それから何度か配信して。
質問なんかにも答えていくうちに、気が付けば深海棲艦のことよりも、私のことに対する質問の方が増えてきていた。
視聴者数もだいぶ落ち着いてきたことだし、そろそろ個人的な配信をしても良いだろう。
『おはようっぽい! 今日は休日にしたから朝から釣り配信をするっぽい!』
ぽい!
ぽぽい!
ぽいぽいぽい!
すっかりこの挨拶も定着したっぽい!
あれ? もしかして今日から普通の配信?
『ぽい! 人も落ち着いてきたから雑談しながら釣りでもするっぽい! 実は何するか何も考えてなくって、妖精さんから竿を貰ったからやってるのは内緒っぽい……』
何も考えていなかったのか……妖精さんナイスゥ!
何気に休日にしたって言ってるの提督権限か?
↑ツイッチー曰く、普段は昼間は哨戒とか、書類やってるっぽいから……
海釣りの動画とか久しぶり過ぎて楽しみ
『晴れ渡る青い空、白い雲、そしてさざ波の音! この光景を堪能出来るのは夕立になったからだし、すっごく良かったっぽい!』
艦娘も提督も足りていないこのご時世。
徐々に人の行動出来る海域が狭まってきていることもあって、海へは近付くことも禁止されている。
故に、艦娘や提督などという特権階級だけしか、この光景を直接目に刻むことは出来ないのだ。
そう思うと、何でも無いような海がとても素敵なものに見えてくる。
何をするか決めていなかったのは本当だけれど、釣りをしようと思ったのは妖精さんが釣り竿を持って浜へ出掛けて行ったのを見かけたからだ。
私も、たまには羽根を伸ばすのも良いだろう。
『ふっふふーん♪ふっふふーん♪ きっとこの辺りの魚はスレてないから釣りやすいっぽい! 今日は大量だよ!』
あっ
これはフラグ
今までは説明ばかりしていたから、ここで夕立ちゃんがドジなのかが分かる……!
そもそも餌付けれるのか? 抵抗ある娘多いと思うのだが
『あっ、この釣り竿は餌いらないっぽい! 妖精さん印のルアーが付いてるっぽい! でもでも、もし付けるとしてもゴカイとかなら触れるっぽい!』
はえー、今時なのに感心
さては釣りをしたことがあるな、貴様!
概要欄に初心者ってあるのは釣りだった……?
『釣りじゃないっぽい! 糸を水面に垂らすのはまだこれで二回目っぽい! 一回目は何年も前だからもう覚えてないし、初心者っぽい!』
実際、ゴカイくらいなら大丈夫だろうと思って話しているけれど、ちょっと不安だ……。
前世では問題無かったけれど、そこは引き継ぎされているだろうか?
……深く考えるのは辞めよう。
『! 見て見て、引いてるっぽい! そんなに引く力は強く無いけど何だろう?』
引き上げてみるとおちょぼ口の可愛い、カワハギだった。
カメラの前に持って見せると、コメント欄も盛り上がる。
カワハギだ!
今では海の魚は皆高級魚……
食べたい……
カワハギは引く力意外と強いって聞くが
ヒント:艦娘の力
こうして盛り上がるコメント欄を見ると、前世でゲームの中で艦娘が秋刀魚漁をしていたのも何だか分かる気がする。
海の幸はそれだけ貴重品になってしまったのだ。
それを年に数度くらい、祭りのように集めて放出していたら、皆幸せな気分になれるだろう。
出来ればこのカワハギを誰かに送ってあげたい。
でもこの無人島は、深海棲艦の勢力圏のすぐ傍に位置するいわゆる空白地帯。
艦娘でなければ、安定してここまで来ることは難しいだろう。
『このカワハギは今日の夕飯にするっぽい! 最近、持ってきた保存食とか、生成した重油にも飽きてきたからちょうど良いっぽい!』
何だか不憫な食事情……
まあ、普通の船じゃ危険過ぎて行けない無人島らしいから……
……重油!?
重油飲むの? 船と考えたら普通かもしれないけど……
まーた新しい情報だ、これだから夕立ちゃんの配信は見ざるを得ないぜ!
『あれ? 言って無かったっぽい? 私たち艦娘は船と半分融合しているようなものだから、重油とかも飲めるし、身体の中で栄養とかに変換出来るっぽい? 私もその辺りの詳しいことは分かんなーい』
と言いつつ、水筒を取り出して中身を手の上に出して見せる。
どろッとした液体、重油だ。
提督と艦娘がいる所には自然と妖精さんが、鎮守府や泊地を築き上げる。そして、霊的ぱうわーをどう変換したのか、時間経過によって少しづつ燃料/重油や鋼材なんかを溜めて行ってくれるのだ。
これも私がここに、赴任となった理由の一つである。
提督が来ることは難しいが、戦略上一時補給が可能であると非常に都合が良い。
そんな時に、提督と艦娘を両立出来る私に白羽の矢が立ったのだ。
『わわ、また引いてるっぽい! やっぱり今日は大量っぽい!』
手の上に乗せた液体を舐めとる姿……これはセンシティブ!
なお液体は人には劇物の模様
それにしてもよく釣れるね
謎技術の塊の妖精さんが作った釣り竿にこそ秘密が含まれていそう
こんなに食べきれる?
『元々、私一人よりも、たくさんの艦娘が所属することを想定して造られているから、冷蔵庫もとってもおっきいっぽい! 食べきれない分はそこに保存しておけば大丈夫っぽい!』
と、そんなこんなでお昼前くらいまで、だらだらと話しながら釣りをしていたら、気が付けば持ってきたバケツが魚でいっぱいになっていた。
保存出来るとは言え、限度もあるだろう。
そろそろ配信も終わるかと、締めの挨拶をして立ち上がった時だった。
海の中に黒い点を見つけた。
カメラには恐らく、ドットのようにしか映っていないだろうその黒点。
しかし、艦娘として強化された視界はその正体を克明に表していた。
『深海棲艦……ごめんね、終わろうと思ったけれど、ちょっと行ってこなくちゃ!』
深海棲艦……?
どこにも映っていないように見えるが
もしかして、あの黒い点か?
艤装は外してきてしまったので、急いで戻る。
といっても、ドックのすぐ外で釣りをしていたので、一瞬だ。
艤装を背負って、ふと思い立って、妖精さんに声を掛けた。
「それくらいお安いごようです! よゆーのよっちゃんです! これを付けるだけでかんぺきです!」
そうして、渡されたのは耳に付ける小型のインカム。
しかし、マイクは非常に小さく視界を全く阻害しない。
あれ? 急に画面が切り替わったぞ
さっきまでの釣り竿と、カメラが見える
これは、夕立ちゃんの視界?
『大正解っぽい! 急遽だけれど、近海に深海棲艦が出現したから私が迎撃に当たるっぽい! せっかくだから私の視界で配信を続けるけれど、さっきまでみたいな余裕は無いから、話せなくなるのは許して欲しいっぽい!』
おk
おーけー
まさか、実際の戦闘を見られるとは
駆逐イ級か?
『見える範囲では駆逐イ級が一隻だけっぽい! 凄惨な光景が駄目な人は自主的に視聴を止めて欲しいっぽい。たぶん、問題無いけれど、どっちが勝ったところでひどいことにはなっちゃうから!』
『夕立、出撃するっぽい!』
ぽい!(挨拶)