Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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【入院】頑張れよっちん

 レオ達が山梨県に行っている間。

 東京ではとあるライバーが入院することになっていた。

 

「命に別状がなくて良かったです……本当に体は大事にしてくださいねう――城島さん」

「うぅ……申し訳ありません……」

 

 にじライブ二期生、瓜町瑠璃(うりまちるり)こと城島杏奈(じょうしまあんな)が配信中に気絶し、救急車で運ばれたのだ。

 配信をチェックしていた四谷が異常事態に気がつき、迅速に彼女の元へ向かって救急車を呼んだことで事なきを得たのだった。

 瑠璃が倒れた原因は睡眠不足と栄養不足が重なり、疲労が蓄積したことによるものだった。

 

「ライバーライフ(仮)の運用、雑に行ってましたよね?」

「そ、それは……」

「今回の件は私の監督不行き届きでもあります。でも、お願いですから、私の目が届きやすいように多少は協力していただけませんか? これからは定期的に城島さんのお部屋に様子を見に行くようにしますが、そんなに頻繁にはお邪魔できないので……」

 

 四谷は最近忙しくなってきた夢美のマネージャーであり、にじライブEnglishのプロジェクトリーダーだ。

 ライバーが活動するためのサポートを行うのがマネージャーの仕事ではあるが、そのマネージャーが過労で倒れてしまっては元も子もない。

 自分も疲れているというのに、それはおくびにも出さずに四谷は瑠璃に優しく注意した。

 

「いいですか? 自分の体を軽んじないでください。あなた達は替えの利かない唯一無二の存在なんです。配信頻度が高いのはこちらとしても嬉しいことですが、一番大事なのはあなたの精神と肉体が健康であることなんですから」

「四谷さん……ありがとうございます。これからは体調にも気をつけます……」

 

 瑠璃は配信することが好きで、自分の体などそっちのけで活動を行っていた。

 しかし、今回の件でいかに自分が事務所、視聴者、担当マネージャーである四谷に迷惑をかけてしまったかを理解した。

 自分をこんなにも心配してくれるマネージャーの思いを聞いた瑠璃は改めて、自分の生活習慣を反省して頭を下げた。

 

「わかってくれたのならいいんです。とりあえず、今は回復に専念してくださいね」

 

 瑠璃にそう告げると、四谷は事務所に戻るためタクシーを呼んでから瑠璃と別れた。

 病院の廊下を歩いている途中、見覚えのある名前を見つけた四谷は足を止めた。

 四谷が足を止めた病室には〝 大野智花(おおのともか)〟という名前があった。

 

「大野さん?」

「あれ、四谷さん……?」

 

 病室を覗き込むと、そこには腕に点滴を繋げた痛々しい姿の大野智花――サラ・マンドラがベッドに横たわっていた。

 

「い、一体どうしたんですか?」

 

 以前、にじライブ剣盾杯でスタジオに来たことがあるバーチャルリンク所属、魔王軍チャンネルのサラ・マンドラ。

 脳筋でとにかく突っ走るキャラを演じている彼女だが、素の性格は常識人でかなり落ち着いた性格をしている。

 四谷も以前、会ったときは礼儀正しく真面目なサラのギャップに驚いたくらいである。

 そんなサラが近々三期生とのコラボがあるというのに、入院しているという現状に四谷は目を丸くしていた。

 

「あはは……ちょっと過労で倒れちゃいまして」

「えぇ!? 大丈夫なんですか!」

「ええ、しばらく療養すれば大丈夫と言われました。……事務所から連絡が行くとは思いますが、私はおそらく参加できないでしょうね」

 

 寂しそうな表情を浮かべるサラに四谷は言葉が出なかった。

 よく社会人になると、体調管理も仕事の内とよく言われる。

 四谷自身、体調管理には人一倍気を使っていることもあり、体調管理も仕事の内という意識を持って仕事に臨んではいる。

 だが、所属タレントの体調管理となれば話は別だ。

 それはサポートしている事務所側の責任でもあるからだ。

 

「残念ですが、体調不良なら仕方がないですね。今は自分の体を第一に考えて回復に専念してください。コラボはまたできますから」

「え?」

 

 サラを気遣うような四谷の言葉に、サラは驚いたように目を見開いた。

 

「どうしましたか?」

「い、いえ、そんな優しい言葉初めてかけていただいたので……ちょっと、びっくり――あれ? 何で私……」

 

 四谷の言葉に戸惑っていたサラの目から涙が零れ落ちる。

 

「ご、ごめんなさい急に……その、ちょっと最近、いろいろありまして……」

 

 自分でも何で泣いているのかわからないといった様子のサラに、四谷は自分の名刺を取り出して彼女へと渡した。

 

「大野さん、何かあったらいつでも連絡してください。あまり力にはなれないと思いますが、愚痴に付き合うくらいならしますよ!」

「四谷さん……」

「もちろん、にじライブとバーチャルリンクは同業他社ですので、情報漏洩には気をつけてくださいね?」

「はい、もちろんです! ありがとうございます!」

 

 どこまでも自分を気遣う四谷の対応に、サラは久しぶりに心からの笑顔を浮かべた。

 サラの病室を出て、四谷は笑顔を引っ込めると、すぐに飯田と亀戸に連絡を入れた。

 

[お疲れ様。二人共バーチャルリンク側から何か連絡あった?]

[お疲れ。特に何もないけど、どうしたの?]

[お疲れ様です。私の方にも、特に何も連絡は来てないです]

 

 現在、案件で山梨県にいる同期二人のマネージャーからはすぐに返信があった。

 サラの顔色はかなり悪く、ただの疲労というレベルではなかった。

 瑠璃のように一過性のもので、数日自宅療養していれば治るような症状ではないことは確かである。

 自社所属のタレントがそんな状態にあるというのに、コラボ先の事務所に連絡の一つもない。

 四谷は何かきな臭いものを感じていた。

 

[気にしないで! コラボ収録が近いから確認しただけ! あと、お土産よろしくね!]

 

 ひとまず、案件も無事に終わり打ち上げを楽しんでいるであろう同期に水を差さないように誤魔化すと、四谷はマーケティング部のリーダーである原へと連絡を入れた。

 

[@原 秋葉さん、お疲れ様です。四谷です。三日後のバーチャルリンク様所属Vtuberである魔王軍チャンネルとのコラボ収録についてご報告があります。先ほどご報告させていただきました瓜町さんの診断の後、偶然入院しているバーチャルリンク所属のサラ・マンドラさんと出会いました。彼女は数日後にコラボに参加できる状態ではないのにも関わらずバーチャルリンク様側からは、四谷、飯田、亀戸の三名に何の連絡もない状態です。取り急ぎご報告させていただきました。宜しくお願い致します]

 

 社内で運用している連絡アプリSlagで原へとメッセージを送ると、すぐに返信があった。

 

[@四谷 愛さん。かしこまりました。ご報告ありがとうございます。事務所に戻り、落ち着いてからバーチャルリンク様側にご確認をお願い致します]

 

 原からの返信に[かしこまりました]と返すと、四谷は改めて気を引き締めた。

 これからのことに不安を覚えながらも、急いで四谷は事務所へ戻ろうとした。

 その途中、最近新たに担当となった海外ライバー、星野ミコから連絡があった。

 

[Hello Ai! I have something that I want to ask(愛さん、こんにちは! ちょっと相談したいことがあるんですけど)]

[Hi Miko! Just a moment. I’ll let you know when I have time(こんにちは、ミコちゃん! ちょっと待ってね。落ち着いたらまた連絡するわ)]

 

 そろそろ始まるにじライブEnglishトップバッターとしての配信。

 十中八九その相談だろうと、当たりをつけた四谷はより急ぎ足で事務所へと急いだ。

 

「ま、忙しいうちが花って言うものね」

 

 苦笑しながらそう呟くと、四谷は両頬を掌で叩いて気合を入れ直すのだった。

 

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