夏が終わり秋が始まる。
そんな季節の移り変わりの初日。
まだまだ暑い秋の始まりに、今日も月初めの番組が始まった。
「なぁ、まひる。今日のゲスト達はウチらに憧れてライバーになったらしいで」
「ねー! 嬉しいよね!」
「さすがにちょっと照れ臭いけどな」
嬉しそうにするまひるとは対照的に、照れ臭そうにするかぐや。
今月のゲストはMCである二人も待ちに待った二人である。
「片方はまひるが好きすぎて、初配信から化けの皮が剥がれた清楚()なライバーやけど……」
「もう一人は確か面接で二時間ノンストップでバンチョーの好きなところ語ったんだっけ」
「こら、バラしたらかわいそうやろ――えっ、本番始まってる?」
いつものようにかぐやのとぼけたような言葉からタイトルコールが始まる。
「じゃあ、まひる。タイトルコールいくで?」
「オッケー!」
「「月一にじライブ!」」
かぐやとまひるが揃ってタイトルコールをする。
それと同時に軽快な音楽が流れて番組が始まった。
「はいはーい、みなさんこんバンチョー! 竹取かぐやです!」
「こんまひ、こんまひ! こんまひー! どうも、白鳥まひるです!」
「さあ、今月も始まったで月一にじライブ! 今回も素敵なゲスト達が来とるでー!」
「まあ、みんなもさっきの話題で分かっていると思うけど――ゲストはこの二人!」
まひるに促されて、今回のゲストであるレオと夢美は自己紹介をしながら登場した。
「どうも皆さん、こんばん山月! バーチャル隴西の李徴こと獅子島レオです!」
「みんな、こんゆみー。永遠に眠れる美女こと茨木夢美でーす」
レオは明るく元気良く、夢美はいつものように自然体で自己紹介をする。
今回の月一にじライブのゲストにレオと夢美が呼ばれたのは、先月の3D化配信が話題になっていることと、これからの告知のためだった。
「いやぁ、二人共よう来てくれたな」
「ずっと待ってたよー!」
「いえ、こちらこそ呼んでいただいて光栄です!」
「はぁ……はぁ……まひるちゃんとのコラボ……じゅるり」
「おい、かぐや先輩を忘れるな」
夢美は憧れのライバーであるまひるとのコラボという状況に興奮しており、レオはそんな夢美に呆れたように肩を竦める。
レオもかぐやのことは元々正気を失うほどに好きなライバーだが、至って冷静な態度のまま本番に臨んでいた。
「レオ君って、バンチョーの前でも自然体だよね」
「そりゃ推しの前で気持ち悪いところは見せられませんから」
「それって遠回しにあたしが気持ち悪いって言ってる?」
心外だ、と言わんばかりの態度の夢美だったが、ニヤリと笑うとレオの裏話を暴露した。
「バンチョー可愛すぎワロタ」
「……おい」
「ちなみにこちら、クリスマスに友人から飲みに誘われて『バンチョーの3Dライブあるから』と断ったあとのレオの発言になります。ソースはレオの元バイト先の同僚君でーす」
「ちくしょう! あいつ何バラしてんだ!」
レオはこの場にいない、先日彼女持ちとなった友人へ恨みがましく叫ぶ。
実のところ、園山は笑い話として和音へとレオの〝かぐや推しエピソード〟を話しただけなのだが、それがそのまま和音から夢美へと流れてきただけである。
レオが動揺したことに味を占めた夢美は、普段揶揄われている仕返しとばかりに〝バンチョー可愛すぎワロタ〟という言葉を連呼した。
「バンチョー可愛すぎワロタ、バンチョー可愛すぎワロタ、バンチョー可愛すぎワロタ!」
「お前マジでやめろそれ!」
「キャッキャ」
レオと夢美のやり取りを見て、まひるは楽しそうに声を上げて笑った。
そんな三人を見て、かぐやは照れたように頬を人差し指で掻きながら告げる。
「あー……それウチがいないとこでやってもらえるか?」
「バンチョー可愛すぎワロタ」
「……あ?」
「すみません、バンチョーが可愛すぎて調子に乗りました!」
夢美はそのまま調子に乗ってかぐやまで揶揄い出す。かぐやがドスの利いた低い声を出したが、夢美は謝りつつもかぐやをいじった。
「バラちゃん命いらないのかなぁ?」
「まあ、俺的には眼福だからいいんだけど……」
まひるとレオはかぐやと夢美のやり取りをどこか呆れたように見ていた。
「……ったく、いつの間にそんな怖い物知らずになったんや」
「別にあたしはバンチョーが本当は優しい人だって知ってますから。でも、先輩への態度としてはちょっと良くなかったですよね。ごめんなさい」
「べ、別にそんなしょうもないことでキレんわ。気にせんでええて」
夢美の言葉にさらに照れたようにかぐやは画面の向こうで顔を赤くした。
本音を言えば、かぐやはこのように夢美が自分をいじってきたことが内心嬉しかった。
かぐやは唯一まともに活動している一期生ということもあり、同期との絡みが全くと言っていいほどない。
コラボ相手は基本後輩であり、事務所の顔という大物感、普段の態度の圧、これによってかぐやは後輩ライバーから怖がられがちだった。
そんな中で自分を積極的にいじりにきてくれる夢美の存在が嬉しかったのだ。
「いい、レオ君? これがてぇてぇだよ」
「まあ……悪くない、ですね……」
「っと、そろそろ進行せなあかんな」
騒がしいオープニングトークに区切りをつけたかぐやは台本通りに企画を進行していく。
林檎、夢美、レオ、それぞれの3D化配信の話題にも触れ、その時の裏話なども披露していった。
林檎の3D化配信について話し終えると、話題は夢美の3D化配信の話題に変わった。
「いや、マジであたしのマネちゃんヤバイっすよ。バッタ鷲掴みで頬張ったときは目を疑ったよね」
「しかもアレは台本になかったしな」
「えぇぇぇ! そうなの!?」
夢美がバッタを食べることは事前に了承していた流れということになっているが、マネージャーである四谷が食べた件についてはアドリブということにして話していた。
「バラギのマネージャーもライバー適正あるんとちゃうか?」
「でも、忙しいみたいですし、無理でしょうね」
「せやな。あの人がこれ以上仕事抱え込んだら過労死するわ」
四谷が現在サポートを担当しているのは、夢美、二期生の瓜町瑠璃、にじライブEnglishの星野ミコだ。ミコについては日本での生活についてのサポートも必要なため、四谷にかかる負担は相当なものだった。
それについては、最近夢美が生活習慣の改善を図ろうとしていることと、ミコが思ったよりも日本に馴染むのが早かったことである程度軽減されてきてはいるのだが。
一通り、夢美の3D化配信について触れたあと、今後はレオの3D化配信の話題になった。
「レオの3D化配信も凄かったな」
「めっちゃ盛り上がってたよね! バラちゃんのダンスもキレッキレで凄かったよ!」
「あ゛! ありがと、まひるちゃん!」
「いやぁ、恐縮です」
レオは照れたようにそう言うと、表情を引き締めた。
「でも、その前にいろいろとお騒がせしてしまったので、事務所の方々には申し訳なかったです」
「確かに迂闊なミスやったけど、結果で返したんや。胸を張ればええ」
「はい! ありがとうございます!」
レオは励ますようなかぐやの言葉に礼を述べた。
「ライオンバンドも面白かったよね!」
「あー、例の三人ね。打ち上げも楽しかったよね」
「よく考えたらあいつらと酒の飲むの初めてだったから新鮮だったよ」
「ま、今後もご縁があれば出てもらいたいとこやな。さて、そろそろ次のコーナーいこか」
そう締め括ると、かぐやは次のコーナーに移った。
「お次はこのコーナー!」
「「にじライブ風紀委員会!」」
月一にじライブの名物コーナー〝にじライブ風紀委員会〟では、ゲストの過去のやらかしを断罪していく。林檎は脱獄という特殊な結果になったが、この二人の判決は既に決まっていた。
「このコーナーではゲストの問題行動を断罪していくでー。覚悟の準備はできたか?」
「断罪までの判断が早いですよ!」
「情状酌量の余地を!」
「あははっ、あるわけないじゃん!」
既にレオと夢美の有罪は確定していた。もちろん、焦ったようなリアクションをしているレオと夢美もこの件については既に承知の上である。
「まさか、配信放って同期と実家に帰省するライバーがおるとは思わんかったわ」
「バラレオてぇてぇだね!」
「ちなみにそのときの一連の流れがこれや」
かぐやの言葉と同時に画面上に、夢美の雑談枠でのやり取り、その後のツウィートまでの流れがまとめられた動画が流れた。
「というわけで、有罪や! 罰ゲームを発表するで!」
「「情状酌量の余地はなかった……」」
「バラレオの二人の罰ゲームはこれだよ! ドーン!」
まひるが口でSEを口ずさみながら二人に課せられる罰ゲームを発表する。
「二人の罰ゲームは恋人ボイス収録です!」
「「嫌だぁぁぁぁぁ!」」
発表された罰ゲーム内容に、レオと夢美は悲鳴のような叫び声をあげた。
「もちろん、ただ二人が恋人シチュで収録するわけやないで? きちんとリスナー向けに恋人シチュでそれぞれが収録するんや」
「そして、その二つをセット購入した方には、特典としてバラレオ恋人シチュエーションボイスが付いてくる。何とセットの価格はそれぞれのボイスを別々に購入したときよりも少しだけお安い! これは買うしかないよね!」
「罰ゲームで商売しないでくださいよ!」
「これがにじライブかぁ……」
ちょっとした企画から始まったことも収益へと繋げるのがにじライブだ。
レオと夢美をセットで売り出すことで得られる利益を考えたとき、にじライブがこの機会を商売に繋げないという選択肢はなかった。
この収録が流れたとき、コメント欄には〝反則の販促〟というコメントが書き込まれ、のちに販売されたボイスの売り上げも好調だった。
全てのコーナーを終え、月一にじライブも終了に近づいてきた。
最後に重大発表があることもあり、かぐやはレオと夢美へと話題を振った。
「さて、そろそろ終わりの時間やけど、ゲストの二人は告知とかあるか?」
「はい、あります!」
まず、レオが名乗り出ると、先日決まった
「この度メジャーデビューが決まりましたので、ご報告させていただきます!」
「わあああああ! レオ君、おめでとう!」
「わーい、パチパチー!」
「やったな、レオ!」
「本当にありがとうございます! これも日頃から応援してくださっている皆様のおかげです! これからもどんどん歌っていきますので、宜しくお願い致します!」
レオは何度目になるかわからない袁傪への感謝の言葉を述べた。
レオの告知が終わったため、次は夢美は告知をする番だった。
「次はあたしから! あたしっていうより、まひるちゃんとなんだけど……」
「そうだね!」
まひるは夢美の言葉に頷くと、タイミングを計って同時に叫んだ。
「「白鳥まひる、茨木夢美のユニット〝pretty thorn〟メジャーデビュー決定!」」
「おお! あんたらもか!」
「マジか! すげえな!」
夢美とまひるからされた告知に驚くかぐやとレオ。もちろん、この二人は事前に知っていたが、それでも意外なユニットだったことは否めなかった。
まひるは積極的に歌枠をする方ではない上に、夢美も歌うときはレオや林檎が絡んだときだ。
歌唱力には定評があり、視聴者達から歌うことを求められている二人であるが、いきなりメジャーデビューに漕ぎつけるとは誰も予想していなかった。
それでもこの二人を組ませたのは、歌のクオリティが保証されており、直近の夢美の話題性、まひるの根強い人気、キレのある夢美のダンス、などいろいろな要素を検討した結果である。
「というわけで、本日はご覧いただきありがとうございます!」
「せーの……」
「「「「月一にじライブ!」」」」
こうして今月の収録は無事に終了した。
今月の月一にじライブが公開されるのと同時に、レオ、pretty thornの特設サイトが出来たことで、視聴者達は大いに盛り上がるのであった。
ボイスを出すって話を書いてたら推しが珍しくボイスを出すという奇跡