球磨が着任し、二人体制で回せるようになったことで、各段に楽になった。
何せ、今まで朝夕と二度の哨戒を一人で行っていたのだ。
そのせいで、遠征に行くことも難しく、資源も細々としか溜まらない。
それを分けるだけで、資源調査を行う余裕が出てきた。
今までは夕立しかいなかったため、泊地の防衛のためにも哨戒以上に離れる訳にはいかなかったのだ。
資源調査とは所謂、ゲームで言う遠征のことである。
妖精さんが資源に変換しやすいパワーが集まるところを探し、そこで艦娘に付いている妖精さんや艤装が力を溜め込む。
それを鎮守府まで持ち帰ってきて、資源に変えるのだ。
そのため当然、燃料が多いところや、鋼材が多いところなど、様々な場所がある。
より効率の良い場所を探すことを資源調査、そして定められた効率の良い地点まで行き、資源を持ち帰ることを目的とした出撃が遠征と呼び分けられている。
分けられると言っても、所詮は駆逐艦と軽巡洋艦が一隻ずつ。
極近い海域までしか、足を延ばすことは難しいが、それでも自然回復だけよりは効率が段違いだった。
そして、余裕が生まれて芽生えてきたのは娯楽への欲求。
端的に言えば、買い物したい。
何せ、ここは一番近い有人島まででも片道四時間ほどはかかってしまう孤島だ。
電子関連は妖精さんに頼めば、資源を使用して造ってくれる。
でも、例えばお菓子とか、肉汁溢れるステーキとか、新しく発売した漫画とか、ゲームとか、購入出来ないものが多々ある。
ちなみに、夕立はまだ高校生だったため、クレジットカードを所持していない。ネットで買おうにも、コンビニすらないため、カードの購入も出来ない。
詰んでいた。
故に、夕立が提督として掲げた最初の目標は近海、この無人島と本土の間の海の攻略であった。
この海域、上手く通れば艦娘ならば島まで深海棲艦に会うことなくたどり着くことも出来るのだが、一度航路を外れれば駆逐イ級に始まりロ級、軽巡ホ級までが確認されている。
そちらの奥地にはさらに強力な深海棲艦が居ると推測がされていた。
しかし、今は艦娘が足りない時期。
ほとんどの提督は資源調査と遠征により、艦娘を増やすことを優先目標としており、海域の攻略は視野に入っていない。
そもそも、ゲームの知識から、ボスのようなものが居て、それを倒せばある程度安全な海域に出来るのではないかという推測を立てているに過ぎないのだ。
本当にボスが居るのか、そして倒した場合本当に敵が少なくなるのかは未知数。
しかし、未知数だからこそ、この作戦には価値があると思っている。
成功すれば、今後の動きも立てやすいのだ。
問題点があるとすれば、ただ一つ。
駆逐艦と軽巡洋艦の二隻しかいない泊地でどう戦うかということだった。
『皆はどう思うっぽい?』
というような経緯を、ゲーム云々は置いておいて、配信で話してみた。
もちろん、参考程度に聞きたかっただけで鵜呑みにするつもりはない。
ただ、同じような意見の人がいたら良いなぁ、と思った夕立は自分の考えに少しだけ自信が持てていなかった。
どう、と言われてもなぁ
海が綺麗ですね
確かに霊的に考えるとそこに亡霊の発生源みたいなのはありそう
例えば、沈んだ船とか……?
前回、出撃しながら配信した時はあまりのスピードと画面の揺れに、吐いた気分が悪くなる人が多発したため、カメラを改良して貰っていた。
視点が常に平行になるカメラで、原理はよく分からないが、妖精さんに感謝である。
『沈んだ船っぽい? 確かにそれはあるかもしれないっぽい。報告によると、深海棲艦が来る方向はある程度一定っぽい。その方向に何かがあるとは思うっぽいけど……』
問題は二隻しかいないこと
泊地の守りも含めたら、実質一隻
一隻で敵地へ突撃……あれ、夕立ちゃんでは?
史実の艦とは違うので、万歳突撃はNG
『でも、実際のところ核みたいなのがあって、そこから深海棲艦が現れているなら都合が良いっぽい。例えば、艦娘の護衛があればその海域では漁が出来るようになるかもしれないっぽいし、今後の目標も自動的に決まってくるっぽい』
しかし、俺らがこんな話をしていると不謹慎ながら少し楽しい
↑分かる。提督になったみたい
こんな奴らの言うこと聞いちゃダメよ
無責任だからこそ忌憚の無い意見も言えるってもんだ
その判断をJKに任せるのは如何なものか
『あははは、大丈夫っぽい! 夕立もあくまで参考程度に聞いてるっぽい! それにやっぱり二隻だけじゃ、戦力的にも厳しくって難しいっぽい』
と、言いつつ。
娯楽のために、頭を回転させている夕立。
夜間なら火力も上がっていけるかもしれないなどと思い、敵も同条件だったと落ち込む。
やはり、どうあがいても戦力が足りない。
しかし、新しい仲間を得るためには今の資源増加具合を見るにあと数週間はかかる。
どうしても娯楽が欲しくなってしまった夕立であった。
いっそ敵から向かってこれば
防衛を崩すには三倍の戦力がいるらしい
↑それは海の上でも言えることなのだろうか
「あ、そこ良い感じですー。もうちょっと右に舵を取ってくださいー」
『分かったっぽい!』
配信や考え事をしつつも今の任務は資源調査。
妖精さんに言われた位置へと移動して、しばらく止まる。
この間に妖精さんや、背負っている艤装に謎のパワーが集まっていっているそうだ。
なんか地味に身体が光ってる
この光景も数度目になると慣れてくるね
今日はまだ深海棲艦にも遭遇してないし、平和だぁ
『うーん、確かに今日は深海棲艦をあんまり見かけないっぽい。ちょっと不気味っぽい? 最近、哨戒していても遭遇率が下がっているっぽい』
哨戒と違って、ある程度島から離れる資源調査は深海棲艦と遭遇する確率が非常に高い。
と、言っても精々が駆逐ロ級程度。
離れすぎないために、軽巡の深海棲艦とは未だに遭遇したことが無い。
『んー、島の位置ってたまたまの空白地帯みたいな感じだったからちょっと怪しいっぽい。しばらくは資源調査を抑えるっぽい? 島に居たほうが良い気がするっぽい』
応援を要請した方が良いのでは?
もし島に攻められたら二隻じゃ厳しい気がする
というか、何を持って空白地帯なのか
前に、大体の無人島は深海棲艦が多くて近付けないって言ってなかったか?
『そうっぽい! 大体の無人島は周囲に深海棲艦がうろついているし、倒してもまたすぐに集まってきちゃうっぽい。応援を要請するのは襲われてればまだしも、嫌な予感っていうのじゃ難しいっぽい……。どこも艦娘が足りていないのは同じっぽい』
と、話している間に資源の回収が終わったようだ。
妖精さんに声を掛けられたため、移動を再開する。
しかし、その行く先は未調査の海では無く、泊地の方角だ。
『やっぱり、気になるから今日は泊地に戻るっぽい! という訳で、資源調査の間っていう結構長い時間付き合ってくれてありがとうっぽい! 夜にはまた、球磨ちゃんと二人でゲームとかすると思うから良かったら来て欲しいっぽい! またっぽい!』
またっぽい!
最近、二人プレイが多くて一緒に出来ないことが多いからちょっと寂しい
でも、夕立ちゃんが楽しそうで何よりです
球磨ちゃんの泣き顔がまた見れそう
球磨ちゃん普段は頼もしい言動なのに、ゲームはポンコツだからな……
泊地へ、戻ろう。
胸のざわめきは大きくなる一方だった。
その後の三日間、周辺の深海棲艦の目撃数はゼロになった。
ルーキー日間ランキング一位、大感謝っぽい!
これも読んでくれた、皆のおかげっぽい!
これからもどうぞよろしくっぽい!