Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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炎上って事実を見てみるとよく知らないのに勝手に騒ぐ人達のせいでも起きますよね……。

歌詞の所に修正を加えました(2020/9/5)


【祝収益化】お前らァ!飲酒配信やるぞー! その2

『しっかし、この酒うめぇわ。今度自分で買おうかな?』

 

[酒代 ¥10,000円]

[これは案件くるで]

[最初の案件が日本酒は草]

[デビューして一週間ってマ?]

[こんなヤバい奴どこで見つけてきたんだwww]

 

 夢美の配信は初見の視聴者も大量に流れ込んだことで、今まで以上の盛り上がりを見せている。

 しかし、自分の放送が盛り上がれば盛り上がるほど、夢美は嬉しい気持ちと同時に心がざわつくのを感じていた。

 

『はぁ……』

 

[どうしたん?]

[収益化してクソデカため息をつく女]

[元気出して ¥5,000円]

 

 打ち合わせで諸星から言われた内容は口にすることはできない。

 もやもやしたものを抱えていた夢美は、アルコールが回っていることも手伝って少しだけ本音を零した。

 

『いや、あたしだけこんなとんとん拍子でいいんかなって思ってさ……』

 

 夢美の頭に浮かぶのは、レオの顔だ。

 お互いのためにならないと言われても心配なものは心配なのだ。

 

『知名度だって、にじライブあってのものだし……』

 

[バラギが面白いから見てるんやで]

[気に病むことはない、お前は面白い]

[みんながみんな伸びるわけじゃないで]

 

 夢美を心配するコメントの中にあった言葉を見て、夢美はさらに表情を曇らせる。

 

『そうだよね。みんながみんな伸びるわけじゃない、よね……』

 

[本当に大丈夫か?]

[もしかしてレオ君のこと気にしてる]

[獅子島のあれは自業自得でしょ]

[どうせ大して歌うまくないのを編集でごまかしてるだけでしょ]

[笑いをネタに消化できない時点で伸びるわけがない]

 

 そんな中、レオに対して厳しくも正しい評価をしているコメントを見てーー夢美の中でくすぶっていた不満に火がついた。

 

『あのさぁ……レオは凄いからな。みんな元アイドルって聞いて、どうせ売れないアイドルだって舐めてるけど、本当に凄いんだからな』

 

[そういえば、この二人って幼馴染みだったわ]

[えっ、あれマジなん?]

[配信見返してどうぞ]

 

 夢美のまさかの発言に、俄にコメント欄がざわつき始める。

 

[レオ君の所属してたグループ知ってるん?]

 

『知ってるに決まってんだろ。身バレしたら申し訳ないから言わんけど』

 

 酔っていて正常な判断力を失っていても、根は真面目な夢美である。さすがに個人情報の漏洩に繋がるような発言はきちんと避けていた。

 

『あいつもあいつだよ。いつまでもくだらないプライドにこだわって……あー、もう腹立ってきた!』

 

[落ち着け]

[おっ、放送事故か?]

[おい、何する気だ]

 

 夢美はパソコンにインストールしたRINEの画面を開くと、勢いのままにレオとの通話ボタンをクリックした。

 

「夢美の奴、大丈夫――うおっ!?」

 

 配信を見ていたレオは、夢美の様子を見て心配していたが、突然スマートフォンが鳴ったことで、反射的に電話を取っていた。

 

『もしもーし、こんばん山月!』

 

「はぁ!? お前何してんの!?」

 

 まさか自分に電話をかけてくると思わなかったレオは、素っ頓狂な声を上げた。

 

[まさかの電話凸www]

[こんばん山月はやめたれw]

[レオ君、ほとんど条件反射で電話取ってて草]

 

 夢美の視聴者の中にはレオとのコラボを望む者も一定数いた。そういった視聴者層は、まさかのレオの登場に歓喜していた。

 

「今配信中だろ?」

『おっ、やっぱり見ててくれたんだ。サンキューな!』

「そりゃ見るだろ。収益化おめでとう」

 

[めっちゃフランクなやり取り]

[猫撫で声で名前呼んでた頃が懐かしい]

[同期の配信もちゃんと見てるんだな]

[マジで仲良いんだな]

 

 レオはひとまず素直に祝福の言葉を贈ることにした。

 マネージャーの飯田には夢美と絡まないように言われたが、夢美から電話がかかってきて取ってしまった以上、これ以上ことを荒立てないように無難に終わることが一番だ。

 レオは一拍おいて、夢美を宥めるために通話を切るように話を持っていくことにした。

 

「そんなことより通話はまずいだろ。とりあえず――」

『知るかボケェ! こっちはあんたのせいでもやもやしてんだよ!』

「いや理不尽!」

 

 酔っ払いと化した夢美は制御不能と化していた。

 

[これは酷い]

[暴走してて草]

[レオ君に迷惑かけないで]

 

 レオの熱心なファンが話を聞きつけてやってきたのか、レオを心配するコメントも現れ始めた。

 

「いや、マジで一回落ち着け? 酔って収益化配信で炎上とか笑えないからな?」

 

[ぐう聖]

[夜中に電話かけてきても、炎上の心配をするライバーの鑑]

 

『てかさあ、あんた何で歌枠やらんの?』

 

[とうとう同期に絡み酒し始めたぞ]

[大丈夫か、これ]

[その話題はまずいですよ!]

 

 誰も触れようとしてこなかった話題に触れたことでコメント欄がざわつく。

 レオも言葉を濁してごまかすのもまずいと思い、歌枠を行わない理由を話すことにした。

 

「歌枠って音質悪いし、悪環境で歌を聞かせるの抵抗があるんだよ。ほら、聞き苦しい歌は聴かせられないだろ?」

『まったく、だからあんたは李徴なんだよ!』

「ぶふっ!」

 

[パワーワードしか吐けない女]

[李徴の悪口はやめろォ!]

[レオ君も吹いてて草]

 

『せっかく良い声してるし歌もうまいのに、何でそんなに自分の歌に自信ないの? そうやってまごついてるから伸びないんだよ。あたしがどんな気持ちであんたの配信見てたかわかる?』

 

[これは遠回しなツンデレ]

[悲報、バラギ同期に上から目線で説教をする]

[事実上なんだよなぁ]

[上から目線でうざい]

[何この女]

[なんか空気悪くね?]

 

 配信の空気が悪くなり始めたことを感じ、コメント欄もざわつきはじめる。

 

『山月記ネタにしてもさぁ、せっかくバズるチャンスなのに何でふいにしてんの? もったいねぇなぁ、って思って配信見てたわ』

 

[本人が嫌がってるならしょうがないでしょ]

[人の方針にケチ付けるな]

[なんだかんだ言いつつも配信は見ててえらい]

 

 レオは夢美の言葉に歯がみする。

 視聴者が面白がっているネタを、うまく消化できない自分が悪い。そんなことはわかっているのだ。

 

『ほらほら、一回はっちゃけようぜ! リピートアフターミー! こんばん山月ー!』

 

[煽るな]

[やめたれwww]

[レオ君かわいそう]

[性格悪いなこいつ]

[誰かこの女止めろ]

[申し訳ないが、他のライバーディスはNG]

[にじライブ好きだけど、こいつは無理]

 

 コメント欄に夢美へと否定的な意見が増えてきた。

 普段ならば、夢美もここで話題を変えるという判断ができていたのかもしれない。

 しかし、酔っていて正常な判断力を失っている夢美の舌はよく回った。

 

『歌って』

「は?」

『今! ここで! 電話口で歌って!』

 

[無茶振りしだして草]

[歌枠を嫌がる同期に歌うことを強要するな]

[おいおい、やべぇぞこれ]

 

 まずい方向に話が流れ始めて、レオは冷や汗をかく。

 目に入るのは、自分のファンであろう視聴者が書き込んでいるであろう否定的なコメントばかりだ。

 

「いや、それは……」

『この前カラオケ行ったときは楽しく歌ってたじゃん!』

「あれは夢美といたからで……」

 

[普通にプライベートで遊ぶ仲なのか]

[レオ君とカラオケ行けるの羨ましい]

[バラギそこ変われ!]

[コメ欄だとレオ君の方が人気なの草]

[レオ君に絡むなイカレ女]

 

 しかし、夢美の視聴者達は割と気にせずに見ていたりする。むしろ、レオの歌が聴けると期待していたのだ。

 

『やだやだやだァ! 歌ってくれなきゃ通話切らないから!』

 

[駄々っ子で草]

[これワンチャン、レオ君の生歌が聴けるのでは?]

[幼馴染みというより、おもちゃを強請る子供なんだよなぁ]

[レオ君に無理させないで]

 

 それでもレオを過激に擁護するコメントも紛れている。

 どうやってもこの状態は収まらないと感じたレオは、諦めて夢美の要求を呑むことにした。

 

「……わかった。一曲だけだぞ?」

『ひゃっほい! やったぜ! マジでええんか!?』

 

 夢美の配信が炎上するかもしれない。

 嫌な予感がしたレオは悩んだ末、事務所の方針に逆らうことにした。

 

「ま、()()()()の頼みは断れないからな」

 

[えっ、マジ?]

[設定じゃないのか]

[これ何気にすごいのでは]

[レオ君のお歌楽しみ ¥50,000円]

 

「『五万!? あ、赤スパありがとうございます!』」

 

[綺麗にハモってて草]

[これはマジモンの幼馴染みですわ]

[これ、レオ君には一銭も入っていないというね]

[レオ君のチャンネル収益化はよ]

[お前ら、レオ君のチャンネル登録してひたすら動画再生するんだ! 間に合わなくなっても知らんぞォ!]

 

「音源はどうするんだ?」

『ないよ!』

「あ?」

 

[レオ君、若干キレてて草]

[プニキにもキレなかったぐう聖ライオンをキレさせる女]

[勝手すぎる]

 

 コメント欄はアンチのコメントも含め、再び盛り上がり始める。

 

『大丈夫! レオの歌ならアカペラでもみんな昇天するから!』

「いや、完全にお前の主観だろ」

 

[ハードル爆上がりwww]

[レオ君いじめないで]

[いきなりアカペラで歌わせる鬼畜]

 

『何歌う?』

「メジャーなやつにしとくわ」

『おい、お前ら! レオが歌うから静かにしとけよ!』

 

[はーい!]

[バラギが一番うるさい定期]

[これは期待]

[楽しみ]

 

 心臓がバクバク鳴る。

 不特定多数の前で歌うことに恐怖がないわけじゃない。

 だが、こんな状況はアイドル時代にもあった。

 その経験がレオを一歩前へ踏み出させた。

 深呼吸をして息を整えると、レオはVtuberの間で歌ってみたが流行っている曲を歌い出した。

 

「沈むよう~に♪ 溶けてゆくように~♪」

 

[!?]

[!?]

[!?]

[うおおおおおおおおお!]

[好きな曲歌ってくれて嬉しい!]

 

 レオが初めて生で歌うということ、選んだ曲が最近人気の曲であったということーーそして、レオの歌唱力がずば抜けていたということでコメント欄は熱狂の渦に包まれた。

 

「騒がしい日々に~♪ 笑えない君に~♪」

 

[RINE通話の音質でコレってマ?]

[アカペラで普通に歌ってるのヤバない?]

[想像の遙か上空のクオリティ]

[切り抜き確定]

[騒いでたレオ君のガチ恋勢黙らせてて草]

 

 レオの過激なファンもすっかりレオの歌に聴き入っていて、コメント欄の具合は一時的に沈静化されていた。

 

「二人今、夜に駆け出していく♪」

『FOOOOOOOOOO!』

 

[余韻に浸らせろ]

[バラギうるさい]

[オタクと化してて草]

[邪魔しないで!]

 

 歌が終わり夢美のテンションも最高潮に達していた。

 

『てか、マジで歌詞見てないの? え、ヤバない?』

「夜好性なめんな。歌詞みなくてもフルで歌うくらい余裕だわ」

 

[レオ君夜好性だったんか!]

[新情報助かる]

[ライオンは夜行性だから当然]

[お願い、お金払わせて…… ¥5,000円]

 

「スパチャありがとうございます!」

『すまんな、ありがたくもらっておくわ』

 

[スパチャ飛び交ってるwww]

[レオ君へのスパチャ全部バラギに流れてて草]

[収益化、収益化はよ……]

 

 とうとうレオへのスーパーチャットまで流れ出し始めた。

 しかし、レオのチャンネルは収益化していない上に、そもそもこの配信は夢美のチャンネルのため収益は全て夢美の方へと流れていった。

 

『夜好性なんだから次はアレ歌ってよ』

「お、いいぞ」

 

[一曲だけとは]

[レオ君ノってきたね]

[レオ君の経歴を考えればあの曲だよな]

 

「~~~♪ ~~~♪」

 

[チョイスwww]

[何気にレオ君って歌詞似合う曲多いよね]

[経歴がそもそもストーリー性に溢れているからな]

 

「~~~~♪ ……間違ってないよな?」

 

[うおおおおおお!?]

[耳元でささやかれる感じでやばい!]

[間違ってない!]

[ASMR希望! ASMR希望!]

 

 歌の途中、台詞のような歌詞の一部を声を震わせて言ったことにより、画面の向こうの女性視聴者は悶えはじめる。

 

「~~~♪ ~~~……♪」

 

[やめないで!]

[やめないで!]

[やめないで!]

[やめないで!]

[やめないで!]

[やめないで!]

 

 レオが歌い終わるのと同時に、コメント欄は示し合わせたかのように「やめないで!」でというコメントで埋め尽くされた。

 

『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! や゛め゛な゛い゛でぇ!』

 

[だから余韻ブチ壊すなwww]

[声最高に汚くて草]

 

「どうもご静聴ありがとうございます! ……約一名を除いて」

 

[ご静聴という言葉から最も遠い女]

[これは限界オタク]

[気持ちはわかる]

 

 つい興が乗って二曲目も歌ってしまったレオは、すっかり自信を取り戻していた。

 ああ、どうして俺はこんな簡単なことがわかっていなかったのだろう。

 好きな曲を好きなように歌う。

 それがこんなにも楽しいことだったなんて、長いこと忘れていた。

 そして、視聴者が求めているのはそんな楽しんで歌っているレオだということに、ようやく気づけた。

 完璧なんて誰も求めていなかった。

 視聴者が求めているのはーーバーチャルライバーを全力で楽しんでいる〝獅子島レオ〟としての姿だったのだ。

 

『さて、みなさん! この二曲を歌った以上、次は誰の曲を歌うかわかりますよね!』

「何でお前が仕切ってるんだよ」

『ここあたしのチャンネルやぞ!?』

 

[乗っ取られてて草]

[この二人のやりとりいいなぁ]

[バラギ好きな奴にレオ君嫌いな奴いない説]

[バラギのガチ恋勢がいるだろ]

[たぶんガチ恋勢は息してないぞ]

 

『それじゃバーチャル隴西の李徴こと獅子島レオさん! よろしくお願いします!』

「誰が李徴だ! ま、いいけど」

 

[いいのか]

[バーチャル隴西で大草原]

[これは山月記ネタ解禁?]

[さすがにそこまではしないだろ]

 

「じゃあ、最初のとこよろしく」

『任せな!』

 

 元々気が合うこともあり、二人の息はピッタリだった。

 

『BOW!』

「バ~レたくはないから歌わないけど♪ 想ってないとかじゃ~ないの~♪」

 

[この曲か!]

[ずとまよだ!]

[バラギの迫真の「BOW!」で草]

[さっきから全部歌詞見ずにアカペラかつフルコーラスで歌っているという事実]

[そしてこの歌唱力である]

 

「もっと仕草に揺れて♪ 抑えきれないほどに~♪」

 

[この歌唱力で芸能界を干されたのか(困惑)]

[どれだけ態度悪かったのか]

[俺は推すぞ、例え何があってもだ]

 

「寝ぇ、見届けて欲しがりでも~♪」

 

[見届けます!]

[これは見届ける]

[ビブラートすげぇ……]

[レオ君の登録者数爆増してるんだけど……]

[当然の結果です(P並感)]

 

 レオが三曲目を歌い終える頃には、今までくすぶっていたことが嘘のように、レオのチャンネルの登録者数は爆発的に伸びていた。

 

「……ありがとうございました!」

『ウェェェェェイ! 最高!』

 

[癪だがバラギに同意]

[さすが元アイドルって感じだわ]

[これは百獣の王]

 

「さすがにこれ以上みなさんを拘束するのも忍びないので今日はここまでということで」

『えぇぇぇぇぇ……』

「お前は黙ってろ」

『……我、チャンネル主ぞ?』

 

[レオ君、バラギには辛辣で草]

[良い物を見せてもらった ¥6,000円]

 

 こうして酔った勢いで発生した突発的コラボは終わりを迎えることになった。

 

『というわけでね。特別ゲストの獅子島レオ君でしたー!』

「今度歌枠やるので、音質気にならないなら是非来てください。それではまた!」

 

[ちゃっかり宣伝してて草]

[絶対見に行く!]

[レオ君のためにももっと投げとこうぜ ¥20,000円]

[了解! ¥10,000円]

[投げても全部バラギに持ってかれるんだよなぁ]

 

『レオも今日は配信来てくれてありがとう! それじゃみんな、おつゆみ!』

 

[おつゆみー]

[おつゆみー]

[おつゆみー]

 

 こうして夢美の収益化配信は最高に盛り上がった。

 しかし、夢美の配信の様子はライバーとしては褒められたものじゃないと話題になってしまった。それだけたくさんの否定的なコメントが出ていたのだ。なんなら意図的にそういった場面を切り抜いた悪意のある動画も溢れているくらいだ。

 コメントのほとんどは夢美に肯定的なものだった。夢美はレオの登録者数の伸びを心配していただけ、という受け取り方をした上に、期待していたレオの歌を引き出したというのも大きい。

 

 だが、最初から最後まで見ていたわけでもなく、夢美とレオとの関係性も知らない者達が見れば、調子に乗ったライバーが伸び悩んでいるライバーにマウントを取っているように聞こえてしまうだろう。

 批判的なコメントをしていたのは、普段夢美の配信を見に来ない者達や、最近増え始めたレオの過激なファン達、あとはVtuberの炎上を特集しているチャンネルを運営しているユーチューバー達だ。

 全体を見れば批判的なコメントは少なかった。ただ視聴者数が多かったため、批判的なコメントが目立ってしまったのだ。

 

 結果から言うと、にじライブ所属バーチャルライバー茨木夢美は炎上した。

 

 レオへの発言を切り抜いた動画や批判的な意見を書いた記事が、たった一晩でいくつもネット上に現れた。

 バラギと検索するだけで、検索候補には「バラギ 炎上」「バラギ 性格悪い」「バラギ 酒 やらかし」などと出てくる始末だ。

 

「あんなことで炎上するのか……いや、してもおかしくはないか」

 

 翌日、SNSを確認したレオは深いため息をついた。

 

「あいつ、大丈夫かな?」

 

 レオは心配そうに、壁越しに隣の部屋を見る。

 昨日の収益化記念配信で夢美に言われたことに関して、レオは腹を立ててはいなかった。むしろ、自分を案じて発破をかけてくれたと感謝しているくらいだった。

 何より、言い訳も、弱気も、くだらないプライドも、全部吹き飛ばして自分が歌うきっかけをくれたのだ。これでどうして腹を立てられるというのだろうか。

 ベランダで会話したときも、夢美はレオを気づかっていた。配信中の発言が、自分に対する嘲笑を含んだ言葉だなんて受け取られているのはレオにとっても腹立たしいことだった。

 かといって、レオがSNSで余計なことを言えば、それが新たな燃料となり炎上騒ぎを大きくしかねない。アイドル時代に炎上を経験していたレオは、炎上後の対処に慎重だった。

 夢美の方から明確な発表がない限り、レオには何も言うことができない。

 自分も原因の一つである以上、何もできないもどかしさがレオを苦しめる。

 悩んだ末にレオは隣の部屋のインターフォンを押すことにした。

 

 




曲名だけなら出しても大丈夫なので、レオ歌った曲の一覧載せておきます。
1.夜に駆ける
2.だから僕は音楽を辞めた
3.MILABO

※MILABOの歌詞の部分よく誤字報告いただくのですが、「寝ぇ」は誤字じゃないです。
歌詞を調べていただければわかるかと思います。

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