艦これ世界で配信者   作:井戸ノイア

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日常回
次回からまた配信を中心に進んでいく(はず)




白立楓夕の日常

 駆逐艦夕立となった、白立楓夕(しらたちふゆ)の朝は早い。

 何せ、この無人島には楓夕一人しかいないのだ。

 

 積極的な攻勢に出る必要が無いとは言え、哨戒は小まめに行わなければならない。

 気が付かない内に深海棲艦に囲まれていたなんてことになれば、生還は絶望的になってしまう。

 目覚めの一杯として、何故かりんご味のする重油を飲み干す。

 濃度によって味が変わるようだ。

 

 そして、工廠へと向かい、艤装を装着。

 周辺の海の哨戒を行う。

 凡そ2,3日に一度くらいのペースで深海棲艦は現れる。

 今まで一番多かった時でも駆逐イ級が二体ほど。

 大本営からの通達で、駆逐や軽巡級までは存在が確認されているが、それ以上は未だに未確認状態だ。

 もっとも、艦娘に関しても似たような状態であり、軍部としても今後空母や戦艦が現れることを危惧しているらしい。

 そんなことを考えながら、島の周辺の哨戒を2時間ほどで終わらせ、泊地へと帰還する。

 

 本来であれば、提督や非番の艦娘、近くにいる憲兵など、誰かしらは出迎えるようになっている。

 提督としての勉強には、多感な時期の少女たちを戦場へ送り込まなければならないため、精神的なケアの方法なんかもあった。

 そして、原則として誰かしらが迎えに行くのは必須であったのだが、ここで出迎えてくれるのは妖精さん達だけ。

 彼らは非常に気まぐれなので、港にはいたりいなかったりだ。

 今日は居るらしい。

 二頭身の人形のような存在に心が少しだけ癒される。

 

「おかえりなさいですー」

「今日もたいりょうですかな」

 

「ただいまっぽい!」

 

 釣り配信以降、何故か毎度の如く、漁に出ていると思っている妖精さんがいる。

 そんなことにもほっこりとする。

 

 そして、栄養的には重油だけでも足りているので、そのまま執務室へ。

 提督としての仕事と言っても、現在はそんなに多くはない。

 自身の哨戒と食事に使用した資源の量と、自然に溜まっていく資源の量の差し引きの帳簿を付け、哨戒の結果を大本営へと報告する。

 今日は深海棲艦の出現は無し。出現頻度にも特に変化が無いため、何の問題も無しだ。

 

 そうして、やることが終わった頃に時計を見れば、11時を回ったところ。

 自分で作る必要もあるし、早めの昼食にすることにした。

 

 前世では家事などしたことが無かったし、今世でも親の庇護下に甘えて、家事はしていなかった。

 要するに難しい料理は出来ない。

 釣った魚の内臓だけ、取り出して丸焼きだ。

 それでも、今まで妙な味に感じる重油と、たまに食べたくなる固形物として摂取していた保存食を思えば随分と豪勢に感じる。

 焼いて、塩を振るという男飯風の焼き魚をつつきながら、少し薄めの重油を飲む。これは、レモネードみたいな味。

 

 そうして、いちおうの業務が終わり、ツイッチーをつつきながら、今日はどうしようかと考える。

 そういえば、午後から自主訓練をしようとしていたことを思い出した。

 ゲリラ配信になるが、特に話すことも無く、訓練の様子でも垂れ流しておくかと考える。

 人が減ったといえど、世間は艦娘への興味が尽きない状態。

 配信には大勢の人間がやってくる。

 既に彼女の感覚は麻痺していた。

 


 

【無言】訓練の様子【定点カメラっぽい!】

 

海に浮いた的を撃つ訓練か

真剣な表情の夕立ちゃん、何だかカッコいい……

あんな遠くの的をよく撃てるなぁ

FPSの練習を思い出した

魚雷は撃たないの?

 

 時折、流れるコメントを見ながら、訓練は真剣そのもの。

 何しろこの訓練に命がかかっているかもしれないのだ。

 配信はしていても、かなり本気で行っている。

 でも、愛想も忘れない。

 

『魚雷は止まった的じゃなくて、こっちの動く的を用意して練習するっぽい! 私はいつも、先に砲撃の訓練をしてから、魚雷に移るっぽい! 魚雷は駆逐艦の最大火力かもしれないけれど、砲撃を当てれば目隠しにもなるから、こっちも重要っぽい!』

 

 この世界、ゲームの世界とは違うのだ。

 砲撃を受ければ、当然弾薬が爆発し、煙が発生する。

 その結果、敵の視線を遮ることが出来、生存率にも大きく影響してくる。

 もっとも、それはこちら側にも言えることなのだが。

 

魚雷当てるの難しそう

挟叉とかの確認も難しそう

本来、艦は大人数で動かすものだしなぁ

 

 逆に言えば、感覚さえ掴めば、自身の技量が戦闘に直に反映されるとも言える。

 自身の練度が、全体の練度へ反映されるのだ。

 だからこそ、訓練は大事。

 数時間、砲撃、魚雷、水上移動等の訓練を行い配信を終了した。

 

『それじゃあ、また夜に会おうっぽい~』

 


 

 そして、夕方。

 午後の哨戒を行い、異常無しを確認した。

 再び、執務室へと行き訓練と、哨戒の報告書を作成。

 

 食堂へ向かい、夕食にまた焼き魚を食べる。

 妖精さんの声が聞こえるとは言え、夜にだだっ広い食堂でご飯を食べていると何だか寂しくなってきた。

 前世と合わせて、良い年齢はいっているかもしれないが、無人島に一人はやっぱり寂しい。

 

 夕食をパッと食べ終え、次は配信の準備。

 最近はパソコンゲームをすることにハマり出していた。

 というのも、朝早いと言えど19時台に寝る気にもなれず、寂しいから誰かの声をと手を出したところ、何だか心が満たされたのだ。

 配信では、誰かとチームを組んで一緒になって敵を倒す。

 夕立と通話も出来るとあって、大盛況だ。

 夕立も誰かと話せて大満足。

 ウィンウィンであった。

 

 そして、21時頃。

 配信を終了し、お風呂へと向かう。

 昔は徐々に女性らしくなる自分の身体にドギマギしていた頃もあったが、それも年を重ねるにつれて無くなっていった。

 人間、慣れるものである。

 

 お風呂から上がって、寝巻に着替えた。

 そして、執務室の奥にある提督用の仮眠室へと向かう。

 艦娘用の寮も建設されているが、誰もいない寮というのは少々怖い。

 どっちで寝ても構わないので、利便性も取ってこちらで睡眠を取ることが多かった。

 

 ふと、窓の外を見れば満天の星が見える。

 無人島故の暗闇。

 綺麗だが、人の営みでこの星空が見えなくなった光景も綺麗だろうなと思った。

 非常に人に飢えている。

 

 

 そして、布団で目を閉じ、明日がやってくる。

 ここまでが彼女、白露型駆逐艦4番艦夕立となった、〇〇島泊地提督、白立楓夕の日常である。

 

 でも、その日常ももう少しで終わるはず……。

 

 十分に溜まってきた資源を思い浮かべて、彼女は新しい仲間を夢想した。

 もう少し、もう少しだけ資源が溜まれば、艤装の建造が出来る。

 建造された艤装の持ち主はよほどの理由が無ければ、建造場所の泊地、鎮守府へと着任となるはずだ。

 

 新しく来た娘とも、一緒に配信出来たらな。

 なんて、思った。

 

 




そろそろ新しい仲間も増えるっぽい!
誰が来るのかなぁ!
ぽいぽいぽい!


ぽい?(どうしたの?)

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