「「「「「「「乾杯!」」」」」」」
レオの3D化配信も終わり、配信に出演していた面々はレオの元バイト先の居酒屋で打ち上げを行っていた。
「うちの店もとんでもない客が来るようになったもんだなー……いや、そもそもとんでもない奴が働いてたんだから今更か」
ビールを運んできた園山は呆れたように呟く。
有名Vtuberに元トップアイドル達。普通ならば関わることのない人種が一堂に会することもまずないだろう。
「にしても、三島さんが来れないのは残念だったな」
「あの人も忙しいからな」
「……久しぶりに一緒にご飯食べたかった」
「まあ、あのカリューちゃんのマネージャーなんだからしょうがないよ」
配信終了後、三島はすぐに仕事に戻らなければならず、打ち上げに参加することはできなかった。
「あ、あの! 私まで交ざってしまって良かったんでしょうか?」
「こういうのは人がいる方が盛り上がるから大歓迎だよ」
「せっかくだし、いいんじゃねぇの?」
「……問題ない」
「そうそう、李ちゃんもまったく無関係ってわけじゃないんだし!」
たまたま店内にいた和音は流れで同席することになり、縮こまるようにチビチビと酒を飲んでいた。
「奈美ちゃんがあの朝月李ねぇ……どうりで見たことあると思ったわけだ」
「前から歌い方が演歌っぽいとは思ってたんだよねー」
そんな和音を眺めながら、夢美と林檎はどこか納得したように頷いていた。
ふと、そこで打ち上げをしてる面子の中に飯田の姿がないことに夢美が気がついた。
「そういえば、飯田さんは来れないの?」
「いろいろ残務処理があるから後で合流するってさ。本当、あの人には頭が上がらないよ」
「やっぱマネージャーって大変なんだねー。亀ちゃんとか見てても忙しそうだしさー」
「よっちんは最近やっと落ち着いたとこらしいよ」
「Vの方もマネージャーは大変なんだなぁ……」
レオ達から語られるマネージャーの多忙さを聞いた良樹は感慨深そうに呟く。
そして、芸能界で特に多忙だった自分達のマネージャーである三島がいかに大変だったかを改めて思い知った。
それから打ち上げは盛り上がり――
「拓哉はなぁ! 一度もできないなんて言わずに、どんな企画だって最高のパフォーマンスで盛り上げることができんだよ! あいつの背中を追い続けてきた俺が一番あいつのことを知ってんだよ!」
「そのくらい知ってますぅ! こっちは小学校のときから一緒にいたし、テレビでも見てましたぁ! 拓哉の凄さはあたしの方が知ってますぅ!」
「あー、やだやだ。出会った時期が早い方が偉いなんて愚の骨頂だわな。俺らのが一緒に過ごした時間は長いっての」
「はぁ!? 年数重ねてりゃいいってもんでもないやろがい! こっちは毎日一緒にいるから密度で言えば上ですぅ!」
「芸能界で過ごした時間の密度舐めんなよ!」
「ほとんど活動別々だったじゃん!」
「バッカお前、一緒にいたときの密度が違ぇって話だよ!」
「芸能人マウント取るなんて恥ずかしくないの!?」
「幼馴染マウント取ってくる奴に言われたかねぇよ!」
すっかり酔いが回った夢美と良樹は、どちらが拓哉を知っているかということで口論になっていた。
STEPのメンバーとしてレオをライバル視していたこともあり、良樹は拓哉を追いかけ続けてきた。その思いが酒により解放され、夢美もまたそれに触発されたことで胸に秘めた思いが爆発していたのだ。
「カリューちゃん、この間のアニメ映画のアフレコで一緒になったけど凄かったよ! 普通にうまくてこっちも負けてられないって気持ちになったんだ」
「でしょでしょー! やっぱ、環奈はすごいでしょー!」
「あと、普段はおちゃらけた風に振舞ってるけど、誰よりも礼儀正しくてすっごい真面目なんだよね」
「高坂君わかってんじゃん! 環奈って根は超が付くほどの真面目だからねー! ね、ね! もっと環奈の話聞かせてよー!」
「僕の知ってる範囲でならいくらでも!」
慎之介と林檎はカリューの話で盛り上がっていた。
幅広く活躍しているカリューはアニメ映画などで共演することもあり、声優として活躍している慎之介とは関りがあった。
慎之介自身もバラエティー番組などに出演する機会もあったため、アニメなどのサブカルチャー方面に明るいアイドルでもあるカリューと絡む機会は多かったのだ。
林檎も普段ならばここまではしゃいでカリューの話をしたりしないのだが、今は酒が入っていたことでかなり素直に自分の気持ちを表に出すようになっていた。
「スゥ――……唐揚げ、おいしいですねっ!」
「……うん」
「あっ、好きな食べ物ってありますか?」
「……唐揚げ」
「唐揚げ、いいですよね! おいしいですよね!」
「……そうだね」
「スゥ――……そう、ですよ、ねー……」
日本酒を早いペースで飲んでいるのに、未だに酔っている素振りのない和音と三郎の間には気まずい空気が流れていた。
元々無口な三郎はあまり周囲との会話をしなくても大丈夫なタイプの人間だ。
こういう打ち上げなどの集まりも嫌いではなく、一歩離れた位置から盛り上がっている集団を眺めることが三郎は好きだった。良くも悪くも三郎はマイペースなのである。
そんな三郎とは対照的に、和音は沈黙が気まずいタイプだった。
人間不信が原因で不登校になり、引き籠っていた後遺症は思ったよりも根深かった。
元より和音は子役時代から満面の笑みを装った愛想笑いをすることなどが多かった。
自分を殺して生きることが多く、周囲への興味を失った和音にとって関りのない人間との会話は大の苦手だった。
「どうしてこうなった……ははっ」
主役そっちのけで盛り上がる面々を見てレオは呆れたようにため息をついたあと、満面の笑みを零した。
かつて共に芸能界を駆け抜けてきた仲間達と、現在共にVtuber界を駆け抜けている仲間達。その両者がこうして仲良くしている姿を見ていて、自然と笑みが零れたのだ。
この景色を見れただけでも全力で駆け抜けてきた価値があった。そう思うのと同時に、これからももっと全力で駆け抜けていこう、とレオは心に誓った。
「呼び込み行ってきまーす」
「ちょっと私外しますね!」
外での呼び込みのために看板を持って店外に出る園山を見て、和音は慌ててその後姿を負った。
「はっ、てぇてぇの予感!」
「こらこら、邪魔しちゃダメだよ」
唐突に訪れたラブコメの予感にガタッと音を立てて立ち上がろうとした林檎であったが、和音の友人でもある夢美が暴れる林檎を取り押さえた。
「は、離せー! てぇてぇを補給させろー!」
「ああ、もう! 誰かこの厄介カプ厨なんとかして!」
バタバタと暴れる林檎を押さえ続ける夢美。酔っているのに彼女が抑える側に回ることは珍しいことである。それだけ林檎が暴走しているということでもあったのだが。
「こうなったら由美子が拓哉とてぇてぇするんだー!」
「意味わかんないんだけど!?」
「あ、飯田さんに電話するから、ちょっと外すわ」
「「逃げるなー!」」
混沌としている飲み会から逃げ出すようにレオは店の外へと脱出を図る。もちろん、飯田への連絡という目的も嘘ではない。
冷房の効いた店内から外へ出ると熱気が顔に当たり、レオは不快感に顔を顰めた。
夏ももうすぐ終わるというのに、真夏の暑さは衰えることを知らない。
まだまだこの暑さは衰えることはないのだろうとレオがため息をついていると、ちょうど呼び込みをしている園山と話し込んでいる和音の姿を見つけた。
「あー、まあ、なんだ。本当に俺でいいのか?」
「何言ってるんですか、あなたじゃなきゃダメなんです」
「フリーターで叶うかもわからない夢を追ってるような甲斐性なしだぞ?」
「私は気にしません。そんな条件で園山君を諦めるなんてありえませんから」
「そっか……そこまで言われてうだうだ悩んでるのも情けないよな。うん、俺も覚悟を決める。絶対夢を叶えるから、傍でそれを見てて欲しい」
「ふふっ、もちろんです。こう見えても私は園山君以上にあなたの素敵なところをたくさん知っています。これからそれをわからされる覚悟、しておいてくださいね?」
「か、覚悟しておくよ……」
和音は人差し指を園山の口元に充てると、ウィンクをした。
園山と和音のやり取りを見ていたレオは、ほくそ笑むとその場を離れた。
「いやぁ、暑いねぇ……良かったな。園山、宇多田」
感じる暑さは気温か果たして別のものか。
服をバタバタさせて暑さをしのいでいると、ちょうど飯田からの着信があった。
「飯田さん、お疲れ様です。仕事終わりましたか?」
『お疲れ様です。もうバッチリですよ』
仕事終わりで疲れているのかと思いきや、飯田は疲れなど微塵も感じさせないほどに明るい声音でしゃべっていた。
「もうこっちに来れる感じですか?」
『はい、これから僕もそちらへ向かいます。そうだ! それよりもお伝えしたいことがあるんです!』
電話口の向こうで飯田は興奮したように、レオに朗報を告げる。
『前から進めてたんですが、やっとメジャーデビューが決まったんですよ!』
「本当ですか!」
メジャーデビュー。
それはレオにとって目下一番の目標だったことだ。
再びアーティストとして音楽活動する足掛かりを得たレオは、これからもさらに飛躍することを誓ったのであった。
というわけで、三章の最終回でした!
三章に関しては内容的に一章の三倍ほどのボリュームになってしまったので、自分でもなかなか区切りがつかなくて大変でした……。
四章から先はコンパクトにまとめつつも賞を増やす感じで進めていこうかなと思います。
四章開始まで少しお休みをもらいますが、プロットは既に組んであるのでそう遅くはならないはずです。
それでは四章でまたお会いしましょう!
おつ山月!