Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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【海外ライバー】もう一人のお隣さん

 

 レオと夢美のメジャーデビューが決まってから数日。

 にじライブを取り巻く状況は大きく変わりつつあった。

 一期生であるかぐやはマネジメント部全体の成長もあり、以前よりもライバー活動に専念しやすくなった。

 二期生はゲーム配信を中心に活動を行っているが、最近では歌ってみた動画も頻繁に投稿するようになった。

 三期生であるレオ、夢美、林檎の元には案件依頼が来るようになり、レオ、夢美、まひるはライブに向けてレッスンにいそしんでいた。

 林檎は林檎でゲームの案件以外にもピアノ演奏関係の案件もこなしていた。

 以前にも増して忙しくなったことで、三期生全員で集まって遊ぶ機会は減った。

 レオと夢美も朝食こそ一緒にとっているが、最近は予定が合わないことも多かった。

 

「ごめん、あたしはこの後レッスンあるから少し早めに出るね」

「わかった。また事務所でな。食器は片付けておくから」

「ありがと、また後でね」

 

 レオと夢美のいつもの朝食の時間も最近では慌ただしくなることも多かった。

 特に夢美はまひるとのユニットでのレッスンのため、レオに比べてレッスン頻度が高かった。

 

「さて、俺も準備しますかね……」

 

 レオは朝食の片づけをして、部屋を一通り掃除するとU-tubeで動画を見たり、SNSをチェックした。

 のんびりとした午前の時間を過ごしていると、そろそろ打ち合わせの時間が近づいてきた。

 レオは時間に余裕を持って身支度を済ませると、自室のドアを開けて外に出た。

 

「ん?」

「あっ」

 

 レオがマンションの廊下に出たタイミングで隣の部屋のドアが開いた。

 ドアから出てきたのは、先日レオが夢美にベランダで告白した一部始終を見ていた金髪碧眼の少女だった。

 

「えっと、もしかして同じ事務所のケイティさん?」

 

 四谷から海外ライバー星野ミコの話を聞いていたレオは、すぐに金髪碧眼の少女が誰か理解できた。

 マンションの中とはいえ共用部の廊下だったため、レオは四谷が呼んでいた名前でミコのことを呼んだ。

 レオの問いかけにミコは笑顔を浮かべて明るく元気に答えた。

 

「Yes! はじめマシテ! 中島ケイトと申しマス!」

「司馬拓哉です。よろしくお願いします」

「あっ、けーごはなしで大丈夫デスヨ。後輩ですノデ!」

 

 丁寧に頭を下げてくるレオを制してミコはフランクに接するように頼んだ。

 聞き取りやすいようにゆっくり話していたとはいえ、ここまで日本語で受け答えが出来ると思っていなかったレオは驚いたように言った。

 

「イギリス暮らしが長いって聞いてたけど、日本語うまいな」

「えへへっ、ありがとございマス」

 

 褒められたことでミコは嬉しそうにはにかんだ。

 

「苗字が中島ってことは母親がイギリス人なのか?」

「いえ、母が日本人デス。ワタシはイギリス国籍なので、コレは通名デス。日本では母の苗字を名乗りたかったので。本名はKathleen Sinclair(キャスリーン・シンクレア)デス。なので、外ではケイティと呼んでクダサイ」

 

 すらすらと自分の名前について説明をするミコにレオは驚いた。

 聞き取りだけではなく、文法などを間違えることなく日本語で説明をできる。外国語でそこまで話せる者はなかなかいないのだ。

 ミコもちょうど出かけるタイミングでもあったため、レオはミコと話しながら駅に向かうことにした。

 

「そういえば、ケイティは大学生だっけ。これから授業?」

「Yes! 今日は三限からデス!」

「あー、俺も大学生の頃は一、二限に授業入れたくなくて三限開始で時間割作ってたなぁ」

「えへへっ、お揃いデスネ!」

 

 レオも大学に通っていたこともあり、二人は大学生あるあるの話で盛り上がっていた。

 レオの周りには大学を出ていない者も多かったため、なかなかこういった話を出来る人間がいなかったことも手伝って、ミコとの会話はダメ人間だった頃のしょうもない思い出話が出来る楽しいものだった。

 駅に到着して改札を通り、ちょうど電車がやってくる。

 ドアが閉まる前にそそくさと電車に乗り込むと、レオはミコがどこまで乗っていくのかを尋ねることにした。

 

「ケイティって最寄り駅どこなんだ?」

「有楽町乗り換えで豊洲デス!」

「……もしかして理系?」

 

 豊洲にある大学と聞いて思い浮かぶのは工学系の大学だ。

 ガッツリ文系の大学で遊び惚けていたレオは、恐る恐るミコに確認した。

 

「よくわかりマシタネ」

「あの辺にあるの理系の大学くらいだからな」

 

 イギリスから留学してきて理系の大学に通っている。

 遊び惚けていただけの自分と仲間だと思ってしまったことを恥じつつも、レオはある提案をした。

 

「まあ、豊洲に大学があるなら優菜――俺達と同期のあいつも頼るといいさ。あいつ豊洲住みだし」

「ああ、優菜サンはこの前お会いしまシタ! クズだと思ってマシタがとても優しい人デシタ!」

 

 林檎は豊洲のマンションに住んでいるため、いざというときに頼れるだろう。そう思って提案したのだが、既に林檎はミコを気にかけていつでも頼っていいと告げていたのだ。

 

「やっぱりあいつって未だにクズのイメージが強いのか」

「うーん、たぶん前世バレの影響だと思いマスヨ?」

「そういえばあいつもバレてたな……」

 

 にじライブのライバーだけでなくVtuber全体に言えることだが、配信活動などを行っていた経験がある者はその前歴を隠すことは難しい。

 そこまで伸びていたわけでないまひるでさえ、前世が〝まっちゃ〟であることはバレているのだ。

 元々人気配信者であった林檎は、自分がゆなっしーであることを隠すことは不可能に近かった。

 アイノココロをはじめ、板東イルカなど、声優として活動していた経験がある者は特にバレるまでの速度が早い。和音もそれは例外ではなく、彼女が声優の宇多田奈美であることも一部の者は知っていた。さすがに、子役の朝月李であることはバレてはいないが。

 レオもシバタクと雰囲気が変わり過ぎていたため否定されていただけで、割と早い段階で獅子島レオはシバタクなのではないかと疑われていた。

 林檎の場合は、彼女の配信スタイルからアンチが湧きやすく、アンチがありとあらゆるところからボロを探した結果、ゆなっしーと特定されてしまった。

 心から林檎の配信を楽しんでいる小人達からすれば、前世など至極どうでもいいことであるが、ゆなっしー時代のクズな振舞いがアンチによって拡散されたことで、より一層〝林檎はクズである〟というイメージを強めてしまっていた。

 当の林檎本人はクズキャラの方がやりやすいと呑気に笑っているのだが。

 

「ちなみにケイティは配信経験はあるのか?」

「あー、まあ、ちょっとダケ」

 

 曖昧に笑って答えをはぐらかすと、ミコはタイミング良く開いたドアから電車を降りた。

 有楽町駅のホームに降りたミコは笑顔を浮かべて言った。

 

「いってきます!」

「ああ、いってらっしゃい」

 

 レオが返事をするのと同時に電車のドアが閉まる。

 電車が動き出したため、ミコの方を見てみると、彼女は見えなくなるまで手を振っていた。

 

 あざとい――一連のミコの反応を見てレオが抱いた感想である。

 

 夢美と違い、うまく被れてはいるが、あれは間違いなく猫を被っている。そのうえ、ミコの場合は日本人に好感を抱かれやすい態度で接してきている。

 しかし、あそこまで自然に振舞えるのならば、ある意味世渡り上手とも言えるだろう。

 自分の周りには、やっぱり一癖も二癖もある人間しか現れないのだろうか。

 レオはため息をつくと、ミコが降りた有楽町駅のホームを電車の中から眺め続けた。

 それから新宿駅で降りると、レオは待ち合わせ場所へと向かった。

 

「あっ、お疲れ様です司馬さん!」

「お疲れ様です。レコード会社の方は?」

「さすがに三十分前なのでまだ来てないですよ」

 

 レオがわざわざ打ち合わせのために出かけたのは、レコード会社の人間との打ち合わせがあったからだ。

 ちなみにレコード会社の人間との打ち合わせが終われば、そのまま事務所に戻り他のライバーも含めた大型案件の打ち合わせがある。

 

「しかし、まさか天下のRentisに所属できるとは……」

「司馬さんの身バレも良い方向に働きましたよ。それに」

「あいつらと同じレコード会社ですもんね」

「きっと向こうも狙っているでしょうね――伝説の再結成を」

 

 レオは慎之介、良樹、三郎と再びステージに立つことをもう一つの目標としていた。

 まずはソロとしてメジャーデビューする。

 そうすれば、その後展望も期待できる。

 

「ええ、やってやりますよ……!」

 

 レオは飯田の言葉に頷くと不敵な笑みを浮かべた。

 そして、このあと行われたレコード会社の人間との打ち合わせはトントン拍子に進むのであった。

 




やっとミコを本格的に参戦させることができた……!
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