ついにレオの3D化配信の日がやってきた。
この日のためにレオはSTEPの元メンバーや夢美、林檎と共に練習を重ねてきた。
レオの3D化配信は音楽ライブ。アイドル時代も含め、これまで行ってきた活動の集大成とも言える場だ。
「すみません、もう一回お願いします!」
レオはギリギリの時間までリハーサルを行っていた。
それだけこの配信にかける思いが強かったのだ。
共にリハーサルを行っていた者達も、レオと同様に一切の妥協をせずに常に全力以上の力を込めてリハーサルに臨んだ。
昔の仲間、今の仲間。両者が手を取り合ってレオの元へ集結した。
この3D化配信を絶対に最高のものにするという意気込みを、スタッフも肌で感じ取っていた。
そんな張り詰めた空気の中、慌ただしくスタジオのドアが開かれた。
「はぁ、はぁ……間に合った……!」
「三島さん、お待ちしていました!」
STEPの元マネージャーにして、カリュー・カンナの現マネージャーである三島彩智。
多忙なカリューのマネージャーである三島もまた多忙な身だ。
飯田から連絡を受けた三島は事務所やカリューと相談の上、何とかスケジュールの合間を縫ってスタジオへと駆けつけたのだ。
今回の配信を行うにあたって、レオのマネージャーである飯田は何としてでも三島を呼びたかった。
「本日はお忙しいところお越しいただきありがとうございます。私、にじライブマネジメント部所属、飯田恭平と申します」
「頂戴致します。私、ディスカバリープロダクション、アイドルプロジェクト所属、三島彩智と申します……こちらこそ本日はご招待いただきありがとうございます」
名刺交換を終えると、三島は感慨深そうにリハーサルに臨むレオ達の姿を眺めた。
「まさか、あの子達がまた同じステージに立っているのを見られる日が来るなんて思いませんでした……」
すっかり成人して見た目も雰囲気も変わったかつての担当アイドル。その姿が三島の目には昔と同様、いや、それ以上に眩い輝きを放っているように見えた。
まだ泣くときではない。
零れかけた涙を引っ込めると、三島は飯田へと話題を振った。
「拓哉君のサポートは大変だったでしょう?」
「ええ、獅子島さんのデビュー当時、あのシバタクの担当だからトントン拍子に行くだろうと思っていた自分を殴り飛ばしたい気分ですよ」
飯田は苦笑すると、レオのデビュー当時から今までのことを思い返した。
「振り回されて大変だ、なんて他部署の人からは言われたりもしますが、僕は彼のマネージャーであることを誇りに思っています。彼ほどサポートしててやりがいのあるライバーもそうそういませんからね」
「ふふっ、確かに」
自分もレオのサポートで苦労した経験があるため、三島は共感するように飯田の言葉に笑いを零した。
「獅子島さんは今、かつて失ったものを取り戻し、新たに得たものと共にさらに高い場所へと手を伸ばそうとしています。そのステップアップの瞬間、是非見届けてください」
「ええ、もちろんです。飯田さん、これからも拓哉君――いえ、獅子島レオのサポートを宜しくお願い致します」
「はい、任せてください!」
こうしてマネージャーからマネージャーへとバトンは渡された。
過去と現在を繋ぎ、今一頭の獅子は未来へと力強い一歩を踏み出そうとしていた。
「本番行きます!」
多くのスタッフ達に見守られながら本番が始まる。
ライブストリームがオンになった瞬間、激流のように大量のコメントが流れ始める。
[きちゃ!]
[一億年以上待ってた! ¥30,000円]
[俺は今日この日のために生きてきた ¥10,000円]
[我、視聴ぞ]
[3D李徴のお通りじゃぁぁぁ ¥40,000円]
大量のスーパーチャットが飛び交う中、今日の主役が配信画面上に姿を現した。
「みなさん、こんばん山月……」
[ファッ!?]
[やると思ったwww]
[ガチライオンじゃねぇか!]
――リアルなライオンの姿で。
画面に映し出されているのは、ガチライオン状態のレオ一人のみ。
半ば予想は出来たものの、本当にやるとは思っていなかった袁傪達は画面の向こう側で爆笑していた。
「ちくしょう……せっかく登録者数も伸びて、ついに3D化配信まできたってのに……また調子に乗ってガチライオンになっちまった!」
[草]
[安定の茶番]
[えっ、待って何これ]
[イケメン獣人の3D配信と聞いてきたらガチのライオンなんだが……]
[あ、ありのまま今起こったことを(ry]
[これがあの有名アイドルってマ?]
[おもしれーライオン]
[初け袁傪達よ、これがにじライブだ]
先日の身バレ騒動の件もあり、レオの3D化配信には初見の視聴者達も数多く存在していた。
困惑する初け袁傪を他所に、レオはあらかじめ予定していた茶番を続けた。
「もうすぐ本番だってのに、どうすればいいんだ……」
「「話は聞かせてもらった!」」
ガチライオンの姿のままレオが俯いていると、画面外から既に3Dの肉体を得た夢美と林檎が登場した。
「まーた李徴ってんのかお前は!」
「いい加減成長しなよー」
[バランゴキタ――!]
[まあ、この二人が来ないわけがないか]
[三期生てぇてぇ]
画面上に三期生のメンバーが揃ったことで、コメント欄は一気に盛り上がり始める。
にじライブでデビューしてからというもの、この三人は力を合わせて困難を乗り越え、爆発的に登録者数を伸ばしてきた。
固い絆で結ばれた三人は、現在ではにじライブきっての人気トリオとなっていた。
「仕方ないなー、私の魔法で何とかしてあげるよ」
「さっすが林檎ちゃん! 年齢を自在に変更する魔法を忘れた分、万能の魔法だもんね!」
「おいやめろ」
[草]
[言い訳の魔法は万能、はっきりわかんだね]
[ここまで設定を自分に都合よく利用するライバーがいただろうか]
[そのおかげでやりたい放題できるんだけどなw]
「レオ、まずは自分の原点を思い出してみなよー。目を瞑って思い浮かんだ光景を胸に力強く吼える。それで全部うまくいくよー」
「わかった。お前を信じるよ」
「それじゃ、あたしは魔法の影響を受けないように端っこで見守ってるね」
[一体何が始まるんです?]
[バラギ、一旦フェードアウト]
[白雪は斜め後ろでスタンバイか]
演出の準備が終わったことで、各々が所定の位置に着いた。
「Enchanting the Biggest Dreamer!!!」
「俺は、俺は……もう一度あいつらと共にステージに立ちたい!」
林檎が魔法をかけるような動作をして叫ぶ。
それと同時にレオの体をキラキラとした光のエフェクトが包んでいく。
そして、レオは息を思いっきり吸い込むと、雄々しく咆哮した。
「GRRRRRRRRRRRRRR!!!」
ライオンの咆哮のあと、レオはすぐに立ち上がってバク転を決める。
スタッフは何度もリハーサルで練習したベストタイミングで、レオの3Dモデルを〝獅子島レオ〟のものへと切り替えた。
それと同時に、レオの周囲に楽器を抱えたガチライオンのモデルが表示された。
[!?]
[!?]
[!?]
[ガチライオンが増えたwww]
[どうなってるの!?]
[まさかこの三人って……!]
まさかのライオンバンドの登場に袁傪達は混乱する。
レオは獰猛な笑みを浮かべて慎之介、良樹、三郎とアイコンタクトをすると、最初から全力で歌いだした。
「Wanna be the Biggest Dreamer 全速力で~♪ 未来もいまも駆け抜けろ~♪」
[うおおおおおおお!]
[きちゃあああああ!]
[レオ君3Dおめでとう! ¥20,000円]
[懐っ]
[余裕でオープニング映像が頭に浮かぶ]
[これがやりたかっただけだろwww]
昔、日曜日の朝に放送していたアニメの主題歌。
レオの視聴者層、そしてレオ自身にも刺さるこの曲は当然STEPの元メンバー達も好きな曲だった。
「それはひとつのなぞなぞなぞ~♪ 僕は誰なんだろ~♪」
「「李徴!」」
[草]
[合いの手www]
[バラギと白雪もノリノリだなwww]
夢美と林檎が横から合いの手を入れたことで、コメント欄が笑いに包まれる。
だが、レオのパフォーマンスは笑いながらも感動させるクオリティだということを袁傪達は改めて思い知らされる。
「Big and Bigger, Biggest Dreamer! 夢見るコトが~♪ すべてはじまり~それが答えだろ~♪」
[圧倒的歌唱力]
[ドチャクソカッコいいんだが!]
[今日はマジで有給取って良かった……]
[レオ君の歌はガチ]
[Vにハマるきっかけをありがとう! ¥12,000円]
[僕はあなたが大好きです! 3,600円]
[デビュー前からずっと応援していました! ¥50,000円]
圧倒的歌唱力から紡がれる神曲。それが袁傪達の心に響かないわけがない。
推しが好きな曲を歌っている。これほど最高なことはないのである。
「未来も、いまも、駆け抜けろ!」
[888888888888]
[888888888888]
[888888888888]
[これが無料……?]
[有料に出来るで ¥4,000円]
一曲歌い終わったレオの額には汗が浮かんでいた。
リハーサルから本番まで大した休憩も挟まずに、レオや慎之介達はステージに立っていたからだ。
しかし、アイドルとして駆け抜けてきた頃に比べれば、このくらいは準備運動に過ぎない。
「というわけで、一曲目は〝The Biggest Dreamer〟でした!」
[選曲も神かよ]
[最初からクライマックスな件]
[背景の映像も良かったぞ]
「おっ、みんな気づいたか。ステージ後方で流れている映像は白雪が作ってくれたんだ」
[レオ君も大概だが、白雪のヤバさもわかる]
[普通にクリエイターとしてやっていけるだろ]
[さすりん]
「やー、また私何かやっちゃいましたー?」
[なろう系主人公やめろ]
[草]
[ペロッ、これは照れてネタに走っている味!]
[レオンゴもてぇてぇ]
スタジオの後方には巨大なモニターが設置されている。そこに流れる曲のイメージに合った動画は全て林檎が制作していた。
素直に褒められたことで、林檎は照れたようにそっぽを向いた。
「ちなみに、最初の茶番から曲の導入までは夢美の提案だ」
「イェーイ! 袁傪達見てるぅ?」
[急に可愛くない動きで入ってくるなwww]
[自分で茶番って言ってて草]
[三期生の合わせ技じゃねぇか!]
夢美はコミカルな動きで再び画面内にやってきた。
今回のレオの3Dモデルをいかにインパクトある演出で登場させるか。それについては夢美がアイディアを出したことにより、レオはすぐにそれを採用した。
当時のアニメのオープニングをリスペクトした演出。それは古のオタクには刺さるものだった。
「それでは、今日のために集まってくれたバンドメンバーを紹介します!」
レオはニヤリと笑うと、始めに慎之介の方を向いた。
「ギター! レオ之介!」
レオの紹介に笑顔で頷くと、慎之介は高らかにギターをかき鳴らした。
「ベース! レオ三郎!」
続いて三郎は口元を緩めると、落ち着いてベースを鳴らした。
「ドラム! レオ樹!」
最後に良樹はド派手にドラムを叩いてアピールした。
「それと、キーボードは白雪に担当してもらってるぞ!」
「今日のためにきっちり練習してきたよー!」
「というわけで、今日のために結成したライオンバンドwith白雪をよろしくな!」
[隠す気ゼロで草]
[このライオン開き直りやがったwww]
[絶対この三人元メンバーだろ!]
[何、また伝説作ってんの?]
[もはやにじライブ恒例行事]
レオがバンドメンバーを紹介したことで、演奏担当のライオンがSTEPの元メンバーだと気がついた袁傪達は大いに盛り上がっている。
ツウィッターのトレンド欄でも〝STEP〟〝ライオンバンド〟〝ガチライオン〟〝獅子島レオ3D〟などの単語が勢ぞろいする状況となっていた。
バンドメンバーを紹介し終えたレオは、カメラの向こう側で見守ってくれている三島へと視線を向けて叫んだ。
「マネージャー!」
レオの言った〝マネージャー〟が差すのが、自分だと言うことに三島はすぐに気がついた。
飯田はそんな二人を見て穏やかな笑みを浮かべていた。
「さんざん迷惑をかけてごめんなさい! そして、ありがとうございました! 俺は――俺達はこれからも全力で駆け抜けていきます! だから、これからも見守っていてください!」
レオだけでなく、慎之介、良樹、三郎の全員が深々と頭を下げる。
その光景を見た三島は、堪えていたものが一気にこみ上げてくるのを感じた。
「終わるまで泣かないって決めてたのに……! 泣かさないでよ、もう……!」
ボロボロと涙を流しながらも、三島は笑顔を浮かべてレオ達へサムズアップしたのだった。
長くなってしまったので、分けました!
今回のお話はこの小説をかけ始めたときからずっとやりたい話でした。
レオの設定を考えてライブで真っ先に思いつたのが、このネタでした。
デジモンテイマーズのOPは是非とも見てもらいたい……!
夢美の出番もまだあるのでお楽しみに!