河口湖での夜が明け、朝が来た。
誰よりも早く起床したレオは施設内のジムで体を動かして風呂に入っていた。
「はぁぁぁ……朝風呂最高……」
サウナと水風呂も併設されている温泉にレオはご満悦だった。
普段はシャワーを浴びるだけなので、この施設はレオにとって天国とも言える環境だった。
「おっ、獅子島君も朝風呂かい」
「勝輝さん、おはようございます」
レオが湯船に浸かっていると勝輝が浴室へと入ってきた。
体を洗うと、勝輝はレオと同様に湯船に浸かった。
「あ~、やっぱり温泉は最高だね~。これで日本酒があれば言うことはないんだけどね」
「ですね。日本酒の飲める温泉の案件とかあったらいいんですけどね」
「その案件が来たとしても間違いなく女性ライバーにいくだろうけどね」
湯船に浸かりながら他愛もない話を続けていると、レオはふと今回勝輝がライバーとして案件を引き受けた理由を尋ねた。
「勝輝さん、どうして今回はライバー活動をする気になったんですか?」
「これでも会社のトップページにいるライバーだからね。数日だけならスケジュールも空けられるし、たまには顔を出すのも悪くないと思ってね」
勝輝は自分の腹を叩くと、おどけたような笑みを浮かべた。
「この通りだらしない体になってしまったから、ライブとかは厳しいし、今回みたいな案件なら出れると思ったんだ。ちなみに、普段配信をしないのは基本的に他社との会食とかで酔った状態で帰宅することが多いからだよ」
「さすがに社長とライバーの兼業は厳しいですもんね……」
「やれないことはないんだろうけど、昔ほど表舞台で活躍する意欲が薄れたということも大きいんだ。ライバーが自由に活動できる会社にしたい。今の僕にとってはそれが最優先事項さ。だから、もしライバーのために必要なら、本格的にライバー活動に復帰するのもやぶさかではないよ」
そう言うと、勝輝は湯船から上がった。
レオにはその背中が大きく感じられた。そう思うのは、決して勝輝の恰幅が良いからではない。
数多のVtuber企業が存在するこの時代に、ここまでライバーのために心から尽くせる者がどれだけいるだろうか。
サタンを酷使しているバーチャルリンクや、黎明期に名を上げ最近になってどんどん潰れていった事務所。
それらの存在を考えれば、自分がどれだけ素晴らしい環境で活動を行えているか身に染みるというものだ。
「勝輝さん、俺もっと頑張ります! 支えてくれるあなた達に応えられるように、もっと伸びてみせます!」
「ああ、期待しているよ。そして、期待していてくれ」
意味深な言葉を残すと、勝輝はそのまま浴室を後にした。
それから、全員が起床して朝食を取り終えると、機材を詰め込み遊園地へと向かった。
現地の担当社員と挨拶を交わすと撮影が始まる。
今回の撮影は人件費節約のため、ライバー自身がカメラマンを担当することになっている。
かぐやはこの手のリアル案件は慣れているため、手慣れた様子で撮影準備を終えた。
「レオ達は映り込みや声が入らないように気をつけてな」
「わかりました。後ろの方で待機してますね」
最初の案件であるにじライブランドの撮影はかぐや、勝輝、まひるの三人で行う。
撮影準備を終えた三人は所定の位置に立ち、レオ達三期生は後ろの方で待機していた。
「はいはいこんバンチョー! 今回は大型コラボや!」
挨拶を済ませると、かぐやは簡潔に今回のコラボ内容について説明し、勝輝とまひるの紹介に入った。
「今日はウチ以外にも一緒ににじライブランドを回ってくれるライバーがおるでー」
「こんまひ、こんまひ! こんまひー! どうもー! 白鳥まひるです! そして!」
「こんにちポンポコ! 久しぶりだね! 狸山勝輝だよ!」
「「うわぁぁぁ! かっちゃんだぁぁぁ!」」
勝輝の挨拶のあと、かぐやとまひるはオーバーリアクション気味に歓喜の声を上げた。
「久しぶりやな、かっちゃん!」
「わーい! かっちゃんとお仕事だ!」
「いやぁ、本当に二人共久しぶりだねぇ。今回は呼んでくれてありがとうございます!」
テンション高めに話しながら三人はにじライブランド全体をカメラに収める。
等身大で作成されたかぐやの人形を始め、にじライブランドにはにじライブのライバーを連想させるようなオブジェクトが多く存在していた。
その中にはガチライオンやあっぷるんなど、レオや林檎の代表的なマスコットも存在していた。
「しっかし、壮観やな」
「ねー! まひるが予想してた百億倍すごいよこれ! あっ、まひる達がいる!」
「おっ、三期生のパネルもあるで」
「レオ君とバラちゃん並んでて可愛い! てぇてぇだよ!」
「林檎が後ろから顔出してる風のイラストなのもええなぁ」
「一期生のもあるよ!」
「僕なんてここ一年近く配信してないのに、デカデカと作ってもらって申し訳ないなぁ」
「その罪悪感を消す簡単な方法があるで。なあ? わかっとるよな?」
「相変わらず圧が凄いんだよねぇ」
「キャッキャ」
一通りにじライブランド内の紹介を終えると、かぐや達は目玉である今回のコラボのアトラクションの紹介に入ることにした。
「はい、チーズ!」
「「「イェーイ!」」」
ちなみに、三人がアトラクション内に入ったタイミングを見計らって、後ろではレオ達がこっそり写真撮影をしていた。
『みんな、今日はにじライブランドに来てくれてホンマにありがとう! 期間限定でウチらのコラボグッズも販売中! 良かったら買うてくれや! 買わなかったらどうなるかわかるよなぁ!?』
「おっ、ウチのナレーションが流れとるな」
「バンチョーのよそ行き用の声だ!」
「まひる?」
「わー、かっちゃん助けて!」
「こらこら、仕事中だよ。ふざけてないで宣伝しなきゃね。今回のにじライブランドでは、かぐや君、まひる君、そして僕のナレーションの三種類が用意されているよ。ちなみにナレーションで恫喝してるのはかぐや君だけだからね」
補足するように勝輝が説明すると、施設内のアトラクションの説明を始めた。
「さて、このアトラクションでは僕達にじライブのライバーの世界を体験できるよ。ここにあるサンプルの立ち絵を組み合わせてライバーになることができるんだ」
「実際に配信するときの一連の流れを経験できるで! それじゃまひる、よろしく頼むで!」
「オッケー!」
まひるは実際にサンプルのパーツを選んで立ち絵を作成していく。
そして出来上がったのは、ちょんまげと白塗りが特徴的なコミカルな立ち絵だった。
「バカ殿やんか!」
「くくっ……! これは酷い……!」
「こんまひ、こんまひ! こんまひー! どうもアホアホ侍です!」
まひるは適当に付けた名前で自己紹介をするが、挨拶はいつもの癖で自分のものを使用してしまった。
昔テレビで放送していたコミカルな殿様を彷彿とさせる見た目に、まひるの可愛らしい声はこの上なく合っていなかった。
「「あっはっはっは!」」
「声と顔が合ってなさ過ぎるやろ!」
「しかも〝こんまひ〟って言っちゃってるし!」
あまりにもシュールな光景にかぐやと勝輝が爆笑する。
二人で共にライバーとして仕事をして、ここまで楽しく会話したことが久しぶりだった。
懐かしい雰囲気に、自然とかぐやと勝輝からは笑顔が零れていた。
そんな二人の様子を見て、まひるは満面の笑みを浮かべていた。
一通りライブ配信体験のコーナーで遊び終わると、次に三人はVtuber体験コーナーへとやってきた。
「はい、ここでは3D体験をすることができます!」
「説明が雑や! ウチらみたいなライバーとは違って、このコーナーでは全身トラッキングを使用したVtuber体験ができるで! 間違っても3D化してないライバーに『俺の方が先に3D化したぜ!』なんてマウント取ったらあかんで!」
「それ僕に言ってる?」
「あぁん? 3Dが欲しけりゃ配信せぇや!」
「みんなー、ハッシュタグ〝#かっちゃん配信しろ〟で呟いてね」
「や、それ冗談じゃなくなるから勘弁して!」
わいわいと盛り上がりながら、三人はトラッキングに使用する機材の説明をして実際にサンプルで用意された3Dモデルを動かし始めた。
「みんな見えとるかー!」
「さすがバンチョー! 筋肉モリモリマッチョマンでも違和感ないね!」
「握りつぶすで?」
「そういうとこだよ」
それからも他のアトラクションを楽しそうに体験しながらレポートしていき、最後に三人は動画の締めに入った。
「はい、というわけでにじライブランドでした!」
「まだまだ紹介しきれなかったアトラクションもあるから、みんなも体験してみてね!」
「ここ以外にも常設のアトラクション自体おもろいから遊びに来て損はないで! みんなも遊びに来てや!」
締めの挨拶を終えると、少し間を置いてかぐやはカメラを止めた。
撮影が終わったことを確認したレオ達は、かぐや達に労いの言葉をかけながら歩み寄った。
「お疲れ様です。何かいつも以上にみなさんが楽しそうでほっこりしました」
「まひるちゃんもめっちゃ可愛かったよ!」
「やー、良いてぇてぇを補給させてもらいましたわー」
三期生の面々は思い思いの感想を口にする。
彼らは彼らでにじライブランドを先行体験できてご満悦の様子だった。
「さて、次の撮影は閉園後やから、それまで楽しむで!」
こうして、案件と案件の間の時間に一行は全力で遊園地のアトラクションを楽しむことになるのであった。
次回、わちゃわちゃ遊園地回