レオの登録者数は現在二十五万人を超えていた。
本当は二十万人というキリのいいタイミングで記念配信を行う予定だったが、夢美とのトラブルなどでバタバタしていたこともあり、なかなか記念配信を行えないでいた。
気がつけば登録者は二十五万人。これはこれでキリがいい数字になったので、レオは記念配信を行うことにしたのだ。
今日起こす出来事もマネージャーである飯田や事務所の上層部、イルカや和音などの他企業Vtuber達と綿密に打ち合わせをした上でだ。
「袁傪の皆さん! こんばん山月!」
[きちゃ!]
[こんばん山月!]
[こんばん山月!]
[こんばん山月!]
レオが配信を開始したことでコメント欄は盛り上がり始める。
デビューして四ヶ月半。
男性ライバーがこの速度で登録者数二十五万人を超えるということはなかなかないことだった。レオはにじライブだけではなく、Vtuber業界の中でも注目されていた。
「登録者数、二十五万人! ありがとうございます!」
[おめでとう! ¥50,000円]
[おめでとう! ¥50,000円]
[おめでとう! ¥50,000円]
祝福のメッセージと共に限度額のスーパーチャットが投げ込まれる。
それに対して、レオはいつものように限度額を投げた袁傪を叱った。
「こら! いきなり限度額を投げるんじゃない! 君達にはもっと他にも推しがいるだろ! ちゃんとかぐや先輩やまひる先輩にも投げられるように取っておきなさい!」
[限度額ニキ名前覚えられてて草]
[他のライバーの配信も見てるんだったなw]
[舎弟(雛鳥(袁傪))というカオス]
[レオ君はこっち側だもんな]
レオに限度額を投げていたのは、他のライバーの配信でも見かける者達だった。
レオとしては彼らに対しては視聴者というよりは、同胞という意識が強かったため、あまり自分の配信で無理をして欲しくはなかったのだ。
オープニングトークを終えると、レオはさっそくモンスター育成ゲームの画面を配信上に映し出して、今日の企画の説明を始めた。
「さて、今日はランクマ耐久配信を行っていきます! 前にトラブルで夢美の実家に一緒に行くことになってできなかったこともあるし、今回は一桁になるまで終わりません!」
[そういえばそうだったなw]
[ある意味、幼馴染という関係が確定した奇跡の事故]
[最高のてぇてぇだったわ]
[てか、一桁はキツイだろ]
レオは以前、同じ内容の配信を行おうとしていたが、それは夢美との実家トラブルで叶わなかった。
今日の配信は以前できなかった内容を行うのと同時に、さらにハードルの高い内容を行うつもりだったのだ。
「まあ、正直BWのときも最高レート1800超えではあったけど、一桁は一度行ってみたいんだよな」
[あの時代で1800越えはヤバイだろ]
[順位にしたら二桁行ってるじゃん]
[そのレートそんなに凄いん?]
[あの時代だったら相当高いぞ]
[SMと違って上位陣切断厨だらけだったからな……]
レオが当時インターネット対戦にのめり込んでいた頃、対戦環境では回線を切断することで勝敗をうやむやにするという悪質な手段が流行っていた。
負け試合を無効にできる。それはつまり真面目にやっている人間が勝っても勝利にならないということだ。
故に切断せずに上位にいるということは、それだけで全プレイヤーの中でも高い実力を持っていることになるのだ。
ちなみに切断を行った場合、戦績を見ることができるホームページで表記が変わるため、切断自体は記録に残る。これを行ったプレイヤーはもれなく切断厨晒しスレッドでプレイヤー名を晒されていた。さらに底辺層の嫉妬により、切断していないプレイヤーも晒されるという混沌とした状態になったいた。
「……当時、アイドル辞めて何もかも失って心の拠り所はレートだけだったんだよ」
[あっ]
[闇が深い……]
[だから年齢バレるってw]
[レートが心の拠り所は闇が深すぎる]
アイドル時代の闇を感じさせる発言に、コメント欄には悲壮感が漂っていた。
「ま、そのおかげで今こうして袁傪のみんなと会えたんだから、結果オーライだ。元同じグループのメンバー達や当時のマネさんとも和解はできたし」
[えっ、何それ気になる]
[確か雑談枠で前も言ってたよね]
[普通に元メンバーとも連絡取り合ってるのか]
[みんなレオ君がVってこと知ってるん?]
「ああ、話したよ。マネさんなんて〝獅子島レオ〟知ってたから、めっちゃびっくりしてたけどな。当時と全然違うー、ってさ」
[そりゃそうじゃ(オーキド並感)]
[傲慢なアイドルから聖獣だもんな]
[魚がタコになるくらいのビックリ進化]
[レナちゃんの歌枠んときの思いも届いたわけか]
[何にしろレオ君が幸せなようで何より]
袁傪達はレオが元メンバー達やマネージャーと仲良くやっているという話を聞いて、素直に喜んでいた。彼らにとってレオが楽しそうにしている姿は何よりの癒しなのだ。
雑談もそこそこに、レオは早速インターネット対戦を始めた。
いくらレオがこのゲームの対戦において高い実力を誇ると言っても、レオには他のゲームの配信や歌ってみた動画の収録、他ライバーの企画への参加など、一日中集中して対戦を行えるわけではない。
事前に現環境を調べていたとはいえ、順位で一桁台をとるというのはなかなかに厳しかった。
「なあ! 何でそこでとびひざ撃つの!? 俺がドラパ引きしてたらどうするつもりだったんだよ!? かわせ! かわせ! かわせ!」
[相手ヤンキープレイで草]
[たぶんこのランク帯だから考慮した上で強気な選択したんだろうな]
[駆け引きに負けたか]
「よし! かわした!」
[音声入力で草]
[これはアド]
[まさかゲームにもかわせが実装されているとはなぁ]
「あ、ごめんじわれ当たったわ」
[一発で一撃必殺は犯罪]
[どうせ相手も耐久型だし、変わらんよ]
[レオ君は運ゲーじゃなくて、試行回数稼げる場面でしか撃たないからな]
「焼けろ! よし、焼けた!」
[ボッ]
[だから音声入力www]
[ねっとうの三割やけどはいまだに五割だと思ってる]
こうしてレオの対戦は長時間に及び、配信を始めた頃は夕方だったというのに、既に日付が変わって太陽が昇り始めていた。
「頼む頼む頼む! ここで耐えれば勝ちなんだ! 耐えてくれ〝ゆみ〟!」
[必死の懇願で草]
[レオ君がこんな長時間配信やってるの初めて見た]
[なんて集中力だ……]
レオは相棒である色違いのモンスター、ゆみで相手の攻撃をしのぎ切り、激しいサイクル戦を制して勝利した。
これにより、レオの順位が二桁から一桁へと変動する。
「シャァァァァァ! 一桁キタァァァ!」
[おめでとう! ¥9,999円]
[おめでとう! ¥9,999円]
[おめでとう! ¥9,999円]
[赤スパ怒られるからギリギリの額にしてて草]
順位が一桁の数字に変動したことで、レオは勝利の雄たけびを上げた。防音完備のマンションのため、両隣には聞こえていないが、夢美も、そしてミコも笑顔を浮かべて配信上でレオの雄姿を確認していた。
コメント欄が感動の渦に飲み込まれる中、レオは袁傪達へとある提案をした。
「せっかくだしパーティ紹介しようか」
[いいのか?]
[もうすぐシーズン終わりだぞ]
[スナイプされたらどうするんだ]
これはライバーだけではなく配信活動をしているとよくあることである。ゴースティングという対戦相手のプレイを盗み見るのとは別に、使用しているパーティ構築を確認してその並びに当たったときに型をカンニングしながら対戦をすることができるのだ。
とはいえ、配信活動をしていればそれは仕方のないこととも言える。レオもそれは理解していた。そもそも定期的にパーティの入れ替えや技の変更などを行っているレオからすれば、その程度で負けるつもりはなかったのだ。
「あー、じゃあ昔使ってたやつ紹介しようか。BW時代の相棒達もホームで連れてきてるんだ」
だが、あえてレオはコメント欄の忠告を聞き入れた。
このシリーズのゲームでは過去作からモンスターを連れてくることができる。それもゲームハードも違う何世代も前のモンスターをだ。こういったところも、このゲームが国民的に人気な理由の一つである。
「えーっと、どこにいたっけな……」
[あれ、昔ってことはデビュー前のデータってことだよな……]
[あ、これまずいのでは?]
[レオ君、待つんだ!]
当時使用していたパーティと聞いてコメント欄がざわつき始める。
レオは長時間にわたる配信で頭が回っていなかったことと、ランク一桁台という目標を達成したことにより気が緩んでいた――ように袁傪達には見えた。少なくとも、このゲームが絡むとレオが小学生のようにはしゃぐことは周知の事実である。気が緩んでいないと思う方がおかしいのだ。
レオは楽しそうに笑いながら、意気揚々と過去作から送ってきた当時の相棒のステータス画面を表示した。
「あっ、いたいた。こいつだよ。俺のBW時代の相棒!」
[レオ君、画面すぐ閉じて!]
[これまずいよ!]
[せめてページ切り替えて!]
[コメント見て!]
[笑ってる場合じゃないよ!]
[画面閉じて!]
[B押して!]
[気づいて!]
[頼むから!]
コメント欄は阿鼻叫喚の様相を呈していた。
何故ならレオのモンスターのステータス画面にはとある情報が映し出されていたからである。
おや:タクヤ
意図的な身バレをどう自然に出すか、という部分でこの話はだいぶ前から構想にありました。
過去作から送ってこれるポケモンだからこそですね