空の島。
どこにあるかは決まっているので後々。