「夢美との幼馴染み設定をやめる?」
『はい……申し訳ありません。私のサポートが足りないばかりに』
「いえ、飯田さんは悪くないですよ。こちらこそバズるチャンスを自分で潰してしまい申し訳ないです」
もっとはっちゃけていれば結果は変わっていたかもしれない。自分がくだらないプライドを捨てきれないことで、周囲に迷惑をかけている自覚はレオにもあった。
「やっぱり、夢美と俺はあんまり絡まない方がいいんですかね?」
『ええ、今はまだ何とか大丈夫ですが、段々と視聴者層がズレていくと思われます。詳しい話は明日にでも諸星部長を交えて打ち合わせを行いますが、取り急ぎお伝えさせていただきました』
「わかりました。ありがとうございました…………はぁ」
飯田との通話を切ったレオは深いため息をついた。
それから夜になり、夢美の収益化配信の時間がやってきた。
『スパチャスパチャスパチャ~スパチャを~投げると~♪ バラギバラギバラギ~バラギが喜ぶ~♪ ……はい、どーぞ!』
[開幕清楚死亡]
[どうぞじゃないが]
「これぞにじライブの清楚枠 ¥10,000円」
[欲にまみれた歌から始まって草]
[収益化の喜びを知りやがって…… ¥6,000円]
[エグい額のスパチャ飛び交ってる……]
配信が開始してからコメント欄には、金額を付けてメッセージを送るスーパーチャットが飛び交い始めた。
チャンネルが収益化するということは、U-tubeから収入を得られるようになるということだ。
デビューの際に仕事をやめたと聞いていたこともあって、レオは素直に祝福するつもりで配信を眺めていた。
収益化を果たした夢美の配信では、一万円以上の〝赤スパ〟が飛び交っていた。
夢美のチャンネルの男女比は男性七割、女性三割、スーパーチャットを投げているのはほとんどが男性だが、さりげなくサバサバした物言いをする夢美は地味に女性人気も高かった。
妖精と呼ばれる視聴者達は、夢美の可愛さよりも〝下品な女友達〟感が好きな層が多い。
未だに可愛らしさを求める層もいるが、高額なスーパーチャットを投げているのは大抵前者の方だった。
『今日はね、お祝いも兼ねてお酒を呑んじゃいます。みんなも手元にお酒を用意して楽しめよ!』
[まさかの飲酒配信www]
[お酒代 ¥6,000円]
『ちなみにマネさんには許可をもらってるから安心しな!』
[事務所も狂ってて草]
[これから何かやらかすんですねわかります]
[酒でのやらかし全裸待機 ¥200円]
夢美のマネージャーである四谷は、収益化祝いと称して上善水如を贈っていた。
別にそれで飲酒配信をしろと強要したわけではないが、夢美はフリだと思い、配信での飲酒の許可を得ていた。
『マネさんにもらっただけだから詳しくないんだけど……これは〝上善水如〟?』
[まさかの日本酒で草]
[マネさん何してんのw]
[よりにもよって上善www]
[上善飲みやすいよね]
「……マジかにじライブ」
にじライブのぶっ飛び具合はレオも知っていたが、収益化配信の前に日本酒を渡すマネージャーがいる事務所はにじライブくらいだろう。
予想の斜め上をいく事務所の対応に、レオは唖然としていた。
『じゃあ、妖精のみんな。乾杯!』
[かんぱい!]
[かんぱい!]
[かんぱい!]
乾杯の合図と共に夢美は一気に酒を呷る。
『えっ、何これ……水じゃねぇの!?』
[水じゃねぇのwwwww]
[名言しか作れない女]
[上善「水如」だからな]
[これは名言製造姫 ¥10,000円]
[名言代 ¥20,000円]
夢美のリアクションが良かったため、再びスーパーチャットが飛び交う。
高額のスーパーチャットが飛び交ったことで、夢美は画面の向こうで笑顔を浮かべた。
『いや、ホントにありがとう! お金大好きだから本当に嬉しい!』
[今まで一番良い笑顔してやがる……]
[綺麗な顔してるだろ? 最初清楚路線でやっていこうとしてたんだぜ]
『何でだよ! 今も清楚だろ!』
[鏡を見てどうぞ]
[鏡よ鏡よ……世界で一番汚い美女はだぁれ?]
[汚い美女という矛盾]
[夢美ちゃんという名の永遠に眠れる森の美女]
「ははっ、ははは! ……はぁ」
軽快なコメントとのやり取りを見ていると、自然と笑みが零れた。それと同時にこいつとコラボ出来なくなるのかという寂しさも覚えた。
[白鳥まひる:バラちゃん、大好きなお金だよ! ¥10,000円]
『まひるちゃん!? お気遣いいただき、誠にありがとうございます!』
[バラちゃん呼びで草]
[俺達との対応の差で泣いた]
[残当]
夢美の推しライバーであるまひるも来たことで、コメント欄はさらに盛り上がった。
それから夢美の収益化記念配信は盛り上がり続けた。
四谷からもらった日本酒が飲みやすいということと、夢美自身日本酒を初めて飲んだということもあり、夢美はペースを考えずにどんどん日本酒を飲んでいった。
そして、アルコールもかなり回ってきた頃。
夢美はだんだんと普段の声の高さに戻っていった。
『あ゛~、何か結構酔ってきたわ~』
[声低くて草]
[夢美ちゃん返して……]
[これはバラギですわ]
[最近の声の方が素の声だと思ってたけど、まだ下があったのか……]
[これはこれで]
[低音ボイス助かる ¥4,000円]
[王子様が起こしに来るのを待てず、自分が起きて王子になった女]
コメント欄は最初こそ夢美の素の声に驚いていたが、ハスキーな少年声はむしろ好感を得ていた。
[竹取かぐや:飲み過ぎやで^^]
[ひえっ]
[バンチョーもよう見とる]
[相変わらず圧がすごい]
にじライブの中でも人気のトップライバーである竹取かぐやがコメント欄に現れたことで、夢美は萎縮した。
『えっ、バンチョー来てる!? あ、ありがとうございます!』
[声震えてて草]
[完全にヤンキーに絡まれた陰キャ]
[竹取かぐや:お酒はほどほどにな?]
『ひゃ、ひゃい!』
[ビビり散らかしてるw]
[後輩いじめはよくないと思います(震え声)]
夢美だけでなく、コメント欄もかぐやに恐れをなし始めた。当のかぐやは、酔ったことによる放送事故を危惧しての親切心からコメントしていただけなのだが。
[竹取かぐや:正直すまんかった ¥10,000円]
[とってつけたように赤スパ投げるなwww]
[金で解決するなw]
[何だかんだで後輩想いの良い先輩なんだよなぁ]
『あ、赤スパありがとうございます!』
[にじライブトップ2に貢がれる女]
[これは伸びる。というか伸びた]
[もう五万人突破したで]
『は!? 五万人ってマ!?』
「は!? 五万人!?」
画面の向こうの夢美と、レオは同時に素っ頓狂な声を上げた。
配信前の登録者数が約四万人だったことを考えると、この配信で一万人ほどの人がチャンネル登録をしたことになる。
[トレンド入ってるで]
『へあっ!?』
[凄い声出てて草]
レオは驚きながらもツウィッターでトレンド欄を覗いてみれば、そこには〝バラギ〟の三文字があった。
「本当に、凄いな……」
感嘆の吐息を漏らしながらも、レオは素直に同期の偉業を祝福する。
咄嗟にスーパーチャットを投げようとして、飯田に言われた言葉が蘇る。
彼女の覇道に自分はいちゃいけない。
咄嗟に押しかけたボタンをレオは既の所でキャンセルした。
『みんな、サンキュ! まだまだ頑張るわ!』
[支援 ¥10,000円]
[俺の目に狂いはなかった]
[狂ってるから推してるんだよなぁ……]
登録者数の爆増とトレンド入りにより配信はますます盛り上がる。
[今北産業]
[おもしれー女、支援するわ]
[まーたにじライブが暴れてるわ]
トレンドから気になって見にきた視聴者も交え配信は進んでいく。
茨木夢美は間違いなく、話題性ならばトップクラスのバーチャルライバーとなっていた。
炎上してからが本番なのになかなか書きたいところまで進めない……。
もう少しで物語が大きく動きますので、しばしお待ちを。